七色の扉〜赤の試練〜ヨーロッパ
種類 |
ショート
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担当 |
霜月零
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芸能 |
1Lv以上
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獣人 |
1Lv以上
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難度 |
普通
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報酬 |
1.2万円
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参加人数 |
8人
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サポート |
0人
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期間 |
04/16〜04/20
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●本文
舞台の上では、七つの扉が並べられていた。
赤、橙、黄色、白、水色、青、紫。
虹を思わせる七色の扉の一つ、赤い扉を舞台の上の役者がそっと開く。
扉の向こうに広がるのは一面の炎。
「なんてこと、この扉は開けてはいけないものだったわ!」
役者の叫びにあわせ、一斉に火の粉を模した紙吹雪が扉から、そして天井から撒き散らされる。
そうして扉の奥から炎を纏った仮面の青年が現れた。
「美しいお嬢さん。我を解放してくれたことに礼を言おう。
そおら、受け取るがいい!」
青年が腕を振るうと、観客席の側に一つずつ備え付けられたプラスチックの蝋燭が一斉に灯る。
「その蝋燭は命の炎。そう、これは命の蝋燭だ。
その蝋燭がすべて燃え尽きた時‥‥この世界は炎に包まれるであろう!」
青年がもう一度腕を振るうと、天井から金細工の見事な砂時計が下りてくる。
「この砂が、すべて落ちるまでに、炎の欠片を探すがいい。
我を解放した礼にたった一度チャンスをやるのだ。感謝するがいい」
残忍に笑い、高らかに笑う彼に、彼女は恐れおののいた。
「神さま、どうか私を助けてください。
おろかなるこの私には、たった一人でこの場からすべての欠片を探すことは到底出来ません。
だれか、どなたか私を助けてくれる方はおりませぬか?!」
舞台の上で、大仰に観客席に協力をこう。
するとどうだろう?
観客席からは次々と手が上がり、彼女に協力を申し出る。
舞台に上がった観客達は、我先にと炎の欠片探しを始めるのだった――。
それは、『七色の扉〜赤の試練〜』の舞台の一幕。
この舞台では、観客に会場中に隠された『炎の欠片』を探させるのが売りだ。
炎の欠片はいくつもあり、一つでも見つけると舞台終了時に記念品としてもらうことも出来るから、お客さんは必死になって欠片を探す。
そんな七色の扉の役者募集がこの度されることになった。
理由は公演回数を増やす為。
程よく人気が出てきたこの舞台を団長はもっと色々な地域で公演しようと考えたのだ。
けれどそれには当然人員が足りない。
そこで、今回の役者募集が始まったのだった。
●リプレイ本文
●いっぱい隠そう☆
舞台『七色の扉〜赤の試練』を演じる新団員達は、スタッフから炎の欠片を受け取る。
もちろん本当に燃えている炎の欠片なのではなく、炎を模した作り物だ。
今回上演される『赤の試練』では、観客に炎の欠片を探してもらうのだ。
「ふふ、お客さん見つけられるかな〜?」
角倉・雨神名(fa2640)はわくわくと炎の欠片を受け取り、サラサラの髪を結わく赤いリボンに挟む。
同色のリボンと一緒につけていると、ぱっとみでは炎の欠片だとはわからない。
ましてや、ちょっぴり暗い会場の中では中々見つけられないだろう。
「俺は、あそこにしよう」
TABRIS(fa3427)はなにやらスタッフから小石を模した置物を借りている。
彼は何処に隠すつもりなのだろう?
「こういった舞台のお仕事って初めてだよ、がんばるね」
七色の扉のうち、赤い扉を開けてしまう役を演じるカナン澪野(fa3319)は、観客と一緒になって演じる舞台は初めてで、ちょっぴり緊張気味。
「ふうん? 中々精巧な代物だな」
チェリー・ブロッサム(fa3081)は炎の欠片を手で弄びながら感心する。
「何かワクワクするよ‥‥客と舞台が一体化できるって言うのが良いね」
観客に炎の欠片が隠されている場所を教える役目を担う葵・サンロード(fa3017)は、会場の非常灯の上に欠片を隠す。
この場所をどんな風に観客に伝えるのか?
それは劇が始まってからのお楽しみだ。
そして舞台で赤の扉に封印されていた炎の精達を演じるのは羽曳野ハツ子(fa1032)と小野田有馬(fa1242)、そして仙道 愛歌(fa2772)の三人。
三人は銀色の仮面をつけて、羽曳野は炎の姫、小野田が炎の精霊、そして仙道は半獣化して炎の精霊のしもべを演じる。
新団員八人はもちろんのこと、スタッフ達も次々と炎の欠片を隠し、その隠し場所を葵と小野田、羽曳野に伝える。
観客に混じり、サクラをする予定の角倉とチェリーには内緒☆
合計二十四枚の炎の欠片は、会場の色々な場所に隠されてゆく。
●舞台開幕☆
「フハハハハハハッ! 私を解き放ってくれたことに礼を言う!」
赤、橙、黄色、白、水色、青、紫。
舞台の上に設置された赤い扉をカナンが開いた瞬間、中から炎の魔王・小野田が飛び出してきて高らかに笑う。
「そんな‥‥この扉はあけてはいけない物だったの‥‥?!」
カナンは見る見る青ざめる。
彼は赤い扉をあけるように唆されていたのだ。
「いいや、あなたは何も後悔する事は無い。この偉大にして壮大なるこの私をこの世界に解き放ったのだから! ほうら、礼を受け取るがいい!」
そうして舞台の上はもちろんのこと、観客席に一斉に炎を思わせる赤い紙吹雪が降り注ぎ、赤いライトがより一層炎のきらめきを映し出す。
スピーカーから、悶え苦しむ人々の叫び声が会場に流れだす。
「僕は一体‥‥どうしたらいいの?!」
泣きそうになるカナンに、小野田はくすりと口の端をゆがめる。
その時、
「待って下さい!」
舞台のバックに映し出されていた炎の中から、燃える様な真っ赤なドレスを纏った炎の姫・羽曳野が現れた。
「炎の姫。私の邪魔をする気か?」
獲物をいたぶるのを邪魔されて、小野田はとたんに不機嫌になる。
「貴方に提案があるのよ」
パチン☆
羽曳野は悲痛な面持ちのカナンに安心するように微笑み、指を鳴らす。
すると天井から大きく、見事な金細工の砂時計がピアノ線に吊られて下りてきた。
「なるほどな。それを使うのか!」
羽曳野の意図を察し、小野田は豪快に笑い、腕を振るう。
客席に一つずつ設置された蝋燭を模したランプが一斉に灯った。
「その蝋燭は命の炎。そう、これは命の蝋燭だ。
その蝋燭がすべて燃え尽きた時‥‥この世界は炎に包まれるであろう!」
「私には炎の魔王を止める術はないわ。けれど、たった一度だけチャンスを与えることが出来るのよ。この砂時計がすべて落ちるまでに、炎の欠片を探しなさい。
全て探すことが出来たなら、私たちは炎の世界に帰るわ」
羽曳野はレプリカの炎の欠片を客席からも良く見えるように頭上に掲げる。
舞台の背景に映し出されていた炎と共に、炎の欠片の映像が映し出される。
「随分面白そうなことをしているな。あたしも混ぜてもらおう」
赤の扉から、炎の部下・仙道 愛歌(fa2772)が出てくる。
半獣化し、いつもと口調を変えた仙道は手の平の上に小さな火の玉をいくつも作り出す。
舞台から降りて客席の間を火の玉を弄びながら巡ると、客席からは感嘆の声が上がった。
「神さま、どうか僕を助けてください。僕には、この広い会場の中からたった一人ですべての欠片を探すことなんて出来ません。
‥‥ううん、神様じゃなくてもいいです。だれか、どなたか僕を助けてください!」
カナンが舞台の上から客席に向かって協力を仰ぐ。
「私が手伝ってやろう」
観客に紛れていたチェリーが一番初めに立ち上がり、舞台の上に上がる。
「女の子だけに大変なことをさせるわけにはいかないでしょう」
TABRISがそれに続く。
「私も頑張るんだよ」
「やるしかないでしょう」
角倉が立ち上がり、葵も立ち上がる。
そうしてサクラ達に釣られて観客もちらほらと立ち上がり、最後は全員立ち上がった。
「中々に勇気のあるものたちだな。よろしい。私に勝てる者など居はしないがこれも世界を炎に染める一つの余興。
存分に楽しませてもらおう。ハーッハッハッハッハ!」
小野田の高笑いをBGMに、一斉に炎の欠片探しが始まった。
●探せ探せ炎の欠片!
「う〜、どこにあるのかな?」
サクラであるはずの角倉は、炎の欠片を本気で探している。
演技にちょっぴり自信がないから、自分が預かった炎の欠片以外の隠し場所は教わらずにいたのだが、なかなか見つからない。
「ははは、何処にあるか分るまい!」
仙道が火の玉を身体に纏わせ、淡く光りながら探し続ける観客を笑う。
だがそれはあくまで演技。
火の玉を欠片の隠し場所付近に飛ばし、薄暗い会場の中で発見しやすいように照らしているのだ。
(「あっ、もしかしてあれがそうかな?」)
角倉は仙道の光に照らされた炎の欠片に気づく。
でもサクラだから、拾わずにがまんがまん。
「あう〜、火の玉と炎の欠片が似てて、良くわからないんだよ〜」
他の観客たちが火の玉に注目するように大きめに呟いてみたりする。
角倉の呟きに気がつき、観客が炎の欠片を手に取った。
(「良かったんだよ♪」)
嬉しそうに炎の欠片を握り締める観客に、角倉の頬も緩む。
「どうか炎を恐れないで。貴方たちならば必ずやこの試練を乗り越えられると信じています」
羽曳野が舞台の上で焦りだす観客をなだめる。
砂時計がどんどん落ちてゆくことにより、観客がだんだんと攻撃的になっているのが見て取れた。
パニックを起こさないように、常に会場を見渡し、羽曳野は注意を怠らない。
「私に近付くな! 私という高みに続く橋のたもとにそれが潜んでいるなどという事、ありえるものか!」
ちょっぴり天然気味な小野田の演じる炎の魔王は、言わなくてもいいことをぽろっと口にする。
それを聞いた観客が数人、一気に舞台中央の階段に殺到し、そこに隠されていた炎の欠片を掴み取る。
客席からは『天然さん? 言わなきゃばれなかったのにー』と好意度抜群のくすくす笑いが漏れる。
「あそこにあるんじゃないでしょうか? なにやら赤い物が見えたような‥‥」
TABRISは観客に見当違いな方向を指差して、ちょっぴり惑わせて見たりしている。
惑わされた観客はわらわらとTABRISが指差した場所に殺到し、見つからなくてがっくりと肩を落とす。
「駄目だよ‥‥そっちは危ないの」
カナンは思い余って会場の二階に上がろうとしていた観客を止める。
「こんな場所にある事を知られるわけには‥‥」
仙道が火の玉で二階に上がれないようにして観客に襲い掛かる振りをする。
「僕が守るから‥‥大丈夫」
火の玉に驚いた観客の下に駆け寄り、カナンがその背に庇う。
ほっとした観客が、仙道の操る火の玉の側に炎の欠片があることに気がついた。
「これは‥‥? みなさん、炎の在り処を指し示す羊皮紙を見つけました!」
観客席の下に予め用意しておいた羊皮紙を葵は読み上げる。
「『その者正しき場所に誘わん。従わなきは死を意味する。その者の上に我は眠れり』これは一体何のことでしょう?」
葵の言葉に首を傾げながら、観客は周囲を見渡す。
するとどうだろう?
薄暗い会場の中で、一際はっきりと輝くものがあるではないか。
気がついた観客が非常灯に駆け寄り、葵の隠した炎の欠片を見事に見つけた。
●エピローグ
「見つけたわ! 炎の欠片よ。これで彼の元へ行けるわ!」
会場を探していたチェリーが叫び、再び舞台に駆け上がる。
「ほう? そなたはあの男の恋人だな?」
小野田が銀の仮面に手を添える。
「私を覚えていたのか? ああ、そうとも、私は一度たりとも忘れたことはなかった。貴殿が私の最愛の人を攫って行った日のことを!」
チェリーは炎の欠片を小野田に突きつける。
突然始まった舞台に、炎の欠片を探していた観客からざわめきが起こる。
「炎の城には何人もの人々が閉じ込められて奴隷にされているの。私達は彼らを、大切な友人を親を恋人を取り戻さなくてはならないのよ。
ああ、まって。炎の欠片を見つけた人はそのまま持っていて。他の人は席に戻って合図を待って」
自分達も舞台に上がらなければいけないのかと不安そうにしている観客に、シェリーは指示を飛ばす。
「私が連れ去るのは試練に負けたもののみ。そう、貴方の恋人のようにな! この会場では、どうやら試練に打ち勝てる者は一人もいないようだな?
よろしい、全てを炎に還そう!」
砂時計の砂が本当に少なくなる。
「ぐすっ‥‥このままじゃ間に合わないよぉ‥‥」
角倉まで思わず舞台に引き込まれ、涙ぐむ。
「あれ? その髪飾り‥‥」
カナンが角倉のリボンに隠された炎の欠片に気づいて手に取る。
「こんな所にもあったぞ!」
TABRISが扉のすぐ脇に隠した炎の欠片を、席に戻ろうとしていた観客が見つけ出す。
けれどその時、全ての砂が落ちきってしまった。
「だが、全てのかけらを見つけることは叶わなかったようだな。さあ、あたし達の世界にそめてやろうか」
仙道が火の玉を再び作り出し、その身に纏わせながら客席から舞台に戻る。
その額にはちょぴり冷や汗が滲んでいる。
予定では、砂時計が落ちきる前に全ての炎の欠片が見つかるはずだったのだ。
だが、意外と隠し場所が難しく、観客は全てを見つけることが出来なかったのだ。
「いいえ、そうはさせない! 炎の欠片が全て揃わなくとも、強い思いがあれば彼を再び封印出来る筈!」
チェリーが咄嗟に機転を利かせ、アドリブをかます。
「ふん、ばかばかしい! 勝負は私達の勝ちだ。貴方達の思いとやらは、決して私に届きはしない!」
高らかに笑う小野田ももちろんアドリブだ。
「赤の輝きは、貴方の心の中で静かに息づいています。祈りなさい、小さな勇者よ」
羽曳野が上手くカナンに演技を誘導する。
「ぼ、僕は、僕たちは、決して負けない!」
「さあみんな、炎の欠片を魔王にかざして!」
カナンが炎の欠片を小野田に向け、チェリーが観客を誘導!
角倉、葵、TABRISのサクラ三人組も炎の欠片を持つ観客の側に行き、戸惑っている観客の手を取って炎の欠片を構える。
「私達は炎の欠片を、思いを手に入れ、大切な人を取り戻すわ!」
チェリーの叫びに合わせ、稲妻を思わせる効果音と光が迸る様を表現したレーザーが会場に溢れる。
「そんなばかなことがあるか! この私が、小さき者たちに負けるなどと‥‥!!」
光の渦に押し込められるように、小野田は断末魔の叫びを上げて炎の扉の中に姿を消す。
「ふん、今回は負けてしまったが、次は必ず勝って見せよう!」
仙道は内心ほっとしながら高らかに捨て台詞を吐いて、小野田の後に続く。
「勇気ある者達に赤き炎の祝福を――」
羽曳野は微笑み、観客に腕をかざす。
すると客席の消えかけていた蝋燭が再び灯り、そしてその下からピアノ線で繋げられていた最後の炎の欠片が現れ、羽曳野の手に収まる。
「けれど試練はこれで終わりではありません。炎の祝福を得たあなた方には、第二、第三の試練が待ち受けていることでしょう」
「残りの試練もきっと乗り越えてみせるわ。協力してくれる仲間が、皆がいる限り」
羽曳野の言葉に、チェリーははっきりと言い切る。
そんなチェリーに羽曳野は最後の炎の欠片を手渡しておでこに祝福のキスをして、赤の扉の中へと消え去っていった。
「一人じゃ無理だったけど、貴方達のおかげで頑張れたの‥‥みんなありがとう!」
カナンが最後の挨拶をし、観客の上に先ほどとは違う、光り輝く紙吹雪が降り注ぐ。
こうして、少々のハプニングに見舞われながらも舞台は見事大成功を収めたのだった。