街角クリスマスアジア・オセアニア
種類 |
ショート
|
担当 |
霜月零
|
芸能 |
1Lv以上
|
獣人 |
1Lv以上
|
難度 |
普通
|
報酬 |
不明
|
参加人数 |
8人
|
サポート |
0人
|
期間 |
12/07〜12/16
|
●本文
昔ながらのガス燈を模した街頭に照らされて。
雪の降り積もる街の片隅で聖歌を歌うシスター達。
黒のシスター服に身を包んだ彼女達の姿は、幻想的だった――見た目だけならば。
「ままー、これ、なにー? うるさいようぅ」
「しっ! 見ちゃいけません!」
幼い子供が聖歌隊を指さして泣き、母親は慌てて子供の腕を引いて逃げ去ってゆく。
「煩いわねえ、他所でやってよよそで!」
と聞こえよがしに顔をしかめて去ってゆくものもいれば、そこまではいわないもののあからさまに耳を塞いで足早に通り過ぎる人もちらほら。
「主への信仰心が足りないのかもしれませんねぇ」
一番年長のシスター・柏木がおっとりと呟く。
けれどみんな、原因はそんなことではないことは分かっていた。
声量無い、音感無い、お金も無い。
無いない尽くしのへたっぴ聖歌隊。
それがこの聖歌隊の実態なのだった。
主への信仰心は厚く、清廉潔白な彼女達だったが、いかんせん、音楽はド素人。
沢山練習しているものの、一向に上達の見込みは無く、街角で歌えば結果はこれ。
誰一人、足を止めて歌を聴いてくれる人などいはしない。
クリスマスには、この街の広場にある大きなモミの木の前で毎年聖歌を歌っているのだが、当然のごとく不評。
このままでは来年からの聖歌は隣町の教会に頼まれることになるだろう。
そうなれば、ただでさえこの街の教会は人の足が遠のいているのだ。
もう一人も来てくれなくなるかもしれない。
主への想いは教会にくる人の数ではかれるものではないとはいえ、辛いのだ。
「どなたかに、歌を教えていただければいいのだけれど‥‥。主よ、どうか我らをお救いください‥‥」
夜空に浮かぶ月に、十字を切るシスター達だった。
●リプレイ本文
●神様のお導き†
教会から響く、素敵な鐘の音に混じり、なにやらボソボソもそもそと歌声らしきものが辺りに響き渡る。
「歌、か?」
ジーン(fa1137) はふと歩みを止め、教会の門をくぐる。
「これが歌? 信じられないわね・・・・」
谷渡 初音(fa1628) は眩暈を覚えそうになりながらも、やはり教会の門をくぐってしまう。
「俺が荷物持ってやるよ」
たまたま教会の前を通りがかった各務 零司(fa2365)は、重そうな荷物を抱えてよろよろとしていたシスターをそっと手伝い、
「聖歌隊・・・・学院にいた頃は毎年クリスマスには参加していたから懐かしいわね」
「なにやら不思議な音ですわ」
エリーセ・アシュレアル(fa0672) と大和・美月姫(fa2439)も何かに惹かれるように教会へと入ってゆく。
教会の中では、数人のシスター達が必死に、そしてその必死さに反比例した歌声で聖歌を歌い続けていた。
プロダクション所長のイオ・黒銀(fa0069)に連れられて、星野 宇海(fa0379)もその時ちょうど客席でそれを聞いていた。
ひっそりと、客席の隅で聖十字架に手を添えながら、寒河江 薫(fa2239)もその場になぜか居合わせた。
聖歌というより、雑音といったほうが近いそれは、犯罪的なまでに聴くのが苦痛。
次々と席を立って去ってゆく客席の中で、でも、その場にたまたま集まった8人はなぜか立ち去ることが出来なかったのだった・・・・。
●どんな練習をしているのかな?
「うう・・・・また『プロは無償で働かないっ』とかお母様にお小言をいただきそう。でもほら、クリスマス精神は見返りを求めるものじゃないし」
独り言のように自分に言い訳しつつ、優しいエリーセはシスター達に協力を申し出る。
へたっぴで、がっくりと落ち込むシスター達を見るに見かねて、8人はシスターを慰めつつ、なぜか音楽指導をすることに。
「・・・・はじめまして。シスターの皆さん。寒河江薫といいます。・・・・よろしく。ここにはオルガンがあるようだけれど・・・・故障中かな・・・・?」
教会の隅で、綺麗に手入れをされてるいるにもかかわらず、先ほどの聖歌で誰も弾いていなかったそれを不審に思い、寒河江はそっと弾いてみる。
(「調律はあっているね・・・・」)
「まぁ、貴方はオルガンを奏でることが出来るのですか?」
音を調べる寒河江にシスター・柏木は驚きの声を上げる。
「ピアノと、バイオリンなら。オルガンは・・・・ピアノの応用で」
「素晴らしいですわ。わたくしたちは誰一人弾くことができませんでしたのよ。もし宜しかったら、弾き方も教えてくださいませんか?」
「すぐに覚えることは・・・・難しいよ・・・・。それよりも、肝心な聖歌を完璧にしたほうがいいと思う・・・・」
淡々と現状を的確に判断する寒河江に、シスター達は素直にうんうんと頷く。
「まずは原因を検討、絞り込みをして個々の対処を検討しましょうか?」
練習の仕方などについても何か問題はないかと考え、大和はシスター達の中に入り一緒に歌いだす。
ただ歌ってもらうだけではなく、シスター達と一緒に歌うことによって、何か原因解明の糸口を掴もうとする。
「・・・・基本的なことがなっていないわね。発声基本は腹式。お腹に力を込め、それを背中やお尻の筋肉で支える様に声を出すようにするのよ。そんな風に俯いてしまっては、せっかくの声がくぐもってしまうわ」
谷渡が一番年少のシスターの背に手を当て、くいっとあごを持ち上げてあげる。
とたんにか細くほとんど聞き取れなかった高く澄んだ声が聞こえるようになる。
「でも皆様音域がばらばらですわ。背の順で並ばれているのは整然としていて見た目はとても良いのですが、ソプラノのお二人がアルトの方をはさむように歌われては、アルトの方は声がつられてしまいますわ」
一曲歌い終わったあと、大和は疲れ気味に問題点を指摘する。
シスター達の音域がばらばらな為に、歌好きの大和といえども声がつられそうになったのだろう。
「ちょっと、音程を一人ひとり調べて見ようかな?」
「そうだな。寒河江、伴奏やってくれるか?」
イオと各務がそれぞれシスター達の音域を調べ、寒河江は二人の合図に従って音を出す。
「オルガンのラの音にあわせて声を出せるかな? うん、そんな感じだね。一つ上のシの音もいい感じだよ。ドの音も合わせられるから、あなたはソプラノのパートだね」
てきぱきと16人のシスター達はそれぞれアルトとソプラノパートに分けられてゆく。
「アルトが少し少ないか?」
ソプラノ10人に比べてアルトは6人と意外と少ない。
「それでしたら、私がアルトに入りますわ。頑張って練習して神様と街の皆様に見ていただきましょうね♪」
不安そうなシスターに星野は元気付けながら微笑む。
「やっぱり頑張っている人が報われないと悲しいものね。大丈夫、私達が付いているからね」
エリーセも力強く請け負って、シスター達の猛特訓が始まった。
●練習練習でもたまにはちょっぴり息抜きも♪
「一つ確認。シスター達はカトリックだよな? プロテスタントなら、聖歌ではなく賛美歌と表すはず。カトリックなら、最終的に目指すはグレゴリオ聖歌か。本格的に歌うとすれば、無伴奏で単調、おまけにラテン語だ。日本人には難しいが、ソロで聴きたい気もする」
両親がルーマニア人とフィンランド人の為だろうか?
フィンランドではカトリックよりもプロテスタントのほうが多いようで、ジーンにとってはもしかしたら聖歌よりも賛美歌のほうが馴染み深いのかもしれない。
「俺が教えられるのはラテン語と英語だな。英語のほうが一般人にも分かりやすいだろうし、あんた達にも歌いやすいと思う。俺の発音を真似てみてくれ」
無愛想で、一匹狼なジーンの指導に、シスター達はおっかなびっくりで発音を真似る。
「さあ、簡単にストレッチをしましょうね。上半身を中心に、身体をゆっくりとほぐしてゆきましょう。腹筋運動と背筋運動、それに出来れば腕立て伏せで必要体力の鍛錬も必要ね。体力が付けば、それだけ声量を上がるのよ」
本業がボイストレーナーだけあって、谷渡の指導は手馴れたものだ。
「目線は少しだけ上、背筋を伸ばし顎も軽く引く。下を向いていては駄目よ? だんだんと練習すれば、出辛い音域も次第に出せるようになるわ」
少し温めの紅茶を入れてあげて、シスター達の喉をいたわることも忘れない。
「仕事、いっぱいあるんだろ? どんどん俺に言ってくれよ。手伝うからさ」
「食事の用意なら私に任せてね? 料理は得意なの」
練習に時間を取られ、日々の雑務まであるシスター達を、各務とエリーセが率先して手伝い、歌う時間をいっぱい作れるように全面的協力してゆく。
本番は、もうすぐ。
●街角クリスマス
「皆さん、準備はいいですか?」
シスター・柏木が心持青ざめた表情でシスター達を見渡す。
街の中央公園。
綺麗に飾られた大きなモミの木の前に集まるシスター達。
そのすぐ横には、ジーンと寒河江、そして各務の男性陣が軽トラックを借りて根性で運び出した教会のオルガン。
音源は町の許可を得て、バッテリーを借りてきてある。
「・・・・頑張ろう。大丈夫。初めから上手な人なんていないんだ。俺も、習い始めの頃は、バイオリンで、飛ぶ鳥も落としそうな怪音波出していたしね」
ソロを歌うことになった一番年少のシスターの手をそっと握ってあげて、寒河江は元気付ける。
カタカタと緊張のあまり小刻みに震えていたシスターの手が、ほっとしたように震えを止める。
「いつも通りに歌えばいい。練習の時、十分上手だったよ」
ポンとその背を押してステージへと送り出し、自分はオルガンへ。
みんなの見守る中、寒河江の伴奏に合わせて少女が歌いだす。
その歌声に、街の人々が一人、また一人と歩みを止めて、次第に客席は埋まってゆき、人だかりが出来てゆく。
集まりだした人々に緊張が再び戻り、声が上ずりそうになるシスターへ、観客席からジーンが盛大な拍手を送って無言で応援を送る。
拍手の音に励まされ、最後まで歌いきるシスター。
「街角聖歌隊のクリスマス発表会にようこそ。この日のために、一生懸命、練習しました。プロの歌い手たちの力を借りて。
聖歌隊は生まれ変わりました。お聴き下さい。この街の聖歌を担う者たちの歌声を!」
シスター・柏木が、事前に寒河江からアピールするように伝えられていた言葉を鳴り響く拍手に乗せて宣言する。
ステージには、シスターと共に、エリーセ、星野、そして谷渡と大和もシスター服に着替えて上がっている。
シスター・柏木の合図で寒河江の伴奏に合わせて歌われた聖歌は、『きよしこの夜』。
日本語ではなく、英語で歌われるそれは、ゆっくりと、優しく夜の街に響き渡る。
いつもの和服から着替えてシスター服に身を包んでいても、大和の雰囲気は独特で、ほんわかとした空気が漂い、元ソプラノ歌手であるエリーセの声は迷いそうになるシスターたちの声を確実な音へと導く。
谷渡と星野は副旋律を歌い、拙いシスターたちを完璧にフォロー。
美しい聖歌を拍手で称える観客に、イオが自腹で購入した暖かいココアを観客に配り、「教会をよろしくね?」と微笑んだ。