Entrance to heavenアジア・オセアニア
種類 |
ショート
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担当 |
霜月零
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芸能 |
1Lv以上
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獣人 |
1Lv以上
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難度 |
普通
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報酬 |
1.2万円
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参加人数 |
8人
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サポート |
0人
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期間 |
04/05〜04/09
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●本文
メイド喫茶『Entrance to heaven』
それは、いまどき流行りのメイド喫茶で、イケメンのウェイターも取り揃えていたりするメイド喫茶としてはちょっぴり邪道なお店。
それは深夜特撮番組『冥土のお仕事☆』に出てくる喫茶店の名前だった。
そしてこの番組に出てくるメイド喫茶を模して作ったメイド喫茶『Entrance to heaven』の開店イベントについて、プロデューサーと店長が話し合っていた。
「いやね? せっかくメイド喫茶を作るんだし、『冥土のお仕事☆』出演者さんに来て頂けたら、お客もつくんじゃないかと思いましてね」
人のよさそうな店長は、この企画を立ち上げたプロデューサーに提案する。
このメイド喫茶の売り上げは『冥土のお仕事☆』制作費にも当てられるのだ。
程よく人気のある特撮番組で、なおかついま流行りのメイド喫茶。
ここにさらに番組出演者が参加してくれたら、大人気間違い無しだろう。
‥‥たぶん。
「まぁ、芸能人が来るとなれば、お客は喜ぶでしょうねぇ」
力説する店長に、プロデューサーはやれやれといった感じで肩を竦める。
「冥土のお仕事出演者が手配できるかどうかはわからないけれど、番組視聴率も稼げるかもしれないし、一応募集をかけておくわ」
ちょっぴり苦笑気味なプロデューサーに頭を下げて、店長はうきうきと部屋を出て行くのだった。
●リプレイ本文
●新装! メイド喫茶☆
深夜特撮番組『冥土のお仕事☆』で使われているメイド喫茶を模して作られた『Entrance to heaven』の開店日。
開店記念イベントの特別ゲストとしてEHで働くことになった芸能人達が、店長の指導の下メイド喫茶の接待やら何やらを叩き込まれていた。
「お帰りなさいませ、ご主人様! ‥‥これだけはどうにも慣れなさそうっす」
何度も『ご主人様』を練習させられていた伝ノ助(fa0430)は恥ずかしそうにそういう。
メイド喫茶の常識として、店に来店されたお客様が男性の場合は『ご主人様』とお呼びし、女性の場合には『お嬢様』とお呼びするのだそうだ。
そして通常の店ならば『いらっしゃいませ』とお客様を出迎えるのだが、メイド喫茶の場合はお客様が自分の家に帰ってきてあたかもメイドを雇っているかのような気分を味わっていただく為に『お帰りなさいませ』になる。
はっきりきっぱり、メイド喫茶特有の接待だから、伝ノ助が慣れれないのは至極まっとうだろう。
「EHが現実に出来るとは思わなかったニャ。接客頑張るニャ」
冥土のお仕事に猫耳メイドミャーとして出演中の吉田 美弥(fa2968)は、猫尻尾をきゅっと握る。
その猫尻尾は普段と違って偽物。
いつもは半獣化して冥土のお仕事ではメイド役を演じているのだが、このメイド喫茶には普通の人間も訪れる。
だから獣人だと知られないように良く出来た偽物の猫耳と猫尻尾を着けているのだ。
「番組と同じお店が出来ちゃうなんて凄いなぁ〜」
吉田と同じく番組に立花音羽として出演中のあいり(fa2601)も、番組とほぼ同じつくりの店内を見回して巻き髪ツインテールを揺らす。
店内は所々に煉瓦が使われており、ほんのりと淡く照らすランプも同じデザイン。
そして冥土のお仕事と同じメイド服を着用したメイド達がいると、そこはもう本当に番組内のようだった。
「冥土喫茶‥‥客を冥土送りにする恐るべき場所‥‥な訳ないわな」
三月姫 千紗(fa1396)はうさ耳のカチューシャと白くて丸い兎の付け尻尾をつけて愛らしさ抜群の容姿で、ポツリと物騒なことを呟く。
でも、メイドさん達にセクハラしたら三月姫が河合伊奈として番組出演した時と同じハンマーでピコピコ叩かれて本当にそうなるかも?
「接客業はあまり得意ではありませんが、まあ常識的な範囲で対応すれば何とかなるでしょう」
そして同じく番組出演中のイルゼ・クヴァンツ(fa2910)は番組内で演じている代理店長のイメージで黒のウェイター服を着ている。
「ちょっと恥ずかしい気がするな‥‥。でも頑張ろう」
「私も普段あんまりミニスカートなんか履かないから、恥ずかしいな」
「‥‥‥‥」
ポップスユニット『DreamGarden』の三人―― 小桧山・秋怜(fa0371)、アルエ(fa0646)、リュティス(fa1518)は、それぞれ独自のメイド服を希望していたのだが、EHは番組のイメージを生かしたメイド喫茶の為、いまは冥土のお仕事で使われている黒くシックな数種類のデザインの内、慣れないミニ丈のデザインを着て恥ずかしがっている。
特にアルエは無口で愛想という物が一切無く、幼いながらも冷たい印象を与えているのだが、なにげなく耳が赤かったりして照れ具合が可愛い。
お店の前にはもう既にかなりの客が集まっているようだ。
ざわめきが店内まで響いてくる。
●接客大忙し☆
「お帰りなさいませでやんす、お嬢様」
伝ノ助がウェイター姿でお客様をご案内する。
やっぱりメイド喫茶用語にいまいち馴染めずに口調が素の口調だったりするが、愛嬌のある伝ノ助の笑顔にお客は嬉しそうに頬を染める。
「きゃあっ?!」
「うおっと!」
そして伝ノ助がなかなか上手に接待をこなしている横で、イルゼがお客様を巻き込んで盛大にすっころぶ。
イルゼは途中まで代理店長イメージのウェイター服を着ていたのだが、マニアなお客様の熱い希望でメイド服に着替えさせられたのだ。
流石にミニ丈は嫌だという事で、足首までスカート丈のあるメイド服を選んだのだが、裏目に出ている。
長いスカートという物は、慣れないと足に絡まるのだ。
(「メイド服を着せられなくて良かったでやんすよ」)
丁度良いサイズのウェイター服がなく、黒いボトムの裾をちょみっと巻くって履いて、黒いエプロンを着けている伝ノ助は、イルゼに手を貸してあげながらそんなことを思う。
男性の標準サイズよりも少し背の小さな伝ノ助も最初危うくメイド服を着せられかけたのだ。
『ちなみに、あっしサイズの制服ってありやす? ‥‥いや、それでなくっ』
店長にウェイター服のサイズを尋ねた時にさくっと手渡されたメイド服の感触はさっさと忘れたい。
「お待たせいたしました。ご注文は何かな?」
三月姫は普段から芸能活動以外にも生活費を稼ぐ為にアルバイトをしているから手馴れたもの。
元気な笑顔で軽やかに挨拶しつつ、どこかで聞いた事のある『メイド喫茶のメイドさんはオーダーした商品だけではなく、一緒に幸せも運びます』を見事に実践している。
「ミャ? 触っちゃ駄目ニャよ」
吉田の尻尾を興味深々に触ろうとしたお客様の手を「めっ」とする。
どうやら触れば番組内のように動くかもと思ったらしい。
「本物は持ち出し禁止ニャよ、今回は作り物なのニャ♪」
半獣化しなくて大正解☆
「注文はお決まりですかニャ? ミャーのオススメは三種チーズのパスタとゴルゴンゾーラハンバーグとレアチーズケーキのチーズ尽くしニャ。特にゴルゴンゾーラハンバーグは名前が強そうで大好きニャ」
お客を楽しませるトークを交えつつ、てきぱきと忙しい店内のオーダーを受けてゆく。
「はい、オムライスお待たせだよ♪」
あいりは芸能人としてというより、冥土のお仕事の役柄になりきって、本当のメイドさんのように振舞っている。
ふんわり黄色いオムレツをお客様に運び、目の前でお名前とハートをケチャップでオムライスの上に書いてあげるという大サービス。
冥土のお仕事を見ているお客様はあいりのことを当然のように役名の立花さんと呼び、役をなりきって演じているあいりは喜んで返事をする。
ある程度お客の出入りを見計らっていたDreamGardenの三人は、そっと店内からスタッフルームへと姿を消した。
●イベント『Dの時間』
「‥‥寒気が‥‥身体、動かな‥‥っ」
突然、伝ノ助が床に片膝をつく。
その顔色は苦痛に歪んでいる。
「大丈夫なのかな?」
「何かあったミャ?」
異変に気付き、メイド達が駆け寄る。
けれど伝ノ助の震えは止まらない。
それどころか、明るい伝ノ助とは思えない、低く陰湿な声がその口から漏れた。
「俺は‥‥まだ見ていないんだ‥‥それを‥‥見なくては‥‥」
騒ぎに気付き、お客様の間にざわめきが広がる。
「これは大変ニャ。霊に取り付かれているニャよ!」
吉田が叫ぶ。
「Dの時間です」
イルゼがDの時間をを伝え、番組を知っている客席からわっと喚声が上がる。
そしてあいりと三月姫は番組を知らないお客様がパニックにならないように、
「みなさん、どうかそのまま動かないで欲しいんだよ。私たちに任せるんだよ」
「こうゆうことには慣れてるんだよ」
と、声をかけて安心させてあげる。
そう、これは冥土のお仕事を模したイベント『Dの時間』。
番組では、彷徨える霊の願いをかなえたり、悪霊と戦ったりと様々な心霊現象を解決しているのだ。
そしてそういう心霊関係の仕事を『Dの時間』と呼ぶ。
本来ならDの時間を告げるのは番組内では死神たる店長なのだが、今回は不参加の為、代理店長役のイルゼが告げた。
「どんな悩みがあるのかな? 私達でよければ聞いてあげるんだよ」
あいりが苦しむ演技を続ける伝ノ助の手を取る。
「僕は何かを聞きたくて‥‥いや、会いたくて? 駄目だ、思い出せない」
霊に捕り付かれた青年を、伝ノ助は熱演する。
これは演技だとわかっているのに、周囲は彼に惹き込まれてゆく。
「‥‥ならば歌を聴いてもらいましょう。心に響く歌は、記憶の欠片を紡ぎだすかもしれません」
イルゼが指をパチリと鳴らす。
次の瞬間、スタッフルームからオリジナルのメイド服に着替えたDreamGardenの三人が飛び出し、予め開けておいた店内の中央に並ぶ。
「彷徨える霊の為に、歌ってだよ!」
あいりが叫び、キーボードの小桧山がこくりと頷く。
「素敵な未来へと旅立てるように」
胸元にリボンがついたビスチェのメイド服の短い裾をちょっぴり気にしつつ、ボーカルのリュティスは笑顔でマイクを握る。
小桧山が冥土のお仕事主題歌を愛用のキーボードで奏で出す。
そしてアルエはいままでの無愛想さが嘘のように明るく楽しく踊りだす。
ミニ丈の和服で、フリルの多いメイド服と合わせたモダンにしてレトロな大正ロマン溢れるメイド服にスパッツを合わせている。
派手な動きに合わせて振袖が舞い、ボーカルのリュティスの声を彩る。
主題歌はもちろん、新装開店のこの店をイメージしたDreamGardenのオリジナル曲『Welcome to heaven』、そして番組エンディング曲を歌う。
「これだ‥‥僕はこれが聞きたかったんだ! あの日、僕はメイドライブを見に来る途中で事故に遭ってしまって‥‥気が付いたらここにいたんだ。ありがとう、貴方達のおかげで、僕は天国へといける‥‥」
伝ノ助はすっと立ち上がり、笑顔を向ける。
そしてはっと気付いたようにきょろきょろと辺りを見回す。
「あっしは‥‥一体何を?」
口調も表情も伝ノ助のそれに戻し、取り付いていた霊が天国へと飛び立っていったことを表現する。
「お騒がせしました。霊は、歌により天国へと旅立ちました。皆様が見守っていてくださったお陰です。ありがとうございます」
イルゼが深々とお客様に頭を下げる。
盛大な拍手が巻き起こる。
「さあ、霊も去ったし、どんどん注文を受けるニャよ」
吉田が腕まくりしてオーダーを再び受け始める。
期間中ローテーションを組み、毎回取り付かれる役を変えて演じたDの時間は好評で、リピータ続出。
メイド喫茶Entrance to heavenは番組を知っているお客様にはもちろんのこと、知らないお客様も十分楽しんで常連となり、店長は満面の笑みを浮かべるのだった。