だってあつは夏いからアジア・オセアニア
種類 |
ショート
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担当 |
霜月零
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芸能 |
フリー
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獣人 |
フリー
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難度 |
易しい
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報酬 |
0.6万円
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参加人数 |
8人
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サポート |
0人
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期間 |
08/06〜08/08
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●本文
「あつは、夏い」
そんな寒い一言を平然といえてしまうくらい、その部屋は暑かった。
「クーラーつけましょうよ‥‥」
目上のプロデューサーに、スタッフの一人が提案する。
寒い言葉を口にしても部屋の温度は下がるはずもない。
この部屋にはれっきとしたエアコンがあるのだ。
だがその瞬間、ギロッと睨まれた。
「クーラー、だとぉおおおう?! 俺のうちのクーラーが壊れてるっつーのに、クーラーを入れたいだとおおおおおおお?!」
「ひっ、ひええええええっ、な、なんでもありませんんーーーーーー><!」
ぶちきれたプロデューサーをスタッフの一人が取り押さえてどうどうとなだめる。
クーラー発言をしてしまったスタッフA君も他のスタッフに取り押さえられる。
この五十嵐権蔵(いがらしごんぞう)プロデューサーの家のクーラーが壊れたのはほんの数日前。
今日と同じく猛暑で、ガンガンにクーラーをいれていた所突如ぷつんっとお亡くなりになってしまったのだ。
「新しいの、買いましょうよ‥‥」
「ば、ばかっ!」
取り押さえられていたスタッフA君が再び暴言、いや、当然の意見をいう。
「買えるもんなら、とっくにかってらあああああああああっ!!!」
どっかーーーんっ!
A君の口を他のスタッフが塞いだが間に合わない。
「五十嵐さんはね、いま奥さんと別居中なのよっ」
こそこそこそっ。
事情を知っているスタッフがA君の耳に慌てて囁く。
五十嵐プロデューサーは何か家庭の事情で豪華な邸宅を奥さんに追い出され、6畳一間(しかも団地サイズ)にしょぼーんと寂しいひとり暮らしをしているらしい。
はっきりきっぱりボロアパート。
クーラーももちろんエアコンじゃなくクーラー機能のみ。
当然年季も入ってる。
なので壊れるのは時間の問題だった。
「だ、だったら、なおさらこの部屋にいる間だけでもクーラーで涼みましょうよ‥‥」
何も暑さにずっと耐え続ける必要はないではないか。
プロデューサーの怒鳴り声が来る事を予想してA君以外のスタッフは慌てて耳を塞ぐ。
だが五十嵐プロデューサー、Aくんの言葉に一瞬固まり、次の瞬間号泣!
「ううっ‥‥クーラーなんか入れちまったら、家の暑さがつれぇじゃねーかよぅ‥‥おおおう、おうおうっ」
あーあ、泣かせちゃった。
そんなスタッフ達の目線がA君に降り注ぐ。
「まて」
いたたまれなくなって、こっそり部屋を出ようとしたA君を、プロデューサーが引き止めた。
「な、なんですか‥‥?」
「かき氷作るぞ」
「は?」
「ばっかお前、『は?』じゃないだろーが。カキ氷しらねえのか?」
いや、カキ氷はもちろん知っている。
だが何故いきなりいまカキ氷?
「夏といえばカキ氷だ。おめぇたち、今すぐかき氷売って来い!!!」
「「「ええええええ?!」」」
「えーも、へーも、ない! 四の五の言わず、カキ氷販売しやがれ! 暑いったらありゃしねえんだよーーーー!!!」
どっかーんっ。
再びブチキレタプロデューサーに成す術もなく頷くスタッフ達。
慌ててカキ氷の準備を始めるのだった。
〜カキ氷販売スタッフ募集〜
五十嵐プロデューサーの思いつきでかき氷を販売することになりました。
つきましては、この販売スタッフの募集をおこないます。
〜販売場所〜
プロダクション前の路上です。
販売許可は取得済みです。
〜販売時間〜
朝9:00〜夜22:00まで。
お子様は深夜の販売は禁止です。
昼間の販売に回ってください。
〜販売種類〜
自由。
イチゴ味、メロン味などスタンダードなものから、ちょっと変わったものまで。
〜売上金〜
五十嵐プロデューサーのクーラー購入資金に使われます。‥‥たぶん。
バイト代もあまり高くはありませんので、ほとんど働き損。
〜成長傾向〜
容姿、発声、体力
●リプレイ本文
●初日! 準備は万端?
「売って売って売りまくる! 夏だから〜!」
真夏の炎天下。
プロダクション街の一角でMAKOTO(fa0295)は腕まくりをして気合を入れる。
その目の前にはカキ氷の機械と色取り取りのシロップ、そしてなにやらあやし〜い物体もいろいろ並べられていた。
「最近はかき氷のシロップも色々な種類が出ているのですね」
姫乃 舞(fa0634)は並べられたシロップをまじまじと見ている。
イチゴやメロン、ブルーハワイや練乳など定番品が並ぶ中、リキュールやフルーツ缶、つぶ餡缶にカットゼリー類まであるのだ。
「ふっふっふー♪ バケツサイズやロシアンカキ氷もあるわよ。値段はノーマルは三百円、リキュール類やトッピングは五百円、バケツは千円よ。なんせ三人分の量が詰まってるんですもの、とーぜんよね♪」
どーん☆
武越ゆか(fa3306)はお試しでつくってもらったバケツカキ氷を姫乃の前にかざす。
バケツといっても床掃除などをするようなやつではなく、通常より大きな発泡スチロールの使い捨て容器。
武越は三人分と控えめに表現しているが、氷は山盛りに盛るから四人分は入りそうだ。
そしてそのバケツかき氷を作った漫才コンビ『まいむ☆まいむ』の河田 柾也(fa2340)は汗だくになりながら相方の桐尾 人志(fa2341)と二人、スタッフA君に話しかけている。
「奥様もギョーカイ人なんですね。ほぉ、広報宣伝部マネージャー‥‥家の中の力関係は知れたモンですな」
桐尾A君から五十嵐プロデューサーの奥様の情報を聞き出し、懐からなにやら企画書を取り出してA君に耳打ち。
そんなことしたらとかなんとか、驚き慌てるA君の肩を河田が抱き、こちらもなにやら手紙を取り出して、
「根本的な解決です」
と相方と二人、不敵に笑う。
A君は謎の企画書と手紙を持って、大急ぎで走り去った。
「ロシアンかき氷のクジを作ってきたんだ。こんなもんで十分か?」
希蝶(fa5316)がカキ氷と大きく書かれたダンボール箱と、折り紙を三角に折ったクジを持ってくる。
黄色いアヒルが描かれたアロハシャツに麦藁帽子姿の希蝶は妙に元気で、まだ準備中だというのに集まってきた通行人に「イエーイ♪」とポーズをとる。
希蝶の隣にいた慧(fa4790)も通行人に笑顔で対応し、パシャパシャとカメラや携帯で写真を撮る通行人がどんどん増えだす。
今回、こんなしょーもないカキ氷作りに集まった芸能人はなぜか存在感のある有名人ばかり。
一人ひとりが主役をはれる人気を持つメンバーが八人も集まっているのだ。
人だかりが出来ないはずがない。
「あ、すんません、写真は写真撮影コーナーでたのんます!」
既にこの事態を予測していた桐尾が、予めスタッフ達とつくっておいた写真撮影コーナーに地元警察官の手を借りてすかさず通行人たちを誘導しだす。
簡易とはいえちょっとしたステージにもなっているそこには、写真撮影の時間帯と出演芸能人がかかれた看板もあり、ちゃっかり赤字で『カキ氷一杯以上お買い上げの方に整理券配布中』とある。
カキ氷の販促に一躍かうこと間違いない。
「はーい、みんなちゃんと並んでね?」
彗も整列に協力しだすと、女性陣が一気に湧いた。
「あなたも、カキ氷買ってくれる‥‥?」
強引に写メを撮ろうとした女子高生を、幼いタブラ・ラサ(fa3802)が上目遣いに見つめて止める。
普段と違い恥ずかしげな口調に変えて、ちょっぴりおどおどとけなげを装うラサに、女子高生はメロメロ。
警官にはうるせーなどと暴言を吐いても、ラサの愛らしさには敵わない!
あっさり負けて大人しく列に並びだす。
そんな女子高生にラサは内心舌を出しつつ、『氷』と背中にかかれたはっぴを着込んだ。
●カキ氷はバトルロイヤル? ううん、ロシアンルーレット!
「キミキミ、そう、そこのキミ! このくそ暑い夏を乗り切るカキ氷、一杯どうかな〜?」
「いらっしゃいませ、かき氷は如何ですか?」
「何が出てくるかわからないロシアンカキ氷はいかが?」
MAKOTO、姫乃、武越の美女三人が声をそろえて呼び込みをする。
ロシアンカキ氷の名前に反応して、小学生の集団がやってきた。
「雪だるまーーーーー!」
着ぐるみを着てかき氷を作る河田を指差しはしゃぎつつ、リーダー格の男の子がロシアンカキ氷に挑戦する。
「出ました、ロシアンカキ氷挑戦者! 少年のお名前を教えてくれるかしら?」
武越がすかさずマイクを少年に向ける。
プロダクション街だから、この子も子役なのだろうか?
一生懸命カキ氷作りを手伝う同世代のラサをちょっぴり意識しながら、武越の質問に答えていく。
「おおーっ、ワイワイプロダクションの期待の新人ね! さあ、この中からクジを一枚引いてね」
武越が希蝶の持つ箱を促し、希蝶はクジの入った段ボール箱を少年に差し出す。
緊張した面持ちで引いたそれにかかれた番号は『5番』。
「5番だな? それじゃあ、こいつでどうだっ!」
河田のつくったカキ氷に姫乃が謎のシロップをかけ、希蝶がとどめに氷のボールで蓋をして少年に差し出す。
「さあ、今少年の手にかき氷が手渡されたわ! 中からは何が出てくるのかしら? さあさあ、一気にいってみてね!」
マイクで実況中継をかます武越に人だかりがさらに増す。
ラサの手前か引くに引けなくなった少年、一気にえいっとカキ氷をストロースプーンで頬張った!
「うっ!!!」
口を押さえる少年に、周り中ドキッとする。
少年の持つかき氷にされていた氷のボール蓋は崩れて、中身のシロップが見えている。
「茶色ってことは、コーラ味なのかな?」
彗が呟くが、コーラシロップは見当たらない。
変わりに茶色いものといえば‥‥。
「酢醤油だね」
それを用意した希蝶が事実を告げる。
てっきり甘いものばかりだと思っていた少年は、それでも武越の応援の元KONJYOUで食べきった。
「さすが期待の新人ね! さあ、次の挑戦者は誰かしら?」
武越がロシアンの挑戦者を募る横で、姫乃が地道に普通のカキ氷を売り続ける。
「シロップはこちらからお選び下さい。オプションとしてトッピングもございます」
そして簡易ステージに彗があがる。
「今日は、暑い中感謝だよ。僕の歌声で少しでも涼しくなるように‥‥『SUMMERY ICE』!」
わっと観客が湧く。
彗にあわせて歌えるように、桐尾が歌詞カードを配る。
♪〜
暑い昼下がり恋しくなるのは 君の涼やかさ
とろけそうなひと時かみ締めたなら
ほら迷わずに手を伸ばそうよ SUMMERY ICE
〜♪
「じゃあ、今日も僕はそろそろこの辺で。これ、宣伝費で落ちない?」
夜になり、年齢的に販売が不可能な子供組みが引き上げ、ラサがカキ氷を手にする。
昨日も人気者のラサがおいしそうにカキ氷を食べながら帰る姿が目撃され、すれ違った人々がついつい同じようにカキ氷に惹かれて売り上げアップに繋がったのだ。
「いいんじゃないのかな〜? キミの食べ方ほんとに美味しそうなんだよ」
思わず自分も食べたくなったMAKOTOがゴミ箱を片付けながら同意する。
ゴミ箱はお店の前と、ちょこっと食べていけるように設置されたテーブル、それと店の裏の三箇所に用意しておいたのだが、売り上げが予想外に大きくて何度もゴミ袋を片付けているのだ。
「追加のお釣り用の硬貨はこちらにしまっておきますね」
つり銭も足りなくなって、途中で両替にいっていた姫乃が、帰る前に簡易金庫の鍵をプロデューサーに手渡す。
この調子なら俺のクーラーが買えるぞと喜ぶ五十嵐プロデューサーと、そわそわと落ち着かないA君。
明日は、何かが起こる予感?
ステージの上でコントを披露する河田と桐尾がにんまりと笑った気がした。
●最終日! ぜんぶひっくるめて、お疲れ様でしたー☆
「こ、これはなんじゃーーーー?!」
最終日。
ほっくほく気分でカキ氷露天を見に来た五十嵐プロデューサーは叫ぶ。
そこには、『チャリティカキ氷! あつは夏いから』と描かれた看板がでかでかと掲げられ、慈善団体ご一行様がステージの上で地球温暖化について熱く語っていた。
「お、俺はこんなこと許可していないぞ! カキ氷の売り上げはクーラーに‥‥」
「あなた、なーにをしているざーます?」
怒りも露わにわめきだした五十嵐プロデューサーに、冷たい声が振る。
「そ、その声は、由美子? 何でお前がここにーーーー?!」
そう、冷たい声の主は五十嵐プロデューサーの奥様。
奥様は冷ややかーな目で夫を見つめている。
「あたくしはあなたがチャリティーのカキ氷店を開いているからと招かれましたのよ。でもクーラーが何とかと聞こえましたのは一体‥‥」
「いやいやいや、実はプロデューサーは自らクーラーを使用を節約して環境に優しい生活を送っていらっしゃるんです」
「そそそっ、さすがプロデューサー、スタッフにも地球にも優しいモンです」
このセッティングをした河田と桐尾がすかさずフォローを入れる。
奥様を前に蛇ににらまれた蛙状態の五十嵐プロデューサーは二人の台詞にコクコクと頷くのが精一杯。
「‥‥クーラー代の節約でしたら、同じ部屋にいたほうが半分になるわね」
戻ってきてもいいわよ?
そう呟く奥様に、うおおおーっと男泣きする五十嵐プロデューサー。
「これで、万事解決やわ」
桐尾と河田、そして全てを理解したスタッフ達もほっと胸を撫で下ろす。
「さあ、のこったカキ氷も売りさばくんだよ! 地球にやさしく〜♪」
まだまだ売り足らないMAKOTOが腕まくりをし、最終日もカキ氷は大売れに売れたのだった。