未来映写館アジア・オセアニア

種類 ショート
担当 霜月零
芸能 2Lv以上
獣人 1Lv以上
難度 やや難
報酬 3.7万円
参加人数 8人
サポート 0人
期間 08/10〜08/14

●本文

 その少年と出会えたのは、幸運なる数名の少年少女だった。
「やあ、初めまして」
 夜の公園に降り立ったその少年は、唖然とする少年少女に笑顔で手を振る。
 だがみな答えない。
 当たり前だ。
 少年は文字通り空から降ってきたのだ。
 頭上にはUFOとしか表現できない飛行物体が輝いている。
 少年はそこから飛び降りてきた。
「んー、この時代の子ども達はシャイなのかな?」
 少年は驚きに硬直している少年少女達に首を傾げる。
「2007年8月って今日だよね?」
 尋ねられ、その場に居合わせた少年少女達はコクコクと頷く。
「ふむ、なら間違いないね! 君達はラッキーにも未来映写館無料招待キャンペーンに当選したんだよ。さあさあ、誰から未来を垣間見る?」
 うきうきと楽しげな彼に、一人の少女が進み出る。
「あの‥‥あなた、なに?」
「僕? 僕は未来映写館管理人のライム。君達の言うトコロの未来人かな。ちょっと違うかも?」
「未来を垣間見るって?」
「そそっ。この映写室でね、君達は自分の未来を見れるんだ。素敵だろう♪」
 少年が手にしたステッキを振るうと、頭上に浮いていたUFOが地上に降りてくる。
「この映写室を使って未来を見せてあげるのが僕の仕事。今日ね、ついに創業千二百年を迎えてね、その記念にタイムマシンにてきとーに打ち込んだ日時に出会った人々に無料で未来を見せるキャンペーンを開催することにしたんだ。
 もっとも、こんなに過去に来ちゃうとは思わなかったんだけどね」
 てへへと少年は気さくに笑って少年少女達を映写室に促す。
「未来って、何が見れるの‥‥?」
 わけがわからないまま、少女は映写室に足を踏み入れる。
「いろいろだね。ただし、見れるのは自分の未来だけだから、自分が生きていないほど先の未来は見れないよ。さあさあ、他のみんなもそんなところでぼけーっとしてない!
 未来映写館へようこそ! 君達の未来、とくとごらんあれ〜♪」
 少年のステッキから輝く星が溢れ、映写室に次々と未来が流れ出す‥‥。


〜未来映写館出演者募集〜
 特撮番組『未来映写館』出演者募集です。
 出演者の皆様には映写館に招待されたお客様になり、未来を見ていただきます。
 OPには少年少女とありますが、多少の年齢幅はOK。
 

〜視る未来の条件〜
 1)自分の未来だけ
 2)自分が生きている間だけ
 3)未来は視ることができても、行くことは出来ない。
 
 1〜3の条件により、演じるキャラが生きているはずのないほど遠い先の未来は見れません。
 また、未来を見ることが出来ますが、未来を映写館で変える事は出来ません。
 実際に未来にいくのではなく、映写館の中で未来を見ているに過ぎないからです。
 ただし、未来を見終わったあと、現実にその時がきた場合、違う行動を取ることは可能です。

例)2学期のテストで赤点の未来を見た
 →映写館で見たテストの答えを覚えておいて、実際に2学期のテストで良い点を取る。
 

〜成長傾向〜
 容姿、芝居

●今回の参加者

 fa0330 大道寺イザベラ(15歳・♀・兎)
 fa2539 マリアーノ・ファリアス(11歳・♂・猿)
 fa3623 蒼流 凪(19歳・♀・蝙蝠)
 fa3802 タブラ・ラサ(9歳・♂・狐)
 fa3814 胡桃・羽央(14歳・♀・小鳥)
 fa4287 帯刀橘(8歳・♂・蝙蝠)
 fa5775 メル(16歳・♂・竜)
 fa5867 山南亮(9歳・♂・アライグマ)

●リプレイ本文

●プロローグ
「未来を見られるなんて、そんな事ある訳ねーじゃん!」
 アル(メル(fa5775))は未来人・ライム(山南亮(fa5867))を睨みつける。
 UFOとしか思えないものが目の前にあっても、未来人だと語られても、そう易々と事実を受け入れるのは困難だ。
「いきなり未来人って‥‥いや、この円盤見た後じゃ信じないわけにもいかないけどさ」
 石動亨(マリアーノ・ファリアス(fa2539))もアルと同じように半信半疑だ。
 未来が視れるという映写館も、外見はUFOだけど中身は普通の映画館だし。
「つべこべ言ってる暇があったら、とりあえず見てみればいいんだよ。ごちゃごちゃうるせぇっての」
 最初からずっと苛立っている鬼島きらら(大道寺イザベラ(fa0330))が毒づく。
 黙っていればかなりの美少女なのだが‥‥この現状にヒスを起こしているのだろうか?
「この超絶美少女アイドル声優の羽央の未来は薔薇色に決まってる! 早く未来を見せてほしいんだよ♪」
 そして羽央(胡桃・羽央(fa3814))は疑う事を知らないのか、鬼島とは正反対にフレンドリー。
 おどおどと怯え気味の白潟慎哉(タブラ・ラサ(fa3802))を初対面だというのに大丈夫だよと元気付けてあげたりしている。
「まあ、なるようにしかならないよね」
 橘セイ(帯刀橘(fa4287))は適当な席に腰掛ける。
 映写館のデザイン的に他のメンバーと一緒に見れるようだ。
 ずっと黙ったまま、他のメンバーと交流をもとうとしない凪(蒼流 凪(fa3623))が最後に腰をかけ、映写館の幕が上がった。


●メルの未来
「誰から未来を視てみる?」
 ライムの問いかけに、メルが応じる。
「んじゃ、今度のテストの問題と答えでも見せて貰おーかな」
 答えがわかればテスト勉強しなくて済むときししっと悪戯笑い。
 ライムがくるっとステッキを回すと、スクリーンにテスト中のメルの姿が映し出された。
「うわ、これ抜き打ちテストじゃん!」
 テストの内容に、メルは叫ぶ。
 夏休みの宿題にそったそのテストは、国語。
 数学のテストはあると聞いていたが、これは予想外。
 メルは急いでテストの内容をメモにとる。
「これってどんくらい先まで見れるのかな? ずっと先のテストまでメモって置けば俺一生天才じゃん!」
「一生分の未来が見られるけれど、キャンペーンだからね、一人三分が持ち時間です」
「げっ、三分ってもう時間ねーじゃん! 急いで先のテストみせて!」
 ライムが杖を回すたび、未来のテストシーンが映し出される。
 スクリーンの中のメルが長袖を着るようになった頃、画面がふっつりと消え去った。
「うわっと、まだ全部写しきってないんだよ。まあでも、当分勉強しなくってすむなんだよ」
 ご機嫌にメルはポケットにメモをしまい、スクリーンは次の人の未来を映し出す。



●羽央の未来
「もう将来は玉の輿かな? それとも芸能界で大成功して御殿に住んでたり?」
 羽央が身を乗り出すようにスクリーンを見つめる。
 そこには、繁華街をさまよう少し大人びた羽央の姿が映し出されていた。
「‥‥あんまり、良い服着てないんだよ。時計も安物だし、どうしたのかな?」
 予想ではブランド物に身を包み、田園調布にいるはずなのだが。
「あっ、ちょっとちょっと、どこにいくつもりなのかな。あぶないんだよっ」
 見るからにその筋のやばげな男に声をかけられ、こともあろうか未来の羽央はふらふらと後についていくではないか。
 スクリーンを見つめる羽央の手に汗が滲む。
「こ、子供は見ちゃダメなんだよっ」
 咄嗟に隣に座っていた白潟の目を両手で塞ぐ。
 路地裏に連れ込まれた羽央は、見知らぬ男性からお金を受け取り、そして‥‥。
「わーわーっ、これ以上はもう、見たくないんだよっ」
 羽央の叫びと共に、画面がふっつりと消え去った。
「つ、つぎいってみよ〜」
 冷汗だくだくになりながら、羽央は誤魔化し笑いを浮かべた。 


●石動の未来
「見たいのはもちろん高校生の俺! 国立出てるか?」
 サッカー少年の石動は、手にしたサッカーボールをひょいっと弄ぶ。
 けれどスクリーンに映し出されたのは、なぜか野球の試合。
 驚く石動の手からボールが転がり落ちた。
「え‥‥俺、野球に転向するの?」
 スクリーンの中の石動は確かに野球のユニフォームに身を包み、いままさに打席に入ってゆく。
 試合はどうやら九回裏。
 2アウト満塁。
 絶好の見せ場だ。
 だが‥‥。
「あーっ! あれが打ててりゃ、間違いなく全国だったのに!!」
 空振り三振をし、仲間達と肩を抱き合ってグラウンドを去ってゆく自分に、石動は悔しさがこみ上げる。
「あ?」
 ふっと画面が消えて、石動はいま自分がどこにいるのかを思い出した。
「そっか、まだ3年も先の話だよな。‥‥よしっ!」
 すくっと立ち上がり、石動はみんなを残して映写館を出る。
「‥‥こうしちゃいられねぇ、今からあのフォークを打てるように特訓しないと!」
 サッカーボールを残し、石動は全力でスポーツショップに走り去ってゆくのだった。  


●白潟の未来〜消えた未来〜
 白潟の未来は、おかしかった。
 十年後の未来をなんとなくみてみようとしたのだが、スクリーンが何も映し出さない。
「故障じゃないの?」
 ライムに尋ねるが、ライムは首を振る。
 ほんの少し、その表情が翳ってみえるのは、薄暗い照明のせいだろうか?
「じゃあ、あたしの未来を先に見せてよ。どうせ大した未来じゃないだろーけどさ」
 鬼島がライムを促す。


●鬼島の未来
「おっせぇよ、もう!」
 スクリーンの中の鬼島もイライラしていた。
 今日と同じ気合の入ったネイルアートが剥げるのも構わず、爪をきりっと噛む。
 鬼島の彼は、いつも時間にルーズなのだ。
 だから今日も喧嘩してしまったし、未来の自分がまたまたされてイライラしているのも予想どうりだ。
(「仲直り、できないのかな‥‥」)
 鬼島が見ようとしたのは、彼氏と別れる日の事。
 正直、そんな未来は見られなければ良いと思っていたのだが‥‥。
 すぐ先の未来なのだろう、いまの鬼島と少しも変わらないスクリーンの中の鬼島の携帯がなる。
「「うそ」」
 スクリーンの中の鬼島と、映写館の鬼島の言葉が重なる。
 携帯に映し出された言葉は、彼の死を告げるもの。
 彼の友人からで、玉突き事故に巻き込まれたらしいのだ。
「おい、勝手に死んでんじゃねぇよ!!」
 彼の病室に駆け込み、叫んでも、彼は目を覚まさない。
 既に白い布を被せられ、みたくない事実を突きつける。
「ゴメンネ‥‥意地っ張りでアタシ‥‥本当にゴメンナサイ‥‥」
 泣き崩れる鬼島の姿を映し、スクリーンはそこで消えた。
 映写室の中に、鬼島の泣き声が響き渡った。


●白潟の未来〜見えない理由〜
「ちゃんと、鬼島さんの未来は見えたね? でも僕の未来は見えない。それってつまり‥‥」
 羽央に肩を抱かれ、泣きじゃくる鬼島を横目に、白潟はこくっ吐息を飲む。
 映写機は壊れていない。
 それなのに、未来が見えないということは、つまり、未来がないということだ。
 白潟は十年後、まだ二十歳かそこらだというのに。
「病気? それとも事故? 視える未来の一番先を、見せて」
 強張った表情のまま、白潟はライムに頼む。
 白潟が見れる一番先の未来は、死ぬ寸前の未来のはずだ。
 スクリーンはライムの杖にあわせ、白潟の未来を映し出す。
 そこには、ランドセルを背負った白潟がいた。
 映写館の白潟が固唾を呑んで見守る中、スクリーンの白潟は赤信号を無視してとことこと横断歩道を渡りだす。
 その道は、何故信号がつけられているのか不思議なぐらいいつも車が通らなくて、誰もがそうしているのだ。
 だが、その日は違った。
 安心しきっている白潟に、無情にもバイクが突っ込んでくる。
「‥‥僕、二度と信号は無視しないよ‥‥」
 消えたスクリーンから目を逸らし、白潟は肩を抱きしめて震えていた。


●橘の未来
 彼の未来は、実に子供らしかった。
「ねえ、見せて下さい。今年の8月31日の僕はなにをしていますか?」
 夏休み最後の日。
 彼は一体何をしているのだろう?
 スクリーンの中の橘は、膨大な宿題の山に埋もれていた。
 国語と算数のドリルは半分しか終わっていないし、自由研究のひまわりの観察は肝心のひまわりが鉢の中でくてっと枯れてるし、絵日記すら真っ白。
 辛うじて終わっているのは社会の年表作りだけ、それも教科書丸写しという悲惨さだ。
「判っていた事です‥‥」
 今現在宿題を少しもやっていないから、どうなっているのか知りたかったのだが、小人さんがこっそりやっておいてくれたなどという未来はないらしい。


●凪の未来
 それは、ありえない光景だった。
 映写館の皆が、今まで見たどの未来よりも息を呑む。
 ただ一人、ライムだけは余裕の表情だ。
 この悲惨な未来を既に過去のこととして知っているからか、それとも別の理由があるのか。
「東京、壊滅‥‥?」
 一体、何があったのか。
 凪のみている未来では、東京は毒ガスに満たされ、悶え苦しむ人々で映し出されていた。
 ただ一人、未来の凪だけは防毒マスクを装備し、ビルの屋上から狙撃銃を構えている。
 狙いは、この地獄絵図を作り出した某国テロ組織実行部隊。
 全身、黒い服に身を包み、防毒マスクを身につけた彼らを一人、また一人と狙撃してゆく。
「あ、わかりました! これ、ネッゲの一場面です!」
 橘がはっとして立ち上がる。
 これほど精巧な画面ではないけれど、見覚えがあるのだ。
「これがゲーム? 本物そっくりじゃん」
 メルが半信半疑に呟く。
 最近のゲーム画面はCGと3D技術で本物そっくりになってきているとはいえ、スクリーンの中の映像には及ばない。
 それになにより、これがゲームならば未来の凪としか思えない人物がゲーム画面内にいるのは何故だ?
「シミュレーテッドリアリティです。ジャスト三分、いい夢は見られましたか?」
 消えたスクリーンとみんなを見回し、ライムがフフッと笑う。
 現代ではまだ確立されていない技術も、近未来では開発済みなのだろう。
 破壊された東京は未来のゲーム画面と知り、全員、ほっと息をついた。


●エピローグ
「羽央、もっと頑張らないといけないんだなぁ〜」
「これで今度のテストはバッチリだぜ!」
 暗い未来を見せられて、頑張ろうと決意する羽央と、メモに自信満々のアル。
 けれどアルはまだ気づいていない。
 メモはそれはある程度まで先のテストの答えをかけたけれど、一生分ではないのだ。
 テストで良い点を取れば、当然周囲の期待も高まる。
 けれどその点数はメモを暗記しただけのもの。
 周囲の期待を裏切れず、結局最後はだいっ嫌いな勉強を頑張る未来が待っていることに。
「アタシね‥‥新しい水着買ったの。見たいでしょ? さっきは、ごめん」
 泣き止んだ鬼島は、彼に速攻で電話をかけている。
 謝れる時にちゃんと謝っておかないと、一生後悔する事になるのだ。
 いまから行くという彼の言葉に、鬼島は嬉しそうだった。
「ねえ、ライムさん。事故に遭う未来を見たことで、事故を回避できることがほぼ確定したいまなら、もしかして未来がみれる?」
 ふと気づき、白潟が尋ねる。
「よく気づいたね? ご褒美に、特別にもう一回だけ――」
 白潟だけが残った映写館の中で、くるっとライムが杖を回す。
「あとっ。助けてくれて、ありがとう」
 今日、ライムに出会わなかったら、白潟は数日後に死んでいたのだから。
 映写館から出てきた白潟はそれはそれは幸せそうな表情だった。


「あれ? 随分早く来たんだね」
 公園に鬼島の彼が息を切らせて迎えに来た。
 彼は映写館が見えていないのだろう、鬼島に平謝りに謝っている。
 鬼島が泣きそうになりながら許してあげると、仲良く彼の車に乗り込み、助手席から鬼島はライムに手を振る。
 その数時間後に、玉突き事故が発生したりするのだが、むろん、二人は事故に遭わない。
 鬼島との約束に遅刻して事故に遭う予定だったのが、鬼島に謝られて彼は遅刻どころかはやく彼女のところに来たのだから。
 けれど鬼島が未来が変わったことに気づくのはずっとずっと先のこと。

 
「それではこれで店じまい。続きが見たければ、長生きしたら─── どうかな?」
 映写館の前で、ライムはぱちんとウィンク。
 遠い夜空にUFOがキラリと輝いた。