冥土のお仕事☆お花畑アジア・オセアニア
種類 |
ショート
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担当 |
霜月零
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芸能 |
1Lv以上
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獣人 |
1Lv以上
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難度 |
やや難
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報酬 |
1.2万円
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参加人数 |
8人
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サポート |
1人
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期間 |
03/29〜04/02
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●本文
――思い遺したことはなんですか?
――行きたかった場所はどこですか?
――泣いている人はどこですか?
――その願い、その苦しみ、わたくしたちが解決しましょう!!
メイド喫茶『Entrance to heaven』。
略して『EH』
そこは最近流行のメイド喫茶で、シックで愛らしい黒いメイド服に身を包んだ少女達はもちろんのこと、イケメンのウェイターも取り揃えた、ちょっぴりメイド喫茶としては邪道なお店。
「Dの時間です」
全身黒い衣装を纏い、死神を思わせるマントをなびかせた老人が声をかける。
彼こそ、このメイド喫茶『Entrance to heaven』の店長。
そして『Dの時間』とは、メイド喫茶のもう一つの仕事を意味する。
メイド喫茶『Entrance to heaven』のもう一つの仕事。
それは、死者の魂を天国へと導くこと。
迷い、悩み、さ迷える死者の魂を救うこと。
「今回は、とても厄介な現象を解決していただきます」
店長はそうメイド達に伝えると、ステッキで虚空に円を描く。
そこに描き出されたのはお花畑。
色とりどりの花が咲き乱れるそこはまさに楽園。
けれど、なぜだろう?
とても美しい光景なのに、違和感を感じる。
「まさか‥‥これって天国なのかな?!」
巻き髪ツインテールを揺らし、メイドの一人が呟く。
「ある意味、正解です。ですが、半分不正解。この花畑は、現実世界にあるのです。そう、わたしたちが今いるこの世界に」
店長が再びステッキをかざすと、花畑の周囲が映し出される。
遠くのほうに山が見え、広々とした草原にあるその花畑は、けれど空を飛び去る飛行機が間違いなく現実世界であることを物語る。
「天国と、ふつーのお花畑がくっついちゃってるニャ?」
猫尻尾を揺らし、別のメイドが事態に気づく。
こくりと頷く店長。
信じられないことに、天国にある花畑と現実のそれが同化してしまったのだ。
「一刻も早く二つを切り離さねばなりません。早急な解決を望みます」
いつもよりも幾分、冷たい口調がことの重大さを物語る。
メイド喫茶店員達は、こくりと息を呑むのだった。
☆冥土のお仕事キャスト募集☆
深夜特撮番組『冥土のお仕事☆』では、特殊能力を持ったメイド服に身を包んだ少女達が、助けを求める幽霊達の願いを叶え、天国へと導きます。
今回『お花畑』では、天国のお花畑と、現実のお花畑が何故か混ざってしまったようです。
原因を究明し、二つを元の様に別々にして頂きます。
なお、お花畑がそのまま混ざっていますと、死んでいないのに天国へ行くことになったり、そのまま戻ってこれなくなったりと大変危険です。
●リプレイ本文
●大切な場所‥‥
大切な、場所だった。
「こんな場所があるから、お母さんは死んじゃうのよ! お母さんが死んだら‥‥絶対に埋め立ててやるわ!」
今際の際、泣きながら愛娘は叫んでいた。
『違う‥‥違うのよ‥‥この場所は‥‥花畑は大切な思い出なんだよ‥‥』
木宮美桜乃(悠奈(fa2726))は必死に娘に思いを伝えようとするが、声がでない。
娘の嫌う花畑には色々と曰くがあり、その昔沢山の死人を出したという。
けれど美桜乃には、亡くなった夫との思い出が沢山詰まった大切な場所なのだ。
『どうか‥‥花畑を奪わないで‥‥』
美桜乃は死してなお願う。
どうか、花畑にいさせてと。
「願うだけで‥‥よいのか‥‥このままでは‥‥お前の花畑は消え去るぞ‥‥?」
不意に、声がかけられる。
死ぬその瞬間の時の思い出と過去の思い出、そして今の願いに捕らわれて花畑を彷徨っていた美桜乃は、その声に恐怖する。
『嫌よ‥‥花畑を消さないで‥‥』
「ならば力を貸してやろう‥‥ほうら!」
声の主―― 悪霊たる橘桂(神楽坂 紫翠(fa1420))は闇の中から手を差し伸べ、白い宝珠を霊である美桜乃の魂に埋め込んだ。
『あぅ‥‥くるし‥‥い‥‥』
「すぐに楽になるさ‥‥お前は天国にもいけず‥‥この花畑を奪われるわけには行かないだろう? ‥‥さあ‥‥恐れずに力に身を委ねるがいい‥‥」
『この場所は‥‥誰にも奪わせはしないのよ‥‥この場所こそ‥‥私の天国‥‥』
唆され、その身に埋め込まれた宝珠の力に引きずられ、美桜乃は悪霊に言われるままに邪悪な力を受け入れる。
宝珠は美桜乃の思いに応え、天国と現世を繋ぎ止めた。
「ふふっ‥‥なんと面白い‥‥あとはこれを埋め込むだけ‥‥」
闇の中、漆黒の宝珠がきらめき、花畑へと吸い込まれてゆく。
くつくつと。
邪悪な笑い声を響かせながら、橘桂は事の成り行きを見守る。
●メイド喫茶『Entrance to heaven』
『風邪を引いてしまいました‥‥すみませんがお休みさせてください‥‥』
電話口の向こうでEHのメイド・雪恵(風間由姫)が死神見習いにしてEHの臨時ウェイター・蓮(鹿堂 威(fa0768))に伝える。
その声は鼻声で、いつもの明るい雪恵と違っていて蓮はいてもたってもいられなくなる。
「おい、俺が今から行くから待ってろ!」
『えっ? そんな‥‥駄目です‥‥‥‥』
「馬鹿、お前熱出してるんだろ? お前は風邪引くと喉をやられやすいんだから無理すんな。蜂蜜入りの紅茶淹れてやる」
『‥‥お兄ちゃんも私が熱を出すと‥‥蜂蜜入りの紅茶淹れてくれたっけ‥‥でももう‥‥自分で淹れれるから大丈夫‥‥一人で平気よ‥‥お店を休んで‥‥ほんとにごめんなさい‥‥』
蓮が応えるより早く電話が切れ、蓮は受話器を置いて舌打ちする。
「あいつはもう、なんだってこう、強情なんだ? いつも心配かけまいとしやがって。そっちのほうがよっぽど心配だっての!」
「蓮、どうかしましたか? 声を荒げて珍しいですね」
EHの代理店長(イルゼ・クヴァンツ(fa2910))が声をかける。
「雪恵から休むって電話がかかってきたんだ。真面目なあいつが休むってことは相当体調が悪いんだろうに‥‥一人で平気だとか抜かしやがって! っと、店ん中で騒いですみません‥‥」
ついつい再び声を荒げてしまった蓮は、店内の客の目線に気づいて慌てて代理店長に頭を下げる。
「いえ。いいんですよ。‥‥彼女が気になりますか?」
意味深に、代理店長は尋ねる。
「そりゃ気になりますよ。バイト仲間なんだし‥‥」
「それだけ、ですか?」
「それだけって? あっ、オーダーとって来ますよ」
首を傾げつつ客の元へゆく蓮を、代理店長は温かく見守る。
(「大分、生前の魂に感情が引きずられていますね」)
死神見習いの蓮の生前。
それは、EHに助けを求めに来た雪恵の兄・秋葉蓮に他ならない。
EHのメイド達の活躍により天国へと導かれた蓮の魂は生前の記憶を全て初期化され、死神として生まれ変わっていたのだが‥‥生前もっとも大切だった雪恵の側にいる為か記憶が蘇りつつあるようだ。
死神・蓮が雪恵の兄であった秋葉蓮と同じ魂を持つ者だとは、EHでは店長と代理店長しか知らない。
そう、雪恵はもちろんのこと、本人である蓮さえもはっきりとは知らないのだ。
二人とも薄々感づいてはいるのかもしれないが、全てを思い出した時、死神としての蓮はどうなってしまうのか。
それは代理店長にはわからない。
(「私にはただ、見守るしか出来なさそうです」)
ふうっと軽く溜息をついた時、店長が店に訪れた。
●Dの時間
花畑を物陰から見つめ、EHのメイド達と蓮は様子を伺う。
「あのお花畑の所有者はあの人かニャ?」
店長から告げられた緊急事態―― 天国と現世の花畑が同化してしまった現場に来て、ミャー(吉田 美弥(fa2968))は猫耳をパタパタと動かす。
幻想的な花畑の中心で、若く美しい着物姿の美桜乃が佇んでいた。
もっとも、それは霊力のあるものにしか見ることの出来ない死した魂だったが。
「恐らくそのはずです‥‥でもなんて霊力なのでしょう? 天国と現世を繋いでしまうなんて」
今までにない出来事に、サエ(アカネ・コトミヤ(fa0525))は戸惑いながら眼鏡を押さえる。
「亡くなったのは数週間前です。八十三歳というお歳で亡くなられた筈ですが‥‥きっと想いのままに姿も変化してしまったのでしょう」
帆乃香(都路帆乃香(fa1013))が愛用のノートパソコンに映し出されるデータを見ながら状況を判断する。
「見た目は若そうだけど、天寿を全うしたお婆さんなのニャ? きっとお婆さんが天国に行かないから、お花畑と繋がったままなんだニャ」
「なんでお婆さんがお花畑に留まっちゃったのか、あなた理由わかるかな?」
立花(あいり(fa2601))がトレードマークのツインテールを揺らして帆乃香のノートパソコンを覗き込む。
「任せてください。情報収集は得意です。ご家族の方からお聞きしました所、亡くなったご主人とはこの花畑で知り合ったのだそうです。
あまり良い噂のなかったこの花畑になぜ二人が赴いたのかまではわかりませんが、お婆さん‥‥美桜乃さんにとってはかけがえのない場所だとよく娘さんにお話していたそうです」
「なら、何か他におばあさんと恋人さんとの想い出の品が無いか探して見ようかな〜」
「無駄だ。よせ」
四葉のクローバーとかと呟く立花を、蓮が制した。
「蓮さん‥‥?」
その冷たい口調に、言われた立花はもちろんのこと、メイド達は一瞬戸惑う。
蓮は元々言葉使い自体はぶっきらぼうな面もあるが、基本的に優しくてこんな風に強気に他者に接するタイプではないのに。
(「俺は、何で無駄に心配をしていたんだろうな?」)
先ほどまで雪恵が心配でたまらなかった自分に苦笑する。
その表情は雪恵の兄・秋葉蓮とは違い、死神・蓮としての自信に溢れたもの。
最愛の妹の元を離れたことで、今まで表面化していた秋葉蓮の意識が薄れ、今の本来の姿である死神・蓮としての性格が強まったのだ。
蓮は、ごく自然に腕を振り、空中から大鎌を具現化させる。
「れ、蓮さん、いつから大鎌を扱えるようになっていらしたんですか?!」
「俺は死神だ。鎌を扱えるのは当然だろう?」
驚くサエに、何を当たり前の事をと蓮は笑う。
「ああ、お前達。この現象の原因はその幽霊じゃない。元凶は‥‥そこだっ!」
死神としての本来の姿を取り戻した蓮の霊力は秋葉蓮に引きずられていた時よりも格段に上昇し、闇の中に身を潜める悪霊の居場所を瞬時に突き止め、大鎌で空間を切り裂いた。
『ほほう‥‥自分を見つけるとはな‥‥』
切り裂かれた空間からぱっくりと闇が漏れ、元凶たる悪霊の声が響く。
「あの悪霊の仕業ニャ。皆で力を合わせてやっつけるニャ」
ミャーの尻尾がぶわっと膨らみ、一気に霊力が高まりだし、ミャーはサエに手を触れる。
触れられた場所からサエにミャーの霊力が流れ込み、サエの霊力を補強する!
「死した人の気持ちを利用するなんて、許しませんっ」
霊力で具現化した銃を、自己鍛錬によってさらに強化したホーリーナパームを打ち放つ!
けれどその弾丸が届くより早く、大鎌によって裂けた空間が閉じてしまった。
よろりとよろけるサエは、けれどミャーから分け与えられている霊力のお陰で倒れることなくその場に踏みとどまる。
『ふふふ‥‥自分にばかり構っていて良いのかね‥‥?』
からかうように悪霊の声が響く。
「大変だよっ、お婆さんがっ‥‥!」
立花が事態に気づき、悲鳴を上げる。
幸せそうに花畑に佇んでいた美桜乃の脇に、いつの間にか狼を思わせる悪霊(イルゼ・クヴァンツ(fa2910)一人二役)に抱きしめられていた。
「悪霊は一体だけじゃなかったのですね‥‥!」
帆乃香がすぐさまノートパソコンに術式を打ち込む。
彼女の霊力はパソコンという媒体を通して初めて武器にも防具にもなりえる代物なのだ。
『花畑を‥‥奪わないで‥‥』
美桜乃はか細い声で呟き、想いのままに霊力を暴走させて花弁を思わせる霊刃がメイド達に襲い掛かる!
「させませんよ。スパイダー・フィールド、RUN!」
帆乃香がすかさず術式を作動させ、発動したそれは蜘蛛の巣のようにメイド達と悪霊の間に防御結界を張り巡らせる。
「私達は、ここを壊しに来たのではありません」
「天国に行けば、旦那さんも待ってるニャよ!」
口々にメイド達が説得する中、悪霊は腕の中の美桜乃にそっと囁く。
「口先でなんと言っても‥‥今この花畑を手放せばあなたの思い出も何もかも、朽ちていくだけですよ‥‥?」
『いやよ‥‥思い出を消さないで‥‥っ』
悪霊に唆されるまま、美桜乃はメイド達に攻撃を繰り返す。
「お花畑が無くなっちゃっても、おばあさんの中の思い出が消えちゃうわけじゃないんだよ‥‥どうか思い出して」
立花が美桜乃を想い、鎮魂歌を歌う。
けれど悪霊達に利用されている美桜乃にはその歌声は苦しいばかり。
『ああ‥‥苦しい‥‥助けて‥‥』
「ほら、わかったでしょう‥‥? 邪魔なあなたを消し去ろうとしているのですよ」
ここぞとばかりに、悪霊は美桜乃を誑かしてゆく。
「そんな、このまんまじゃ彼女まで悪霊になっちゃうんだよ‥‥蓮さんっ?!」
絶望的な気分になりかけたメイド達に、蓮はニヤリと笑う。
「な、なんだこの、霊力は!」
勝利を確信していた悪霊が、蓮から迸る霊力に怖気づく。
「運が悪かったな?」
背中に大きな漆黒の翼を広げ、大鎌を振るう蓮はまさに死神。
自分が今まさにその鎌に刈り取られるというのに、悪霊は恐怖で指先一本動かすことが出来ない。
「ば、ばかな‥‥私は、私は‥‥っ」
ざしゅり。
美桜乃を避け、蓮の鎌は綺麗に悪霊の首だけをもぎ取った。
そして美桜乃の身体に埋め込まれた白い宝珠が音もなく砕け散り、また、地中に埋め込まれた黒い宝珠もそれに呼応して砕け散る。
悪霊の身体はサラサラと消え去っていった。
●エピローグ
「相続者方の説得をしてきたんです。この花畑は、ずっとここに残るんです」
悪霊を消し去り、そしてその場に取り残された美桜乃に帆乃香は説明する。
予め美桜乃の事を調べた帆乃香は、代理店長と共にこの花畑の相続人である美桜乃の愛娘に交渉してきたのだ。
『本当に‥‥?』
美桜乃身体が、ほんのりと輝きだす。
花畑が残ると聞いて、この場に縛り付けられていた想いから開放されたのだ。
「これでお婆さんも天国に行けるニャ。準備はいいかニャ? 忘れ物とか未練とか無いニャ? それじゃあ行ってらっしゃいませニャ」
『ありがとう‥‥私は幸せだったから‥‥』
メイド達に見送られ、美桜乃は蓮の開いた天国への門をゆっくりとくぐってゆく。
光り輝くその背中が門をくぐり終えた時、混ざり合っていた天国の花畑と現世のそれは綺麗に分かれたのだった。
『さて、あいつ等の腕前を確認させてもらったが‥‥塊の手には余るようだな‥‥やはり我等戦禍衆の出番か?
‥‥まあ、塊が呼ぶまでは‥‥じっくりとまたせてもらおうか‥‥』
闇の中。
事の成り行きを悪霊は見守り続ける。
いつか、全てを破壊する為に。