魔女達の百年祭アジア・オセアニア

種類 ショート
担当 霜月零
芸能 2Lv以上
獣人 フリー
難度 やや難
報酬 3.7万円
参加人数 8人
サポート 0人
期間 08/02〜08/06

●本文

「夢を見たわ」
 神聖なる森の祭壇で、夢見の少女は呟く。
「予知夢、でしょうか」
「ええ。それも、最悪のね。遠い未来だけど、世界が終わるわよ」
 側仕えの侍女は吐き捨てるようにいわれた夢見の少女の言葉にほんの少し眉を潜めた。
 ほんの少しなのは、遠い未来といわれたからだ。
 夢見の少女の予見する未来は、いつも正確。
 そして少女の寿命は永遠にも等しい。
 その彼女が言う遠い未来は、いまから何十年、いいや、何百年後のことなのだろうか?
「時の魔女たちを呼んで頂戴。彼女達に時の歌を紡がせるのよ。崩れ逝く世界をとめる為のね」
 未来を予見し、自分のするべき事を識る少女は、侍女に用件だけ伝えると再び祭壇に横たわる。
 次に彼女が目覚める時、この世界はまだ続いているのだろうか?
 けれど侍女は急ぎ少女の言葉を時の魔女たちに伝えにゆく。
 西に住むという魔女、険しい塔から決して出てこないという魔女、世界の滅びには興味を持たない魔女‥‥。
 この世界には多種多様な魔女達がいる。
 その彼女達から時の歌を紡いでもらうのは、どんなにか困難だろう?
 だが少女はもう既に眠りについた。
 夢見に仕える者の使命として、彼女達に歌を紡いでもらわねば。
 遠い、未来の為に。


〜魔女達の百年祭出演者募集〜
 ファンタジー特撮番組『魔女達の百年祭』出演者募集です。
 未来を予見する少女により、遠い将来、この世界は滅びることが伝えられました。
 その滅びを防ぐ為に『時の魔女』たちは集められます。
 時間と魔力と想いを込めた魔女達の歌が、遠いこの世界の未来を救うのです。
 出演者の皆様には『時の魔女』となり、未来を救う為に『時の歌』を紡いでもらいます。
 なお、魔女は女性とは限りません。
 男性も魔女でOKです。
 また、魔女役以外にも参加メンバーやストーリーに合わせてつくって下さい。

〜成長傾向〜
 芝居・容姿・発声
 
 

●今回の参加者

 fa1463 姫乃 唯(15歳・♀・小鳥)
 fa2657 DESPAIRER(24歳・♀・蝙蝠)
 fa2837 明石 丹(26歳・♂・狼)
 fa2993 冬織(22歳・♀・狼)
 fa4181 南央(17歳・♀・ハムスター)
 fa5480 ヒノエ カンナ(22歳・♀・猫)
 fa5498 雅・G・アカツキ(29歳・♂・一角獣)
 fa5810 芳稀(18歳・♀・猫)

●リプレイ本文

●召喚しよう、時の魔女達を!
「私の歌で世界が救えるなら、協力させて!」
 元気はつらつ天真爛漫☆
 そんな時の魔女・フィア(ヒノエ カンナ(fa5480))を前に、夢見の巫女付きの侍女・サリ(南央(fa4181))は曖昧に笑う。
 巫女の予言による遠い未来のこの世界の滅びを止めるべく、時の魔女に紡いでもらう歌は六章。
 最低でも六人の時の魔女の力が必要なのだが‥‥。
「来てくれたのは、フィアだけのようだね」
 世界を旅して回っているという吟遊詩人・ジオ(明石 丹(fa2837))が呟く。
 巫女の言いつけどおりに、この聖なる森へ時の巫女を集い、時の歌を紡いでもらうのがサリの役目だ。
 時の魔女と呼ばれし魔女達へ伝書鳩を飛ばしたのはつい先日の事。
 けれどこの場所を尋ねてくれたのはどこからか時の歌が紡がれる噂を聞きつけて手伝いを申し出てくれたジオと、いま目の前で笑顔いっぱいにお菓子を頬張るフィアだけ。
 一人の魔女だけでは、時の歌を紡ぐことはできないのだ。
「他の方々は、何故来て下さらないのでしょう」
 世界が滅びてしまうというのに。
「迎えにいくしかないだろうね」
 魔女達が訪れてくれないなどという事態は想像もしていなかったサリに、ジオはあっさりと提案する。
「出かけるの? それなら、みんなの分のお菓子持ってかなきゃ!」
 フイアは他の魔女が集まっていないというのに不審になることもなく、「他の魔女さん、甘い物嫌いじゃないといいなぁ‥‥」などと呟いている。
 この森からほとんど出た事のないサリにとって、外は未知の世界。
 けれどいかなくてはならない。
 それが、サリの使命なのだから。
 幸い、たった一人ではない。
 ジオとフィアがいる。
「二人とも、どうかよろしくお願いします」
 サリは深くお辞儀をし、旅支度を始めるのだった。
 

●魔女達の事情
 三人が最初に訪れたのは、聖なる森から一番近い場所に住む時の魔女・ライサ(芳稀(fa5810))。
「あのー‥‥何をしていらっしゃるのでしょうか」
 広大に広がる畑の真ん中に向かって、サリは遠慮がちに尋ねる。
 箒に乗ってスカートをひらめかすフィアも首をきょとんと傾げている。
 それもそのはずだ。
 ライサは畑の真ん中であろうことかザックザックと鍬を振るっているのだから。
「家庭菜園! ‥‥かな?」
 ふぃ〜と額に浮いた汗を拭い、ライサは自信満々&なぜか語尾だけ疑問系で答えた。
「地平線が見えるんだよ」
 広大すぎる家庭菜園にジオの額にもほんのり冷や汗が浮かぶ。
 世間知らずなサリにもわかる。
 これは、ありえない広さだ。
 しかも魔法でなく自らの肉体でザクザク耕しているのだから、底知れない。
「そいえば、あなた達は何をしに来たのかな?」
 ライサは鍬を肩に担ぎ尋ねる。
 フィアと同じような親しみやすさだ。
 これなら、すぐに一緒に来てもらえそう。
 だがサリが用件を伝えた瞬間、状況は一変した。
「時の歌を歌ってもらう為に参りました。それで‥‥」
「ちょっ、歌?! 無理! 無理無理無理!! 絶対無理! 超無理ー><!!!」
 ズザーーーーーーーーーーーーーーーーッ!
 さっきまでのフレンドリーさはどこへやら。
 サリがいい終わらない内にライサは広大な畑の隅っこまで一気に吹っ飛んだ。
「え、えと‥‥?」
 三人、顔を見合わせていそいそとライサに近づく。
「ダメダメ、近づいたってダメ! 私の歌が世界を滅ぼしちゃうよ〜!!」
 地面に穴を掘る勢いで、ライサはぶんぶん首を振る。
「一体、なにがライサをそこまで歌嫌いにさせているんだい? 歌は良いものだよ。人々の思いを伝え、自然の美を称え、そして世界を包み込む」
 ジオがその甘い美声で歌うと、小鳥達まで歌いだす。
 それを見て、ライサはより一層どよーん。
「だって私、音痴なんだもん! あなた達みたいに綺麗な声じゃないのよ〜。世界を救う為に他の事なら何だってするわ。でも歌はダメ!」
「音痴って‥‥時の魔女なんですから、ちゃんと歌ってください!」
「そんなこといったって歌えないってば!」
 いやいやと首を振るライサに、フィアがちょこんと隣に座りこむ。
「そっかなぁ? 綺麗な声してるのに?」
「そうだ、一曲歌ってみてくれないかな? 本当に音痴なら、僕達もあきらめるんだよ」
 フィアとジオに左右を挟まれ、正面には必死な顔のサリにみつめられ、ライサはしぶしぶと歌いだす。
 けれどその歌は、多少音程のズレはあるものの透明感のある美声で、聞くものの心を惹き付ける。
「私より歌うまい!!」
「美声といって差し支えないんだよ。きっとライサを音痴だといった相手は、この歌声を独り占めしたかったんだろうね」
 フィアが感嘆の溜息を漏らし、ジオは手放しで褒め称える。
 二人の美辞麗句に、ライサの瞳がキラキラと輝いた。
「え? そっかな? ホントに私、音痴じゃない?」
 ライサはサリにも同意を求める。
 意見を求められたサリは歌ってもらいたい一心でコクコクと頷いた。
「よし! 滅び阻止に行くぞー!」
「おーっ☆」
 一気に自信満々に戻ったライサは掛け声と共に元気いっぱいに拳を振り上げ、フィアも一緒になって掛け声を出す。
 何も出来なかったサリは落ち込みつつ、けれど時の魔女が増えた事を喜ぶのだった。


「まぁ、こんな所にお客様が来て下さるなんて、珍しいわ! さぁ、どうぞ入って」
 次にサリ達が訪れた時の魔女はルシール(姫乃 唯(fa1463))。
 人里から離れた森の中に住んでいる彼女にサリはどことなく親近感を持った。
 だがサリが口を開こうとしたとたん、ルシールはそれを笑顔で遮る。
「ここまで来るのは大変だったでしょう? ローズティーでも如何?」
 招かれるまま、四人は小屋に入る。
 テーブルの上には既に五人分の紅茶が用意されていた。
「そう‥‥貴方達は夢見の巫女の使いなのね。でも‥‥例え世界が滅びたとしても、それは自然の摂理ではないかしら?」
「えっ?」
 柔らかく微笑んだまま紡がれた言葉を、サリは一瞬理解できない。
 自然の摂理。
 それは、あきらめろという事?
「でも、皆で歌を歌うのは楽しそうね。他の魔女達に会うのも楽しみだし、どんな歌を紡ぐ事が出来るのか興味があるわ。
 良いでしょう、私もご一緒させて頂くわ。但し。他の魔女達が来なければ、私は歌わずに帰るわね」
 ふわりと笑って告げられた言葉に、サリは一も二もなく頷く。
「分かりました、必ず皆さんから承諾をいただきます」
 本当は、時の魔女全員の承諾を得る自信なんてない。
 けれどこれが使命だから。
 気負うサリを、ジオがじっと見つめていた。


「今助けが必要な者を放り、何時ともしれぬ滅びの為に歌えとな?」
 時の魔女・羅蘭(冬織(fa2993))の言葉に、サリは俯くことしかできない。
 羅蘭がいたのは、東国。
 屋敷の前には、病に苦しむ人々が連なっていた。
 サリ達と話す間も、羅蘭は治療の手を休めない。
 ずっと痛みに泣いていた幼子が、羅蘭の調剤した薬と治療で泣き止み微笑んだ。
「‥‥また、来ます」
 そういうことしか出来ないサリに羅蘭は「何度訪ねて参ろうと同じ事じゃ」と冷たく言い切る。
 世界が滅びる事を願っているわけではない。
 ただ、いま目の前で苦しむ人々を救うことこそが、羅蘭にとって大切な事なのだ。
「まじょさま、世界、ほろぶ‥‥?」
 幼子が意味もわからず小首を傾げる。
 母親がそっと手を引き、羅蘭に向き直る。
「‥‥この子の子孫の未来がないかもしれないのですよね。今も大切ですが、未来がないのも哀しく思います‥‥」
 世界が滅ぶのは遠い未来とはいえ、このままでは確実に訪れる現実。
 守るべきものの呟きに、羅蘭の心も和らいだ。


「夢見も大変な仕事を与えたものだね」
 ジオは唇を噛み締め、苦悩するサリに労いの声をかける。
 羅蘭がこの地から動かない理由はとても納得のゆくもので、サリには説得のしようがないように思えた。
「ねえサリ。もう少し、肩の力を抜いてごらん。さあ、顔を上げて。
 冬の厳しさと春の恵み。種が芽吹いて、ここは春になると一面花畑だよ」
 ジオに言われて顔を上げると、そこは本当に一面の花畑。
 いまはまだ冬なのに?!
 フィアとライサ、そしてルシールがパチンとウィンク。
「綺麗です‥‥ほんとうに」
 こぼれそうになる涙を拭いて、サリはにっこりと笑う。
「もう一度、お願いしてみます」
 夕日に照らされて屋敷に戻ったサリ達を、羅蘭は出迎える。
「留守の間の手配はしておいた」
「! それでは‥‥」
「今を生きる者らが、未来を願うたゆえの。‥‥仕方あるまい、妾も参ろう」
「ありがとうございます!」
 サリは深くお辞儀をし、皆で次の魔女の元へ。


 その魔女に会う前から、サリはもう覚悟が出来ていた。
「世界が滅ぶというなら、それはそういう運命だったというだけのこと。違う?」
 薄暗い森の奥に住む時の魔女・ドナ(DESPAIRER(fa2657))は森の与える印象そのままに、暗く、そして冷たい空気を纏っていた。
「わざわざ運命を変えて、一体どうしようと言うの? それに何の意味があるの?」
「私に出来る事なんてちっぽけです。でも、この世界を生きている人々、ううん、人だけじゃありません。木も花もこの世界の全ての命が、いま精一杯生きているんです。
 最初は、使命だから、世界の滅びを止めなくてはいけないと思いました。でも違うんです。どんな生き物も未来へと何かを繋ぐために生きているんです。
 それを、私はこの度でジオさんから、そして出会った全ての事柄から学びました。私にできることなら、なんでもします。どうか、歌ってください」
 世界の滅びに興味を持たないドナに、サリは想いのたけを全て吐き出し、願う。
「夢見が可能性を示したのじゃから、賭けてみるもよかろう。時に願いは思いもかけぬ力となるものじゃ」
 羅蘭もドナの説得に当たる。
「私には、そこまで必死になることのようには思えないのだけど‥‥そこまで言うなら、手を貸してあげる」
 気だるげに応じるドナに、サリは誠心誠意、心をこめてお辞儀をした。


●歌を紡ごう〜かけがえのない未来の為に
「ん〜なんだか少し、急いだ方が良さそうですね」
 植物を愛でながら旅路を歩んでいた時の魔女・シヴァ(雅・G・アカツキ(fa5498))は眼鏡の奥の瞳を細める。
 高い塔の上に住んでいた彼とも彼女とも思える中世的な美の化身は、サリ達から話を聞くとすぐに承諾してくれた。
 伝書鳩に応じなかったのは、愛用の眼鏡が見当たらず、手紙を読むことができなかったのだ。
「空気が変わったわね。ジオさん、サリさん、手を貸して頂くわ」
 ルシールも即座にジオとサリの手を取る。
 他の魔女も厳しい表情で空を見上げる。
 常人にはわからない何かを感じ取っているのだ。
 すべての時の魔女が術を唱え、その場から掻き消えた。


「ほれ、しっかりせぬか」
 サリが気がつくと、そこは住みなれた聖なる森だった。
 羅蘭が手馴れた手付きでサリの介護に当たる。
「どうやら魔力に当てられたようじゃの。たてるかや? そなたがおらねば、妾たちは歌を紡ぐ事が出来ぬ故な」
「はい、ありがとうございます。‥‥これで、全ての準備が揃いました。皆さん、お願いします」
 聖なる森の時の石版の上に立ち、サリは巫女から授かった円盤を掲げる。
 小さなその石作りの石版に、魔女達の歌声を記憶させるのだ。
 六人の魔女達の歌声が、森中に、そして世界に響き渡る。
 掲げた円盤が金色の光を放ち、世界を守る光となるのだった。