冥土のお仕事☆アジア・オセアニア

種類 ショート
担当 霜月零
芸能 1Lv以上
獣人 1Lv以上
難度 やや難
報酬 1.2万円
参加人数 8人
サポート 0人
期間 02/08〜02/12

●本文

――思い遺したことはなんですか?
――行きたかった場所はどこですか?
――泣いている人はどこですか?
――その願い、その苦しみ、わたくしたちが解決しましょう!!


 メイド喫茶『Entrance to heaven』。
 略して『EH』
 そこは最近流行のメイド喫茶で、シックで愛らしい黒いメイド服に身を包んだ少女達はもちろんのこと、女性客の来客も増えたことからイケメンのウェイターも取り揃えたちょっぴりメイド喫茶としては邪道なお店。

「Dのお時間です」

 スタッフ控え室に戻った店員に、全身黒い衣装を纏い、死神を思わせるマントをなびかせた老人が声をかける。
 彼こそ、このメイド喫茶『Entrance to heaven』の店長。
 そして『Dの時間』とは、メイド喫茶のもう一つの仕事を意味する――。

 メイド喫茶『Entrance to heaven』のもう一つの仕事。
 それは、死者の魂を天国へと導くことだ。
 いま、メイド喫茶の前には、一人の青年がいる。
 青年の顔は見えない。
「俺は、悪霊に殺されたんだ!
 妹が、妹も狙われてるんだ、助けてくれっ!」
 必死に店長にすがる彼の姿は、普通の客には見ることが出来ない。 
 なぜなら彼はもう、死んでしまっているから。
 ある日突然、何かに背中を押されて車道に飛び出し、18年という短い生涯に終止符を打ったのだ。
 けれど彼はそのまま成仏することは出来なかった。
 死に、魂だけの存在となった彼に、彼を死へと誘った悪霊が現れ、囁いたのだ。
「妹も、すぐに送ってやるからねぇ‥‥寂しくなんかないよ」
 と。
 彼は阻止しようと必死に立ち向かったが、力の差は歴然だった。
「お願いします、妹を、妹をどうか助けてください!」
 必死に訴える哀れな魂を、天国への扉は決して見捨てたりはしない。
「あなたの願い、叶えましょう」
 店長以下、メイド喫茶店員達が、ずらりと並び微笑む。
「メイド喫茶EH! 悪霊退治に出動です☆」
 いま、特殊能力を持ったメイドたちと、悪霊の壮絶なバトルが始まる!


☆出演者大募集☆
 深夜特撮番組『冥土のお仕事☆』では、特殊能力を持ったメイド服に身を包んだ少女達が、助けを求める幽霊達の願いを叶え、天国へと導きます。
 今回のお仕事は悪霊退治です。
 悪霊はどうやら青年を殺しただけでは飽き足らず、その妹までも殺そうとしています。
 また、悪霊はある程度実体化出来るようですが、その他の能力は不明です。
 メイドになって、悪霊退治をしたいあなた、大募集です☆

●今回の参加者

 fa0525 アカネ・コトミヤ(16歳・♀・猫)
 fa0768 鹿堂 威(18歳・♂・鴉)
 fa1641 上月 真琴(20歳・♀・狼)
 fa2057 風間由姫(15歳・♀・兎)
 fa2516 フォーティア(15歳・♀・狼)
 fa2601 あいり(17歳・♀・竜)
 fa2672 白蓮(17歳・♀・兎)
 fa2910 イルゼ・クヴァンツ(24歳・♀・狼)

●リプレイ本文

●大切な妹
 人通りの少ない夜の駅。
 一人の少女が時間を気にしながら階段を下りてくる。
 少女の名前は秋葉雪恵(風間由姫(fa2057))。
(「少し、遅くなっちゃったんだよね」)
 一駅先の私立高校に通い、剣道部に所属している彼女は竹刀の入った重いバックを持ち替え、溜息をつく。
 その、次の瞬間。
「きゃっ?!」
 誰かに背中を突き飛ばされた。
 階段から足を踏み外し、落ちそうになった彼女は『偶然』階段の下にいたマコト(上月 真琴(fa1641))に抱きとめられ、事無きを得た。
(「誰も、いないんだよ」)
 抱きとめられたまま、後ろを振り返ってもそこには誰もいなかった。
 雪恵の背筋に冷たいものが流れ落ちる。
 ここ最近、ずっと何かが変なのだ。
 時折意味の分からない声や音が聞こえたり、何かが動く音や気配を感じたり。
 けれど物音のするほうを振り返ってみても、いつも何もなくて。
 たった一人の肉親だった兄が死んだあの日から、ずっと‥‥。 
「大丈夫ですか? 顔色がとても悪いですよ」
 雪恵を心配そうに見つめるマコトに、そういえばお礼も言っていなかった事に気付く。
「助けて頂いてありがとうございました。もう大丈夫なんだよ」
 気分的にはちっとも大丈夫じゃなかったけれど、気丈に微笑んで雪恵は去ってゆく。
 その後姿をマコトと、そしてその隣にずっと佇んでいた青年――亡くなった雪恵の兄・蓮(鹿堂 威(fa0768))の霊が見送る。
 

●メイド喫茶『Entrance to heaven』〜EH〜
「間に合ってよかったです。柚木さんの千里眼のお陰ですね」
 メイド喫茶の奥にあるスタッフルーム。
 その奥に備え付けられた水鏡を覗き込み、雪恵が襲われることを予知していたEHのメイド・柚木雪花(白蓮(fa2672))に同じくメイドの月宮悠美(フォーティア(fa2516))が微笑む。
 蓮にすがられ、悪霊に狙われているという蓮の妹・雪恵をEHのメイドたちがこっそりと守るようにしてから早数日。
 悪霊はその姿を常に一瞬しか現さず、捉えることがいまだ不可能で、だから柚木の予知能力で雪恵に起こる出来事を予言してもらい、それを月宮がテレパシーで他のメイド達に知らせて事件を未然に防いでいるのだ。
「でもさ? 悪霊ってばだんだんやることが攻撃的になってきたんだよ。今日なんて、マコトさんが間に合わなかったら雪恵さん本気で危なかったんだよ」 
 新米メイド・立花音羽(あいり(fa2601))が長く印象的な赤い巻き髪ツインテールを揺らしてほっぺたを膨らます。
 柚木の予知は高確率で当たるものの、あまりにも先過ぎる未来を完全に見通すことは出来ない。
 今日は本当にギリギリで間に合ったのだ。
「雪恵さんに全てをお話して、悪霊を退治するまでの間EHで過ごして頂くことはできないのでしょうか?」
 メイドのサエ(アカネ・コトミヤ(fa0525))が眼鏡をずり上げながら代理店長(イルゼ・クヴァンツ(fa2910))に尋ねる。
「それは、彼の望むことではないでしょう‥‥戻ってきたようです」
 メイド喫茶の扉が開き、マコトと蓮が入ってくる。
「悪霊の姿は見えなかったです。気配は感じれたのですが‥‥」
 私服姿のマコトは、申し訳なさそうに目を伏せる。
『妹は、俺の生きがいだったんだ‥‥』
 すぐ側にいるのにもう守ることの出来ない妹を想い、涙する蓮。
 二人の両親は既に他界しており、ずっと妹と二人で暮らしてきた。
 両親が残してくれた遺産は妹の進学費用と結婚資金の為にとっておき、生活費は蓮が新聞配達やファミレス、深夜のコンビニバイトと様々なバイトをいくつも掛け持って朝から晩まで働き続けて稼いでいたのだ。
 音大に行く夢も諦め、親がいなくとも雪恵だけは幸せにしてやろうと誓って生きてきて。
 それなのに‥‥。
「嫌な、予感がします」
 何かを感じ取り、柚木がブローチに手を触れる。
 触れられたそれは一瞬で姿を銀の杖に変え、柚木はくるりと回して水鏡に突き刺す。
 光り輝きだす水鏡に映し出されたのは夕闇の屋上。
 ビルの屋上から交差点に差し掛かった雪恵に襲いかかる悪霊の姿が映し出される。
 漆黒の闇を思わせるその悪霊は、残忍な笑いを響かせながら――そこで、水鏡に映る映像がフッとかき消える。
「柚木さん?」
「‥‥駄目です。これ以上先は、視ることが出来ません。未来が、とても不安定になっています」
 EHで働くメイドたちに備わる様々な特殊能力のうちでも、予知は本当に稀有な能力。
 その分、生身の身体にかかる負担も大きい。
 貧血を起こしかける彼女を、サエが支えてソファーに座らせる。
『妹を、雪恵を助けてください! あいつの幸せだけが、俺の生きる意味だったんだ!!』 
「大丈夫です。うちの子達は優秀だから」
 必死にすがりつく蓮に代理店長は安心させるように囁く。
「完全な未来はわかりませんでしたが、場所ならわたくしのダウジングで特定できます」
「悪霊だろうとなんだろうと、私たちがやっつけるんだよっ☆」
 月宮が懐からダウジング用のネックレスを取り出し、立花はガッツポーズ。
「私も戦闘なら得意なんです」
「中国武術を嗜んでおりますの」
 眼鏡をずり上げつつ、自らの霊力で作り上げた特殊な銃を構えるサエと、開いた左手に右手の拳を当ててぱしりと小気味良い音をさせるマコト。
『‥‥よろしく、お願いします』
 四人のメイドと店長代理に、蓮は深く頭を下げるのだった。


●逢う魔が時
 夕暮れ時。
 雪恵の住む街を私服姿のEHメンバー四人が訪れる。
「場所は、ここのはずです」
 月宮が先の尖ったペンダントトップのついたネックレスをその場にかざす。 
 ペンダントはクルクルと面白いぐらい勢いよく回転した。
『悪霊が次に大きく動くのは明日の『逢魔が時』です』
 昨日あの後、少しだけ回復した柚木がもう一度予知を行い、時間を特定し、月宮がダウジングで場所を判断したのだ。
 月宮とサエ、そしてマコトと立花の四人は人通りの少ない交差点を見回す。
 側にそびえ立つのは作りかけのマンション。
 柚木の視せた未来の映像に出て来たマンションに酷似している。
「でも、何でこんなところに雪恵さんがくるのかな?」
 もっともらしい疑問を口にして立花は首を傾げる。
 廃墟といってもよさそうな寂れたこの場所は、男性はもちろんのことうら若い女子高校生ならなおさら避けたい場所ではないだろうか?
「ここを見てください」
 マコトが立花の足元を指差す。
 そこには、小さな花束が添えられている。
「っ、これってまさか蓮さんが亡くなった場所なのかな?!」
 立花が一歩飛びのいた。
「恐らくそうなのでしょう」
 サエは眼鏡を抑えて鉄筋が所々見えているビルを見上げる。


 ビルの屋上では、闇の化身・カラスが変化した悪霊(鹿堂 威(fa0768)一人二役)が嘴を研いでいた。
『忌々しい。なんて邪魔なやつらだろう』
 EHのメンバーを見て、憎憎しげに呟く。
 ここ数日、雪恵を苦しめて殺す為に行動してきたというのに、EHのメイド達にことごとく邪魔をされてきたのだ。
『人間は、本当に嫌な生き物だ‥‥』
 まだカラスであった頃の遠い故郷の山を思い出す。
 黒い翼を赤い夕焼けに照らされながら仲間達と大空を飛び回り、野山の熟した木の実をお腹いっぱいほうばって。
 日々他愛もなく暮らしていたというのに突然その日は訪れたのだ。
 山を掘り起こすブルトーザー。
 沢山の恵みをもたらしてくれた木々を伐採するチェーンソー。
 人間が開発事業だかなんだか知らないがやってきて、カラスの平和だった生活圏は消え去ってしまったのだ。
 そうして、黒い姿を厭い、人間に戯れに殺された自分。
 どうして人を憎まずにいられようか?
 力ある悪霊として擬人化し、この世に留まることが出来たのは人間に復讐する為に違いない。
『絶対に、許すものか!』
 怒りのままに、悪霊は黒い翼を広げて獲物に狙いを定める。


「危ないっ!」
 雪恵に襲いかかった悪霊から助けるべく、マコトが彼女を抱きしめたまま横に飛ぶ。
 兄の亡くなった場所へ供えるはずだった花束が空を舞う。
 パンッと破裂音を響かせて、花束は粉々に砕け散った。 
 悪霊の攻撃が炸裂したのだ。
「あ、あなたはこの間の? 一体なんなのかなっ?!」
 瞬時にメイド服へと姿を変えたEHのメンバー達に、そして目の前で散った花束に雪恵は驚きのあまり立ち尽くす。
「大丈夫です。私たちがお守りします」
 雪恵を背に庇いマコトはキッと悪霊を見やる。
『俺の邪魔をするなああぁあぁあっ!!』
 またしても殺害を邪魔された悪霊の怒りは沸点に達し、その漆黒の翼から無数の羽が放射される。
「そんな攻撃は、当たらないですっ」
 月宮がダウジング用のネックレスをくるっと回す。
 すると霊力で作り上げたバリアが現れ、悪霊の羽を防ぎきる!
『ふんっ、ならばこれはどうだ!』
 地面を蹴り、その翼による瞬時の移動で月宮の脇を通り過ぎざま嘴で切り裂き、そしてその後ろにいた立花の鳩尾に拳を叩き込む!
 二人の悲鳴がビルに響き渡る。
『くくくっ、いいねぇ。人間が苦しむ様というのは最高だ』
 陰湿に歪んだ笑みを浮かべる悪霊の前に、メイドたちは苦戦を強いられる。
「天国へご案内致するんだよっ」
 痛みに顔を歪めながら、立花が霊力を込めた歌を歌う。
 その歌は聖歌。
 死者を安らかな眠りへと誘い、あるべき場所へ導く祈り。
『くっ、その耳障りな歌をやめるんだ!』
 耳を塞ぎ、怯んだ悪霊のその隙をサエは見逃さなかった。
「あなたの様な悪霊さんは冥界にお連れいたします!」
 サエが霊力を練り、作り出した銃を悪霊に向けて撃ち放つ。
 虹色に輝く銃弾は狙い違わず悪霊の胸を貫いた。
『そ、そんな‥‥こんな小娘達にやられるだなどと‥‥認めない、認めないんだ!
 これで終わったと思うなよ‥‥人間達が乱開発を繰り返す限り‥‥俺のような存在はいくらでも現れるんだ‥‥』
 呪いの言葉を吐いて、その場に消滅する悪霊。
「た、倒せたかなっ?」
「ええ、もう大丈夫です」
 肩で息をする立花に月宮が肩を貸す。
「あっ、雪恵さんはっ?!」
「気を失っていますね」
 戦闘中ずっと彼女を抱きしめて守り続けていたマコトは、腕の中で意識を失っている雪恵の髪をそっと撫でる。
「柚木さんから、連絡が入りました。雪恵さんをEHに連れてきて欲しいそうです。いま、転移ゲートを開きます」
 テレパシーで柚木の声を感知した月宮が、柚木の力と自分の力を呼応させて何もない空間に門を出現させる。
 その門の向こうには、柚木と代理店長、そして蓮が佇んでた。


●エピローグ〜君を想うセレナード〜 
「お兄様が雪恵様をお守りしていたのですわ」
 メイド喫茶の一室で、全ての事情を聞かされた雪恵は、柚木から手渡された楽譜を見て驚く。
「これ、お兄ちゃんが?」
 それは、蓮が雪恵を想って綴ったセレナーデ。
 霊体で物に触れることの適わなかった蓮に変わり、代理店長が代筆したのだ。
 ゆっくりとその楽譜に記された記号を指で辿る。
 両親が生きていた頃、何度も聞かせてもらった兄の音はよく覚えている。
「お兄ちゃん‥‥」
 楽譜を抱きしめて、涙に声を詰まらす。
『ずうっと愛してるよ。だから、幸せになるんだ。それが、俺の一番の望みだ』
 愛する妹の頭をそっと撫でる蓮。 
 霊力のない雪恵には、その姿を見ることは到底適わない。
 けれど見えずとも思いは伝わるのだ。
「お兄ちゃん‥‥?」
 暖かい空気を感じ取り、雪恵は顔を上げる。
「さて‥‥それじゃ、今回の最後のお仕事も片付けて」
 代理店長に促され、頷くEHの店員達。
 まだ最後の仕事――蓮を天国へと導くことが残っている。
 柚木が銀の杖を振り降ろし、リーンと音を鳴らす。
 メイド達が祈りを捧げる。
 そうして現れたのは天国への扉。
 光り輝くその扉は、ゆっくりと開き、蓮を迎え入れる。
「お帰りなさいませ。――ここは天国への入り口‥‥Entrance to heaven」
 光の門をくぐるその一瞬だけ、雪恵には微笑む蓮の姿が見えたような気がした。


「いらっしゃいませだよっ。EHへようこそ♪」
 数日後。
 メイド喫茶で元気に働く雪恵の姿があった。