WonderTalk〜天空大陸〜アジア・オセアニア

種類 ショート
担当 霜月零
芸能 2Lv以上
獣人 1Lv以上
難度 難しい
報酬 3.3万円
参加人数 10人
サポート 0人
期間 09/28〜10/01

●本文

「俺が‥‥この国の王になる‥‥」
 暗雲の広がる空を見つめ、男はワインを飲み干す。
 豪奢な衣服に身を包み、ぶよぶよと芋虫のように太った指に食い込む指輪が鈍く光った。
 濁った瞳が写すのは男がこの国の、いや、この世界の王になる未来。
 決してありえはしないその未来を、男は信じて疑わない。
「全てが‥‥俺の物になる‥‥」 
「ええ、全てがあなた様のものですぞ‥‥その為にも‥‥」
 側に控えていた深淵の魔術師が男の耳に囁く。
 傀儡と化した男は、魔獣使いの言葉に大きく頷く。
「‥‥ギルドには‥‥もう手を入れてある‥‥誰にも‥‥邪魔はさせん‥‥」
 空ろな瞳のまま、男は欲望のままに闇に身を落としてゆく。


「は‥‥?」
 いつも冷静沈着な魔道師は、ギルドの受付係の言葉に耳を疑う。
「言葉のとおりだけどぉ‥‥」
 対する受付嬢もいつものいけいけな元気がない。
 眠たげな口調はそのままに、酷く歯切れが悪いのだ。
「なぜいまこの時になっても天空の塔への調査許可が下りないんですの?!」
 別のハンターも怒りを露わにする。
 それもそのはず。
 ハンター達は塔に封印されし管理者の封印を見事解き放ち、天空の塔は伝説といわれた天空大陸への道を開いたはずなのだ。
 それなのにまたしても調査許可が下りないとは‥‥。
 ハンター達の表情に焦りと憤りを通り越して呆れが浮かぶ。
「何故っていわれてもぉ、ほら、あたしは下っ端だし? 上の考えなんてあたしには理解できないしぃ‥‥」
 ちらり。
 一瞬だけ、受付嬢が少し離れた壁際に目線を送る。
 そのほんの一瞬の仕草に気づいた面倒くさがりのシーフが、気づかれないようにそっと壁際を見る。
 そこには、フードを目深に被り、顔を隠した男が受付を見張っていた。
「そういえばぁ、ギルドの利用条件って覚えているかしらぁ」
 ハンター達に受付嬢は独り言のように呟く。
「当然でしょう。モンスターハンターはハンターギルドへの登録義務と、ハンターギルドはハンター達への仕事の斡旋と賃金の支払い義務を負う。こんなこと十の子供でも知っていましてよ」
 当然とばかりに言い切るハンターに受付嬢は頷く。
「そうねぇん。でもぉ、ギルドに適正な依頼がない時ってどうしているのかしらぁ?」
「それは依頼が出るまで待つか、ギルドを通さない依頼を自力で探すか‥‥」
 !
 はっとして、高飛車なハンターは口を閉ざす。
(「つまり、そうゆうことなのですか?」)
 ハンター達に目をあわさずに呟く受付嬢を、魔導師は分厚い眼鏡を抑えて見つめる。
「まあ、これ以上受付を責めても仕方ないさ。ああ、面倒くさい‥‥」
「そういってもらえると助かるわぁん。物分りのいい男って好きよ。またねぇん、チュッ♪」
 シーフにしな垂れかかり、いかにも誘っている風を装いながら、見張りの目を盗んで受付嬢はそのポケットにメモを忍ばせる。
 仲間達に目配せを送り、面倒くさがりのシーフはギルドの外に出た。
 他の仲間達も諦めた振りをしながらシーフの後に続く。
 そう、調査許可など要らない。
 報酬などなくても、ハンター達は動くのだ。
 受付嬢が忍ばせたメモには、現在の天空の塔周辺情報が記載されていた。
「行きましょう。天空の塔へ」
 見張りを巻いて、ハンター達は天空の塔へと向かうのだった。



☆Wonder Talk出演者募集☆

 ファンタジー世界を舞台とした特撮番組、『Wonder Talk〜天空大陸〜』出演者募集です。
 剣と魔法を舞台としたこの世界の住人になりきり、天空の大陸への道を切り開いてください。
 

☆モンスター情報☆


『ドラゴンゾンビ』
 死したドラゴンを魔獣使いの手により強引に蘇らせ、使役されているモンスターです。
 ゾンビとはいえドラゴンの為、攻撃力と体力は驚異的です。
 天空の塔周辺に突如出現したようで数は最低でも三体が確認されています。

 また、上記以外のモンスター出現の可能性もあります。



☆地域情報☆
 今回の舞台は、ファンタジー世界カラファンの王都「レザラディカ」から離れた天空の塔です。
 なお、ギルドを通さない活動の為、転移門は使用できません。


☆選べる職業☆
 戦士 :戦いの専門家。主に剣で戦います。
 僧侶 :治癒魔法を得意としています。
 魔法使い:攻撃魔法を得意としています。
 踊り子:魅惑的な踊りで敵を翻弄します。
 召喚士:精霊を召喚し、使役します。
 吟遊詩人:歌い手です。呪歌を使えます。 
 シーフ:盗賊です。指先が器用で、罠の解除などが得意です。
 錬金術師:カラファンに存在する様々なアイテムを調合して薬や爆薬などを作り出します。

 なお、職業は参加者八人全員戦士や、僧侶と魔法使いのみなどといったパーティ編成も可能です。
 また、「こういった職業が欲しい!」などのご希望があれば採用の可能性もあります。
 

☆テンプレート☆
 WT参加者は、下記テンプレートを埋めてプレイングを送付してください。

【職業】『職業』の中から一つ選択
【心情】キャラクターとしての気持ちを書いて下さい
【戦闘】どのように戦うか
【台詞】各シーンで言いたい台詞
   〜台詞例〜  
  【挨拶】「?」
  【戦闘開始】「剣の錆にしてあ・げ・る♪」
  【必殺技使用時】「これでもくらいやがれっ!」
  【勝利時】「天空の大陸へ、いざ!」
 *台詞例はあくまで例です。色々台詞や設定追加推奨です。
           
【その他】キャラクターの設定や口癖などありましたらどんどんこちらへ明記ください。

●今回の参加者

 fa0142 氷咲 華唯(15歳・♂・猫)
 fa0406 トール・エル(13歳・♂・リス)
 fa0467 橘・朔耶(20歳・♀・虎)
 fa0595 エルティナ(16歳・♀・蝙蝠)
 fa0612 ヴォルフェ(28歳・♂・狼)
 fa0761 夏姫・シュトラウス(16歳・♀・虎)
 fa1276 玖條 響(18歳・♂・竜)
 fa1521 美森翡翠(11歳・♀・ハムスター)
 fa1660 ヒカル・マーブル(20歳・♀・牛)
 fa2478 相沢 セナ(21歳・♂・鴉)

●リプレイ本文

●天空の塔へ
「‥‥お借りしました。これはエアシップといいまして、風の精霊力を込めた魔導石が動力となっており、魔力で舵をとるのです。主に商船として使用されており‥‥あ、それとも徒歩で行きますか?」
 首都レザラディカ郊外。 
 黒翼の魔術師・セルム(相沢 セナ(fa2478))はそういいながらトレードマークの分厚い眼鏡を指で押し上げる。
 その背後には彼が借りてきたというエアシップが地上数センチの位置で浮いていた。
「借りてきたって、どこからだ? これ、ちょっとやそっとで借りられるようなもんじゃないだろっ」
 吟遊詩人のケイ(氷咲 華唯(fa0142))がそんなセルムに目を向く。
 セルムが借りてきたというエアシップはそれほど大きな物ではなかったが、それにしても希少価値大。
 商用船としての利用はもちろんのこと、軍用船としても利用され、その数は大陸の首都であるレザラディカでも僅か。
 一介のハンターが気楽に借りられる物では無い筈だ。
「まぁ、知り合いもいろいろ。秘密です」
 そういって口元だけで笑うセルムには、その知り合いとやらとの関係を説明する気はなさそうだ。
「あらあら、これに乗れるんですか? それでしたら、お食事は船内で作れそうですねえ」
 そしてお料理好きのほんわか戦士・ヒカル(ヒカル・マーブル(fa1660))はこのエアシップを見ても動じない。
 というより、あまり物事に頓着しないのかもしれない。
 ころころと微笑みながらヒカルは船内に入り、その整った設備に喜びの声を上げている。
「‥‥面倒くさいな。ケーナ、石を預かりたいんだけど」
 面倒くさがりのシーフ、スー(玖條 響(fa1276))はエアシップに歩み寄りその船体に手を触れ、それが商用にカモフラージュされた軍用船であることに気づきながらもスルーして、幼い召喚士・ケーナ(美森翡翠(fa1521))に話題を振る。
 セルムが自分から話さない以上は、彼の過去に土足で踏み込む気は無いのだろう。
「石、これ。あと‥‥テラの夢見た。何か言ってるけど聞こえない。龍‥‥ジュエルドラゴン、知ってる?」
 ケーナは言われるままに竜の紋章が刻まれた小石を手渡す。
 ほんのりと輝くその石は、少し前の依頼で光る海を調査した時に手に入れたものだ。
「竜の紋章は竜の血で作動する‥‥だからケーナには扱えない。ジュエルドラゴンは‥‥あぁ、それについては説明が面倒だし、今の俺には関係ないから」
 小石を受け取り礼を言い、スーはケーナの手を引いて船体に乗せてあげながら、その白い小さな耳にそっと呟く。
「内緒だよ? ‥‥俺はね‥‥」
 ケーナが一瞬驚いた顔をして、けれど次の瞬間子供らしい笑みと共にスーの手を握り返した。
「わたくしプロフェッショナルですの。ただで働く訳にはいきませんわ」
 ケーナの背に、トール(トール・エル(fa0406))がポツリと呟く。
「トールさん、来てくれないの‥‥?」
 ばっと振り向いて涙ぐむケーナに、トールはぷいっとそっぽを向いて、
「美味しい紅茶で手をうってあげますわよ」
 と唇を尖らした。
 ハンターとしてのプライドゆえに、トールは無償労働というものは出来ない。
 けれど大切な友人をここで見捨てる気も無い。
 だからトールはケーナの淹れる紅茶を報酬としてもらうというのだ。
「うん、わかったの。ヒカルさんにいれ方を教わるの!」
 ぱたぱたとヒカルのところへケーナは走ってゆく。
「フィオナちゃんってば、どうしてこんな大変な時にいないのぉ〜!」
 そして少し遅れて、吟遊詩人のエルティナ(エルティナ(fa0595))が駆け寄ってくる。
「ん? フィオナさんとは連絡が取れなかったの?」
 召喚士にして元・魔獣使いでもあるサクヤ(橘・朔耶(fa0467))が慌てふためくエルティナに声をかける。
「そうなの〜。ちょっと気になることがあるとかいって出て行っちゃって‥‥あれ? そういえばカインさんはどこかしら?」
 エルティナとフィオナは双子でありながらその性格は正反対といってよいほどに違うようだ。
 フィオナがいない不安で涙ぐむエルティナに、サクヤはハンカチを差し出す。
「始末しておいた」
 そう呟いて、大剣を背負ったカイン(ヴォルフェ(fa0612))が岩陰から姿を現す。
 その身体からは血の匂いが漂っていた。
「‥‥あまり、無茶をしないで」
 その意味に気づいたサクヤが表情を曇らす。
 恐らく、ハンターギルドにいた監視役の仲間を始末したのだろう。
「気にするな。雑魚の始末は慣れているからな」
 獣毛に覆われた手でくしゃりとサクヤの頭を撫で、二人、船に乗り込む。
「あ、待ってです〜。わたしも乗りますの‥‥あうっ?!」
 どべしゃっ!
 エルティナは船に乗り込んだ瞬間何かにけつまづいてすっころんだ。
 その足元には魔法使いのナツキ(夏姫・シュトラウス(fa0761))がロープでぐるぐるに縛られて口には猿轡までかまされて転がっていた。
「おまえこんなところでなにやってんだ? つーかさっきまでいなかったよな?」
 ケイが即座にナツキの縄を解いて猿轡を外し、カインがエルティナを助け起こす。
「‥‥うぅ、何も言わずにおまけに物扱いだなんて、今までで一番ひどい仕打ちですぅ」
 ナツキはえぐえぐと泣きながらお師匠様への愚痴をもらす。
(「相当な術者のようですね、彼女の師匠は」)
 セルムは突如船内に現れたナツキの師匠に思いをめぐらす。
 この船には魔導石の力が満ちているとはいえ、人一人を即座に転移させるなど並みの術者に出来ることではない。
 だが今は天空の塔へ向かうのが先だ。
 セルムは自分の魔力と魔導石を用い、ゆっくりとエアシップを作動させる。
 鈍い起動音を響かせて、船は大空へと舞い上がる。
 

●ドラゴンゾンビ
 ‥‥ゴウン‥‥ッ!
 大きな揺れと衝撃音と共に船体が大きく揺らぐ。
 ヒカルとケーナの淹れた紅茶が床に巻き散った。
「なんなんですの、一体?!」
 トールが窓から外を覗く。
「ド、ドラゴンがゾンビで、真っ黒くっていっぱいですぅ‥‥っ」
 ボロボロと泣きながら錯乱気味に、それでもナツキは即座に防御呪文ブローディアを詠唱しだす。
「あの杖を‥‥こんな事に使うなんて‥‥取り返す、必ず!」
 スーがエアシップを取り囲むドラゴンゾンビに唇を噛み締め壁を叩く。
 腕に刻まれた竜の紋章が熱を帯びる。
 元々スーの持ち物であった竜の紋章が刻まれた杖は、いまは深淵の魔獣使いの手に渡っている。
 数々のクローンを作り出し、深淵の名が現す通り膨大な魔力を有すると思われる魔獣使いとはいえ、これほどの量のドラゴンをゾンビ化して操れているのはスーの奪われた杖の影響もあるのだろう。
「竜は知性が高くそのままじゃ操れないからって‥‥一体何匹殺したの!?」
 ケーナがその事実に身体を抱きしめる。
「こんな数、まともに相手したら負けるだけだぜ?!」
 ケイがリュートの音色だけで鎮魂歌を奏で、そして少しも攻撃の手を緩めないドラゴンに歌からリュートの音による衝撃波の攻撃に切り替えて舌を打つ。
 ギルドの受付嬢がスーの懐に忍ばせたメモには確かにドラゴンゾンビ発生情報も記載されていたが、数が余りにも違う。
 ケイの焦る気持ちに比例して意識がなぜか途切れそうになるのも苛立った。
「三匹は最低でもとは書かれていましたが‥‥ねぇ?」
 魔力を総動員し、エアシップを操作してドラゴンゾンビの直撃をかわすセルムも、眼前に広がるその光景に恐怖よりもいっそ笑いがこみ上げてくる。
 ドラゴンゾンビはゆうに十数匹いる。
 ナツキの防御魔法が七色の光の膜となってエアシップを覆い、ドラゴンのブレスを防いでいるがこのままでは落とされるのも時間の問題だった。
「どこかに止められないか?! 無理なら‥‥」
「やめて、そんなこと!」
 窓を開け放ち、船の上に登ろうとするカインをサクヤが止める。
「だがここからじゃ文字通り手も足も出ないぜ?!」
 カインは大剣を構えてドラゴンゾンビを睨みつける。
 相手がどんな巨体でもその剣技で屠る自信を持つカインだが、空の上では分が悪すぎる。
 そしてそれはヒカルも同じだった。
 自力で飛ぶ術を持たないハンター達は自由自在に空を舞うドラゴンに為す術がない。
 そして翼を持つセルムは船の操作で手一杯だ。
 その間にも濁り、溶けた目でドラゴンはハンター達を嘲笑いながら船に攻撃を繰り返す。
「俺の紋章だと、一体の動き抑えるのが限界だって‥‥!」
 腕の紋章の力で今まさに船に体当たりをしようとした一匹をスーが抑える。
「道を開くの。天空の塔はもう、すぐそこなの! ‥‥カラファンの風の王、貴方が名を付けし娘の声が聞こえたならその加護を! 天駆ける紫の戦乙女達を招きたまえ、魔の尖兵として操られし屍達を安らかにする為雷嵐の力を下し給え!」
 ケーナが精霊達に願い、精霊達はケーナの為に塔への道を切り開く。
 稲妻に撃ち落されたドラゴンゾンビの向こうに、剣を思わせる天空の塔の姿が現れる。
「倒すことは出来ないけれど、塔までの道を開くだけなら‥‥大地に愛されし邪竜よ、我が敵を撃ち滅ぼさん!」
 サクヤも精霊を召喚し、船に向かってくるドラゴンを大地から立ち上る砂塵が押し留める。
「みなさん、しっかりと捕まってください! 突っ込みますよ!!!」
 セルムが緊迫した声と共にその魔力を開放する。
 エアシップは一気に塔の最上階へと突っ込むのだった。
  

 塔の最上階へと船が入り込めたのは、これまでの調査で塔にかけられていた封印が解けているからだろう。
 そして壁を壊し、突っ込んだ船体が無傷に近かったのはナツキ、ケーナ、サクヤの術者たちによる力だった。
 壊れた壁からなおも襲い来た三匹のドラゴンゾンビを屠るのは、トールによる全員の聖属性付与と、エルティナの呪歌、そして普段とはなぜか違うケイの歌声によって強化されたハンター達にとって容易ではないものの可能だった。
 すべてのドラゴンゾンビが向かってこなかったのも幸いしていた。
「苦労して何かを支配したとて、自分の寿命が尽きたらおしまいだろうに‥‥」
 ヒカルが最後のドラゴンゾンビの足を切り裂き、大剣で止めを刺したカインは自らの呟きにはっとする。
 寿命。
 すべての生命体に定められた命の終わり。
 どんなに高貴な生まれであろうと、市井の生まれであろうと、決して逃れられない運命。
「まさか‥‥召喚士も魔獣使いも、理は皆一緒‥‥あの男はそれさえ忘れているのか?」
 深淵の魔獣使いの目的に思い至り、サクヤも怒りを露わにする。
「ごめんなさい‥‥私達には、貴方達をこんな形でしか開放してあげられない‥‥せめてこの歌を‥‥恵みの光よ優しき子らへ永遠に輝き望みを与えたまえ‥‥」
 エルティナが利用された哀れな骸に呪歌―― 聖歌を歌う。
「‥‥そう‥‥だったのですか‥‥しかし何処へ‥‥?」
 ケーナの母親であり、塔の管理者が封印されていた場所へ手を当て、セルムは種族魔法エリシードによりその場に残る記憶を読み取り、呟く。
「ママ‥‥? ママ、どこなの?!」
 ケーナの叫びがむなしく塔に響く。
 ここに封印されていた母親は、その氷を思わせる棺を残して跡形も無く消えていたのだ。
「ケーナさん、ここに触れてください。貴方なら出来るはずです」
 セルムが棺の底に輝く石に手をかざす。
 水晶の中で風が踊るように光り輝くそれは、ケーナの胸の水晶に良く似ていた。
 恐る恐る、言われるままにケーナはその手をかざす。 
 

●エピローグ〜天空大陸へ
「ここがケーナの育った場所‥‥本来は精霊や幻獣の聖地の大陸‥‥でもこれは‥‥」
 塔から転移した其処は、伝説のそれとは余りにも違っていた。
「自分が自分でなくなりそうなこの感覚は‥‥一体?」
 不思議な歌を歌った事を覚えていない自分に、ケイは眉を潜める。
「ふぅ、早く帰ってティータイムにしたいですわ」
 眼前に広がる荒れ果てた荒野に屈することなく、トールは微笑む。
 陽の光に透けて金色を増す髪が黄砂になびいた。
 早く帰れることなど、きっとありえはしない。
 けれどトールが微笑むとそれも可能に思えてくる。
「‥‥シレーネ‥‥?」
 ずっと感じていた視線に、セルムは呟く。
 だが答えは返らない。
 天空の大陸と呼ばれし大地は、ハンター達を冷たく迎えるのだった‥‥。