冥土のお仕事☆交差点アジア・オセアニア
種類 |
ショート
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担当 |
霜月零
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芸能 |
1Lv以上
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獣人 |
1Lv以上
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難度 |
難しい
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報酬 |
1.3万円
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参加人数 |
8人
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サポート |
0人
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期間 |
02/15〜02/19
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●本文
――思い遺したことはなんですか?
――行きたかった場所はどこですか?
――泣いている人はどこですか?
――その願い、その苦しみ、わたくしたちが解決しましょう!!
メイド喫茶『Entrance to heaven』。
略して『EH』
そこは最近流行のメイド喫茶で、シックで愛らしい黒いメイド服に身を包んだ少女達はもちろんのこと、イケメンのウェイターも取り揃えた、ちょっぴりメイド喫茶としては邪道なお店。
「あら?」
深夜。
小雨の降りしきる中、メイド喫茶での仕事を終えて、フリルいっぱいの傘をさして帰路を急ぐ少女は、交差点をじっと見つめて佇む一人の女性に目を留める。
その女性の傍らには、幼い少年。
少年はほんのりと透けていて、必死に女性に話しかけているのだが、女性は気づくことなく交差点を悲しく見つめたまま。
「ゆーくん‥‥」
ポツリと呟き、やがて立ち去る女性に、しかし少年はついて行こうとしても見えないなにかに阻まれ、その場に取り残された。
(「子供の、地縛霊?」)
少年は、すでに死した魂。
『EH』で働く特殊能力を持った少女には見ることが出来ても、普通の人には見ることの出来ない幽体。
少年は、おそらくこの交差点で亡くなったのだろう。
よくよく見れば、信号の側には真新しい花束と、子供の好きそうなおもちゃが一緒に供えられていた。
突然の死のショックや、強い悲しみにより自分が死んだ場所に縛り付けられ、その場所から動けなくなり、地縛霊となることは良くあることだった。
「ねぇ、ぼく? どうしたのかな」
そのまま放っておくことはできず、話しかける少女に一瞬、あどけない表情をした少年は、次の瞬間変貌した。
『おねーちゃんは‥‥ぼくが見えるんだね‥‥
ぼくは死んじゃったのに‥‥どうしておねーちゃんは生きてるの‥‥?
そのからだ、ちょーだい‥‥?』
冷たく嗤う少年から伸ばされた幼い指が、ずぶりと少女の胸に吸い込まれてゆく。
「はっ‥‥くっ‥‥!」
苦しむ少女の身体へ、少年の身体が完全に同化した時、少女の意識は闇へと落ちていった。
「これで‥‥会える‥‥」
先ほどまで少女のものだったその身体は、いまは少年のもの。
くすくすと笑いながら、少女であり少年であるそれは夜の闇へと消えていった。
「Dの時間です」
全身黒い衣装を纏い、死神を思わせるマントをなびかせた老人が声をかける。
彼こそ、このメイド喫茶『Entrance to heaven』の店長。
そして『Dの時間』とは、メイド喫茶のもう一つの仕事を意味する。
メイド喫茶『Entrance to heaven』のもう一つの仕事。
それは、死者の魂を天国へと導くこと。
迷い、悩み、さ迷える死者の魂を救うこと。
店長がシルクハットを目深に被り、ステッキをかざす。
そうして一堂に並ぶメイドたち。
「彷徨える魂、見事救って見せましょう!」
店長以下、メイド喫茶店員達が、カメラ目線でずらりと並び微笑んだ。
☆冥土のお仕事キャスト募集☆
深夜特撮番組『冥土のお仕事☆』では、特殊能力を持ったメイド服に身を包んだ少女達が、助けを求める幽霊達の願いを叶え、天国へと導きます。
今回の幽霊は、メイド喫茶で働く少女に乗り移り、夜の街へと消えてゆきました。
彼を探し出し説得して、天国へと導いてください。
●リプレイ本文
●少年――橘 悠
何の変哲もない交差点。
けれど、そこには一人の少年と、一人の女性が佇んでいた。
『お母さん、こっちを見て‥‥僕の話を聞いてよ!』
少年――橘 悠(月 李花(fa1105))は、声にならない声で必死に母親に話しかけていた。
けれど母親は少年に気づくことなく、真新しい花束とおもちゃを交差点に供えて、そっとその場を立ち去ってゆく。
後を追おうとする少年は、けれど何かに動きを阻まれ、そこから動くことが出来ない。
『‥‥なんで、そばにいけないの? 動けないんだよ、待ってよ!!』
遠ざかる母親の背中に叫んでも、その声は決して届かない。
悠は、死した魂。
普通の人間には、決して見ることの出来ない儚い霊。
けれどそんな悠に、声をかける人間がいた。
「ねぇ、ぼく? どうしたのかな」
メイド服に身を包んだ少女(都路帆乃香(fa1013))は、母親ですら気づくことのなかった、見えるはずのない悠をまっすぐに捕らえて手を差し出してくる。
『お姉さん、僕の事見えるの‥‥そうなら、身体ちょうだい?』
それは、本能だった。
手を伸ばし、驚きの目を見はる少女の身体へ、悠は指先から溶け込んでゆく。
「フフ‥‥これで、僕の声聞こえるし、やっと会いにいける」
少女の声で、悠は囁いた。
●死神見習い――蓮
バサリ。
交差点に黒い翼を持った青年が舞い降りてくる。
青年の名前は蓮(鹿堂 威(fa0768))。
つい先日天国へと旅立った秋葉 蓮が生まれ変わった姿だと気づくものは何人いるだろうか?
生前の行いが良かった為に、死した魂を天国へと連れてゆく死神に生まれ変われた彼は、この交差点にいるはずの地縛霊――悠の姿がないことに心底驚いた。
「何で、いないんだ? 地縛霊って、自分で移動できない霊だろう?」
慌てて上司から支給された閻魔帳をめくる。
そこには霊の種類はもちろんのこと、連れてゆくターゲットの容姿や年齢、なぜ死んでしまったのかなど事細かな詳細が書かれているのだ。
開いた閻魔帳がほんのりと輝き、ホログラフィの小さな地図が浮かび上がる。
「橘悠、十一歳。街角の交差点にて居眠り運転のトラックに跳ねられ、死亡‥‥間違いなく、ここだ」
浮かび上がった地図と、目の前の交差点を見比べ、蓮は頭を抱える。
「‥‥自分の力じゃ動けない地縛霊が動ける方法っつったら、一つしかないだろう?!」
死した場所に捕らわれ、その場所から動くことの叶わない地縛霊が動く方法。
それは、憑依。
生きた人間に乗り移り、意のままに操ることで移動するのだ。
「俺が迎えに来るのが遅かったせいか? 人間に乗り移ったりしたら、双方共に危険なのに、くそっ!」
ちょっぴり口が悪くなるぐらい、蓮は焦っていた。
乗り移られたほうも、乗り移ったほうも、時と共に疲弊する。
――乗り移られた人間がもし死にでもしたら、取り返しのつかない大罪だ。
「俺は、どうしたらいいんだ?!」
誰もいない交差点で、蓮は天を仰ぐ。
●メイド喫茶『Entrance to heaven』
いま流行のメイド喫茶『Entrance to heaven』。
店の中はオタク系のおにーさんから、イケメンウェイター目当てにやってきた女子高校生でごった返していた。
「帆乃香さん、遅いんだよ?」
メイド喫茶でシックなメイド服に身を包み、元気に働いていた秋葉雪恵――高梨雪恵(風間由姫(fa2057))はカウンターで時計と睨めっこ。
先日、たった一人の家族だった兄・蓮を失い、悪霊に命を狙われていた彼女はこのメイド喫茶EHのお世話になり、それをきっかけにここで働くようになった。
遠縁の高梨の家に引き取られ、学校が終わるとEHで働く彼女には、EHのメイドに備わる特殊能力はまだまだ現れていないものの、日々幸せに過ごしていたりする。
「にゃ? 帆乃香さんが遅刻なんて珍しいのニャ」
雪恵よりもちょっぴり先輩メイドなミャー(吉田 美弥(fa2968))が首を傾げると、頭の上の猫耳も一緒に揺れる。
「連絡もないんだよ。ボク、さっき携帯に電話してみたんだけど連絡付かないんだよね」
一際澄んだ声を持つさなえ(碓宮椿(fa1680))が携帯電話を取り出してメッセージを確認する。
「‥‥嫌な予感がするでござるな」
七枷 伏姫(七枷・伏姫(fa2830))が柳眉を顰める。
先ほどから、いつも持ち歩いている呪符から嫌な波動を感じているのだ。
けれど今はまだ営業時間。
一般のお客様が大勢いるこの場所で霊力を使うわけにはいかない。
「夜を、待ちましょう‥‥」
朧月 弥生(月葉・Fuenfte(fa1234))が静かに呟いた。
●再会
『何か困った事があったら、業務提携している人間に手伝ってもらえ。お前の担当区域なら『喫茶EH』というところに集まっているから』
地上に降りる前、先輩の死神から伝えられた言葉。
それを思い出し、藁をもすがる思いでEHを訪れた蓮は、しかし自分を一目見るなり兄と呼びしがみついて泣き出してしまったメイド――雪恵をどう扱っていいのかわからず困惑していた。
「死神が‥‥お兄様なのですか‥‥?」
丸い大きな眼鏡に指を添えて、朧月は二人をまじまじと見つめる。
「変わった兄妹ニャ」
「でも死神のおにーさん困ってるみたいだよ?」
ねこ尻尾を揺らすさなえの言葉に雪恵もはっとして、蓮を見上げる。
「俺と、お前の兄が似ていたのか?」
尋ねつつ、胸がつきりと痛むのは気のせいだろうか?
死神として生まれ変わった時に、前世での記憶をすべて失ってしまっていることに、蓮は気づかない。
人として生きていた時、誰よりも何よりも大切だった妹が目の前にいるというのに。
そして雪恵も、取り乱してしまったことを詫び、涙を拭う。
――二人が、事実に気づける日は来るのだろうか?
●捜索
「こんな事もあろうかと、みなの衣装には追跡用の符が縫いこんであるでござる」
七枷が懐から呪符を取り出し、念じる。
その額には、うっすらと汗が滲む。
蓮の話を総合すると、帆乃香はその地縛霊たる悠に憑依された可能性が高いのだ。
何事にも動じない彼女だったが、急がなければ帆乃香の命がない。
自然と、印を組んだ腕に力が篭る。
「交差点から、東方に向かって霊波が乱れているでござる」
「それって、追跡できないってことかな?!」
「憑依した霊の波動と‥‥帆乃香様の波動が混ざってしまっているのでしょうか‥‥」
「うむ。余分な霊波が混ざり合い、帆乃香殿の気配を消してしまっておるのでござる」
「それなら、ボク街中を探してくるんだよっ」
とるものもとらずにさなえが店を飛び出す。
「拙者も鳩を遣わすでござる」
七枷が別の呪符を懐から数枚取り出し、印を刻むとそれぞれ白い一羽の鳩に変化した。
鳩の内一匹はさなえを追うように店を出てゆき、残りはそれぞれのメイドに寄り添う。
「‥‥急がなければ‥‥」
事の重大さに朧月も唇を噛み締める。
そうして蓮を含め、メイド達はお互いに連絡を取り合いながら帆乃香の、そして悠の足取りを必死に探すのだった。
●悠
(「見つけたんだよっ」)
走って走って走り回って。
七枷の言っていた交差点から東方に向かって必死に帆乃香を探していたさなえは、目的の少女を見つけて物陰に隠れる。
まだまだ新米で霊力も低い彼女が帆乃香を見つけることが出来たのは偶然かはたまた必然か。
メイド服という街中では少々目立つ服装は、人々の記憶に残り、比較的探しやすかった。
悠に身体を操られている帆乃香は、物陰に潜むさなえに気づかずにとある一軒家の二階をじっと見つめている。
「キミ、みんなに知らせてなんだよ」
自分に着いて来ていた七枷の鳩に小声で囁き、さなえは悠に憑依された帆乃香を見守る。
●伝えたかった言葉
「なんで邪魔するんだよ!」
帆乃香の姿を借りた悠が叫ぶ。
さなえから連絡をもらい、現場に集まったメイドたちに悠はとても攻撃的だった。
「君は帆乃香さんにとりついてどうする気ニャ? この子は大事な仲間ニャ。連れて行かれると困るニャ」
「だまれだまれっ! 邪魔するなっ」
ヒステリックにわめく声に呼応して、旋風が巻き起こる。
「死は平等にして絶対、拒むことは許されない‥‥」
悠の攻撃は悪霊とは比べ物にならないほど弱いものだったが、憑依したからだの持ち主である帆乃香の能力と混ざり合い、暴走する。
朧月はメイド達を背に庇い、霊力を込めた右腕でそれを防いだ。
【「悠さん、私の声が聞こえますか? どうか、彼女達の話を聞いてください‥‥」】
暴走する悠に、消え入りそうな意識を精一杯保って帆乃香が心の声で囁きかける。
「駄目だよっ、僕はあうんだ‥‥やっとあえるんだから‥‥っ!」
耳を塞いでも心の中に響く帆乃香の声に抗う悠は、ふらりと傾ぐ。
「このままでは帆乃香殿の身体がもたないでござる!」
「悠くん、お願いだから帆乃香さんの身体から離れてなんだよっ。このままだと、帆乃香さんも死んじゃうんだよっ」
「そんなの知るもんかっ! なんで邪魔するんだよっ、僕、お母さんに会いに来ただけなんだから、それに伝えたい事もあったんだっ」
再び悠の力が暴走する。
あたり一面、強風が吹き荒ぶ!
「自分がよければ良いだなんて‥‥絶対駄目なんだよっ!」
雪恵が薙刀を構え柄の部分で悠に攻撃を繰り出した。
もうほんの少しの猶予もないのだ。
「援護するでござる!」
糸のように細い瞳をカッと見開き、七枷は霊体にのみダメージを与えることの出来る霊刀『陽炎』で雪恵を補佐する。
そして朧月とミャー、さなえも霊力を二人の武器に注ぎ、身体の内側から帆乃香は悠の為に祈る。
メイド達の力をまともにその身に受けた悠は、耐え切れずに帆乃香の身体から零れだす。
『なんで、なんでなんだよ、なんでっ』
泣きながら路上を叩く悠の声が聞こえたかのように、悠が見つめていた家に明かりが灯り、女性が出てきた。
メイド達を見て訝しげに眉を潜める彼女に、悠は必死に話しかける。
『お母さん、そんなに悲しまないで‥‥僕が死んだのは、お母さんのせいじゃないからっ!』
「悠君の、お母様ですか‥‥?」
「はい、そうですが‥‥あなた方は一体?」
「悠君から、お話があるんです‥‥」
朧月がそっと雪恵を促す。
促された雪恵は、霊体と化した悠がいるであろう方向に手を差し伸べる。
霊力のない雪恵には悠の姿を見ることは叶わなかったが、それでも気配を感じるのだ。
「この身体、つかっていいんだよ」
『えっ?』
帆乃香の身体はもう限界だったから、強引でも何でも引き離すしかなかったが、少しの間なら雪恵にだって耐えられる。
微笑む雪恵に悠は恐る恐るその身体を溶け込ます。
「おかあ、さん‥‥?」
ゆっくりと、一言一言噛み締めるように、雪恵の中の悠は母親に話しかける。
「ゆーくん、なの?」
母親もまた、恐る恐る雪恵を見つめる。
怪しげなメイド達が深夜に家の前でなにやら騒いでいて、挙句の果てに亡くなった息子だという。
そんなありえない現実に、けれど理屈より何より、そこに愛する一人息子がいることを彼女は感じ取っていた。
「おかあさんっ、ずっと、会いたかったんだよ‥‥悲しませてごめんねっ‥‥でもお母さんのこと、ずっと見守っているし‥‥またいつか会えるからっ」
「ゆーくん、ゆーくんっ」
母親に抱きしめられ、伝えたかった言葉を伝えることの出来た悠は、自然と雪恵の身体を離れていく。
「さあ、いこうか」
そんな悠を、蓮がそっと手を引いて冥界へと導く。
「あの世でも、お達者でニャ」
「良かった‥‥」
天へと上ってゆく悠を見つめ、メイドたちは微笑んだ。