冥土のお仕事☆仮葬アジア・オセアニア
種類 |
ショート
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担当 |
霜月零
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芸能 |
1Lv以上
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獣人 |
1Lv以上
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難度 |
やや難
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報酬 |
1.2万円
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参加人数 |
8人
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サポート |
0人
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期間 |
03/22〜03/26
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●本文
――思い遺したことはなんですか?
――行きたかった場所はどこですか?
――泣いている人はどこですか?
――その願い、その苦しみ、わたくしたちが解決しましょう!!
メイド喫茶『Entrance to heaven』。
略して『EH』
そこは最近流行のメイド喫茶で、シックで愛らしい黒いメイド服に身を包んだ少女達はもちろんのこと、イケメンのウェイターも取り揃えたちょっぴりメイド喫茶としては邪道なお店。
いつもの様に閉店時間を迎え、店員達がくつろいでいると死神を思わせる店長が訪れた。
「Dのお時間です」
『Dの時間』とは、メイド喫茶のもう一つの仕事を意味する。
メイド喫茶『Entrance to heaven』のもう一つの仕事。
それは、死者の魂を天国へと導くこと。
「店長、それは一体‥‥?」
店長の軽く握られた手が、ぼんやりと光っている。
そっとその手を開くと、中には人の魂が。
丸く、淡い光を放つそれは、人型をもう保つことが出来ないほどに弱っていた。
「この魂を、救って頂きましょう」
しわがれた、けれど慈しみ溢れる声で店長は言う。
『どうか‥‥私の身体を‥‥葬ってください‥‥』
微かに震え、蛍の如き淡い魂は願う。
「あなたの願い、叶えましょう」
店長以下、メイド喫茶店員達がカメラ目線でずらりと並び微笑んだ。
☆冥土のお仕事キャスト募集☆
深夜特撮番組『冥土のお仕事☆』では、メイド服に身を包んだ特殊能力を持った少女達が、助けを求める幽霊達の願いを叶え、天国へと導いています。
今回は今にも消えてしまいそうな弱い魂を救って頂きます。
☆成長傾向☆
芝居、発声、容姿
●リプレイ本文
●柊塊
「ふぅん? 良い物見つけた♪ こいつで、小手調べだね?」
柊魂(月 李花(fa1105))は土砂の中に埋もれたそれを見つけ、くすくすと嗤う。
幼い少女の姿をした悪霊は、ソレに手をかざす。
かざされた手から少女の内面の黒さが滲み出したかのような黒い塊がソレに注ぎ込まれ、既に死していたはずのソレは少女の命に従って、ゆっくりと動き出す。
「魂は、今不在のようだから、コイツを仕込んで置いて‥‥後、予備に罠も張っておこう。さあ、楽しませてよ? 主のために‥‥」
くすくす、くすくす。
あどけなさの中に滲む残忍さで、少女は嗤い続ける。
●消えかけた魂
それは、冥府から地上への帰り道。
店長((西風(fa2467))が定期報告と情報収集と、いままで天国へと導いた魂の様子を確認し、メイド喫茶『Entrance to heaven』へ向かう途中の出来事だった。
「ん? なんや、やばいもんがきえかかっとるで?」
店長と共に地上に降りてきていた冥府の死神・橘 狩(つぶらや左琴(fa1302))が店長に声をかける。
「あれは、人の魂ではありませんか」
闇の中、ほんのりと光り輝く球体。
淡く、儚い輝きを持ち、今にも消えかかっているそれは人の魂にほかならない。
「これは酷い状態やで‥‥。コレで多少の時間はもつやろうか」
すぐに駆け寄り、橘は消えかけた魂に魂檻を施す。
死神の作り出す特殊な檻の中に保護された魂は、ほんの少しだけ、光を取り戻したようだった。
これで、今すぐ消えてしまうという事態は避けられるだろう。
「急ぎましょう」
店長の言葉に頷き、二人は帰路を急ぐ。
●メイド喫茶『Entrance to heaven』
「桜が咲く頃ですね〜」
のんびり、のんびり。
高梨雪恵(風間由姫(fa2057))が店のお掃除をしているとき、それは起こった。
「ちーとじゃまするで。この魂どうにかしたってや」
突如関西弁の死神・橘が現れたのだ。
「ま、まあっ、人の魂を檻に入れるなんて、あんまりです!」
サエ(アカネ・コトミヤ(fa0525))は咄嗟に霊力を練り上げて具現化させた銃を構える。
人の魂を檻の中に入れている橘は、一見どこからどう見ても悪人だし。
「おぉ、違うのですよ。サエさん、落ち着いてください。これには、事情があるのですよ」
橘に少し遅れて、空間から店長が姿を現す。
「それ、消えかけてるな」
死神見習いの蓮(鹿堂 威(fa0768))がすぐに異常に気づき、実体化していた身体を死神のそれへと戻す。
メイド喫茶EHで実体化している分だけ修行となり、霊力が伸びそうなものなのだが、最近は一向に伸びる気配がない。
だから実体化しているよりは霊体でいるほうが霊力が上がるのだ。
「そうなんや。これ、ここにくる途中で見つけたんやけどな? 見ての通り弱りきって消えかかっとんのや。
そのままにしておいたら消えるのはわかりきっとったから、とりあえず俺の能力で補強しといたんよ。この檻の中にいる限り、すぐには消えへんで。
そんなわけで可愛いお嬢さん、その銃下ろしてもらえへんやろか?」
苦笑して、橘はそっとサエの銃口を片手で下げる。
「す、す、す、すみません、すみませんすみませんっ」
どうやら敵ではないどころか店長の知り合いだとわかり、真っ赤になってサエは俯く。
「でも、どうして人の魂がこんな状態になっちゃってるの? 元の姿がわからないわ‥‥」
通常、人が死に魂となった場合、人の姿をとっているはずなのだ。
それが死んだ時の姿のままか、はたまた若い頃の姿かは人によるものの、今回のように蛍の光のごとく淡い光の塊となっていることは珍しい。
「近頃、定められた運命を終える前に尽きる魂が増えているようです。そしてそれらのうちの幾つかは、天へ帰ることなく、文字通り『消えて』いるのです。この魂は、偶然彼が見つける事が出来たのですが‥‥」
閻魔帳に記載されていない死亡者が増え、そして天へと還らない事実。
そのこともあって、今日は死神を連れて現世たるこの場所へ訪れたのだ。
『どうか‥‥私の身体を‥‥葬ってください‥‥』
途切れ途切れに、けれど死神から力を分け与えられた魂(神楽坂 紫翠(fa1420))は、願いを口にする。
「身体になにがあったの? ううん、どこに身体はあるの? それがわかれば、すぐに私たちが弔ってあげれるのよ」
雪恵がその大きな瞳で魂を覗き込むように尋ねる。
『山の‥‥中‥‥土砂で‥‥‥‥あぁ、私は‥‥人を殺したくなど‥‥ないのに‥‥!』
苦しげに呻く魂の言葉は断片的で、要領を得ない。
橘がはっと何かを感じ取り、死神の鎌を振るう。
すると空間が切り取られ、夜の闇の中を彷徨う青年(神楽坂 紫翠(fa1420))の姿が映し出された。
その手には、今まさに人を殺してきたのだろう、死した時の黒く変色した血とは違い、赤い鮮血が滴っている。
『殺せ‥‥コロセ殺せころせ殺せ‥‥いやだああっ!』
その情景を見た魂は、心の底から悲鳴を上げる。
闇を彷徨うこの青年こそが、この魂の身体なのだろう。
なぜ、それが動いて人を殺しているのかはわからないが、一刻も早く止めなくてはならない。
「この空間をくぐれば、現場に向かうことが出来るでしょう」
店長が橘の作り出した空間へ、メイド達を促す。
「いってきます!」
「やるしかないわね」
サエと雪恵、二人のメイドは顔を見合わせて頷いて。
各々の武器を持って、空間に飛び込んだ。
「おいおい、二人だけなんて無謀すぎるぞ。お兄ちゃんは心配だ」
はて、お兄ちゃん?
またもや自分でもわけのわからないことを呟いて頭を悩ませつつ、蓮も二人の後を追う。
●歪められた死。
「ふふっ、やっぱりきたんだね。存分に楽しませてもらうんだよ♪」
鏡の中を見つめ、柊魂はくすくすと嗤う。
そこでは、目に映るものすべてを殺すように命じた遺体と、メイドたちの姿が写しだされていた。
「止まってくださいです!」
サエが銃を構え、遺体を呼び止める。
呼ばれたそれは、ゆらりと傾いで、次の瞬間、黒い炎がその手から打ち放たれた!
「そんなの、効かないわ!」
雪恵が竹刀を構え、炎を真っ二つに割り止める。
二つに割れた炎は大きく軌道を逸らし、周囲の木に当たり腐食させた。
「当たったら、腐ってしまうのですね‥‥」
サエの額に冷や汗が流れ落ちる。
「当たらなければいいんだわ。人の死をこんな風に弄ぶなんて、許せないのよ!」
雪恵が一歩足を踏み出し、そのまま遺体に攻撃を繰り出す。
「援護しよう」
蓮が雪恵とサエに加護を施す。
その加護は死神見習いにしては妙に強いものだったが、そのお陰で雪恵の身体には決して触れることなく遺体の攻撃は全て消滅した。
「あなたを、天国へと還して差し上げます!」
サエも叫び、銃に霊力を注ぎ込む。
そして撃ち放つそれは普段の七色に輝く銃弾とは違い、白く、聖なる炎。
以前の、哀れな悪霊との戦いで手も足も出なかったサエは、ずっと一人で訓練を続けていたのだ。
今度こそ、哀れな魂を自らの手で救ってあげられるように。
「「安らかに、眠っていただきます!」」
二人同時に、遺体へ攻撃を注ぎ込む。
もともと悪霊に操られていただけの哀れな遺体は大して強くなく、二人のメイドたちの力の前に成す術もなく浄化された。
サエの白く聖なる炎に包まれた遺体は、一瞬、微笑んだかのように見え、そして灰へと還ってゆく。
「これで、あの魂も助かるかしら‥‥っと、サエさん?!」
ほっと息をつく雪恵の前で、サエが倒れた。
「大丈夫だ。霊力を使い果たして気を失っているだけだ」
サエを抱きとめて、蓮は雪恵を安心させるように呟く。
●エピローグ
「お前達やったなあ!」
バンバンバン!
EHに戻った三人を満面の笑みで向かい入れ、橘は蓮の背中を思いっきり叩く。
「い、痛いですよ、先輩‥‥」
「なーに、固い事いいっこ無しやで。ほら、疲れた後にはおいしい飲みもんや。これでも飲んで霊力回復しとき」
蓮の抗議はさくっと無視して、橘は懐から小瓶を取り出す。
水色の、淡く輝くそれは神秘的で、見ているだけでも心が和んだ。
「なんだか、身体が軽くなりました」
一口飲んで、サエは瞳を輝かす。
意識は取り戻したものの慣れない力を使ったせいで霊力を殆ど使い切ってしまった身体に、ほんのりと暖かさが戻ってくる。
橘の軽い口調からはあまり察することが出来ないが、恐らくこれはとても貴重な飲み物に違いない。
『ありがとうございます‥‥これで‥‥天へ還れる‥‥』
魂檻の中で、消えかけていた魂がメイド達にお礼を言う。
「さて、じゃあ俺らは帰るで。はよ、この魂を連れて行ってやらんとあかんしな」
橘は冥界への空間を開く。
「可愛いお嬢さんたち、またお茶でも飲みに来るから慰めてな♪」
チュッと投げキッスをして、橘は冥界へと帰ってゆく。
「本当に、皆さんお疲れ様でした。ゆっくりと、休んでくださいね?」
魂が消えてしまわないように店に残り、祈りを捧げていた店長はメイド達に微笑む。
なぜ、最近になってこれほど多くの事件が発生するようになったのか。
(「私達の知らない何かが動き出しているのかもしれませんねぇ‥‥」)
その“何か”に心当りがあるとすれば、それはきっと当たっては欲しくはないモノ。
でも。
(「たとえどんな相手であろうと、私達は退くわけにはいかないのです」)
迷える魂を救うために。
生命の還えるべき場所を守るために‥‥。
闇の中。
柊魂はぷうっとほっぺたを膨らます。
「つまんないな〜。また負けだよ。でも、それぞれのデータはそろったかな。それにしてもあいつら邪魔なんだよね〜主のためにはどうにかしないと‥‥」
『てこずっていないか? アイツらに‥‥我等の出番か』
そんな彼女の呟きに、闇の中から声がかかる。
「あれ? どうしてここに‥‥てこずっていないよ、本気出してないからね。暇なら、手伝ってよ‥‥次はね? もっと楽しい遊びを考えてるんだよ♪」
『力を貸してもいいが、借りは高くつくぞ‥‥』
くすくす、くすくす。
闇の中、悪霊たちの笑い声が響いた。