空想音楽劇団〜Birthヨーロッパ
種類 |
ショート
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担当 |
霜月零
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芸能 |
2Lv以上
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獣人 |
1Lv以上
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難度 |
やや難
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報酬 |
3.7万円
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参加人数 |
8人
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サポート |
0人
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期間 |
05/28〜06/01
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●本文
空想音楽劇団は、物語を奏でながら演じるクラシック劇団だ。
メインボーカルとバイオリニストが駆け落ちし、一時はどうなることかと思ったこの劇団だが、集まった臨時団員達のお陰で何とか公演をこなしていた。
けれどこの公演は一度では終わらない。
A〜Zまで続くこの劇は、まだ始まったばかり。
開くたびに違う曲の流れるオルゴールの音色に合わせ、今日も楽団は歌い、奏で、演じる。
「君が生まれた日のことをはなそうか。そう、キミはみんなに祝福されているんだ」
天使を思わせる少年が、舞台の上から客席に向かって微笑む。
Birth。
何が生まれ、何が起こったのか?
それはまだ見ぬ物語‥‥。
☆空想音楽劇団出演者募集☆
空想音楽劇団では、劇を彩る人材を切望しています。
このクラシック劇団では音楽を奏でるだけでなく、劇をしてもらいます。
歌い手や演奏者も例外ではありません。
そしてこの劇団ではA〜Zまでを題材にし、劇を上演しています。
今回の題は『Birth』
誕生です。
●リプレイ本文
●プロローグ〜青い鳥
舞台の中央で青い翼を生やした少年・カイト(海斗(fa1773))にスポットライトが当たる。
神聖な蒼い聖堂の奥に、白い祭壇と十字架が輝き、その上に付けられた採光用の窓から朝日が差し込んでいた。
「君が生まれた日のことをはなそうか。そう、キミはみんなに祝福されているんだ」
金色の髪が朝日に輝き、少年はにっこりと微笑んで舞台は暗転する。
●孤独な姫
舞台が再び光を取り戻すと、そこは、幼い王妃・セシル(セシル・ファーレ(fa3728))の部屋だった。
豪華できらびやかなその部屋で、けれど舞台の中央でセシルは溜息をつく。
そして舞台の袖から、妖精を思わせるふんわりとした衣装を身に纏った紗綾(fa1851)がバイオリンを奏でる。
その音色は、セシルの故郷、水と緑と風の吹く自然豊かな国の音。
本来、明るく、軽やかなその曲は、セシルの気持ちを表すように、繊細でいて物悲しい音になっていた。
「どうして、私はここにいなければならないのでしょうか? 異国のこの地で、私は一人ぼっちです‥‥」
セシルは淡々と、身の上を語る。
そして舞台の脇では、セシル付きの侍女となったマーシャ(マーシャ・イェリーツァ(fa3325))が箒を片手にクルクルと踊りながらセシルへの不満を漏らす。
「幾ら政略結婚でも、あんな無愛想な相手だなんて。王様ならもっと素敵な相手だって‥‥!」
聞こえよがしにとげとげしく囁かれる言葉に、王妃は俯くことしかできない。
そんな王妃に、マーシャはより一層、苛立ちを強くする。
(「王様も、この国の人々もこの結婚を心から祝福しているというのに。
なぜこの王妃はこうまで頑ななのでしょう? 王様がかわいそうです」)
この国を愛し、王の優しい人柄を良く知っているマーシャの目には、笑わないセシルはこの国も王も嫌っているようにしか見えなかった。
「あら姫様。そこにいらっしゃったんですの? 部屋の影と見分けが付きませんでしたわ」
これ以上ないというぐらいに冷ややかに、マーシャはセシルを突き放す。
「幼い頃の私は、いつも母様の側で幸せだったわ‥‥けれど、懐かしい日々にはもう帰れない。
大好きだった母様はもういない‥‥私の周りにいるのは見知らぬ国と見知らぬ人々。
私は遠い遠いこの異国の地へと嫁いできた‥‥父様、私は必要のない子なの? 私はこの国で頑張っていけるの? 私は‥‥私はもう‥‥」
窓辺を見つめ、遠い故郷に思いを馳せるセシルの頬を、涙が伝った。
と、その時。
窓辺に一羽の青い小鳥と、沢山の小鳥達が訪れた。
「これは、一体‥‥?」
一瞬、泣くのも忘れ、セシルは窓をそっと開け放つ。
紗綾の奏でるバイオリンは、物悲しい曲から一転、小鳥達の軽やかなさえずりに変わる。
「ふふっ、慰めてくれるのですか?」
青い鳥はクルクルと王妃の周りを飛び周り、愛らしい仕草はセシルの心を和ませる。
その日から、青い鳥は毎日王妃の窓辺に現れ、そして同時に、白く可憐な花が一輪、窓辺に置かれるようになった。
「お前が届けてくれているの?」
王妃が尋ねると、青い鳥は違うと言いたげに尾に顔を埋める。
「では、誰がこれを届けてくれているのでしょう?
わからないけれど‥‥とても嬉しいわ」
青い鳥はそんな王妃に満足げに窓の外へと飛び立ってゆく。
そして王妃がほんの少し微笑むその様子を、青い鳥が飛び去った先でカイトと紗綾が優しく見守っていた。
●若き王子
「どうしたら、セシルを笑わすことが出来るのでしょう?」
若き王・アオイ(葵・サンロード(fa3017))は、自室で深い溜息をつく。
線が細く、頼りない印象を与える彼が溜息をつくと、より一層華奢に見える。
彼の溜息の原因はセシルだった。
親同士の政略結婚で無理やり嫁いで来ることになったセシルは、日々、自室に篭り泣き暮らしているのだ。
けれど、アオイはセシルを大切に思っている。
彼女を楽しませたくて、宮廷楽師と共に自らも歌を歌い、セシルの不安な気持ちを取り除こうと努力したのだが‥‥結果は芳しくない。
きらびやかな服も、豪奢な宝石も、彼女の心を開くことは出来なかったのだ。
『♪〜
王は貴女を愛している
他のなににも換え難いほど♪
貴方の瞳は新緑の瞳
森の木々の生命の息吹
森はなくてはならない命の源
王にとってかけがえのない貴方♪』
アオイはこの宮廷きっての美貌の踊り子・オーレリア(オーレリア(fa2269))が歌った日を思い出す。
ユニコーンの血を引くオーレリアは淡い水色の衣装を幾重にも纏い、ニンフもかくやと言う美しさと見事さで宮廷中の人々を虜にしたのだが、セシルだけは俯いてしまった。
あの時のオーレリアの悲しそうな瞳も忘れられず、けれどその瞳がなにを意味するのかもアオイは気づかずに、ただただ王妃を心配するばかり。
「どうしたら、セシルを楽しませてあげれるのでしょうか?」
もう一度、彼は深い溜息をつく。
●楽芸人達〜誤解と事実と大切なこと
セシルとアオイ、そして宮廷の人々のすれ違いの日々が続くある日、旅芸人の噂が王宮に舞い込んできた。
大層歌と踊りが上手く、異国の様々な物語を知っているとか。
アオイはすぐさま伝令を走らせ、旅芸人の一座を王宮に呼び寄せた。
―― 大切なセシルに、笑ってもらう為に。
「♪〜
はじめまして、お姫様♪
私達は旅の芸人サクラ。
みな、王様に呼ばれて参りましたの。
今宵楽しい時間をお過ごしいただけたら〜♪」
旅芸人の内の一人で、豊かな黒髪を飾り布で結い、ゆったりとした明るい色合いのズボンを身につけたサクラ(桜 美鈴(fa0807))は、謁見の間でセシルに一礼して跪き、空中から薔薇を一輪差し出す。
その見事な仕草に、アオイは感嘆の声を漏らす。
歌うように紡がれる言葉と、そして何もない場所から取り出されたことにセシルは驚きつつも薔薇を受け取った。
「アオイ様、セシル様、このたびはお招きいただき、ありがとうございます」
同じく旅芸人一座の歌い手、ツキハ(月葉・Fuenfte(fa1234))もサクラに習って一礼する。
「あたしは楽師のサーヤ。麗しの王妃に花を届けに来たんだよ♪」
いつも王妃の窓辺に置く花と同じものを紗綾は手渡す。
「この花は!」
驚くセシルに紗綾はそっと口元に人差し指を当てて悪戯っぽく笑う。
そして奏で踊り、歌う旅芸人の舞台が始まった。
「♪〜
ああ、お姫様、どうしてそんなにうかないお顔をなさっておられるのでしょう〜
世は喜びと楽しさと愛に溢れていますのに」
「♪〜小鳥のさえずり森の声、どうかその耳に届いて人の声
心に響いて大切な人の大切な思い」
サクラの歌声に、ツキハの歌声が重なる。
そしてそれにあわせて軽快なバイオリンの音色を紗綾が奏でる。
「♪〜
貴女様も、愛の結晶としてお生まれになり〜
今また、愛を注がれておりますのに」
「♪〜王妃の祖国は森と泉と風と太陽、大地の恵みで溢れてる〜
けれどこの国は、痩せた土地と乾いた水路、人は働かなければ生きては行けない〜」
「♪〜
どうか気づいて皆の気持ちに。貴女様も、愛の結晶としてお生まれになり、今また、愛を注がれておりますのに」
「♪〜どうか気づいて、貴方を見つめる大切な人に〜」
サクラとツキハが王妃の祖国と今のこの国の現状を歌い、王妃をどれほど皆が愛しているのかを語る。
王妃の祖国と、今のこの国には大きな違いがあった。
祖国は緑豊かで大地の恵みに溢れ、人々は日々、ゆったりと過ごしていた。
だが、この国は違う。
大地の恵みは緑ではなく鉱石。
緑はなくともとても裕福で、人々はせわしく働いていた。
どうしてこんな、祖国とまったく違う場所で暮らさなければならないのか。
新しい継母に馴染むことができなかったセシルを、父王は疎んじていたとしか思えなかった。
だが‥‥。
「セシル?」
王がセシルを心配そうに覗き込む。
その瞳を真っ直ぐに見たのは、今日が初めてかもしれない。
にこっ。
旅芸人達の歌と曲と、王の優しさに王妃は微笑んだ。
●幸せへの道しるべ〜君は、とても愛されているんだよ
「やあ、待っていたよ」
蒼い礼拝堂を一人、訪れたセシルに、カイトは微笑む。
「青い小鳥を探しているのです。小さくて、綺麗で、愛らしいのです」
いつものように窓辺を訪れた青い鳥は、セシルを呼ぶようにクルクルと頭上を旋回し、そしてセシルは導かれるままにこの礼拝堂へやってきたのだ。
だが、中に入ったとたん、青い鳥は消えてしまった。
カイトはセシルの質問には答えず、歌を歌う。
姫の祖国とこの国の歌は、セシルも良く知っている。
二人は教会の中、舞台の片隅で演奏している紗綾のバイオリンに合わせていつまでもいつまでも歌い続ける。
「君が生まれた日のことをはなそうか。そう、キミはみんなに祝福されているんだ」
歌い終えた時、カイトはセシルに微笑みながら過去を語って聞かせる。
それは、セシルが生まれた時の話。
セシルが知りえなかったその話は、王がどれほどセシルを愛していたか窺い知れるものだった。
この国と、王と、そして父様。
沢山の誤解が、少しずつほぐれてゆく。
●エピローグ〜幸せは、いつもあなたの側に
「さあさあ、今日は目出度い日♪
この国の王と王妃の結婚式よ♪」
マーシャが手拍子を鳴らし軽やかに舞台を舞う。
ずっとセシルを誤解していマーシャは、旅芸人と王に微笑んだあの時にやっと理解したのだ。
セシルは、新しい王妃は寂しかったのだと。
異国のこの地で何をして良いのかもわからず、ずっと一人で寂しい思いをしていたのだ。
「お二人は、本当に愛し合っていらしたのですね‥‥。お姫様‥‥いいえ、王妃様。それに気付かずにいた私をお許し下さい」
純白のウェディングドレスに身を包み、王に手をひかれて舞台に現れたセシルに、マーシャは深く礼をする。
「マーシャ。お前は良く尽くしてくれているよ。これからも、よろしく頼みます」
若い王は、マーシャに労いの言葉をかける。
「もったいないお言葉です」
その言葉にもう一度マーシャは深く礼をする。
そして宮廷の踊り子オーレリアと共に二人の結婚を祝う踊りを披露する。
「私たちもお招きに預かり、ありがとうございます♪」
「今日はお二人を祝福に参りました」
旅芸人の一座も結婚式に訪れ、セシルを微笑ますことが出来たあの日のように、サクラとツキハのハーモニーが舞台を彩る。
もちろん、紗綾もいる。
いつもの人の姿とは異なり、うさぎ耳を生やした彼女の正体は森の妖精。
一人ぼっちのセシルを心配し、人に変身して彼女を見守っていたのだ。
森の妖精の奏でる曲は、全ての悲しみと誤解を吹き飛ばし、幸せへと駆け上がる未来への架け橋。
紙吹雪の舞う中、王と王妃は皆に祝福されて舞台の袖へと消えてゆく。
「王子様のお誕生、おめでとうございます!」
マーシャが赤ん坊を抱くセシルを見つめ、祝福を述べる。
舞台は王妃の部屋だ。
「いつの日か、あなたが生まれたこの素晴らしい日のことを、話しましょう‥‥」
窓から差し込む朝日の中で、腕の中で眠るわが子にセシルは優しく語り掛ける。
窓の外には一羽の青い鳥が羽ばたいてゆく。
「君も、変わらず愛されている。だから、もう大丈夫」
舞台の袖で、青い翼をはためかせ、カイトは微笑む。
一人ぼっちに思えたセシルは、もう一人ではない。
父様に愛されていたことも、王とこの国の人々に大切にされていることも、そしていま、新しい命を大切にしている。
愛し、愛される彼女はもう二度と孤独に震えることはないだろう。
カイトはセシルの幸せを見届けて、ゆっくりと姿を消していった。