まみたんのシンデレラ☆アジア・オセアニア

種類 ショート
担当 霜月零
芸能 1Lv以上
獣人 1Lv以上
難度 普通
報酬 1.2万円
参加人数 8人
サポート 0人
期間 03/13〜03/17

●本文

「オペレッタ、ですか?」
 まみたんのマネージャーは、プロデューサーから唐突に切り出されたその話題に思わず聞き返す。
 人気オペラ歌手のまみたんに、オペレッタをやらせようという話が持ち上がったのは何度目かのお料理オペラを終えた控え室でのこと。
 まみたんはオペラ歌手なのだがお料理が大好きで、コンサートではいつもまみタンの手料理がお客様にも配られる。
 パンダ耳を揺らすその容姿も愛らしく、その為、オペラに少しも興味のない秋葉系からサラリーマンまで幅広い層に人気があるのだ。
「最近、ファン達のノリが悪いだろう? 
 いままではずっとオペラなんかにゃ興味のなかったオタク共だが、この間のオペレッタで味を占めちまったらしい」
 プロデューサーはそう言うとふうーと煙を吐き出す。
「確かに、この間のオペレッタは好評でしたからね」
 つい先日、まみたんのコンサートの手伝いに来てくれた芸能人達。
 そのうちの漫才コンビの提案で行われた白雪姫をモチーフとしたオペレッタはそれはそれは好評だった。
 本当はお料理が大好きだけれどへたっぴなまみたんの代わりに、こっそりと替え玉の料理を作ってもらうだけのつもりだったのだが、予想以上の働きをしてくれたのだ。
「オペラなんざ興味のなかったヤロー共がコンサートそのものに興味を持っちまったからなあ。
 いままではまみたんの愛らしさですべて済んでたんだが‥‥いやあ、まいったね」
 まいったといいつつ、プロデューサーの顔は緩んでいる。
 もともと、オペラ好きのプロデューサーだ。
 若者にいまいち人気のないそのジャンルをどうにか流行らそうとアイドル系のオペラ歌手を起用して今日までやってきた。
 若者達がまみたんだけでなく、コンサートの本来の主役であるオペラやオペレッタに興味を持ち始めたこの現実が、嬉しくないはずがない。
 だがしかし。
「オペレッタとなりますと、いまいる人材だけではこなせませんよ?」
 そうなのだ。
 オペラならばともかく、オペレッタとなるとそれ用の歌や作曲、シナリオも必要だし、オペラとはまた別の演技力も重視される。
「なら、募集すればすむことさ。シンデレラなんてどうよ?
 白雪姫とノリが似て良くないか?
 この間ほどの人材が上手い具合に集まるとはかぎらねえが、なぁに、人生は博打さね。一か八かの賭けが俺は大好きさ」
 がっはっはと豪快に笑って、強引なプロデューサーに引きずられるようにマネージャーは人材募集の告知を各プロダクションにまわしたのだった。

●今回の参加者

 fa0430 伝ノ助(19歳・♂・狸)
 fa0672 エリーセ・アシュレアル(23歳・♀・竜)
 fa0858 シャミー(15歳・♀・猫)
 fa1291 御神村小夜(17歳・♀・一角獣)
 fa1628 谷渡 初音(31歳・♀・小鳥)
 fa3060 ラム・クレイグ(20歳・♀・蝙蝠)
 fa3066 エミリオ・カルマ(18歳・♂・トカゲ)
 fa3159 妃蕗 轟(50歳・♂・竜)

●リプレイ本文

●準備☆
「オペレッタは初めてっすけど、精一杯頑張りやす」
 そういって伝ノ助(fa0430)はスタッフから借りた銀の仮面をつけてみる。
 顔の半分が隠れるタイプのそれは、伝ノ助がプロデューサーに頼んで用意してもらった物。
 大好きなオペラアイドルの相手役に、ファン達がどんな感情を抱くか伝ノ助はよーくわかっていたから、顔を隠すことによってファン達が自己投影をしやすいように考慮してあげたのである。
「まみさんとお会いするのは久しぶりです。お料理はご自宅でも成功するようになりましたか?」
 以前一緒に仕事をした事のあるエリーセ・アシュレアル(fa0672)がそれとなくまみたんに尋ねる。
 まみたんの料理の腕は当初壊滅的だったのだが、なんと本人には自覚がない。
 だから前回は御神村小夜(fa1291)やエリーセ達が本当に頑張ってまみたんにお料理を教えたり、失敗した時にお料理がすり替えやすいように脚本を考えたり、かなり大変だったのだ。
「やっぱり駄目なのですぅ。本番しか成功しないのですよ〜う。不思議なのです〜」
 ほわわんとパンダ耳を揺らして笑うまみたんは、やっぱりまだ料理が出来ないらしい。
 あらかじめお料理をすり替えやすい脚本を作っていた御神村の読みは当たっていた。
「まみさんの声は癒し系ね。歌から伝わる温かいメッセージを感じるわ。これは負けてられないわね☆」
 ボイストレーナーで、老若男女数々の声を聞き慣れている谷渡 初音(fa1628)は、アイドル系とはいえきちんと声楽を学んでいることがわかるまみたんの声を褒めつつ、やんわりと微笑む。
「兄ちゃんの部屋から料理の本を持ってきたよ。舞台の上では俺も一緒に手伝う事になるから、その手際も含めてマミさんと一緒に練習したいんだよ」
 お料理好きの兄からお料理の本を借りてきたエミリオ・カルマ(fa3066)は、知識欲が高く勉強家。
 お兄さんに良く似て、明るく人当たりが良い。
「初めまして♪ 私はまみたんと同い年ぐらいだけど、義理のおねーさんを演じるんだよ。皆さん宜しく御願いします」
 そういってまみたんに握手する元気なシャミー(fa0858)はダンスが得意。
 姿勢が良く、背筋がすっと伸びていて、義理の姉を演じる為に高めのヒールなどを履いても大丈夫そうだ。
「今回の舞台ではシュークリームとグラタンを作るのですが、まみさんにパルメザンチーズや粉砂糖を振るのをお願いできますか?」
 魔法使い役のラム・クレイグ(fa3060)は、お料理をすり替えるにしてもなんにしても必ずまみたんにひと手間お願いしようと、まず失敗しない作業をお願いしてみる。
「おお、それはいい案ですね。まみたんが必ず手を加えた物を食べれるのは、お客さんも喜びますでしょう」
 魅惑のバリトンで笑う妃蕗 轟(fa3159)は、まみたんと同じオペラ歌手。
 演技も発声も高レベルな彼の悩みは目下後退中の広いおでこ。
 けれどそのつるんとしたおでこがおちゃめで、今回演じる王様役にぴったりだった。
「そろそろ、ファンが集まってきたっすね」
 伝ノ助が楽屋から外を覗く。
 前回は野外でのお料理ライブだったが、今回は御神村の提案で屋内に切り替えた。
 もともと、いつも使用していた野外ライブ会場と今回使用する会場は隣り合わせになっていたので、変更もスムーズだった。
 開場まで後数時間あるのだが、外はもうまみたんのファンで長蛇の列。
「少し、急いだほうがよさそうです」
 スタッフにあらかじめ用意しておいてもらった手の平サイズのミニかぼちゃを手に、御神村は気を引き締めた。


●開幕☆ 王様からのお触れ☆

【【王家からのお触れが出たぞ!】】

 会場のスピーカーから妃蕗の声が響き渡る。
 と同時に、舞台の上に大きな立て札を押しながら黒子姿の妃蕗が現れる。
 一体なんのお触れだろうと義理の姉姿の大人びたメイクのシャミーと、ゴージャスな衣装を纏ったエリーセ、そして町人に扮したラムとスタッフ達が立て札の周りに集まってくる。
 そしてその人陰に隠れた隙に、妃蕗は黒子の衣装を脱ぎ去って王様に変身☆
 中央の台座に立ち、立て札の中身を大きく読み上げた。
「うおっほん! 今年は舞踏会の予定を変更し、料理大会を行う。是非とも王子の未来の花嫁に相応しい、愛情溢れる料理を作って頂きたい」
 妃蕗の会場に響き渡る声量に負けないように、シャミーとエリーセが大仰に驚く。
「これは大変だよ。お母様に知らせなくっちゃ」
「私たちが必ず王子様のハートを射止めてみせます」
 義理の姉二人は観客に向けて宣言し、足早に舞台袖に去ってゆく。


「まあ、何ですって? お前達、必ずやわたくしたちで王子のハートを射止めるのよ! さあ、料理を作りなさいシンデレラ」
 場面が変わり、家に戻った義姉達は、母親・谷渡に今見てきたことを報告する。
 谷渡の演じる継母の姿は客席からは白いスクリーンに映し出された影絵のようにしか見えず、声だけがスピーカーを通して響く。
 そうしてシンデレラ役のまみたんが舞台袖から上がってくる。
「さあ、シンデレラ。あなたが作ったシュークリームをお見せなさい?」
 継母と義姉達に促され、まみたんはねずみ色のころんとしたシュークリームを見せる。
「これがあなたのお料理ね。頂いておきます」
 エリーセがさっとまみたんからシューを奪い取る。
「これで王子様のハートは頂きだよ♪」
 ご機嫌にお城のパーティーへと向かう義姉達を見送り、まみたんは途方にくれる。



●舞台裏
 丁度その頃、舞台裏ではまみたんが失敗した時の為と、舞台の上だけでは作りきれない分を御神村が必死に作っていた。
「ミニカボチャはもう全部繰り抜いてありますね? OKです。それを丸ごと器に使って蓋をしますから、丁寧に取り扱ってください。
 ホワイトソースは牛乳を少なめにしてください。少し硬めに、溢れないようにです」
 いま舞台に上がっている役者達やスタッフにあらかじめ手伝ってもらい、グラタンの器に使うミニカボチャの器はもう用意できていたのだが、カボチャのグラタン自体はまだだ。
 御神村が的確な指示を飛ばし、指示に従ってスタッフが補佐をする。
「黒ゴマペーストを生地に練りこむ灰色の皮は、鼠っぽく、形も似せて焼き上げてください。
 生クリームとカスタードを挟み、粉砂糖は舞台からまみさんが降りてきた時にお願いします」
 舞台の上では、いままさにまみたんとラムがシュークリームを作っているところだ。
(「事前にまみさんを特訓しましたが、焦がさなければよいのですが」)
 時折、モニターでまみたんの様子を伺いながら、御神村は次々と料理をこなしてゆく。
  

●王妃様の悩み
 場面が再び変わり、お城の中の舞踏会。
 豪奢なドレスに身を包んだ王妃(谷渡・一人二役)は、ふうっと溜息をつく。
 彼女の悩みは大切な一人息子たる王子の背が幾分低いことだった。
 それでも彼女は気持ちを歌に込めて願うのだ。
 小柄な王子が幸せになれるように。

♪〜
 今日は特別な日
  お日さまはやすみ
 夜空に浮かぶ月が見守る

 私達の息子の大切な日
  愛らしい姫を数多く集めたけれど
 芳しき花は見つかるかしら?
                〜♪

 彼女の歌に合わせ、色とりどりに着飾ったエリーセとシャミーが舞台に現れる。
 集まる花嫁候補に王妃は高らかに告げる。
「皆様、今宵は王宮へようこそ。例年の今日は舞踏会を開催しておりましたが、皆様ももうご存知の通り今年は予定を変更し料理大会となりました。
 ‥‥王子は私に似て背が低いのです。
 更に我が夫同様ハゲてしまうのでは‥‥と母の私は心配でたまりません。
 王子の健康を維持してくれる素晴らしい料理の腕を持った姫を花嫁に迎えたいのです!」
 王妃の言葉に大きく頷き、エリーセとシャミーはまみたんから奪ったシュークリームを王妃に差し出した。


●トカゲの従者と魔法使い。
 場面が変わり、シンデレラの家が映し出される。
 そこでは、たった一人家の掃除をしながら涙するまみたんが。
「シンデレラさん、いまからでも間に合います。さあ、お城へ参りましょう!」
 魔法使いに扮するラムが杖を振り、一瞬、照明が落とされ真っ暗になる。
 そして次に照明が付いた時にはまみたんはドレス姿に、舞台の上にはカボチャの馬車とトカゲの従者・エミリオの姿が。
「俺は意地悪な義姉に捕まって苛められていたけれど、シンデレラに助けられたトカゲだよ。あの時の恩を、いまこそ返させてだよ」
 驚くまみたんをエスコートする二人。


●お料理を作ったのはだあれ?
 再び王宮に舞台は移され、王子役の顔の上部を覆う仮面を付けた伝ノ助が舞台中央でシュークリームを試食する。
「これは鼠を模しているのですか? とても可愛らしい‥‥うん、味も良い」
 エリーセとシャミーはこれで王子様はわたしたちのものだと顔を見合わせる。
 けれどそんな二人の夢も希望も打ち砕く妃蕗の一言が。
「ふむ、ありきたりのお菓子ばかりを作ってくる街娘達にはうんざりしていたが、これは本当に素晴らしい。どうやって作ったのですか?」
 しかし作り方を聞かれるなどとは思っていなかったエリーセとシャミーはしどろもどろ。
 まさかシンデレラから奪い取ったとはいえないし。
 青ざめる二人にさらに追い討ちをかけるように、まみたんを乗せたカボチャの馬車が王宮に到着☆
「この方こそ、そのシュークリームを作ったシンデレラさんです!」
 魔女が杖をかざすと再び舞台が暗転し、ライトがつくとそこにはお料理道具が。
 ゆっくりと舞台に降り立ち、まみたんはラムの作った歌詞をそのコーラスに合わせて歌いだす。

♪〜
 恋の手順
 強すぎる炎は
 全て 飲み込んでしまうから
 ゆっくり溶かして
 暖かく 包み込んで欲しいの

 貴方への憧れ綺麗にとかしたら
 真白な想いと一息にまとめて
 温めていくの

 透明な想い届いたなら
 黄色い卵少しずつ混ぜて
 黒の風味と色をたして
 想い描いてく

 準備をしたら 情熱に身を任せて
 夢膨らませる事出来るから

 温かなミルク 君へ甘い想い
 とろけるように 香り高く
 熱さと冷たさに なじませて
 ふわり 白く甘いクリーム

 夢膨らませたら 少しおやすみ
 クールダウンして美味しくなるの
 ふわふわの想い 詰め込んだら
 粉雪を降らせて
               〜♪

 歌いながら、舞台の上でまみたんはラムとエミリオの力を借りながらシュークリームを作り上げてゆく。


●王妃の謎賭け
「いいえ、それは私達が作ったんだよ。シンデレラにレシピを奪われたんだよっ!」
 出来上がったシュークリームに心奪われる王子を見て、シャミーが叫ぶ。
「そう。ならば貴方達にこの謎を解いていただきましょう」
 王妃はそう言うと、謎を込めた歌を紡ぐ。

♪〜
 さあ愛と匠を競いし乙女よ
 貴女に弓矢を授けましょう

 一つ 堅固にして鮮やかな緑の宝玉
 二つ 母牛よりの無垢なる贈り物
 三つ 大地が育みし黄金の恵み

 どうかこの謎を解き
 王子の心と舌を射止めて下さい
               〜♪

 歌に込められた謎は一体なんなのか?
 舞台の上で、エリーセもシャミーも、まみたんも悩む。


●舞台裏
「上手くいくかしら?」
 グラタンもシュークリームも仕上げた御神村は、眼鏡を抑えて舞台を見守る。
 歌に謎を込めたのは、御神村のアイディアだ。
 本当はガラスの靴の代わりにカボチャを落とさせ、王子に探させるという脚本を考えていたのだが、ライブの時間に合わせて大分端折ってある。
 けれどテンポ良く進む御神村のシナリオに、観客は大満足のようだ。
 男性が四人も舞台に上がり、まみたんの側にいるというのにブーイングの一つも起きない。
 みんな、固唾を呑んで見守っている。
「あと一息です」
 御神村も一緒に、舞台を見守る。


●エピローグ〜心温まるカボチャのミニグラタン☆ 
 王妃の謎をいち早く解いたまみたんが、ミニカボチャを手に取る。
 そして歌うのはエミリオの用意した歌詞だ。

♪〜
 ミルクのような私の心
 勇気の粉を振りかけて
 小さな笑顔をスパイスに

 温められた想い
 不安や恐れを取り除き 
 憧れだけを胸に抱く

 赤 黄色 緑‥‥
 色とりどりの希望や願い
 静かに静かに かき混ぜて

 純白のドレスで身に包み
 あなたへの想い
 いっぱいに詰め込むの

 この想い焦がさないように
 あなたの腕で抱きしめて
 あなたの愛で温めて
            〜♪

 舞台の上にいつの間にか用意された巨大なカボチャのお鍋をまみたんとエミリオはかき混ぜる。
 その中には御神村のレシピにしたがって作ったホワイトソースが少し固めのグラタンの具が入っている。
 ラムの杖がお玉に代わり、観客がエミリオたちに集中している間に用意したミニカボチャの器に具を盛り込んでゆく。
 そして再びラムが杖を振ると舞台は暗転、次の瞬間には大量のカボチャのグラタンが舞台に並ぶ☆
「‥‥グラタンなのにほんのり甘い? なんだろう、とても温かくてホッと出来る料理‥‥」
 差し出されたミニカボチャを開くと、そこには緑のハーブが添えられており、伝ノ助はじっくりと味わう。
「良くぞ私の謎賭けを解きましたね。このグラタンは、本当に素晴らしいわ!」
「おお、暖かい! たくさんの野菜の彩りが、王子の身体に対する考慮を物語っている。本当に素晴らしい!」
 谷渡と妃蕗が絶賛し、伝ノ助を促す。
「ずっと、貴方の様な方を探しておりました。どうか私の花嫁になってください」
 膝を折り、まみたんにプロポーズする伝ノ助。
 客席から大歓声が沸き起こり、舞台の大成功を告げるのだった。