冥土のお仕事☆働くの!アジア・オセアニア

種類 ショート
担当 霜月零
芸能 1Lv以上
獣人 1Lv以上
難度 普通
報酬 1.2万円
参加人数 8人
サポート 0人
期間 03/08〜03/12

●本文

――思い遺したことはなんですか?
――行きたかった場所はどこですか?
――泣いている人はどこですか?
――その願い、その苦しみ、わたくしたちが解決しましょう!!


 メイド喫茶『Entrance to heaven』。
 略して『EH』
 そこは最近流行のメイド喫茶。
 シックで愛らしい黒いメイド服に身を包んだ少女達はもちろんのこと、イケメンのウェイターも取り揃えた、ちょっぴりメイド喫茶としては邪道なお店は、今日も今日とて賑わっている。
「働きたいの! ここで、働かせてくださいっ」
 そう言って、めまぐるしく働く店内で一人の幼い少女がメイドさんを困らせている。
「だってここ、子供も働けるんでしょう?! 働きたいんですっ、お願いしますっ!」
 大きな荷物を抱えているところから、さしずめ家出少女といったところだろうか? 
「メイド服も用意したのよ、ほら!」
 そういって大荷物から取り出すメイド服は自作なのだろう。
 所々ほつれたりつれたりと、はっきりきっぱりボロッちい。
 そして幼い少女の指をふと見れば絆創膏がいっぱい。
 どうやっても退かない彼女に、騒ぎを聞きつけてきた代理店長も根負けし、彼女を雇うことになったのだった。
   

「Dの時間‥‥にはなりそうもないわねぇ?」
 スタッフルームで、メイドの一人が肩を竦める。
『Dの時間』 
 それは、メイド喫茶『Entrance to heaven』のもう一つの仕事を意味する。
 迷い、悩み、さ迷える死者の魂を救い、天国へと導くこと。
 いつもならば死神を思わせる店長がDの時間を告げに来るのだが、今回はちょっと勝手が違うらしい。
「さて、あの少女をどうしますかねぇ?」
 EHで働くメイドたちのもう一つの仕事を、まさか教えるわけにはいかないし。
「こんな時に、事件が起こったりしなければいいのだけれど」
 代理店長とメイドたち。
 新しい押しかけメイドに頭を悩ませるのだった。


 ☆冥土のお仕事キャスト募集☆
 深夜特撮番組『冥土のお仕事☆』では、メイド服に身を包んだ特殊能力を持った少女達が、助けを求める幽霊達の願いを叶え、天国へと導いています。
 でも今回はちょっと勝手が違う様子?
 『冥土のお仕事☆働くの!』では、どうやら家出娘らしい少女が強引にメイド喫茶のメイドになってしまいました。
 彼女を上手に納得させて、お家へ帰してあげてくださいませ。

●今回の参加者

 fa0525 アカネ・コトミヤ(16歳・♀・猫)
 fa0768 鹿堂 威(18歳・♂・鴉)
 fa1105 月 李花(11歳・♀・猫)
 fa1234 月葉・Fuenfte(18歳・♀・蝙蝠)
 fa2057 風間由姫(15歳・♀・兎)
 fa2516 フォーティア(15歳・♀・狼)
 fa2601 あいり(17歳・♀・竜)
 fa2968 吉田 美弥(12歳・♀・猫)

●リプレイ本文

●困った少女
「ここ子供でも、労働できるよね? なんでもするので働かせて下さい!」
 働きたいといってお店に居座る少女・柊 蘭(月 李花(fa1105))は、大きな荷物を抱えて頭を下げる。
「とりあえず自作でメイド服を持って来てもらったはいいですけど、それじゃあダメですよ。服はちゃんとこっちで用意してありますから」
 サエ(アカネ・コトミヤ(fa0525))はずり落ちそうになる眼鏡を抑え、蘭が着られそうなメイド服をスタッフルームから用意する。
「うっわー、やっぱりかわいい! ここで働かせてもらえるのね、嬉しいんだよっ」
 差し出されたメイド服を抱きしめて、蘭は大はしゃぎ。
「ああ、違いますよ、待ってくださいです。お子様を雇うわけにはいかないのです」
 おろおろと止めるサエの言葉に、ぷっと膨れ、
「じゃあ、あそこにいる子は何なのかな!」
 ちまっこい猫耳メイド・ミャー(吉田 美弥(fa2968))を指差す。
「ミャーはこう見えても15歳ニャ。間違えないようにニャ」
 猫尻尾を揺らし、どこからどう見ても小学生的な幼い容姿のミャーは、実は本当に十五歳。
 銀髪に青と碧のオッドアイが印象的な月宮悠美(フォーティア(fa2516))と同い年なのだ。
「なあ、なんで子供が働いちゃいけないんだ?」
 死神見習いにしてEHのウェイター・蓮(鹿堂 威(fa0768))は、首を傾げる。
 蓮が死神として初めてこの店を訪れた時。
 自分を死んだ兄と見間違えて泣き出した雪恵(風間由姫(fa2057))には霊能力がなかった。
 EHで働くには、霊能力がなければならないというのなら話は別だが、雪恵のように働くうちに霊力が開花していく例もあるのになぜ蘭を雇えないのだろう?
「蓮さん、日本にはね、労働基準法というのがあるのよ。詳しいことは省くけど、子供は基本的に働いちゃいけないことになってるの」
 雪恵がこっそり耳打ちする。
「悪霊と戦うのよりも難しいかも‥‥?」
 立花 音羽(あいり(fa2601))もこっそり呟く。
 蘭はとっても強情で、労働基準法を説明しても理解しないし、代理店長まで根負けしてしまったのだ。
 説得は悪霊より難しいという言葉は正解かもしれない。
「仕方ありませんね‥‥」
 朧月弥生(月葉・Fuenfte(fa1234))も溜息をついて諦め、蘭はEHで働くことになった。


●お仕事一生懸命やらなくちゃ☆ でも‥‥?
「はうわあっ?!」
 どんがらがっしゃん☆
 ここ数日で聞きなれた音が店内に響く。
「ごめんなさいごめんなさいごめんなさいだよっ!」
 蘭は慌てて落っことして割ってしまったお皿をかき集める。
「だめよっ、素手でやったらまた手をっ」
 雪恵が止めるまもなく、
「いたっ!」
 ざっくり。
 蘭の白く小さな手が赤く染まる。
 店に来る前から絆創膏だらけだった蘭の手は、今ではもうどこに絆創膏をつけたらよいのかわからない状態だった。
「んと、やっぱりお家へ帰ることは出来ないのでしょうか? こんなに傷だらけでは、働かせられないです」
 月宮がもうあらかじめカウンターに用意しておいた救急箱を手に取り、蘭の傷を手当する。
「‥‥やだ、絶対帰らないんだよ。明日はきっと失敗しないからここに置かせてだよ!」
 傷の痛みよりもクビになるほうが怖いのだろう。
 蘭は必死だ。
「ごめんなさいです、今すぐお家へ帰そうという意味ではないですよ。割れたお皿は買えば済むことですから。
 でも、蘭様の身体が壊れたら、買いなおすことは出来ないんです」
 月宮は傷だらけの蘭の手に白い包帯を巻く。
 邪魔者として追い出そうとしているのではなく、優しく気遣う月宮に蘭は俯く。
「無理に働かなくとも、追い出したりはしないニャよ。傷が治るまで、じっとしてるニャ♪」
 ミャーも笑って蘭を安心させようとする。
「でもっ、そしたらお金がっ‥‥!」
「あなた、お金が欲しかったのかな? もうちょっと大きくなったら嫌でも働かなくちゃいけないようになるんだから、今はもっと別の事を楽しんだ方が良いよ〜。
 お金は大人になればいっぱい稼げるんだよ」
「大人になってからじゃ、間に合わないんだよっ‥‥」
 立花に諭されて、けれど蘭はもう泣きそうだった。
「お母様のためですか?」
 今まで店を留守にして調べ物をしていた朧月がいつの間にか店に戻って来ていた。


●蘭の事情
 お客様の目を避け、スタッフルームに移る。
「なんで、お母さんの事知っているの?」
「失礼ですが、蘭様の身辺を調査させて頂きました」
 ファイルを片手に、朧月は眼鏡に手を添える。
「どうして家出したのか皆に話すニャ。皆で仲良く働く為には隠し事はしちゃいけないニャ」
 ミャーが蘭を促す。 
「家出などして、親御さんも心配なさっていらっしゃるでしょうから‥‥」
 蘭のことも心配だが、両親と兄を亡くしている雪恵には親しい人が亡くなるということがどれほど辛いかよくわかっている。
 蘭はまだ生きているが、それでも居場所がわからずご両親は心配でたまらないはずだ。
「お母さんのためなんだよ、お母さん、きっとこのままじゃ死んじゃうんだよ、だって‥‥呪われてるんだもん!!」
 大粒の涙を流して蘭はエプロンを握り締める。
「朧月さん、呪われてるっていうのは‥‥」
「ええ、間違いないです。蘭様のお母様は低級霊に呪われています」
「お姉さん達、わかるの?」
 蘭は食い入るように朧月を見つめる。
 どんなに蘭が周りの大人に頼っても、子供のたわごとと信じてもらえなかったのだ。
 お母さんの側に黒い変なモノがくっついているのが確かに見えるのに。
「守護霊がいないのは、そういう事情か」
 蓮が呟く。
 蘭がこの店に来てからずっと、蓮は彼女の守護霊に語りかけようとしていたのだ。
 少女の家出の事情やらなにやらは、守護霊に聞けば一発でわかる。
 けれど蘭には守護霊がついていなかったのだ。
 おそらく、蘭の為に母親の守護に当たっているのだろう。
 悪霊を払うほどの力はなくとも、ただの霊ではなく守護霊なら呪いの進行を緩和することが出来るだろうから。
「ずっと、辛い思いをしていたんですね。でも、もう大丈夫です」
 サエが力強く頷き、
「あなたのことは、私たちが守るからねっ♪」
 立花が元気付ける。
「メイド喫茶EH、出動ニャ!」
 ミャーがウィンクをして、メイド喫茶EH、出動☆


●対決!
「ここが蘭様のお家ですね」
 メイド達は蘭の家を覆う黒い陰に眉を潜める。
「低級霊だニャ。さくっとやっつけるニャ!」
 黒い影はどうやら数匹いるようだ。
 蘭の母親に取り付いている悪霊に引き寄せられて集まってきているのだろう。
 悪い気は悪い気を呼び寄せてしまうものなのだ。
「お母さん、いま助けるんだよっ」
 蘭がドアを開けたその瞬間、黒い影が蘭に襲い掛かった!
「危ないんだよっ!」
 咄嗟に立花が蘭を突き飛ばす。
 黒い影はそのまま立花を攻撃し、吹っ飛んだ立花は塀に叩きつけられる。
「そんなっ、何でこんなに強いの?!」
 次々とドアから飛び出してくる黒い陰を、雪恵は竹刀で討ち払う。
「皆様、私の後ろへ下がってくださいです!」
 月宮が叫び、ダウジングようのネックレスをくるっと回して円を描く。
 結界が張られ、見えない壁にぶち当たるように黒い塊は弾き飛ばされた。
 けれど黒い影は次々とドアから飛び出し、このままでは埒が明かない。
「サエ様、援護をお願いします!」
「了解ですっ」
 朧月が結界から飛び出し、サエが霊力を練って具現化した銃を撃ち放つ。
 狙い違わず黒い影を打ち砕き、朧月が家に飛び込む隙を作る。
「本体は、どこなのでしょう?!」
 家の中を吹き荒れる悪意の風を一身に受け、朧月は視界を奪われる。
「お母さんは、こっちなんだよ!」
「蘭様、来てはなりません!」
 どうやって家に入ったのか、蘭が朧月に駆け寄ってくる。
(「少し、攻撃が和らいだでしょうか?」)
 気のせいだろうか?
 悪霊の攻撃が弱まった気がする。
「こちらですね? ‥‥これはっ!」
 寝室の襖を開けた瞬間、朧月は絶句する。
 霊力によって紡がれた呪符が部屋の四隅に張られ、そこから悪霊が溢れているのだ。
「こんなものは、こうしてくれますっ」
 拳に霊力を貯め、朧月は札の一枚に叩きつける。
 霊力によって織り成されていたそれは、それよりも強い霊力を叩き込まれて消滅する。
「待たせたんだよっ、朧月さんっ」
「それを壊せばいいニャね!」
 一つ壊したことにより家に入る隙が出来たのだろう、メイド達が次々と飛び込んでいて、呪符を破壊する。
 四隅全ての呪符を破壊し終えると、とたんに空気が澄み、黒い影は消え去った。


●エピローグ
「ほんとに、ありがとうなんだよ」
 ぴょこんっ。
 長い髪を揺らして、蘭はメイド達にお礼を言う。
 黒い影が消えると、意識のなかった蘭の母親はほんの一瞬だけ、眼を覚ましたのだ。
『ら、ん‥‥? な‥‥ぜ‥‥‥‥』
 何かを言おうとして、けれど蘭が抱きしめるとまた、意識を失ってしまったのだ。
 けれど呪符は消したし、これからはもう回復に向かうだろう。
「頑張るニャ。つらくなったらいつでもEHに来るといいニャ。客として」
 ミャーとしっかり約束をして。
 蘭は笑顔で去っていった。

「蓮さん、どうしたの?」
 家の中に消えてゆく蘭の後姿を見つめ、思案する蓮に雪恵は小首を傾げる。
「いや‥‥うん、たぶん気のせいだ」
 おざなりに雪恵に答えつつ、蓮はあることが気になっていた。
 なぜだろう?
 母親を守るために離れているのかと思われた守護霊が、蘭に戻っていないのだ。
 そして母親。
 彼女の側に、一瞬だけ小さな少女が見えたのだ。
 そう、蘭にそっくりな女の子。
 悪霊を消し去った後、彼女もまた消えてしまったのだが、あれは一体なんだったのか。
(「‥‥幻覚だろうか。最近、EHでこき使われてたんだし」)
 EHの代理店長に、『巻き込まれた慰謝料』と証する謎の請求を受けて、蓮はここ最近寝る暇もなかったのだ。
 あんまり悩んでいると雪恵に心配かけるし。
 蓮は蘭に感じた違和感を忘れることにして、EHへと戻ってゆく。


「やっぱり、たいしたことないんだよ」
 家の扉越しに、少女は嗤う。
 愛らしい顔が、残忍なそれへと摩り替わる。
「主様に報告する価値もないんだよ、きっと♪」
 くすくすと蘭の姿をした少女は嗤い続ける。