冥土のお仕事☆WhiteDayアジア・オセアニア
種類 |
ショート
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担当 |
霜月零
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芸能 |
1Lv以上
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獣人 |
1Lv以上
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難度 |
普通
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報酬 |
1.2万円
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参加人数 |
8人
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サポート |
0人
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期間 |
03/15〜03/19
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●本文
――思い遺したことはなんですか?
――行きたかった場所はどこですか?
――泣いている人はどこですか?
――その願い、その苦しみ、わたくしたちが解決しましょう!!
メイド喫茶『Entrance to heaven』。
略して『EH』
そこは最近流行のメイド喫茶で、シックで愛らしい黒いメイド服に身を包んだ少女達はもちろんのこと、イケメンのウェイターも取り揃えたちょっぴりメイド喫茶としては邪道なお店。
「参ったね」
そう言って、ホワイトデーに向けてお菓子を作るウェイター。
「どうしたニャ?」
頭を悩ませるウェイターに、猫耳をつけたメイドも相談に乗る。
「ホワイトデーが近いでしょう? EHでもそれ系のお菓子メニューを出すつもりなんですけれど、ほら、あそこ」
ウェイターが指差す先には、一人の青年。
タキシードを着て店の様子を木陰から伺う様子は、こちらからは実は丸見え。
「ありゃりゃ。営業妨害ニャ?」
そういって猫しっぽを揺らしつつ、メイドは目を細める。
青年が着ているタキシードは、近所に最近出来たライバル店、イケメンウェイターが主流の『Fantasy Space』の制服に間違いない。
「妨害というわけではないのでしょうけれど、ここ最近ずっと見張られていますからね。‥‥Dの時間について、知られなければいいのですが」
「うーん、確かにばれたら困るニャね」
Dの時間とは、EHのもう一つの仕事を意味する。
もう一つの仕事、それは迷い彷徨える使者の魂を天国へと導くことなのだが、霊の姿を見ることの出来ない一般人からしてみれば、相当に奇妙な行為である。
正直、怪しげな宗教団体やカルト集団として警察に通報されてもおかしくはない。
「こんな状態では、お菓子作りにも集中できません」
はふーと溜息をつくウェイター。
四六時中見張られていては、息も詰まるというもの。
「そうニャ! いいこと思いついたニャ。みんなでFantasy Spaceに遊びにいくニャ」
「え?」
「うん、いい考えニャ。みんなで遊びにいけば、いっぱい込んで見張る時間も無くなるニャー♪」
ご機嫌に笑うメイドに、呆れるウェイター。
でもちょっと、別のメイド喫茶というものにも興味があったり?
「‥‥ふむ。案外、いい考えなのかもしれませんね」
流石に全員いっぺんに遊びにいったらこちらのお店が人手不足になってしまうから、日替わりで。
はっきりきっぱり、お菓子作りも上手くいかないし、ここらで気晴らしに遊びにいくのもいいかもしれない。
「決まりニャね! みんなに知らせてくるニャー☆」
ご機嫌にかけてゆくメイドさんに、ウェイターも肩の力が抜けてゆくのだった。
☆冥土のお仕事キャスト募集☆
深夜特撮番組『冥土のお仕事☆』では、メイド服に身を包んだ特殊能力を持った少女達が、助けを求める幽霊達の願いを叶え、天国へと導いています。
ですが今回はライバルメイド喫茶『Fantasy Space』にみんなで遊びにいって頂きます。
●リプレイ本文
●ライバルメイド喫茶『Fantasy Space』
「営業妨害なんてしないニャ。ミャー達は遊びに行くだけニャ」
猫耳をぴょこんとたてて、ミャー(吉田 美弥(fa2968)が物陰からEHのライバルメイド喫茶『Fantasy Space』、略してFSを覗き込む。
「EHに来ていた方はいらっしゃるでしょうか?」
サエ(アカネ・コトミヤ(fa0525))は眼鏡に手を当てて、少し目を細める。
この位置からは、ちょっと目の悪いサエには中の様子が良く見えない。
なんとなく黒服の男性が数人いることはわかるのだけれど。
「本当にこの格好ではいるのか‥‥?」
普段EHでウェイターをしている男装の麗人・小鳥遊真白(小鳥遊真白(fa1170))は、元気いっぱいのミャーに少々気後れ気味。
それというのも、代理店長の陰謀でEHのメイド服を着させられているからだ。
ウェイター姿に慣れた小鳥遊には、黒いシックなメイド服はヒラヒラと足に纏わり付いて動きづらい。
「わ、噂通りカッコイイ人ばかりなのニャ。早く入るニャ♪」
しかしミャーはそんな小鳥遊の戸惑いはさくっと無視して、猫尻尾を揺らしてご機嫌にFSに入ってゆく。
「敵地偵察です。頑張りましょう!」
「仕方ない。腹をくくるか」
サエに励まされ、小鳥遊は軽く溜息をついてミャーの後についてゆく。
●メイド喫茶『Entrance To Heaven』
ミャーと小鳥遊がライバルメイド喫茶店へ遊びに(?)行っている頃。
EHでは死神見習い@仮免許中の蓮(鹿堂 威(fa0768))がウェイター姿でそれはそれはこき使われていた。
「あの‥‥俺も少しはお休みがほしいんですが?」
春だというのに真夏のようにだくだくと汗を流し、蓮は代理店長(イルゼ・クヴァンツ(fa2910))に訴える。
EHのメイド達がこぞってライバルメイド喫茶に行ってしまったから、その分のしわ寄せがお留守番組の蓮にどっと降りかかったのだ。
はっきりきっぱり、息つく暇もない。
蓮は死神だから息してないけど。
「ん? 何か言いましたか?」
代理店長はお客様用のコーヒーを入れながら、にこにこと切り返す。
「ですから、俺にもお休みを下さいと‥‥」
「うちの子たち、随分と危険な目に合ったような気がするんですがね?」
にこにこにこ。
顔が笑ってるのに目が笑っていない。
『可愛いうちのメイド達を危険に巻き込んでおいて、文句は言わせません』
そんな代理店長の心の声が聞こえてきそうだ。
過去に何度か霊がらみの事件でEHのメイド達は命の危機に晒されかけているのだ。
だが正直、それは蓮のせいというわけではなく、むしろ蓮が巻き込まれているような気がするのだが、それはそれこれはこれ。
「‥‥わかりました」
しゅんと肩を落として、蓮は再びお客に呼ばれて駆けて行く。
「まあこれもひとつの試練‥‥」
代理店長はそんな蓮を暖かく(?)見守る。
●イケメンウェイター
どきどき。
どきどき。
サエの心はさっきから高鳴りっぱなしだった。
「紅茶は如何ですか? お嬢様」
目の前のFSのウェイターが、本気でイケメンなのだ。
冴木 徹(星野・巽(fa1359))と名乗ったウェイターは背が高く、優しげな風貌の美青年で、店の中を偵察しようとしていたサエは正直しどろもどろ。
「い、いえっ、結構でございますですっ」
緊張のあまり言葉遣いもどこかおかしくなっている。
「ミャーはミルクティーがいいニャ♪ 美味しいお菓子も欲しいのニャ! ホワイトデーの特別メニューとかあるニャ?」
そして対照的にまったく動じていないミャーは、テキパキと注文をしてゆく。
「はい、かしこまりました。こちらのお嬢様はご注文宜しいですか? ‥‥あっ!」
さっきからずっと窓の外を眺めていた小鳥遊の顔を見て、冴木は手にしたトレイを落っことす。
「どうかしたか?」
小鳥遊が落としたトレイを拾って手渡すが、冴木は真っ赤になって店の奥に走っていってしまった。
「一体、あれはなんなんだ?」
メイドたち三人、首を傾げていると、別のウェイターが飲み物を持ってやってきた。
「冴木が失礼をした。代わりに柊紫苑がお嬢様方をおもてなしさせて頂こう。どうぞよろしく」
柊 紫苑(神楽坂 紫翠(fa1420))は少し苦笑しつつ、挨拶をする。
「柊さんですか? 蘭さんと同じ苗字ですね」
サエがつい先日の家出娘・柊蘭のことを呟く。
蘭は母親が低級霊に呪われて、そのお祓い資金を稼ぐ為にサエ達の働くEHに家出してきていたのだ。
EHのメイドと蓮が頑張って、無事に母親を助けることも出来たのだが、あれからとんと姿を見ていない。
元気だろうか。
「おや、従妹に会ったのか?」
「彼女とはお友達ニャね。柊さんは彼女のお兄さんかニャ?」
「いや、従兄だ。蘭は邪魔してないか? ああ言う性格だから、いつも邪魔して迷惑をかけている気がするんだ」
「大丈夫ですよ。蘭さんは一生懸命で真面目な子です。ちょっとドジなところもあるけれど、とてもいい子でしたよ」
サエに蘭を褒められ、紫苑は少し照れくさそうにする。
「今日は俺の奢りだ。ゆっくりと楽しんでいってくれ」
そういって一礼して去る紫苑に、三人は顔を見合わせて喜んだ。
●雪恵と蓮
「これ、受け取ってください!」
いきなりお客様から差し出された包みに、高梨雪恵(風間由姫(fa2057))は心底びっくり。
FSには行かず、蓮と共にEHの店番をしていた雪恵だったが、そういえば今日はホワイトデー。
バレンタインの時にお客様に義理チョコを配っていたから、そのお返しということらしい。
「ありがとうございます」
ちょっぴり顔を赤らめて、雪恵はそれを受け取る。
ずっと女子高通いで、身近な男性といえば亡くなった兄ぐらいだから、正直こうゆうことには慣れていなくて戸惑ってしまう。
けれど、義理でもなんでも雪恵の為にプレゼントを選んでくれたことがとても嬉しい。
ほわわんと幸せ気分に浸っていると、蓮に呼び止められた。
「仕事しろ。手が疎かになっているぞ」
なんだかいつもよりちょっとムッとしている様だ。
(「なにかな? 忙しいから怒ってるのかしら?」)
兄にそっくりな蓮に叱られて、雪恵は慌ててお仕事に戻る。
そんな雪恵の後姿を見つつ、自分の行動に不可解な物を感じている蓮。
(「何で俺、怒ってるんだ?」)
ここ最近、見たこともない景色が突然幻覚のように脳裏に思い描かれる事が増え、そしてそれは雪恵の側に行くと多く起こるから、それとなく雪恵を避けていたのだ。
けれど今は、雪恵の側に見知らぬ男が近づくのがなんとも嫌だったのだ。
雪恵は蓮の恋人でも、妹でもないはずなのに。
「まあ、そろそろFSにいった三人も戻ってくる頃だろうし、以前のお礼を兼ねて自作のクッキーと紅茶の用意をしておこう」
以前のお礼、と、自分でもまた覚えていないことを呟いて、蓮は首を傾げつつもクッキーを作り始める。
●衝撃の事実☆
FSでは、冴木がカウンターからちらちらと小鳥遊を見つめていた。
「まさか、彼は彼女だったなんて‥‥」
ここ最近、ずっとEHを見張っていた彼は、実は小鳥遊に憧れていたのだ。
男装の麗人とは知らず、でも男性を好きになる趣味なんて冴木にはなく、けれどどうしても小鳥遊だけは気になってしまって。
それで自分でもどうしたらよいものか悩みながら日々EHを覗いていたのだが、まさか女性だったとは。
「おい。いつまでそこに隠れてる気だ?」
「うわっと、柊さん!」
「そんなに驚くなよ。お前、彼女が気になるんだろ?」
柊はくいっと親指で小鳥遊を指差す。
「そんな、俺はべつに‥‥」
「バレバレだっての。俺が上手くセッティングしてやるからさ。玉砕して来い!」
バンと背中を押されて、冴木はよろよろと小鳥遊に近づいてゆく。
「幻想的な曲ニャね♪」
FSに流れるピアノにミャーはうっとりと耳をそばだてる。
店の奥に設置されたグランドピアノを弾いているのは柊だ。
白く、長い指先が鍵盤の上を踊る。
「あの、少し、宜しいですか?」
「なんだ?」
逃げて行ってしまった冴木に恐る恐る話しかけられ、小鳥遊はぶっきらぼうに答える。
(「どうせ自分は無愛想だし、もう少し愛想よくとか言われるんだろうな」)
そんなことを思っていた小鳥遊は、次の瞬間凍りついた。
「付き合ってください!」
「?!」
サエと、ミャーもいるというのに、冴木は真っ赤になって小鳥遊に頭を下げる。
もうそのまま、彫刻のように動けない。
「な、なっ、つき、つきあうっ?!」
予想していなかった展開に小鳥遊の脳は真っ白。
次の言葉が出てこない。
パクパクと口を金魚のように動かして声の出ない小鳥遊を、ミャーとサエはわくわくと見守る。
「やっぱり、駄目ですよね‥‥」
照れくさそうに頭をかく冴木に、小鳥遊は正気に戻った。
「‥‥友人からなら」
「えっ?」
「二度も言わすな! 友達からなら言いといっているだろう!」
真っ赤になってそっぽを向く小鳥遊に、冴木は周囲もはばからずやったーと叫び声をあげる。
ピアノを弾いていた柊は、二人の為に恋人達のラブソングを奏でだす。
●エピローグ〜恐怖のお仕事盛りだくさん?!
「おかえり‥‥さ、偵察帰りで悪いけれど、こっちも忙しいからお仕事お願い」
FSから戻ってきた三人に、代理店長はにこやかに微笑んでスタッフルームに戻ってゆく。
こころなしか笑顔がくったりとしている。
「うわわっ、みんな良く戻ってきてくれたね。お店が大変なのよ〜っ」
雪恵がおろおろと駆け寄ってくる。
三人が店の中を覗くと、いつもの倍近い男性客で溢れていた。
「これは一体何があったのでしょう?」
「ホワイトデー効果は恐ろしいニャ」
「ふむ。やるしかなさそうだな」
三人は頷き、お仕事に戻ってゆくのだった。