Princess in the darkヨーロッパ
種類 |
ショート
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担当 |
霜月零
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芸能 |
1Lv以上
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獣人 |
1Lv以上
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難度 |
やや難
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報酬 |
1.2万円
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参加人数 |
8人
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サポート |
0人
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期間 |
04/12〜04/16
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●本文
古城を描いたラフスケッチに、新進気鋭のデザイナー・ラムザ時等はメインのデザインである女性を描き加える。
ドラゴンの翼を生やし、黒いドレスを纏ったその女性こそ、ラムザの思い描くファッションショーであり舞台のメインを担うダークプリンセスに他ならない。
ファッションショーで服を魅せつつ、一つの物語を作り上げる。
それは、ラムザがデザイナーになった時からの夢だった。
「ふふふっ、あとはモデルが揃えばかーんぺき! 俺様の夢を叶えて見せようじゃなぁーい?」
不遜に笑って、ラムザ時等はデザインの案を詰めるのだった。
◆ファッションショーモデル募集◆
新進気鋭のデザイナーラムザ時等による前代未聞のファッションショー兼舞台『Princess in the dark』モデル大募集。
Princess in the darkでは、モデルとしてラムザ時等デザインの衣装を着て頂きます。
そしてメインモデル『ダークプリンセス』には、漆黒のドレスを着て頂きます。
ダークプリンセスになれる条件は、『ドラゴンの翼を持った美女』です。
◆舞台の進行◆
ファッションショーで次々と衣装を着替えつつ、ダークプリンセスに纏わる物語を作り上げてください。
●リプレイ本文
●幻想ファッションショー『Princess in the dark』開幕!
舞台の上には尖塔がいくつも連なったノイシュバンシュタイン城を髣髴とさせる古城と、灰色の森、そしてスモークが立ち込めていた。
「また私に求婚ですって? 身の程知らずね」
舞台の中央で銀河を散りばめた常闇のドレスを纏ったライカ・タイレル(fa1747)は、冷たい笑みを口の端に乗せる。
ダークプリンセスと呼ばれし彼女には、その美貌と財産を目当てに日々、無謀な男達が身の無い口説き文句を捧げに来ていた。
「でも今回はちょっと違うみたいよ?」
くすくすと愛らしい笑い声を響かせて、マーシャ・イェリーツァ(fa3325)は舞台の袖からクルクルと舞いながらライカに近づき、囁く。
その背にはピクシーらしい小さな翼のレプリカが付いていて、軽く、柔らかい衣装がふんわりと舞い広がる。
「マーシャ君がそういうのなら、そうね‥‥会って見るのも面白いかしら?」
二人の美女はくすくすと笑い、緞帳が下りてくる。
●求婚者
ライカへの今日の求婚者は、二名だった。
二人の為にライカは宴を開く。
きらびやかな宮廷を模した舞台の上では、豪奢な、けれど何処か禍々しい玉座に腰掛けるライカに、二人の求婚者が跪く。
求婚者の一人は椿(fa2495)の演じる吟遊詩人。
ヴァイオリンを奏でながら、椿はライカへの愛を語る。
「♪〜
古の古城に住む竜の姫
かの姫の心に住まうは極寒の冬空
青の瞳に写るは氷の刃
裏切りと策略に満ちた世界への侮蔑
白い肌は何処までも白く
全ての穢れを許さない
金の髪は光を纏いながらもなお、全てを拒絶する
けれど私は知らない、あなたの本音(こえ)を
あぁ、古の姫よ、麗しき闇の乙女よ、貴方の願いをどうか聞かせて‥‥」
ライカの容姿を褒め称え、その本心を聞き出そうとする椿に、ライカはこう、呟いた。
「言葉を紡がず心を語って見るが良い」
「言葉を紡がずに?」
聞き返す椿にライカは鷹揚に頷く。
暫し、思案する椿は、そっと、バイオリンを奏で出す。
歌を奪われた彼の残されたのは、その思いを音に託す。
そうして、ライカへの愛を奏でるその曲に合わせて、もう一人の求婚者、翡翠(fa1169)の演じる隣国の王子ジェイド・ディーリアスが立ち上がる。
ジェイドは絶世の美女と名高い闇姫に一目惚れしたのだ。
「貴女が世界に安らぎという闇を齎すなら、私は希望という光を注ごう」
舞踏会を彩る椿のヴァイオリンに合わせて歌うようにジェイドは告白し、姫付の侍女・御子神沙耶(fa3255)と共にライカへの貢物を次々と見せる。
「まぁ、なんて素晴らしい贈り物なのかしら? あれほどの衣装を贈られる姫は幸せ者ね」
舞踏会に招かれた客の一人として、自らもダークグリーンのドレスを身に纏った瀬名 優月(fa2820)は扇で口元を隠し、椿に目線を送る。
ジェイドのような高価な贈り物を持たず、奏でることしか出来ない椿は、そっと瞳を伏せた。
ジェイドと御子神の魅せる衣装は数十種類にも及び、ダークプリンセスの名に相応しい闇色のドレスが大半を占めていた。
白系のメイド服を着ていた御子神が闇色のドレスを手に取り、ライカと客席に見せると、白と黒の対比が際立った。
ジェイドは姫の為に王室付の仕立て屋に作らせた衣装やアクセサリーを貢物として捧げるが、けれどライカはその贈り物には少しも心を動かされた様子はない。
「どれもこれも、貴方でなくとも持ち寄れる物ばかりね」
つまらなそうに呟くライカに、ジェイドはその表情を曇らす。
「あらあら、ライカ、あんまり苛めてはいけないわ」
マーシャがいつの間にかシャンデリアの上に腰掛け、ライカを嗜める。
けれどクスクスと笑うその口調は、嗜めるというよりも事態を心底面白がっているようだ。
「苛めてなどいないわ。私は事実を口にしただけ」
ライカは玉座で足を組み替え、黒いヒールにもあしらわれた刺繍を、客席から良く見えるようにする。
「ならば闇姫。どうしたら貴方の心を射止めることが出来るのでしょうか? 貴方の心が手に入るならば、どのような贈り物でも必ず手に入れてまいりましょう」
にべも無く否定されながらも諦めきれないジェイドがライカに尋ねる。
「‥‥そうね。花がよいわ」
「花?」
「そう。清らかな乙女にしか触れられないと言われる虹色の薔薇を摘んで来るのよ」
ライカは胸に刺した赤い薔薇をジェイドに差し出す。
その薔薇が枯れるまでに、虹色の薔薇を摘むように。
「わかりました。必ずや貴方の為に手に入れてまいりましょう!」
豪奢なマントを翻し、光を思わせるジェイドは舞台の袖へ消えてゆく。
その後姿を、姫の為に曲を奏で続ける椿は複雑な表情で見送る。
●森の乙女
場面が変わり、舞台の上には森の木々とバックのスクリーンには泉と遠くにダークプリンセスの古城が映し出されている。
緑を基調とした旅人の服に着替えたジェイドが、御子神と共に舞台の上に現れる。
御子神は宮廷のメイド服よりも幾分質素な、シスターを思わせるメイド服に着替えていた。
「ジェイド様、この森に虹色の薔薇はあるのですか?」
ライカに命じられてジェイドと共に旅をしてきた御子神は、周囲を見回す。
舞台の袖、緞帳よりも手前に立ち、椿が新緑を思わせる軽やかな曲を奏でる。
「そう、この森には昔から言い伝えがあるんだよ。清らかな乙女の守りし花園の言い伝えがね」
ジェイドは幾分砕けた口調で説明しながら、辺りを見回す。
その森はジェイドが幼い頃からよくお忍びで遊んでいた森で、大切な友人が住まう森でもあったのだ。
椿の奏でる曲が、軽やかなそれから柔らかい曲へと変わると、舞台の袖から森の乙女・フェリシテを演じる高遠弓弦(fa0227)と、高遠を護るユニコーンの化身・凜音(fa0769)が舞台に上がる。
フェリシテの衣装は清らかな乙女のイメージそのままに、純白のドレス。
色取り取りの生花を散らし、花と葉の森の恵みを冠にして、フェリシテは優しくジェイドに微笑む。
「ジェイドさん、お久しぶりですね。貴方が来て下さるのを、ずっと待っておりましたわ」
「すまない、フェリシテ。今日は、貴方に頼みがあってきたんだ‥‥」
フェリシテに歩み寄るジェイドの前に、凜音が立ち塞がる。
半獣化し、白い燕尾服を纏った凜音は男装の麗人。
「貴公の願い。それは、フェリシテを不幸にするものだ」
凛とした声で、凜音は宣言する。
森の乙女の護り手として様々な能力を有する凜音は、知っていたのだ。
ジェイドがダークプリンセスに魅入られていることを。
そして、フェリシテがずっと、ジェイドを想っている事も。
けれどフェリシテは小さく首を振り、凜音の前に出る。
「私は、例え私が不幸になろうとも、ジェイドさんの願いなら全て叶えたく想います。ジェイドさん、貴方の願いはなんですか?」
瞳の奥に想いを閉じ込め、自分の願いを叶えようとするフェリシテに、ジェイドの胸がツキンと痛む。
けれどジェイドはその痛みの意味に気づかないまま、ライカのの望む虹の薔薇をフェリシテに摘んで欲しいと口にする。
「乙女よ、辛いならば私が代わろう?」
何処までもやさしく、凜音はフェリシテを護ろうとする。
「いいえ、凜音さん。お気持ちだけで十分です。私は、ジェイドさんのお役に立てることがとても嬉しいのです」
舞台の上から、虹色に輝く一厘の薔薇がピアノ線に吊られて下りてくる。
それをそっと手に取り、フェリシテはジェイドに手渡す。
「さあ、これが貴方の望むものです。‥‥どうか、お幸せに」
微笑むフェリシテに礼を言い、ジェイドは虹の薔薇と御子神と共に舞台を去ってゆく。
その後姿を見つめ、微笑むフェリシテの頬に、一筋の涙が伝う。
●真実の愛
「ねえ、ライカ? あの男はどうするかしらね?」
くすくすとマーシャは悪戯気に微笑む。
舞台は森の中から再びダークプリンセスの古城へと移っていた。
ライカは椿の奏でる曲に身を委ね、その問いには答えない。
「ライカ様。貴方の願いを叶えて、王子がやってまいりましたわ。けれど吟遊詩人は‥‥」
ダークグリーンのドレスから着替え、白いドレスの上にグレーのドレスを纏った瀬名がジェイドの訪れと椿に目を向ける。
ライカの為に奏で続ける椿は、いつ着替えたのだろう?
気が付くとボロボロのマントを羽織り、みすぼらしい姿に変わっていた。
けれど、ライカの為に奏でる音とその瞳だけは澄んで輝く。
「貴方の為に、この花を贈ります。どうか、受け取ってください」
舞台の袖から、ライカの玉座へ虹色の薔薇を手にジェイドが歩み寄る。
と、その時。
「貴公の忘れ物を届けに来た!」
凛とした声が再び会場に響いた。
それは、森の乙女を護る凜音の声に他ならない。
舞台から客席のほうへ長く延びていたステージにスポットライトが当てられる。
「フェリシテさん‥‥!」
ジェイドが驚きの声を上げる。
そこには、凜音にエスコートされて、色取り取りの花束を抱きしめるフェリシテが佇んでいた。
「お祝いを、届けに参りましたの‥‥」
「この期に及んで、まだそんなことを!」
花束を抱えたフェリシテを凜音は叱る。
「ふむ。心に想う者が既にいながら私を求めるとはいい度胸ね」
ライカが柳眉を顰め、玉座から立ち上がりドレスの裾を捌く。
そうすると、銀糸で散りばめた刺繍がスポットライトを浴びて流れ星のように弧を描いた。
「あらあら、ライカを怒らせるなんて命知らずね♪」
マーシャが面白そうに茶々を入れる。
「違う、違うのです、私とジェイドさんの間には何もありはしません! どうか、罰するなら私だけを罰してくださいませ!」
ライカの怒りを感じ取り、フェリシテは舞台に駆け上がって平伏す。
彼女の身体から花びらが舞い散る。
その姿はライカの美貌に目の曇っていたジェイドの心を解き放った。
そっと、ジェイドはフェリシテの手を取る。
「罰は、共に受けましょう。どうやら姫の目は全てを見通していたようです」
自分をずっと想い続けていた少女の存在にやっと気づいたジェイドは、フェリシテを抱きしめる。
「いい覚悟ね。二人仲良く闇へ送って差し上げるわ」
ライカが怒りのままに、二人に罰を与えようとする。
すると、今までずっと曲を奏で続けていた椿が倒れた。
「なぜ曲が止まって‥‥? 吟遊詩人よ、なぜに倒れる? そなたは私の為に曲を奏で続けるのではなかったの?」
ライカは椿に駆け寄り、抱き起こす。
「その者の命は貴方への想いと共に散ったのよ。叶わない想いと共にね」
「姫様が嘆くことは何もありはしません。姫様を求める者は大勢いるのですから」
瀬名と御子神が試すように言葉を紡ぐ。
二人の手には玉座の裏に隠してあった死神の鎌が握られていた。
「あなた達、それは一体‥‥?」
「この者は貴方の目を汚しました」
「姫様の為に刈り取るのです」
死神を思わせるその鎌を、二人は大きく振り上げる。
けれどライカは退かなかった。
「この者を刈る事は許さないわ。‥‥ずっと、曲が鳴り響いていたのよ。眠る時も、朝を迎える時も! ずっと側にあったのよ? それなのに消えるなんて許さないわ!」
二人の鎌から、ライカは椿を庇う。
いつの間にか、ライカの凍える心を椿の奏でる曲が溶かしていたのだ。
頬に、涙が伝う。
その瞬間、奇跡は起きた。
ぱっと一斉にスモークが立ち上り、舞台の上の役者達が全員衣服を脱ぎ去る。
脱ぎ捨てた衣服の下には、真っ白いドレスとタキシード。
背に白い翼を生やした瀬名が微笑む。
「貴方の闇は今、消え去りました」
「凍える夜は、闇と共に。暖かい日差しは、貴方と共に」
御子神が手の平を椿にかざす。
白いタキシードを着た椿はゆっくりと目を覚ます。
「さあ、今からパーティの始まりよ♪」
マーシャがぱちりと指を鳴らす。
生き返った椿が軽快な曲を奏で、闇のドレスから真っ白なウェディングドレスに着替えたライカと共に踊る。
純白の衣装を身に纏った全員が踊り、歌い、衣装が良く見えるようにターン!
瀬名が舞台から客席へ舞い飛び、籐籠から白い羽毛を紙吹雪のように舞い散らした。