冥土のお仕事☆闇の瞳アジア・オセアニア

種類 ショート
担当 霜月零
芸能 1Lv以上
獣人 1Lv以上
難度 やや難
報酬 1.2万円
参加人数 8人
サポート 1人
期間 04/26〜04/30

●本文

「そろそろ、本気を出すんだよ? 主様の為にもね」
 闇の中。
 悪霊たる少女はクスクスと笑う。
 霊力により映し出した情景には、メイド喫茶『Entrance to heaven』で働くメイド達の姿が映し出されている。
 以前、悪霊たる少女は人の身体を奪い去り、メイド達に近づいた。
 けれどメイド達は少しも気づきはしなかったから、今まで悪霊たる少女はほんの遊びのつもりでメイド達と戦っていたのだが‥‥。
「この怪我を負わせたこと、後悔させてやるんだ‥‥戦禍衆に邪魔はさせないんだよ」
 つい先日、返り討ちに遭い、腕に酷い怪我を負ったのだ。
 今はもう見た目こそなんともないものの、悪霊たる少女のプライドはズタズタだった。
「一番目障りなあの男は最後なんだよ。楽しみは取っておかなくちゃね。
 まずは‥‥そう、あの女からだよ」
 何も知らずに働き続けるEHのメイドのうちの一人に狙いを定め、悪霊たる少女は罠を張り巡らす――。 


 メイド喫茶『Entrance to heaven』。
 略して『EH』
 そこは最近流行のメイド喫茶で、シックで愛らしい黒いメイド服に身を包んだ少女達はもちろんのこと、イケメンのウェイターも取り揃えた、ちょっぴりメイド喫茶としては邪道なお店。


「Dの時間です」

 閉店時間を迎え、スタッフルームでくつろぐ店員達に、全身黒い衣装を纏った死神を思わせる老人が声をかける。
 彼こそ、このメイド喫茶『Entrance to heaven』の店長。
 そして『Dの時間』とは、メイド喫茶EHのもう一つの仕事を意味している。

 メイド喫茶『Entrance to heaven』のもう一つの仕事。 
 それは、死者の魂を天国へと導くこと。
 迷い、悩み、さ迷える死者の魂を救うこと。
「闇が、動き出しました」
 店長から伝えられた言葉に、店員達は息を呑む。
 ここ最近、Dの時間が増えていて、店員達もうすうす気づき始めていたのだ――事件の裏に、何かがあると。
 今までずっと感じていた何者かの作為。
 その何者かが本格的に動き出したのだとしたら‥‥。
 店長がシルクハットを目深に被り、カメラ目線でステッキをかざす。
 そうして一堂に並ぶメイドたち。
「光り輝く未来の為に。闇を救ってみせましょう!」 
 店長以下、メイド喫茶店員達がカメラ目線で微笑んだ。


☆冥土のお仕事出演者募集☆
 深夜特撮番組『冥土のお仕事☆』では、特殊能力を持ったメイド服に身を包んだ少女達が、助けを求める幽霊達の願いを叶え、天国へと導いたり、悪霊と戦ったりしています。
 今回はEHのメイドを狙って悪霊が本格的な攻撃を仕掛けてきます。
 悪霊を見事倒してください。

●今回の参加者

 fa0525 アカネ・コトミヤ(16歳・♀・猫)
 fa0768 鹿堂 威(18歳・♂・鴉)
 fa0898 シヴェル・マクスウェル(22歳・♀・熊)
 fa2057 風間由姫(15歳・♀・兎)
 fa2467 西風(58歳・♂・パンダ)
 fa2601 あいり(17歳・♀・竜)
 fa2672 白蓮(17歳・♀・兎)
 fa2968 吉田 美弥(12歳・♀・猫)

●リプレイ本文

●プロローグ
「闇が、動き出しました」
 メイド喫茶『Entrance to heaven』、略してEHの店長(西風(fa2467))は、店員達に事態の深刻さを伝える。
 ここ最近の悪霊の活発化は、何か裏がある――。
「私は今一度天国へ戻り、対策を得てきます。それまで‥‥皆さん、気をつけてください」
 シルクハットを目深に被り、店長は掻き消えた。
 

●柚木
「待って下さい。こちらから、何か気配がします」
 メイド喫茶の買い出しに出ていた柚木(白蓮(fa2672))は、一緒に来てもらっていた立花音羽(あいり(fa2601))に声をかける。
「悪霊なのかな?」
 立花は少々緊張気味に、柚木の後を付いていく。 
 道からそれて、少し歩いていくと、小さな公園に突き当たった。
 人気のないそこには、誰も見る人がいないというのに噴水がキラキラと輝く。
「そう、この噴水です」
 いつも身につけているブローチを握り締め、柚木は噴水を覗き込む。
 柚木がそっと手を触れると、水が二、三度揺らめき、一人の少女の姿を映し出した。
「これは‥‥うっ!」
 少女の姿をよく視ようと力を使おうとしたその瞬間、突如として現れた別の悪霊に柚木は吹き飛ばされる。
「柚木さん、しっかりだよ!」
 立花が駆け寄り、抱き起こす。
『グググ‥‥ギ‥‥ググ』
 異形の化け物と化した悪霊が再び柚木と立花に襲い掛かる!
「なに、この力! これって、ただの悪霊じゃないんだよっ」
 悪意の渦が二人を切り刻む。
「これ以上は、させません」
 柚木は二人に襲い来る悪霊に手をかざし、その強すぎる力でもって悪霊を寸での所で弾き飛ばす。
「柚木さんに手は出させないんだよ。この祈り、届いて」
 立花が霊力を込めた歌を歌う。
 夜の公園に優しく響くその声は、悪霊の動きを鈍らせた。
「天国へ、ご案内いたしましょう」
 柚木の胸のペンダントが銀の杖に変わり、悪霊に振るう。
 強大な霊力でもって天国の門が開き、悪霊は憑き物でも落ちたかのように穏やかに、門をくぐってゆく。
「立花様、お怪我はありませんか? 巻き込んでしまってごめんなさい」
 柚木は天国への門を閉じ、立花を気遣う。
 その、瞬間。
(「えっ?!」)
 グラリ。
 柚木の視界が歪む。
『いい器、見つけたんだよ』
 身体の内側から、声が響く。
 そして脳裏に浮かぶ、噴水に映し出されたあの少女。
「柚木さん?!」
 立花が倒れる柚木を抱き起こす。
 けれど柚木は声が出ない。
「大丈夫」
 そう答えるその声は、柚木のものであって柚木ではない。
(「どうか、気づいて‥‥」)
 柚木の意識は、そこで途切れた。
     

●メイド喫茶『Entrance to heaven』
「ニャー、これはどうしたニャ!」
 傷だらけでEHに戻った柚木と立花にミャー(吉田 美弥(fa2968))は大慌て。
 わたわたと猫尻尾を揺らし、先っぽに結ばれた鈴が大きく鳴った。
「公園で悪霊に会っちゃって‥‥でも私は大丈夫なんだよ。柚木さんが守ってくれたから。でも柚木さんの様子がおかしいんだよ」
 立花に支えられるようにしながら、柚木はそれでも大丈夫だと微笑む。
 けれどどこかその瞳は虚ろだ。
「お二人とも早く治療しましょう。ここに座ってください」
 サエ(アカネ・コトミヤ(fa0525))がすぐさま救急箱を用意して、スタッフルームのソファーに座るように指示する。
(「これなら外傷はすぐに治りそうですね」)
 サエは傷口を消毒して包帯を巻いてあげながらほっとする。
 全体的に傷だらけの二人は、見た目ほど酷い負傷ではなかったようだ。
 どの傷も浅く、出血はしているものの命に関わるような大きな怪我は一つもなかった。
「なあ、おまえ‥‥いや、なんでもない」
 死神に習いの蓮(鹿堂 威(fa0768))が何かを言いかけて口ごもる。
 柚木から発せられる霊力が何処か違うのだ。
 だが、蓮は最近とても疲れていたし、柚木の能力は予知。
 特殊能力者の集まるEHにおいても稀な能力者だから、怪我をしたり疲れたりした時には霊力に乱れが発するのかもしれない。
「awkward、邪気に充てられてるな。ゆっくり休んだ方がいい」
 レイ(シヴェル・マクスウェル(fa0898))が柚木の中になにか邪悪な物を感じ取り、軽く浄化の術を施す。
 柚木は一瞬瞳を見開き胸を抑え、雪恵(風間由姫(fa2057))に何かを言おうとし、けれど叶わずそのまま倒れ付した。   
 

●偽りの予言
(『しつこいんだよ!』)
 柚木の身体を乗っ取っている悪霊・柊塊は、レイの浄化で軽くダメージを受け、その隙に身体の主導権を取り戻そうとした柚木の意識を怒鳴り、精神を押し込める。
 そうして、自分を見守るEHのメンバーに、嘘の予言をもたらした。
「闇が‥‥薔薇の森の館に‥‥」
 今倒れた瞬間に予知夢を視たといい、EHのメンバーを罠へと誘う。
 慌てて現地へ向かおうとするEHのメンバーを、本当の柚木は必死で止めようとするが、身体がいう事をきかない。
 完全に塊に支配されてしまっているのだ。
「皆様、お気をつけて‥‥」
 塊が自分の口を使って大切な仲間達を死地へと送り込むのを、柚木は止められなかった。
(「おじさま‥‥」)
 奪われた身体の内から、柚木は一刻も早く店長が戻ってきてくれることを祈るのだった。 


●薔薇の森の館。
「この場所ですか?」
 雪恵は竹刀を油断なく構えながら周囲を伺う。
 柚木の予言した場所は、薔薇に囲まれた館。
 咲き誇る赤い薔薇に囲まれたその洋館は、薄暗い森の中にひっそりと佇んでいた。
「ニャー。にゃんだか嫌な感じのする場所ニャね」
 ミャーの額に冷や汗が浮かぶ。
「この場所にいる悪霊を退治して、早く柚木さんを安心させてあげるんだよ」
 立花はこくりと息を呑んでドアに手をかける。
「柚木さんがあれだけの手傷を負うなんて‥‥今度の相手はかなりの相手みたいですね」
 サエは代理店長から借りた結界針を手に持ち、立花の後に続く。
 結界針は、刺した地点の周囲に防御の結界を張る針状の楔だ。
 一度使うと使用者は大量の霊力を消耗する上に、使用中はその他の動きが殆ど取れなくなる。
 だから普段は余り使わないのだが、なぜだろう、第六感とでも言うべき勘でサエはそれを借りてきていた。
「蓮さんも気分が悪いの?」
 実体化を解き、死神姿になっている蓮を雪恵は気遣う。
 EHを出てから、ずっと蓮は険しい表情をしている。
「いや、悪くない。ただちょっと、柚木が心配でね」
「そうですよね。柚木さんの霊力は強いけれど、その分身体に負担がかかってしまうから‥‥」
 心の底から仲間を心配する優しい雪恵に、蓮は少しだけ罪悪感を抱く。
 蓮が本当に気にしているのは、柚木の体調というより彼女から発せられた違和感なのだ。
(「あの雰囲気、何処かで感じた事があるような‥‥いや、それよりも、霊力に乱れが発するほどに弱っている状態で予知などできるものなのか?」)
 柚木を支配する悪霊・柊塊に蓮は以前会っている。
 それどころか、今回と同じように人の身体を乗っ取っていた状態でそうとは気づかずに接しているのだ。
 胸に沸き起こる不吉な予感を振り払い、蓮はメイド達の後に続く。
 洋館の中は、吹き抜けになっていた。
 薔薇をモチーフにしたシャンデリアがEHのメンバーを照らし出す。
「うわー、綺麗なんだよ」
 立花がとことことツインテールを揺らして部屋の中央に立ち、シャンデリアを真下から見上げる。
「Stop the presses、なぜシャンデリアが灯っている?」
 レイが異変に気づく。
 この洋館には誰も住んでいないはずなのだ。
「外に出ろ!」
 蓮が叫ぶ。
 だが時既に遅し。
 無情にもドアは閉まり、薔薇の花びらが舞い散るようにシャンデリアが散り、床に光り輝く魔法陣が出現した。


「貴女は‥‥何をしているのです?!」
 天国からEHに戻った店長は、すぐさま柚木の異変に、中に潜む悪霊の存在に気づき、即座に式神を解き放つ。
 けれど柚木は―― いや、塊はニヤリと嗤い、柚木の能力を使って転移し、敵を見失った式神がはらりと床に舞い落ちる。
「どうやら、遅かったようですね」
 店長は柚木の気を辿り、館への道を開く。


「Sorry。dis−enchantは得意じゃないんだ」
 いつものように軽い口調でレイは言うが、内心は焦る気持ちでいっぱいだった。
 メイド達に降り注いだシャンデリアの破片は、ぐるりとメイド達を取り囲むように床に突き刺さり、光が一つずつ失われてゆく。
 と、同時に、逃げ場のないメイド達に霊力で作り出されたレーザーが発動。
 即死はしないものの、逃げ場のないまま打ち抜かれる苦痛は肉体だけでなく精神も疲弊させる。
(「自分だけなら耐えられるかもしれないが‥‥こいつは厄介だ」)
 レイはそれでも精一杯霊力を使い、苦手なレーザーを防ごうと試みる。
「皆様、後を頼みます」
 サエが決意し、結界針を発動させる。
 瞬時に周囲に霊力の壁が張り巡らされ、レーザーを弾き返した。
 だが、これでもうサエは他の行動が取れない。
 そしてサエの霊力が尽きれば結界は壊れ、再びレーザーに打ち抜かれる。
 だからこれはサエの命がけの賭けだった。
 みんながサエの霊力が尽きるまでに罠を破壊できなければ、身動きの取れないサエは只ではすまない。

「往生際が悪いんだよ」

 空間が揺らぎ、柚木がその場に現れる。
 その表情は邪悪に歪む。
「柚木さん?」
 尋常ならざる物を感じ取り、雪恵は竹刀を構える。
 感知能力の低い雪恵ですらはっきりとわかる違和感。
 目の前にいるのは、柚木であって柚木ではない。
「やはり、な。‥‥虚闇撃弾!」
 蓮が闇の光を集め、柚木を、その中にいる塊を攻撃する。
 だが発動するその瞬間、
「駄目ニャ、そんなことしたら柚木さんも危ないニャっ!」
 ミャーが蓮を突き飛ばす。
 闇の光は柚木を紙一重分それて壁に吸い込まれていった。
「今度はこっちの番だね? 器が壊れても柊塊には関係ないんだよ!」
 柚木の手の平から、メイド達に黒霧毒酸が発せられる。
 それは柚木の強大な霊力を使い塊が生み出した必殺技だ。
 身動きの取れないメイド達を暗黒の霧が包み込み、強力な酸が溶かそうとする。
 それはサエの結界から滲み出し、メイド達を苦しめる。
「結界の中に?! そんな、私の霊力では防げないのですか?!」
「サエさん落ち着くんだよ、これは柚木さんの、私達の仲間の力を元に作られているから完全に防ぐことが出来ないんだよっ」
 動けないサエの楯になり、立花は歌を歌おうとする。
 けれど黒霧を大きく吸い込み、喉を焼く。
「柚木ちゃん、頑張るニャ。すぐに皆で助けてあげるニャ!」
 悪霊の中で戦っているであろう柚木に、ミャーは必死で声をかける。
「人の身体を使うとは随分とチキンな手だな? この前のお仕置きがだいぶ堪えたか?!」
 攻撃を自分に集中させようとレイが塊を挑発する。
「そんなに死にたいなら、死なせてあげるんだよっ」
 怒りに顔を染め、塊は柚木の力を解き放つ。


●主
「うちの娘さん達を、傷つける事は許しません」
 塊の解き放った攻撃は、レイに届く寸前で転移してきた店長によってかき消された。
 そうして、店長は「今度は、間に合いましたね」とメイド達に微笑み、魔法陣を消し去る。
「邪魔なんだよ、お前!」
 なおも攻撃を繰り出そうとする塊に、店長は自愛に満ちた表情で語りかける。
「思い出してください。貴女が何者であるかを‥‥」
 店長がその能力を使い、悪霊と化す前の少女の記憶、前世のそれを蘇らせる。
 塊の過去の記憶が、メイド達の脳裏にも映し出される。
 そこは、雨の降る場所。
 薄暗く、光とも闇とも判断できないその場所で、まだ幼い少女が一人、泣いていた。
「‥‥あの場所は、狭間‥‥雨は嫌い‥‥嫌な事思い出すから‥‥正の力で‥‥救えない事も‥‥時間と補強‥‥」
 ポツリと、塊は呟く。
 塊から発せられていた邪気が消えてゆく。
「柚木さんの身体から離れてください。そして天国へ行きましょう?」
 天国へと誘おうとする雪恵を塊は寂しげに見つめ―― 次の瞬間、びくりと身体を震わす。

『戻って来い、ここへ』

 男性とも女性とも判断の付かない、異質な声があたりに響く。
 そして稲妻のように柚木の、塊の身体を闇の波動が貫いた。
「危うく、惑わされるところだったんだよ。天国なんて、ありはしないんだよ!」
 再び邪悪なオーラを発し、塊は柚木の身体ごと転移する。
 

●エピローグ
「柚木さん、これを飲んでください」
 店長が天国から持ち帰った霊華の種を柚木に飲ます。
 柚木は館のすぐ側で倒れていた。
 店長の式神が見つけ出したのだ。
「おじさま‥‥?」
 薄っすらと意識を取り戻した柚木は、けれど少しも安心することが出来なかった。
 塊に乗っ取られていた間に視えてしまったもの。
 それは、崩壊する大地と溢れる邪気だったのだから――。