202☆アジア・オセアニア

種類 ショート
担当 霜月零
芸能 2Lv以上
獣人 2Lv以上
難度 普通
報酬 3.6万円
参加人数 8人
サポート 0人
期間 08/08〜08/12

●本文

 にゃー。
 にゃー‥‥。
 その路地裏にはいつも猫が集まっていた。
 子猫から成猫、そしてふとっちょなボス猫までたむろすその路地裏は『猫町横丁』と呼ばれ地域の皆に親しまれていた。
 通常、野良猫がそんなにもいたら地域住民から苦情の一つや二つきそうなものだが、猫町横丁の猫達にそんな苦情を漏らす住民はいなかった。
 ゴミ箱をあさったりもしなければ糞尿を撒き散らす事もない、およそ野良猫らしくないせいかもしれない。
 学校帰りにいつも猫町横丁を通り過ぎる遠野ゆかりも、この場所の猫達は大好きだった。
 だが、今日のゆかりは違った。
 猫なんて、見るだけでうんざり。
「‥‥にゃーにゃーにゃーにゃー、ちっともかわいくないんだから!」
 ふんっ!
 足元に擦り寄ってきた子猫をぷいっと避けてゆかりは不貞腐れる。
 そっぽを向かれた子猫は「あれ〜? 今日はご飯くれないのです〜?」といわんばかりに小首を傾げる。
 ダメ。
 そんなかわいい目を向けてきたってダメ。
 今日からわたしは猫嫌いになるんだからっ。
 ゆかりの目じりに涙が浮かぶ。
「くっついてこないでってばーっ><!」
 ぶんぶんぶんっ。
 鞄を振り回して―― もちろん、本気で当てたりはしないのだが―― ゆかりは懐きまくる猫達を追い払う。
 っと、その身体がなんだかヘンだ。
 ぶんぶんと振り回す鞄がどんどん大きくなる。
 いやちがう。
 ゆかりの身体がちじんでいるのだ。
「ちょっ、えっ、ええええええ?!」
 鞄が重くて持っていられなくてゆかりは道端に落っことす。
 そのくせ着ていたセーラー服はゆかりと一緒にちじんでいるのだから不思議仕様だ。
「やれやれ、お前さんも猫町横丁の仲間入りだねぇ」
 猫耳&猫尻尾の生えたおばあさんがいつの間にかゆかりの側に来ていた。
「ええっと、こ、コスプレ?」
 おばあさんの姿に仰天するゆかりの頭とお尻にもいつの間にか猫耳&猫尻尾がくっついていた。
「いたっ、いたたっ?!」
 引っ張ってみるが、無論取れない。
 きっちりゆかりの身体から生えてしまっている。
「おねーちゃん、いつもご飯ありがと〜♪」
 小学生ぐらいの少年がゆかりに笑顔で礼を言う。
 むろん、その少年にも猫耳と猫尻尾が。
「おうおう、ねーちゃん。ねーちゃんも猫になったからにゃあ、この町のルールに従ってもらうぜ。案内すっから、着いてきな!」
 太っちょで顔に引っかき傷だろうか?
 大きな切り傷が誇らしげに刻まれているおっさんがゆかりを促す。
 耳と尻尾さえなければ、そっち系の方にしか見えない。
「私、人間なんだけど‥‥」
 さっきまで当然だった事をゆかりは口にする。
 遠野ゆかりは十六歳の女子高生なのだ。
 ‥‥猫耳と猫尻尾のついたいま、絶対の自信はないけれど。
「鏡を見てからものをいいな」
「‥‥はい><」
 呆れたように葉巻を吹かすおじさんに、ゆかりはおろおろとついてゆく。
 いつも通る横丁の、さらにわき道を進んでいく。
(「こんな脇道、あったっけ?」) 
 いつも通っていた道なのに、いまは未知だ。
「おらよ、ここが俺達の街だ」
 脇道を抜け、視界が開ける。
「うっわああーー?!」
 そこは、見事に『街』だった。
 イギリスを思わせる町並みと、優しい自然。
 全ての人々に猫耳と猫尻尾がある事以外、ごく普通の町並みだ。
「あ、あの、ここって‥‥」
「今日から、お前さんが住む場所だ。あの横っちょの赤い屋根の家をやろう。買い物は広場に出ている露店で好きなものを買え。お前さん、料理ぐらいは出来るだろう?」
 テキパキと決めていかれるこれからのことに、ゆかりはおろおろするばかりだ。
 とにかく早くここから出て家に帰らないと。
 ―― あの子を、見送ってあげなければいけないのだから。
「あ、あのっ、私お家に帰りたいんですっ」
「家? その姿で?」
「あ‥‥」
 猫耳と猫尻尾。
 こんな姿で果たして帰れるのだろうか。
 いや、それよりもちゃんとお父さんとお母さんは私をゆかりだと認識してくれるのだろうか。
 水溜りに映る姿は大人とも子どもともいえない茶虎の、あの子に良く似た猫姿なのだから。
「まあ、そう焦る事はない。時期がくれば、お前さんは戻れるさ。それまではここでゆっくり暮らすといい」
 猫のおじさんに促され、ゆかりは今日からこの猫の町で暮らすことになったのだった。
 

〜202☆ 出演者募集〜
 特撮ドラマ『202☆(にゃんおーにゃん☆)』では出演者を募集します。
 学校帰り、なぜか猫になってしまった主人公・遠野ゆかり(とおのゆかり)。
 彼女は何故猫になってしまったのか。
 また、猫町横丁の猫達は一体なんなのか。
 どうしたら彼女は戻れるのか。
 様々な謎を解きつつ、あるいはそのまま残しつつ、物語は出演者の皆様に委ねられます。
 物語にあわせ、主人公・遠野ゆかり以外の役もどんどん作ってください。


〜成長傾向〜
 芝居、容姿、軽業。

●今回の参加者

 fa0142 氷咲 華唯(15歳・♂・猫)
 fa0190 ベルシード(15歳・♀・狐)
 fa1105 月 李花(11歳・♀・猫)
 fa1704 神代タテハ(13歳・♀・猫)
 fa1718 緑川メグミ(24歳・♀・小鳥)
 fa2122 月見里 神楽(12歳・♀・猫)
 fa2321 ブリッツ・アスカ(21歳・♀・虎)
 fa3611 敷島ポーレット(18歳・♀・猫)

●リプレイ本文

●プロローグ
「おそいなあ〜お姉ちゃん。約束していたのに、どうしたんだろう?」
 遠野 藍(月 李花(fa1105))は時計を見る。
 姉・遠野ゆかり(ベルシード(fa0190))と今日は買い物に行く約束をしていたのだ。
 学校から戻ったら、すぐに駅前に来るといっていたのに、今はもう二時。
 夏休みだというのに花壇の当番で水遣りに家を出たのは午前中のこと。
 一度家に戻ったとしても、遅すぎる。
「携帯、通じないんだよ」
 何度かかけている携帯をじっと見つめる。
(「もしかして、何かあったのかな‥‥」)
 真面目な姉が何の連絡も無しに遅刻するなんてありえない。
 それに今日の買い物は、あの子の為のものなんだから。
 不安になり、藍は姉の行きそうな場所を探し始める。


●猫街横丁〜猫達の生活〜
「ん、新入りっていつもの嬢ちゃんか。俺のことわかるか?」
 猫耳猫尻尾のついたゆかりに、塀に寄りかかっていたトラ姉(ブリッツ・アスカ(fa2321))が気さくに話しかけてくる。
 ゆかりの尻尾よりも幾分濃く艶やかな毛並みと、堂々とした態度の彼女には、どこかで会っているような気もするのだが‥‥。
「お姉ちゃんのよく知っている猫だにゃv」
 ゆかりも猫になったと知り、ずっと甘えて懐いているトト(神代タテハ(fa1704))が黒と灰色のしましま尻尾を揺らす。
 トトはゆかりが一番良く餌をあげていた子猫だ。
「ほら、俺、俺。いつも塀の上から見てたろ?」
 トラ姉はひょいっと身軽に塀の上に身を躍らし、その尻尾のゆれ具合にゆかりははっとする。
「揚げパンの好きなトラ姉だね!」
「そうだ、よくわかったな。いい子いい子」
 フフッと笑ってゆかりの側に塀から飛び降り、トラ姉はゆかりの頭をくしゃくしゃと撫でる。
 いつも餌をあげていた猫街横丁の猫達とこんな風に話せるなんて、なんだか本当に不思議な気分だ。
「お姉ちゃん、露店だよ。いくにゃ!」
 トトが手ゆかりの手を引いて広場の露店へかけてゆく。
 噴水のあるタイル張りの広間の片隅で、金色がかった毛並みのポー(敷島ポーレット(fa3611))が様々な商品を並べていた。
「トト、かわいいお嬢さん連れとるやん。どや、これなんかお嬢さんに似あうんやないか?」
「ポーちゃん、ゆかりちゃんは新入りにゃ」
「そかそか、せやからうちに見覚えがあらへんかったんやね。そんじゃ今日はサービスや。これとこれ、もってってや」
 ポーが鈴のついた猫のキーホルダーをゆかりに押し付けてくる。
「あ、でも、キミに払うお金がまだないんだよ」
 ゆかりが制服に入れておいた財布の中身を見る。
 そこには、人間だった頃の通貨が入っているものの、この猫街横丁の通貨はない。
 人間と同じ通貨じゃないのは、露店に買いに来る他の猫達が支払う金貨を見ていればわかる。
「細かい事いいっこ無しや。困った時はお互い様やで。ゆかりがこの街にいる間、面倒見てやるさかい、足りんもんあったら遠慮なくここに来るといいねん」
「ポーちゃんはね、いろいろ珍しいアイテムを売っているにゃ。ゆかりちゃんが一番大切にしているものも、見つかるかもしれないにゃ」
「大切なものを売られてしまったら、困るんだよ?」
「あ、それもそうにゃっ」
 にゃははとわらって、トトは誤魔化す。
「困らないように、うちの事をよく覚えといてや?」
 ポーは意味深な台詞を残し、キャスケードを目深にかぶる。
 

●考えてみよう、ここに来た理由
「あらあら、ゆかりちゃんもこっちの世界にきちゃったのね? 昔は小学校で残した給食のパンとかくれたみたいね‥‥ありがとう」
 猫街横丁に来て早数日。
 なんとかこの街の生活にも慣れ始めた頃、聞き覚えのある声にゆかりは驚く。
「青川、恵子さん?」
「あら、恵子の事を覚えていてくれたのね? ありがとう」
 フフッとドレス姿で微笑む青川恵子(緑川メグミ(fa1718))に、ゆかりは混乱しかける。
 恵子はゆかりの従姉妹で、社長令嬢だった。
『だった』と過去形なのは、数年前に会社が倒産し、家族全員行方不明になってしまったからだ。
「この横丁の人は以前人間だったって人もそれなりにいるの。かく言う私もそうなのよ。親がしていた事業の失敗で莫大な借金抱えて夜逃げしてきて、あわや借金取りに捕まるところをここに逃げ込めたのよ」
「叔父さんと叔母さんもこの街にいるのかな?」
「ううん、いまはもういないわ。最初は一緒だったけれど、お父様とお母様にはここののんびりとした空気はあわなかったみたいね。人間に戻ってしまったわ」
「人間に戻ったって‥‥だれでももどれるのかな?!」
 恵子の言葉に、ゆかりの尻尾がピンと立つ。
 突然猫になってしまって、不思議な猫の町の住人になって、もう戻れないのかと思っていた。
「そうねえ‥‥元に戻りたいというならば‥‥『思い出の品』を探すといいわ」
「思い出の品って、なんなのかな?」
「さあ? 人それぞれだもの。私にはゆかりちゃんの『思い出の品』がなんなのかはわからないの。ゆかりちゃん自身で見つけてね」
 時間はたっぷりあるから、よく考えてねと言い残し、恵子は立ち去ってゆく。
 人間の時よりもずっと幸せそうな後姿にほっとしつつ、ゆかりは『思い出の品』を思案する。
 ‥‥‥!
「きゃっ!」
「わっ」
 考え事をしながら歩いていたせいで、ものの見事にぶつかってしまった。
 目の前で痛そうに尻餅をついているリア(月見里 神楽(fa2122))にゆかりは手を差し出す。
「ごめんなさい、ごめんなさいっ、よそ見してたら‥‥わっ!」
「ああっ、果物が転がるんだよっ」
 リアが頭を下げたとたん、手提げに入っていたリンゴが勢いよく坂を転がってゆく。
 慌てて追いかけるが敵もさるもの引っかくもの、加速度をつけて転がってゆく。
「きゃーーーーっ!」
「だめーーーー><!」
 追いかける二人の前で、リンゴが壁に突進!
 ぎゅっと目を瞑る二人に、呆れた声が降りかかる。
「‥‥食べ物で遊ぶな」
 目を開けると、そこには深紅の瞳のルビー(氷咲 華唯(fa0142))がリンゴを片手に佇んでいた。
「遊んでいたわけじゃないんだよ? リンゴが勝手に転がっちゃったんだよ‥‥」
 リアがしゅんとうなだれる。
 元々珍しいたれ耳が、帽子の下でさらにたれた。
「今度は落とさないように気をつけるんだな」
 ルビーはリアにリンゴを手渡す。
「お前は、まだここにいたんだな。だが、そろそろだな」
「そろそろって、なにかな?」
「時期が来るって事だ」
「お姉ちゃん、その耳と尻尾は自分のだけど、自分のじゃないの、大事にしてあげてね」
 リアとルビーが意味深な事を口にする。
「自分のだけど、自分のじゃない‥‥? 思い出の品‥‥‥!」
 わかった。
 いま、やっとわかった!
 走り出すゆかりを、リアとルビーがほっとしたような様子で見送る。


●エピローグ
「おい、血相変えてどうしたんだ? なにかあったのか?」
 広間に向かって走ってゆくゆかりを、トラ姉が呼び止める。
「元に戻る方法が、わかったんだよ!」
「‥‥そうか、行っちまうのか。残念だな」
 くしゃくしゃ。
 ゆかりの頭を撫でて、トラ姉は微笑む。
「ま、別に会えなくなるわけでもないからいいか。また気が向いたらエサくれよ?」
 微笑む目じりにほんのり涙が滲んでいるのをみて、ゆかりも寂しさがこみ上げてくる。
 けれどいかなくちゃ。
 トラ姉に別れを告げて、ゆかりは露店商のポーの下へ走る。
 ポーは、全てをわかっていたのか、ゆかりが駆けつけた時には既に『思い出の品』を手に持っていた。
「探し物は、これやな?」
「そう、それなんだよ。‥‥あの子の、首輪‥‥」
 赤い首輪に小さな鈴のついたその首輪は、一年前、ゆかりがあの子を拾った時からついていたものだった。
 首輪があるのだから、誰かに飼われていたのだろうと母は言い、まだ幼くて弱っていたこともあり、飼い主が見つかるまでの間家で飼う事にしたのだ。
 最初の数ヶ月こそ、本当の飼い主が現れるのを待っていたが、一年たったいまではもう、あの子はゆかりの家族だった。
 なのに一年も経った今、本当の飼い主があらわれてしまって。
 あの子を捨てるような酷い飼い主なら追い返すことも出来たけれど、初めて乗る引越しのトラックに怯えて、あの子は籠から飛び出してそのまま行方不明になってしまったらしいのだ。
 あの子につけられた首輪が決め手だったから、ゆかりは、首輪を捨てたのだ。
 そんなことをしてももう、あの子は本当の飼い主に返さなければいけないのに。
 だから、猫が嫌いになりたかった。
 猫なんか好きじゃなければ、こんなに別れが辛くなることもないから。
 でも、ダメ。
「あの子に、返してあげるんだよ」
 猫を嫌いになることなんて出来ない。
 だって、猫達はこんなにも優しいから。
 猫になって、どうしていいかわからないゆかりがそれほど不安じゃなかったのは、この猫街横丁の猫達がみんな優しかったからだ。
 側にいてくれるだけで、ほっとできる。
 そんな彼らを、あの子を、嫌いになれるはずがない。
 首輪を握り締めるゆかりの身体が、どんどん大きくなる。
 どんどんどんどん大きくなって、気がつけばゆかりは猫街横丁のあの路地にいた。


「あ、お姉ちゃんどこ行ってたの? 探したんだよ。疲れたから、早く帰ろうよ〜」
 ずっとゆかりを探していた藍がゆかりに気づいて駆け寄ってくる。
 あの街で過ごした日々は、現実ではほんの数時間の出来事だったようだ。
「それ、あの子の首輪? 見つかったんだね。じゃあ、新しいのは買わなくてもいいのかな?」
 なくなってしまった首輪の変わりに、今日は新しい首輪を買ってプレゼントする予定だったのだ。
「うん。あの子の首輪はね、これなんだよ。急がないと、迎えが来ちゃうかな」
 赤い首輪を大切に鞄にしまい、ゆかりは藍と一緒に走り出す。
「‥‥気付かせてくれて、ありがとう」
 猫街横丁を駆け去る瞬間、ゆかりは立ち止まって振り向く。
 猫達はずっと、ゆかりを見送るのだった。