そうね。京都へ行こう。アジア・オセアニア

種類 ショート
担当 霜月零
芸能 1Lv以上
獣人 1Lv以上
難度 易しい
報酬 不明
参加人数 8人
サポート 0人
期間 02/02〜02/11

●本文

 葛西美松は、舞台女優だ。
 62歳になる彼女は、もう数え切れないほどの脇役を日々こなし、おっとりとしたその雰囲気から優しいおばあちゃん役を見事に演じきる名脇役でもある。
 そんな彼女の元に、とあるシナリオが届いた。
『京都冬景色〜往年の恋の欠片』
 京都を舞台としたシナリオで、70歳近い主人公が過ぎ去った過去の恋をもう一度、記憶と共に思い出し、過去と現代をそれぞれ表現しながら最後は現代で恋人にめぐり合えるという幸せなストーリー。
 この主人公の現代を葛西美松が演じることになったのだ。
「幸せになれる話しというものは、演じるわたしも幸せになれそうですねぇ」
 台本を読み終えた彼女は、おっとりと微笑む。
「ああ、でも。わたしは京都に行ったことがないわねぇ。一度、足を運んでおきましょうか」
 若い頃にはいろいろな場所を訪れた彼女だったが、ここ近年は歳のせいか長旅は疲れを感じるし、舞台の仕事が忙しくて旅行らしい旅行に行かれなかったのだ。
「冬の京都はどんなかしら。きっと素敵に違いないけれど‥‥そうね、どうせなら、大勢でゆっくりと京都の旅を楽しむのも良いかもしれないわね?」
 若い俳優の卵達にも、ぜひ京都へきてもらい、心を豊かにしてもらおう。
 それはきっと、舞台の未来を担う若手俳優たちの役に立つ。
 思い立ったが吉日。
 彼女はいそいそと京都への旅支度を始めるのだった。
 

●今回の参加者

 fa0470 橘・月兎(32歳・♂・狼)
 fa0595 エルティナ(16歳・♀・蝙蝠)
 fa0910 蓮城 郁(23歳・♂・兎)
 fa1089 ダン・クルーガー(29歳・♂・狼)
 fa1460 飛鳥 信(23歳・♂・狼)
 fa2604 谷渡 うらら(12歳・♀・兎)
 fa2759 稲荷 華歌(14歳・♀・狐)
 fa2871 蓮花 庵(48歳・♂・鷹)

●リプレイ本文

●荷物持ちバトル? いえいえ、普通にお持ちします☆
 舞台女優・葛西美松は、実際に会うととても小柄な人だった。
「まぁ、まぁ、こんなおばーちゃんとの旅行に沢山集まってくれてありがとうねぇ」
 朗らかに笑う彼女の荷物をさっと持ち、
「俺‥‥じゃない、僕は信って言います。ええと‥‥ばあ、葛西さん」
 つっかえつっかえ、どうにか敬語を試みようとちょっぴり口の悪い飛鳥信(fa1460)は努力する。
 キックボクサーである彼は、今回集まった中では舞台とはかなり縁遠かったのだが、兄貴分であるダン・クルーガー(fa1089)に京都で文化に触れて自分を見直せと言われた為らしい。
 そしてそのダンは皆とは別行動。
 先に愛用の超プレミアムバイク・NR750に乗って京都に向かっている。
「本日はかような場所にお招き頂き、心からの感謝を。有難うございます」
 ミステリアスな雰囲気を漂わせる能楽師・蓮城郁(fa0910)は深く頭を垂れる。
「こんにちはだよ。うららんは谷渡うらら。葛西さんの出演DVDはいっぱい見たんだよ」
 宝塚オペラのトップスターを夢見て日々勉強中の谷渡うらら(fa2604)は、大先輩にあたる葛西に赤い瞳をきらきらと輝かす。
 葛西がこの京都旅行に皆に望んでいることはなんなのか。  
 観客として『演出』を望んでるのか。
 それとも『旅行という名の舞台』の脇役か。
 学校に休暇届けを提出してまでこの旅行に参加し、何かを望まれている事は確かだから頑張ろうと張り切る。
「えっと、うちも京都に行くのは殆ど初めてなんやけど‥‥。一緒に楽しみたいね〜」
 明るい性格の稲荷華歌(fa2759)は童顔で十二歳のうららと歳が近く見えるけれど実は十六歳。
 うららと同じように赤い瞳と金髪と茶髪。二人並ぶと姉妹に見えなくもない。
「人混みでは葛西さんの正体がバレるかもだから、そういう所では孫を演じさせてもらってもいいかな?」
「うちやうららさんと、美松さんが一緒やとおばあちゃんと孫みたいな感じに見えるんかな〜‥‥」
 二人の愛らしい少女にお願いされて、葛西は快く了解する。
「初めまして。俺は橘だ。旅行の日程を組んでみたから確認して欲しい」
 脚本家の橘・月兎(fa0470)は詳細な日程を書き込んだ手帳を開き、葛西に確認を取る。
 その予定表はこんな感じだ。

 〜日程〜
 2月2日:清水寺・八坂神社・祇園方面・四条&川原町方面で探索
 2月3日:下鴨神社の節分祭・金閣寺
 2月4日:金平糖の「清水」(土産)・和雑貨「ゆりの」(土産)・二条城(御所)
 2月5日:円山公園・知恩院・京都伝統産業ふれあい館・錦市場
 2月6日:清明神社・鞍馬神社・貴船神社
 2月7日:各自・自由行動
 2月8日:太秦映画村
 2月9日:車折神社・嵐山方面
 2月10日:実光院・大原方面
 2月11日:京都駅周辺・お土産・移動日

 京都の名所観光はもちろんのこと、お土産を買える場所まできちんと盛り込まれているそれに、葛西は目を細めて礼を言う。
「葛西さんの出演作品をビデオやDVDでみさせて頂いたわ。『銀の時計』が一番好きね」
 葛西美松の若かりし頃の代表作ともいえる作品の名前を挙げて、作詞家のエルティナ(fa0595)は握手を求める。
「こりゃいい‥‥貴重な被写体だ」
 そしてそんな光景をファインダー越しに見つめているのはカメラマンの蓮花 庵(fa2871)。
 葛西に気づかれると旅行中のプレイベートショットをいくつか取りたいと申し出る。
 事前に葛西の出演リストや経歴をまとめ、同行する仲間たちに配っておいた蓮花の今回の旅の目的は往年の名女優・葛西のプライベートショット。
 もちろんメディアに公開予定などなく、あくまで私的な写真。
 蓮花の申し出にも葛西は快く頷き、京都への旅行が始まった。


●人力車も何もかも手配済みだ。俺に任せろ☆
 まずは清水寺。
 京都の旅館から予めダンが手配しておいた十人乗りのタクシーを借りて移動。
 本当は四葉のタクシーも借りてみたかったのだが、こちらは流し専門だそうで無理。
 乗ると幸せが続くといわれるそのタクシーは、京都の観光名所で極稀に見かけることが出来るらしい。
 そして清水寺には車は入れないので途中から歩きになる。
 先に現地へと赴き、橘と携帯で連絡を取り合っていたダンが葛西達の一行に気づき、
「初めましてマダム。情緒溢れる人力車は如何ですか?」
 サングラスを外して気障にお辞儀をする。
 そこには、数台の人力車。
 既にダンが手配していた為、待ち時間なく乗ることが出来るのだ。
「なあ、疲れてたら言ってくれ‥‥下さい、ばあちゃん‥‥じゃない葛西さん」
 葛西の手を引いて人力車へ乗せようとした飛鳥の口調に、ダンは盛大に溜息をついて謝罪する。
「全く、出来の悪い弟ですみません、マダム」
「誰が出来の悪い弟だよ、ダン!」
 即座に反論する飛鳥。
 漫才のような二人の掛け合いに葛西はくすくすと笑う。
 情緒溢れる人力車に乗って、一同は清水寺へ。


●楽しい観光☆ でも、正体がばれちゃう?!
「あの方は葛西美松さんじゃないかしら?」
 そんな声が聞こえたのは、旅行も三日目の二条城。
 金平糖と和雑貨をそれぞれ購入し、まったりと楽しんでいたのだが‥‥。
 サインを頂けないかと話しかけられる。
「うちのお婆ちゃんって葛西美松に似てるでしょ? 良く言われるんだぁ」
 そんな観光客にうららがすかさず演技する。
 葛西もそれに合わせてうららと稲荷を孫娘として演技をし、エルティナは従姉妹の振り。
 予定では家族を演じるはずだったか、うららの明るい茶色の髪と金髪の稲荷、そして長い黒髪のエルティナが姉妹というのは流石に違和感があるので従姉妹に変更。
 舞台中心の葛西より、うららのほうがお子様向け特撮番組などでちょこちょこTVに出演しているから、芸能人だとすぐにばれてしまいそうなものだったが、京都は子供よりも大人の観光客が多かった事が幸いした。
 観光客は納得して去ってゆく。


●それぞれの自由行動
 七日は、それぞれ自由行動をしようということになり、飛鳥とダンは鴨川の川原で稽古。
「私に以前、試合で敗北してから色々と努力している様だが‥‥まだまだ。力だけが、戦士の力量にはならないぞ」
 二人の稽古は今日だけではなく、実は毎朝三時に行っていたのだが、今日は一日フリー。
 思う存分、身体を鍛えれるというものだ。
 悠然と構えるダンに、
「くそっ、言いたい放題いいやがって! いつか絶対倒してやるぜ!!」
 飛鳥のキックが炸裂した。


 エルティナは祇園小唄を調べに行く。
「月はおぼろに東山、霞む夜毎のかがり火に夢もいざよう紅桜、ね。京都で聞くと情緒深いものがあるわね」
 祇園のテーマソングともいえるよく知られたその歌は、明治時代に作られた。
 お茶屋で歌に合わせ舞妓が舞う姿は、それはそれは美しいという。
 そして祇園小唄が書かれたと言うとある茶屋を訪れるエルティナ。
 作詞家たるエルティナにとって、ずっと語り継がれるような歌を残すことには深い興味があるのだろう。
 一見さんお断り出なければ良いと思いながら、茶屋の小豆色の暖簾をくぐる。
  
 
 うららはテーマパーク。
 五年ほど前、京都からほど近くに出来たそのテーマパークは外国の映画のワンシーンを模したアトラクションなどがあり、普通の遊園地とは一味違っていた。
「いっぱい遊んじゃうんだよ♪」
 舞台女優に舞台の話を聞くのも重要だったが、やっぱりそこはそれ、十二歳の女の子。
 まだまだ遊びたい年頃なのだ。
 うららはうきうきとチケットを買いに走る。

 
 稲荷と橘、蓮花と蓮城の四人は今日も葛西と行動を共にすることに。
「何処か行ってみたい所や買いたい物はありませんか? それとも、今日は一日ゆっくりされますか?」
 橘が葛西の身体を気遣いながら尋ねる。
 十日間という長旅の中日。
 そろそろ身体に疲れが溜まってきていてるころだ。
 しかも外は雪。
 もう止んではいるが、うっすらと積もった雪は気温を一気に下げている。
 橘の予想通り、疲れてきていた葛西は、けれどあまりにも京都の雪が綺麗だから旅館の側をそぞろ歩きたいという。
「うちまだこの世界に入ったばっかやし‥‥美松さんがなんで芸能界目指したんとか、そういうとこ良かったら教えてもらえへんやろか?」
 京都の町というものは、一見平凡に見えても情緒がある。
 砂利の敷き詰められた小道は、歩くたびに雪と共にシャリシャリと小気味良い音をさせ、枯れた並木に積もった雪は、それだけで幻想的。
「わたくしが女優を目指した日も、雪だったのよ。‥‥そう、もう遙か昔の出来事ねぇ」
 稲荷にこわれるまま、葛西は遠い昔を思い出しながら、自分が女優を目指した日のこと、初めて舞台に立った日のこと、様々な出来事をゆっくりと思い出しながら話してきかせる。
 そう、それはさながら『京都冬景色〜往年の恋の欠片〜』の主人公のようだった。
「うち、めっちゃ感動しました! 御姉様と呼ばせてください!」
 好きになった年上の女性を御姉様と呼びたがる稲荷は、快く話してくれた葛西に感動したらしい。
「人の生涯も一つの舞台。きっと、観に来た観客に春の喜びと希望を与えると思います。私も、葛西さんのような観客に力を与える役者になりたい。‥‥若輩者の立場で偉そうな事を申し上げました。お詫びにひとさし春の舞を」
 蓮城は一礼し、一際大きな梅の木の下に立つ。
 梅はもちろんまだ咲いてはいない。

 ――光も輝く ちもとの桜の
        ――栄行く春こそ 久しけれ

 舞台の上で舞う時のような派手な衣装はなくとも、能楽師たる蓮城が舞えばそこが舞台。
 木に積もる雪が風に舞い、花弁のごとく皆に舞い落ちる。
「葛西さんの舞台、心より楽しみにしております」
 蓮城は再び深く礼をした。


●みんなで記念写真☆
「さあ皆さん。二列に並んでください。うららさんと稲荷さんは葛西さんの隣のほうがよいでしょう。ほらほら、みんなわらうんだぞ〜」
 実光院を背後に、蓮花がシャッターを切る。
「後で焼き増しして、みんなの事務所に送っておきます」
 そう言う蓮花は集合写真だけでなく、この旅行の要所要所で葛西はもちろんのこと、皆のプライベートショットをフィルムに納めていた。
 旅行ももう終わり。
 けれど写真と記憶に収められた京都での出来事は、きっと皆の心に残るのだろう。


 数日後。
 旅行を終えてそれぞれの生活に戻った参加者達の手元に、幸せそうに微笑む九人の写真が届けられた。