新人強化合宿☆霜月アジア・オセアニア

種類 ショート
担当 霜月零
芸能 1Lv以上
獣人 1Lv以上
難度 普通
報酬 2.8万円
参加人数 8人
サポート 0人
期間 11/14〜11/27

●本文

「ああ、本当によい香りですこと」
 沙納花華梨は手に取った小さなボトルから香る精油の香りに瞳を細める。
 遮光ボトルに収められたアロマボトルの小瓶は数十種類あり、そのどれもこれもが実は一本数千円から数万円もする高級品。
 たった3mlほどしか入っていないそれは、けれど彼女にとってなくてはならない必需品。
 あらゆる香りを調合し、癒しと美しさを保つ魔法の薬のようなものなのだ。
「芸能人ならば、アロマの調合ぐらい、出来ませんとね?」
 プロダクションから任された新人合宿の資料を見て、彼女はにっこり微笑む。
 合宿内容は美容と健康の維持。
 魅力的なプロポーションなど外見の美しさはもちろんのこと、内面の美しさも兼ね揃えてこそプロというもの。
「美しさは罪、と言わせてごらんに見せますわ。ほほほほほっ」
 鏡に向かってちょっぴりナルシストはいってる沙納花華梨2●歳。  
 これから訪れるであろう新人芸能人の為にありとあらゆる効能を持つ(?)アロマを調合し始めるのだった。


☆成長傾向☆
 容姿

●今回の参加者

 fa0807 桜 美鈴(22歳・♀・一角獣)
 fa1013 都路帆乃香(24歳・♀・亀)
 fa1689 白井 木槿(18歳・♀・狸)
 fa2812 七萱 奈奈貴(22歳・♀・蛇)
 fa3579 宝野鈴生(20歳・♀・蛇)
 fa3661 EUREKA(24歳・♀・小鳥)
 fa3956 柊アキラ(25歳・♂・鴉)
 fa4657 天道ミラー(24歳・♂・犬)

●リプレイ本文

●自己紹介は大事でしてよ。ええ、とってもね?
 アロマテラピーの合宿と聞き、集まった芸能人は八名。
 癒し系モデルの桜 美鈴(fa0807)、有名女優の都路帆乃香(fa1013)、舞台役者の白井 木槿(fa1689)、脚本家の七萱 奈奈貴(fa2812)、俳優の宝野鈴生(fa3579)、楽士のEUREKA(fa3661)といった見目麗しい女性陣はもちろんのこと、ミュージシャンの柊アキラ(fa3956)、ギタリストの天道ミラー(fa4657)の男性陣二名も参加している。
 八人が合宿場に着き、受付に案内された教室に入ると、今回の講師・沙納花華梨は鏡と見詰め合っていた。
 ぶつぶつ、ぶつぶつ。
 わたくしは綺麗、美しさは罪。
 よく耳を済ますとそんな言葉を呟いている。
「あの‥‥コーチ?」
 そんな沙納にちょっぴり恐る恐る、白井が声をかける。
 くるっと振り返った沙納は、
「ああ、あなた達来ていたのね。わたくしの美しさに見惚れてしまうのは仕方のない事だけれど、何故そんなところに突っ立っているのかしら? 席にお着きなさい」
 ぴしゃり。
 自分の奇行はさくっと無視して八人に席に着くように命じてくる。
 白井はもちろんのこと、八人は慌ててそれぞれ適当な席に腰をかけた。
(「先生のナルシストぶりは‥‥うん、気にしてはいけないわね。芸能界は色々な人がいるもの、慣れてるわ」)
 EUREKAは沙納の言動を笑顔で華麗にスルー。
 高価なアロマを使用出来るだけでも良い事だ。
 だが、宝野はそわそわと落ち着かなかった。
(「た、高いアロマを教えて貰ってお給料が貰えるなんて、もしかしたら何か物凄い試練が待ってて、更に撮影されてたりするのでは‥‥あの鏡の後ろとかに隠しカメラとか‥‥」)
 きょろきょろと周囲を見回すと、磨きあげられた姿見が嫌でも目に入る。
 姿見は一個二個ではなく、教室を囲むようにずらっと並んでいるのだ。
 これでは宝野でなくとも落ち着かなくなるだろう。
 そしてさらに、全員に卓上三面鏡が配られる。
 アロマなのに、なぜ?
 そんな困惑気味の参加者に、沙納はにっこり笑ってその鏡で自分を見た後、自己紹介を促してきた。
「はじめまして、皆さん。モデルの美鈴です。色々いい香りの事などお聞きして、今後の仕事に役に立てられたらいいなと思って参加しました。よろしくお願いしますね。
 今回の教官は、‥‥ええと、お名前はどこで切って、なんて読むんでしょう?」
 落ち着いた物腰で桜は皆に挨拶をしながら沙納に質問し、薄紫のストールをかけなおす。
「ああ、わたくしの自己紹介がまだだったわね? わたくしは沙納花華梨、『さのう かかり』と読むわ。合宿中は先生とでも教官とでも好きに呼んでいただいて結構よ。どのように呼ばれても、わたくしの美しさに変わりはありませんもの。ほっほっほ」
 長い爪を煌かせて自己満足に浸る沙納に、桜はほんのりと微笑んで頷く。
 電波ゆんゆんとしか思えない沙納の言動にも根っからの柔らかさで桜は乗り切れそうだ。
「コーチ! あたし、何処までもついて行きますっ! バシバシしごいて下さい!」
 そして白井はそんなぶっ飛んだ沙納に感銘を受けたらしく、潤んだ瞳で熱血まっしぐら。
 いや、何処までもついていったら、未来はやばいですよ?
「脚本家の七萱奈奈貴です。皆さん、先生、どうぞ宜しくお願いします。あ、クッキー缶大入り、持ってきましたっ! お茶菓子としてどうぞっ!」
 琥珀色に桃色を少々混ぜたような、落ち着いた色合いの着物姿の七萱は、大きな紙袋からクッキーの缶を取り出す。
「これは陽風堂のクッキー詰め合わせですね。期間限定品は並ばないと買えないとか‥‥先生、お茶を淹れて来ても宜しいですか?」
 愛用のノートパソコンを開いていた都路は、沙納の許可を得て給湯室に赴く。
「紅茶のアールグレイはベルガモットで香付けされてるから、他の紅茶より気分がすっきりするのよね。これもアロマ効果の一つかしらね?」
(「お腹がいっぱいになって、リラックスし過ぎて居眠りしないように気をつけなくちゃ‥‥やってしまいそうで怖い‥‥」)
 都路が淹れてくれた紅茶と、七萱の美味しいクッキーを摘みながら、EUREKAは自分の知っているアロマについて語りつつ、ちょっぴりそんな心配をするのだった。


●いよいよ実践! 色々な香りを試してみましょう♪
「こんな小さな瓶に入ってるのに、リラックス出来たり元気になったり‥‥何か、魔法みたいだな」
 小さな小瓶のセットが各人に配られ、天道はその一つを手にとってみる。
 天道の親指よりも小さな青い小瓶は、天道が軽く揺らすとアロマオイルがちゃぷんと小さな音を立てた。
「どんなものが調合されてできてくるのか‥‥楽しみです。うん、こういうのしっかりできるとすごく良いね。自分の好きな香りを作って楽しみたいな」
 女性陣よりもさらにアロマに馴染みのない柊も、天道が空けた小瓶を覗き込んでその甘い香りに目を細める。
「さあ、いまあなたたちの前には数種類のアロマオイルがあるわ。一般的に良く知られている物はラベンダーね。誰かラベンダーの効能を知っているかしら?」
 ホワイトボードに数種類のアロマオイルの名前を書き、その内の一つ、ラベンダーをまるで囲む。
「はい、先生。ラベンダーは安眠作用があり、頭痛などを抑える効果もあります。甘い香りが特徴で、肌を若返らせる効果もあります」
 都路が開いておいたノートパソコンのキーを打ち、画面にラベンダーのデータが表示される。
「都路さん、正解よ。ラベンダーは製油の中でも安価で手に入りやすいのも特徴ね。今日はこのアロマを使って入浴剤を作ります。全員、このプラスチックケースは行き渡っているかしら?」
 黄色い蓋のついたプラスチックのケースを沙納は見せる。
「塩、ですか?」
 宝野が自分のケースを手に取り、蓋を開けて首を傾げる。
 ケースの中には天然だろうか?
 普通の塩よりも粒の大きい塩が入っていた。
「これはバスソルトよね?」
 EUREKAは馴染みのそれにすぐにピンと来る。
 お風呂でのマッサージや保湿効果にバスソルトは女性のお供だ。
「これに、ラベンダーをニ滴、オレンジを一滴たらすんだね‥‥」
 沙納の説明に従い、柊は真剣な眼差しでバスソルトにオイルを足らす。
「センセー質問! これ、量を多く入れたらパワーアップしたりしまセンカ?」
 天道が慣れない敬語を使いつつ、ラベンダーを多めにバスソルトに振り掛ける。
 部屋中にラベンダーの甘い香りが充満し、それは安らぐというより鼻につくキツイ香りと化した。
「私は昔、母親がアロマをやってて‥‥でもちょっと使い方が間違ってたのか、芳香剤の原液をそのまま床に撒いたような、強烈にむせ返る匂いしか思い出にありません。そう、いまみたいな感じです」
 宝野が昔を思い出し、困った顔をする。
「つまり、多く入れても効果が倍増するのではなく、時には逆効果になってしまうんだね」
 沙納の説明を聞きながら、白井はうんうんと頷きメモを取る。
「ビタミン剤もそうでしょう。ビタミンAは摂取しすぎると死に至ることもあります。何事も適量です」
 都路がラベンダーとオレンジの配分を打ち込む。
「仕事の為に、気合を、えい! って入れたい時に相応しい香りと、オフの時に、ゆったりと安らぐ為の香りは、やっぱり、違う物ですよね?」
 桜も今作ったラベンダーとオレンジ入りの入浴剤の香りに小首を傾げつつ、聞きたかった事を尋ねる。
「あ、それ、俺も聞きたい。ストレスや緊張を和らげるアロマってあるかな‥‥」
 ライブのときの緊張感をやわらげたいという天道も興味津々。
「高ぶった神経を解すなら、レモンはお勧めね」
「先生、ネロリ! ネロリありますよね?! 柑橘系フローラルのあの香、好きなんですけどお高くて‥‥」
 EUREKAは沙納の口からレモンの名を聞き、同じ柑橘系のネロリの名を興奮気味に口にする。
 手元に配られたアロマは一般的なもので、ネロリはなかったのだ。
「柑橘系は私も好きかな? さぁっと広がる爽やかな香り」
 七萱は口元に人差し指を当て、聞きなれないネロリの名前をノートに取る。
「ええ、もちろんあるわ。何トンもの花から極僅かしか採れない物だからとても高価だけれど、合宿中は自由に使ってよくってよ」
 EUREKAがネロリの名を知っていたことに驚きつつ、沙納は鍵のかかったケースからネロリの小瓶を取り出してEUREKAに渡す。
 美容に数多くの効果をもたらすネロリを手に、そろそろお肌の質が気になりだすお年頃のEUREKAは大はしゃぎ。
「ああ、それと、先にこれを確認しておくべきだったわ。あなたたちの中で妊娠している方はいるかしら?」
 はっとしたように口にする沙納の爆弾発言に女性陣はもちろんのこと、男性陣も吹いた。
「せ、先生?!」
「身に覚えがありませんっ!」
 真っ赤になったり口をつぐんだり。
 驚く参加者に沙納はけれどきっぱりと言い切った。
「いいこと? これはね、とても重要なことなの。アロマテラピーはね、確かに身体と精神に良い効果をもたらすわ。
 けれど妊婦が使用した場合、ものによっては妊婦はもちろんのこと、胎児もしに至らしめることがあるのよ。それほどに強いものなの」
 沙納の真剣な眼差しに、参加者達の恥ずかしさも吹き飛び、真剣にメモを取る。
「妊婦が使用できるアロマももちろんあるけれど、基本的には使わないこと。どうしても使いたい場合は医師と相談するのよ?」
 念を押す沙納にみんな頷く。
 そしてそんなみんなに沙納は満足げに微笑み、
「さあ、バスソルトは出来た? そしたら今度は香水の製作よ。手元の透明なプラスチックケースを見て」
 沙納は今度は白いノズルのついた、水の入ったアトマイザーケースを手に取り説明しだす。


●ゆったりくつろごう。大好きな香りに包まれて。
「バスソルトで、お肌すべすべなんです‥‥僕、感動です」
 普段は自分の事を『私』という宝野も、バスソルトの香りに包まれた湯上りで、ゆったりとした気持ちで素に戻る。
「ストレスがたまってイライラしていたら、美しさからは遠ざかっちゃいますよね」
 ゆったりとした気持ちなのは桜も一緒だ。
(「既にキレイな人達ばかりだなぁ‥‥わたしも頑張るぞっ」)
 みんなと一緒にお風呂に入り、その見事な容姿とスタイルに圧倒されていた白井は、心の中でこっそりそう決意する。
 傍から見れば白井は黒い瞳も愛らしい美少女で、演技力も高く魅力的なのだが、いまひとつ自分に自信が持てないようだ。
「お、これは何の香り?」
 男湯から出てきた天道が、やはり湯上りの柊に声をかける。
 柊は昼間作ったアトマイザーを軽く手首に吹きかけているところだった。
「きゃるーん、ちょっとぽーっとしててかわいい感じの‥‥」
 甘いその香りのイメージを、柊はそう説明する。
 その表情はとても幸せそうだった。
「そっか。俺はこうゆう香りを作ったぜ」
 ポケットからアトマイザーを取り出し、天道もしゅっと空中に撒く。
 そしてその撒いた場所をくぐって身体に匂いを纏わせる。
 沙納の説明では製油はそのまま身体に付けるのではなく、純水に数滴垂らして天道のように使用するのが基本だという。
「いい香りだね‥‥」
「ちと量を入れすぎたか? ‥‥クシュッ!」
 鼻をひくひくとさせ、天道は軽くくしゃみをした。


●みんな、美しくってよ!
「美しさは、罪! ‥‥です」
 合宿最終日。
 ちょっぴり顔を赤らめつつ、白井は小さく呟く。
 その手には沙納が作ったアトマイザーが握られていた。
『自信がつくように。あなたは美しくってよ、おーっほっほっほっほ!』
 そう高笑いする沙納に強引に押し付けられ、白井は恐る恐る使っていたのだが、気のせいかちょっぴり自信がついてきたような気がする。
「ありがとうございました! これからも、いい香りを身にまとって、いいオンナでいるよう頑張りますね。皆さんも、又どこかのお仕事でお会いしたら、宜しくお願いします!」
 桜はほんわかとしつつも背をピンと伸ばし、挨拶をきっちりと済ます。
「えへへ、アロマ堪能、いっぱいしちゃいました。これからも自分磨いて、いちゃいちゃしたいっ」
 七萱はすべすべになった肌を見てうふふっと笑う。
 大好きな人を思えば、肌の手入れもより一層念入りになるというもの。
 合宿後も使える安価な製油を教わったから、自宅に戻ってからも毎日作れる。
「ネロリがもらえないのは残念だけれど、調合方法はばっちりだわ」
 EUREKAは普段一種類の製油しか使用していなかったが、合宿中にきっちりと調合の配分を聞いてメモしたノートを抱きしめる。
 一見華やかな芸能界。
 舞台やTV、裏方など、様々な場所で輝く彼らには、けれど一般人と同じように色々な悩みがあるのだ。
 アロマテラピーでリラックスして、心の悩みが少しでも晴れれば、笑顔もより一層美しく輝くというもの。
「みんな、美しくってよーーー! わたくしほどでなくとも、あなたたちは十分に美しく、若く、魅力と才能に溢れているわ。
 これからも自信を持って生きておゆきなさい。おーっほっほっほっほっほ!」
 やっぱり鏡は手放さずに高笑いをする沙納に見送られ、参加者達はこの合宿を無事に終えたのだった。