冥土のお仕事☆桜霞アジア・オセアニア

種類 ショート
担当 霜月零
芸能 1Lv以上
獣人 1Lv以上
難度 やや難
報酬 0.8万円
参加人数 8人
サポート 0人
期間 04/12〜04/14

●本文

――思い遺したことはなんですか?
――行きたかった場所はどこですか?
――泣いている人はどこですか?
――その願い、その苦しみ、わたくしたちが解決しましょう!!


 ――桜の下には死体が埋まっている‥‥――
 そんな使い古された言葉を信じたくなるほどに、その桜は美しかった。
「美しい光景ですね」
 メイド喫茶『Entrance to heaven』の代理店長は、土手に咲き誇る桜並木の中でも一際大きく美しいそれに目を奪われる。
「この間の、天国の花畑のようですね」
 メイドの一人が何気なく呟く。
 月明かりに照らされたその桜の美しさは幻想的で、代理店長は大きく頷く。
「美しい桜を愛でながら、ゆっくりと疲れを癒してくださいね?」
 少々土手が急で危険な為か、はたまた近くにもっと大きな桜の名所がある為か、満開の桜があるというのにEHの店員達しかいないその場所で、メイド達はゆっくりと花見を楽しむのだった。
 

●今回の参加者

 fa0244 愛瀬りな(21歳・♀・猫)
 fa0525 アカネ・コトミヤ(16歳・♀・猫)
 fa0565 森守可憐(20歳・♀・一角獣)
 fa0768 鹿堂 威(18歳・♂・鴉)
 fa0898 シヴェル・マクスウェル(22歳・♀・熊)
 fa2057 風間由姫(15歳・♀・兎)
 fa2601 あいり(17歳・♀・竜)
 fa2910 イルゼ・クヴァンツ(24歳・♀・狼)

●リプレイ本文

●満開の桜
 その桜は、とても大きく見事だった。
 満開に誇らしげに咲くその姿は神木と見まごうほどに立派で、少し急な土手に斜めに根を這わせている。
『花見をしませんか? 小雪さんの歓迎パーティーも兼ねて』
 メイド喫茶『Entrance to heaven』の代理店長(イルゼ・クヴァンツ(fa2910))は、新しくEHの店員となった黒澤小雪(森守可憐(fa0565))をみんなに紹介し、そう提案した。
 花見の時期にも丁度良いし、会いたい人もいるという代理店長の提案に乗って、メイド喫茶の営業時間が終わった深夜、EHのメンバーはこの場所にやってきた。
 月の光を浴びて、桜はほんのりと光り輝く。
「本当に見事な桜ですね」
 近くの駐車場に車を止めてきたサエ(アカネ・コトミヤ(fa0525))は、眼鏡を抑えて目を細める。
 EHメンバーみんなでお花見だから、サエが今日は車を出したのだ。
「Wonderful! 流石代理店長が勧める桜だけはあるね。日本中を探しても、これほど見事な桜は他にないだろう」
 アメリカから日本へ着たばかりのレイ(シヴェル・マクスウェル(fa0898))は、豪快に手を叩いて感動を露わにする。
「お花見、お花見〜♪ いっぱいおいしい物食べるんだよ♪」
 立花音羽(あいり(fa2601))はツインテールを揺らしてはしゃぐ。
 でも花より団子なのはデフォ?
「久しぶりにゆっくりできそうですね〜☆ 蓮さんもそう思いませんか?」
 高梨雪恵(風間由姫(fa2057))は朝からばっちり準備しておいたお弁当の入ったバスケットを手にいつもよりもご機嫌☆
「‥‥ん? あぁ、綺麗だな」
 けれどそんな明るい雪恵とは正反対に、死神見習いの蓮(鹿堂 威(fa0768))は心ここにあらず。
 幻想的な桜に見とれているというわけではなさそうな蓮は、ここ数日、ずっとこんな調子だった。
 ウェイターとしての仕事も死神見習いとしての仕事も手に付かず、気晴らしにと代理店長に強引に小雪の歓迎会兼花見に付き合わされたのだ。
「私、皆様と食べようと思って、桜餅を買ってまいりました。満月堂の月見桜餅です」
 小雪はEHのメイドとしてのお仕事を終えるとすぐに電車を乗り継いで隣町まで足を伸ばし、美味しいと有名な桜餅を一時間も並んで買ってきた。
 みんなと早く仲良くなりたくて、頑張ったのだ。
「さあ、準備は整いましたよ。お花見を始めるといたしましょうか」
 代理店長の隣には、いつの間にか黒髪の美女が佇んでいた。
「初めまして。サクラと申します。今日はイルゼ様のご好意でご一緒させて頂くことになりました。どうぞよろしくお願いします」
 ほんのりピンク色のワンピースを纏ったサクラ(愛瀬りな(fa0244))は、EHのメンバーににっこりと微笑む。
 さあ、お花見の始まりだ☆
  

●わいわいがやがや楽しくお花見☆
 桜の真下は急な土手だから、少し離れた場所にレジャーシートを数枚ひいて、みんなでくつろぐ。
「皆様の能力は、どのようなものですか?」
 小雪がお酒やジュースを注いで回りながら尋ねる。
 本来ならお花見といえばお酒だが、EHメンバーは未成年も多いからジュースもちゃんと用意しておいたのだ。
「私は歌かな? 霊力を高めたり、死者を弔う為に歌うんだよ」
 ぱくぱくぱく☆
 立花はお礼を言いつつ小雪の買ってきた桜餅は即効で食べて、今は雪恵のお弁当をぱくついていた。
 こんなにいっぱい食べても太らないのは羨ましい限りである。
「うーん、私の場合はまだまだ弱くって、力が安定してないかもです。武器に霊力を込めて悪霊さんとかと戦うんだけど、もう少し強くなりたいな」
 応えながら、雪恵はちらっと蓮を見る。
 亡くなった兄にそっくりな死神は、いつも雪恵達を助けてくれている。
 彼がいなかったら、雪恵は今頃この世にはいないだろう。
 できれば一人でも十分戦えるぐらいに強くなりたいのだが‥‥中々に難しい。
「サクラさんにはどちらがいいでしょうか? 飲めますか?」
 小雪が小首を傾げる。
「いいえ、私はどちらも遠慮しておきますね。お気持ちだけで、十分です」
 ほんのりと微笑むサクラが、一瞬透けたように感じたのは気のせいだろうか?
(「私、もう酔っちゃったです?」)
 お酒は殆ど口にせず、注いで回っていたのだが、どうやら雰囲気に酔ってしまったらしい。
 酔いを冷まそうと、小雪は席を立つ。


●桜とサクラ
「ふむ‥‥こうしてじっくり見てみると、とても綺麗だよ、サクラ」
 レイがサクラの手を取り、じっと見詰める。
 その瞳はサクラと、そしてサクラを通して背後の桜をみつめていた。
「ふふっ、お上手ですね。こんな姿なのに‥‥お世辞でも嬉しいです」
 サクラはほんのりと頬を染める。
「レイさん、もう酔ってしまったんですか? こんな人気の無いところで女性を口説いてはいけませんです」
 サエはちょっぴり錯乱気味におろおろと止める。
 人気のあるところなら女性を口説いてもいいのかと突っ込みたくなるところだが、顔を真っ赤にして止める様子を見るとあんまりからかえない。
 けれどこれほど見事な桜があるというのに、この土手にはEHメンバー以外、花見客は一人としていなかった。
 レイは本当のことは言わずに肩を竦め、
「Sorry、本当に美しかったものだからね。サエさんも一杯どう?」
 笑いながらサクラの手を離しサエにもお酒を勧める。
「ありがとうございます。ジュースのほうを頂きますね」
 サエは運転のこともあって、ジュースをもらう。
「あれ? 小雪さんはどこでしょう?」
 雪恵がふと小雪がいないことに気づく。
 先ほど席を立った小雪がまだ戻ってきていないのだ。
「‥‥いけないっ、危険です!」
 サクラがはっとして立ち上がり、桜の木に駆けて行く。
「サクラさん?」
 代理店長が怪訝な顔をしつつも後に続く。
「あそこです、私では、これ以上助けられませんっ」
 サクラが指差し、叫ぶ。
 桜の木の影になって見えなかったが、足を滑らせたのだろう、急な土手の中腹で小雪が桜の根っ子にしがみ付いていた。
 根っ子は、よく見ると今地面から引っこ抜いたばかりのように土が付いている。   
「助けてくださいです〜っ」
 代理店長とサクラに気づいて、小雪は涙ぐむ。
 騒ぎに気づいてEHメンバーが桜に集まる。
「‥‥まって。どうして桜を突き抜けてるのかな?!」
 立花が口元を押さえて目をまんまるに見開く。
 桜の木の根っ子にしがみ付いている小雪の身体は、なぜか桜の幹を突き抜けているのだ。
「Be caught! これに捕まって!」
 レイがサエの車からロープを借りて小雪に投げる。
 小雪は何とかそれに捕まって、土手の上に這い上がった。
「こ、怖かったよ! 無事でよかった‥‥っ」
 雪恵が小雪を抱きしめて涙ぐむ。
「ご心配お掛けしましたです。この桜の根っ子が丁度もりあがってくれて助かりました」
「よかった。本当に‥‥よかった‥‥」
 サクラが心底ほっとしたように呟き、次の瞬間その場に座り込む。
「サクラさんっ?!」
「無理をしましたからね。大丈夫です、心配はいりませんよ」
 代理店長がサクラを抱き起こし、霊力を分け与える。
「あんただけじゃキツイだろ、それ」
 終始ぼんやりとしていた蓮が、実体化を解いて死神・蓮の姿を取り、サクラに手をかざす。
 代理店長と蓮の二人の霊力を分け与えられ、サクラの頬に赤味が戻った。
「わわっ、蓮さん、そんな格好見られたらやばいんだよっ」
 立花が小声でおろおろと止めるが、蓮は一向に気にしない。
「ふむ。もしかして立花さんは気づいていないのかな?」
「何がかな?」
 レイの言葉に、立花はきょとんとする。
「サクラさんは、桜の精ですよ?」
 サエが後を続ける。
 サクラが頑張って自分の根っ子を動かしたから、小雪は助かり、そしてそんな無茶をしたからサクラは倒れたのだ。
「えええええーーーーーーーーーーーっ?!」
 立花の絶叫があたりに響いた。    


●蓮
(「いつか、消えるものなんだな‥‥」)
 桜を見つめ、蓮はなんともいえない気持ちになる。
 いま蓮の目には、二つの桜が見えていた。
 一つは、霊力のあるものにのみ見える満開の桜。
 もう一つは、無残にも人によって切り倒され、切り株のみとなった現実の姿。
(「人間も死神も、魂すらも永遠の存在ではないんだな。‥‥ならば、いっそ、なるようになればいい」)
 誰にも逃れることの出来ない、いつか消えるその日を恐れるよりも、今も大事に生きよう。
「蓮さん、やっぱり調子が悪いの?」
 雪恵が心配そうに声をかけてくる。
 ここ最近ずっと蓮は失敗ばかりでぼんやりとしていることが多かったから、雪恵はとても不安だったのだ。
「いや、気分はとてもいい。心配かけて悪かったな」
 雪恵の頭を優しくなでてやる。
「蓮さん‥‥?」
「お前の兄はヴァイオリンが好きだったな? 俺も好きだよ」
 蓮は魂に刻まれた記憶に強く残る曲を、霊力で織り成したヴァイオリンで奏でる。
 その曲はセレナーデ。
 雪恵の亡くなった兄・蓮が作った曲だ。
 雪恵は何かいいたげに口を開きかけ、けれど何もいわずにセレナーデに耳を傾ける。
「お前の兄さんに、いつかまた逢えるといいな」
 その日は、死神としての蓮が消えてしまう日だけれど。
 蓮は大切な妹であり仲間である雪恵の頭を再度撫でた。 


●エピローグ〜サクラと共に〜
「それで‥‥いろいろ大変なようですが、これからどうします?」
 花見も終わり、皆が車に乗り込むと、一人残ったサクラに代理店長は声をかける。
「この切り株が残っている限り、私は此処におります。どうかまた来年も一緒にお花見できるのを楽しみにしています」
 EHの為だけに霊力で咲かせた桜は、はらはらと舞い散り始める。
「貴方さえよければ、いつでも遊びに来てくださいね?」
「はい、喜んで」
 サクラは代理店長に自分の身体の一部である枝を差し出し、立ち去るみんなをいつまでもいつまでも見送っていた。


 代理店長は、EHの窓辺にそっと桜の枝を飾る。
 蕾ももう付ける事のないその枝は、けれどEHの店員達にだけは美しい桜が咲き誇る姿が見えていた。
「今日から、ここの一員です」
 サクラがいつでも遊びにこれるように。
 代理店長は優しく微笑んだ。