冥土のお仕事☆初恋アジア・オセアニア
種類 |
ショート
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担当 |
霜月零
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芸能 |
2Lv以上
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獣人 |
2Lv以上
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難度 |
やや難
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報酬 |
3.7万円
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参加人数 |
10人
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サポート |
0人
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期間 |
05/17〜05/21
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●本文
――思い遺したことはなんですか?
――行きたかった場所はどこですか?
――泣いている人はどこですか?
――その願い、その苦しみ、わたくしたちが解決しましょう!!
メイド喫茶『Entrance to heaven』。
略して『EH』
そこは最近流行のメイド喫茶。
シックで愛らしい黒いメイド服に身を包んだ少女達はもちろんのこと、イケメンのウェイターも取り揃えた、ちょっぴりメイド喫茶としては邪道なお店は、今日も今日とて賑わっている。
「初恋も、まだだったんだぜ?」
そういって、彼はほっぺたをぷくっと膨らませる。
まだ十代の少年とも青年ともつかない微妙な年齢の彼は、EHのメイドの手を取る。 そしてその手は半分透けてたり。
彼の名前は林原亮くん。
つい最近亡くなってしまったのだが、初恋もしていなかったことが心残りでこの世に留まってしまったらしい。
「駄目だよ? ちゃんと成仏してもらわないと」
幽霊に口説かれているメイドは驚きもせずにやんわりとその手を振り払う。
「Dの時間‥‥は、もう始まってますね」
店長はちょっぴり苦笑。
『Dの時間』とは、メイド喫茶EHのもう一つの仕事で、迷い、彷徨える霊を天国へと導いているのだ。
「笑い事じゃないんだよ。ちゃんと彼を成仏させて上げないと!」
「だったら話は早いじゃん。俺とデートしてよ?」
頑張って亮くんを説得するメイドに、デートを申し込む亮くん。
彼は無事、成仏できるのでしょうか?
☆冥土のお仕事キャスト募集☆
深夜特撮番組『冥土のお仕事☆』では、メイド服に身を包んだ特殊能力を持った少女達が、助けを求める幽霊達の願いを叶え、天国へと導いています。
今回は、初恋を知らないという幽霊・亮くんを頑張って成仏させてあげてください。
●リプレイ本文
●柚木
メイド喫茶『Entrance to heaven』の一室で、柚木(白蓮(fa2672))は水鏡に銀の杖を掲げる。
だが視たいものを映し出すはずの水鏡は、その水面に波紋を広げるばかり。
深い後悔の念が柚木の胸に押し寄せる。
つい先日、柚木は悪霊たる少女にその身体を乗っ取られ、大切な仲間達を窮地に陥れてしまったのだ。
自らの意思ではないとはいえ、仲間を傷つけてしまったことは後悔してもし足りなく‥‥柚木はふうっと溜息をつく。
と、その瞬間、水鏡が揺らいだ。
「あら?」
一瞬、悪霊達の姿かと思ったが、違う。
水鏡には真っ白い羽根を一生懸命動かしてふわふわと漂う天使の少女・リリエル(KISARA(fa0389))と少女のように愛らしい幽霊の少年が。
柚木はほんの少し何かを考えた後、いそいそと厨房に向かった。
●亮
「ボクと付き合ってください」
EHが閉店し、お客様もいなくなった店内。
幽霊の少年・亮(西園寺 紫(fa2102))はEHのメイドである高梨雪恵(風間由姫(fa2057))の手を握る。
もっとも、握るといっても幽霊だから本当に握れるわけではないのだが。
「え? ええ?? 私がデートの相手ですかぁ??」
真剣な眼差しの亮に、雪恵はしどろもどろ。
幽霊とはもちろんのこと、男の子とデートなんてはっきりきっぱり、今まで一度もしたことがないのだ。
「雪恵さんもてもてニャ。ミャーは応援するニャ♪」
猫妖精のような存在であるミャー(吉田 美弥(fa2968))は今日も元気に猫尻尾を揺らして興味深々。
立花音羽(あいり(fa2601))も事の成り行きをわくわくと見守っている。
「‥‥なにやら取り込んでいるようですね」
北欧からEHに遊びに来たリリエルを迎えに出ていた代理店長(イルゼ・クヴァンツ(fa2910))が入口の前に立ち、雪恵を口説きまくっているませた少年に苦笑する。
「北欧地区から研修に参りました〜。よろしくお願いしますですわ♪」
そしてリリエルはほんわかとみんなに挨拶をする。
はっきりきっぱりマイペース。
それぞれに挨拶をし、でもそれが終わってもやっぱり亮は雪恵を離さない。
「ええっと、その、デートといきなり言われても、あの、そのっ」
「ボク、初恋もまだだったんです。雪恵さんはボクの理想です。デートしてくれるまでは成仏できません!」
真っ赤な雪恵に、亮は押して押して押し捲る。
「『コイ』というのはあれだろ? 魚類コイ目コイ科コイ属の食用、観賞用にされる淡水魚。『初コイ』というのは『初鰹』という言葉から察するに、『その年はじめてのコイ』という事だろ?」
はらはらはら。
内心、なぜか焦りまくりながら死神見習いの蓮(鹿堂 威(fa0768))が盛大なボケをかます。
とにかく雪恵の手を放せといいたくなるのをぐっと堪えていたりもする。
「初恋というのは〜、ラブラブのことですよ〜」
ほわわんとリリエルが突っ込みを入れるが、その突っ込みも何処かちょみっとずれているようないないような。
「初恋もまだだったなんて、悲しすぎます。雪恵様、ぜひ願いを叶えてあげてくださいませ」
そして最近メイド喫茶の店員になった黒澤 小雪(森守可憐(fa0565))が力強く雪恵を説得する。
「代理店長〜っ」
困り果てて代理店長に助けを求める雪恵に、代理店長はにっこり笑って言い切った。
「行ってらっしゃい」
有無を言わさずさわやかに言い切られ、雪恵は真っ赤になりつつも覚悟を決めるのだった。
●デートは遊園地☆
「遊園地なんていかがですか?」
スタッフルームの奥から、柚木が出てきて声をかける。
その手には、いつの間に手に入れたのか深夜でも営業中の遊園地のパンフレットが。
「うわーうわー、素敵ニャー☆」
「ライトアップされたメリーゴーランドに恋人と二人‥‥素敵なんだよ♪」
ミャーと立花がとたんに瞳を輝かす。
「‥‥ボクは雪恵さんと二人で行くんだよ?」
そんな二人に、亮は雪恵の手をもう一度ぎゅっと握って、再確認。
「「「えーっ!」」」
とたんに湧き上がるEHのメイド達の不満声。
「リリエルも行きたいです〜」
うりゅりと主張するリリエルの言葉も亮はさくっと無視。
「お小遣いは持ったか? 忘れ物はないか?!」
「‥‥蓮さん、私はもう子供じゃないですよ〜」
なにやら錯乱している蓮に、雪恵はほんのり笑う。
「とにかく! ぜったい邪魔しないでくださいです!!」
亮はわくわくとしているみんなにきぱっと言い切り、雪恵の手を引いて一緒に店を飛び出した。
「夜ですし、二人とはいえ他の方々には雪恵様お一人に見えるでしょうし、心配ですね」
心配、といいつつ、小雪の瞳は好奇心にらんらんと輝いている。
「うんうん、一人は危険ニャよ」
「ここはやっぱり、みんなで見守ってあげるべきだよね♪」
ミャーと立花もにんまりと笑っている。
「おやつのサンドイッチですわ。しっかり見守ってきて下さいませ」
もう全てを理解している柚木は、先ほど厨房で作っておいたサンドイッチの入ったバスケットを立花に手渡した。
「うわー、おいしそうなんだよ。ありがとう」
歓声を上げて柚木からバスケットを受け取った音羽は、柔らかく微笑む柚木に少しだけ不安になる。
つい先日、柚木が悪霊に乗っ取られてしまった時、音羽は一番側にいたのに気づいてあげることが出来なかったのだ。
「?」
柚木はそんな音羽の目線に小首を傾げる。
「ううん、なんでもないんだよ。行って来るね♪」
立花が心配していると知ったら、柚木はもっと自分を責めてしまうだろうから。
だから立花は笑ってみんなと店を出てゆく。
「まってくださいです〜。リリエルもついてゆくですよ〜」
蓮と同じように人間の姿に実体化して、でも背中の白い羽根はそのままに、リリエルもみんなの後を追う。
そして蓮は。
「この前の事はあまり気にするな」
柚木の頭をぽんと叩く。
はっとする彼女に、蓮は続ける。
「俺もお前にかなり危険な術を放ったが、今でもその判断が間違っているとは思わないし、また同じ事があればやはり同じ事をする。
だが、お前はこうして生きているし、皆も無事だ。俺の言えた台詞ではないが、落ち込むよりもその事を喜んだ方が活きた生き方なんじゃないか?」
そういってウィンクして店を出て行く蓮の背中に、柚木は少しだけ気持ちを浮上させながら頷く。
柚木は、少し眩暈に襲われて椅子に手を突きつつ、
(「大丈夫。きっと、まだ大丈夫です」)
不安になる自分を一生懸命励ました。
●塊
「まったく‥‥無理しすぎだ。主にこれ以上負担をかけてどうする? しばらくおとなしくしているんだな」
闇の中。
戦禍衆の内の一人が、傷付いた柊塊(月 李花(fa1105))に釘を刺す。
「あう‥‥だって、あんな所で反撃がくるとは、思ってなかったんだよ!! まさか、油断したせいで主様の助けが来るとは、思わなかったし‥‥」
ちょっとバツが悪そうに、塊は足をぷらぷらとさせて不貞腐れる。
柚木の身体を乗っ取り、あと少しで目障りなEHのメイド達を排除出来るというところで邪魔が入り、敬愛する主様の助けを借りることになったのは塊にとってこの上ない屈辱だった。
「う〜、やっぱりじっとしているの苦手だよっ」
「おい、待たんか!」
塊は仲間が止めるのも聞かず、闇から抜け出して現世へと姿を現す。
●EH
(「困りましたね」)
EHのメイド達を見送って、体調の優れない柚木を心配しつつ、店の掃除をしていた代理店長は溜息をつく。
それというのも、もうEHは閉店時間を過ぎているというのに、お客がきてしまったのだ。
もちろん、最初は断ろうとしたのだ。
だがいかんせん、わけありなカップルらしく、このまま追い返すと無理心中でDの時間発動になりかねず、仕方なく店の片隅を開放したのだが‥‥。
かれこれもう一時間、店の片隅で泣き暮れている。
「お紅茶をお持ちしました。ご主人様、お嬢様」
代理店長はメイド服に着替え、二人の悩み事をきいてあげることにした。
●遊園地
夜間運営の遊園地は、イルミネーションが眩いばかりに輝き、幻想的な雰囲気を漂わせていた。
周り中カップルだらけで目のやり場に困っていた雪恵は、観覧車にふと、目を留める。
「遊園地か‥‥お兄ちゃんと小学生のときに行ったっきりですねえ‥‥あのときは観覧車に乗って高いところ怖いってお兄ちゃんに抱きついたっけ‥‥」
「雪恵さん、兄妹がいるのですか?」
亮が興味深げに尋ねる。
初恋もまだなのに亡くなってしまって、気がついたらEHの所に居た。
ちょうど店先に出てきた雪恵に一目惚れしてしまったのは、きっと運命の悪戯だ。
軽い口調で誰とデートしても構わないといってみたりもしたけれど、本命は雪恵ただ一人。
もう亮は死んでしまっていて、だから未来なんてなくて、人生にやり直しもきかないけれど、それでも雪恵のことをもっと知りたかった。
「うん。少し前に、亡くなってしまったけれど‥‥とっても優しくて、大好きでした」
「‥‥ボクが天国に行かれたら、雪恵さんがそういってたって、伝えてあげます」
泣き出しそうな雪恵の手を握り、亮は励ます。
天国へいったら、亮のことも雪恵は思い出してくれるだろうか?
「観覧車に乗りましょう」
亮は雪恵の手を引いて、観覧車へと歩き出す。
「‥‥あら? みなさん何処へ行かれたのでしょうか〜?」
ほよほよほよ。
天使のリリエルは相変わらずほわほわとしながら小首を傾げる。
みんなと一緒に遊園地に来たのだが、初めて見る日本の遊園地に目を奪われている内にはぐれてしまったらしい。
「おい、お前こんなところでなにやってるんだ?」
「あっ、蓮さん、迎えに来てくれたですか〜?」
「迎えに来たってゆうか、よりによってこんな所に居なくてもいいだろうに」
人化を解き、黒い翼を羽ばたかせた蓮はふうっと呆れて溜息をつく。
リリエルはなにをどう間違ったのか、観覧車の天辺にちょこんと腰掛けていた。
「気がついたらいたですよ〜」
えへへと笑うリリエルに手を差し出し、蓮は小雪たちが居るところへとつれてゆく。
「あの初々しい反応がいじらしくって、可愛いな〜もう♪ あ、折角ですし、記念にビデオ撮影でも♪」
わくわくわく♪
小雪は草むらから雪恵と亮の様子をご機嫌に伺う。
ほんとにビデオに撮りそうな勢いだ。
「きゃーきゃーっ、また手をつないでるんだよっ」
「あっ、やばいニャっ、こっちにくるニャ!」
赤面しながらもきゃあきゃあ嬉しそうな立花をミャーが慌てて口を塞ぐ。
亮と雪恵がみんなが潜んでいる草むらに向かって歩いてきたのだ。
もうすぐそこまで迫っており、今から他の場所に移動するにはリスクが高すぎる。
「二人ともミャーと手を繋ぐニャ!」
ミャーが有無を言わさず二人の手を握る。
そうして「ミャーン♪」と一声鳴いて息を止めると、ミャーの猫耳と猫尻尾ふっと消え去った。
驚いて声を上げかける立花と小雪にミャーは『静かにニャ!』と目で合図する。
固唾を呑んで見守る三人の前を、もうその姿が見えていてもおかしくないところに居た雪恵と亮は、けれど気づかずに去っていった。
「ど、どうなってるのかな?」
「ミャーの秘密ニャ♪」
はふーっと息を吐くと、再びミャーの耳と尻尾が現れた。
猫妖精的ミャーの秘密はまだまだありそうだった。
「あいつら、なにやってんのかな」
何か惹かれるものがあったのだろう。
塊は訪れた遊園地でEHの姿を見、呟く。
「あ〜、少しずつ、こっちにも影響出ているね〜。まあ、あいつ等はまだ気付いてないと思うけどね?」
悪霊たる塊には、現世に歪みが生じ始めていることが手に取るようにわかった。
本来なら、油断しているEH達を消し去ってしまいたいところだが、塊もまだ本調子ではない。
「まあ、今は見逃しておいてあげるんだよ」
クスクスと笑いながら、何も気づいていないEHのメンバーを嘲笑い続ける。
「そろそろ、お別れだね」
そう言う亮に、雪恵はきょとんとした顔をする。
ボーン‥‥ボーン‥‥。
遊園地の大きな柱時計の鐘が零時を告げた。
「世界に一つだけのこの想い。君を想うこの好きという気持ち。ボクの事を好いてくれるのなら、この想いを受け止めて下さい」
光の溢れる遊園地を背に、亮は雪恵を見つめる。
その真剣な眼差しに、雪恵はこくりと息を呑む。
亮の事は嫌いではなかったが、その思いを受け止めるにはまだ早すぎた。
言葉を返せないでいる雪恵に、亮は苦笑する。
「今日は本当にありがとう。楽しかったです」
雪恵の額にそっとキスをして、亮の姿はゆっくりと薄れてゆく。
「私も、楽しかったですよ。亮くんは私の大切な友人です。また一緒に、遊びましょうね」
自分が今いえる精一杯の言葉を雪恵は口にして、亮を見送る。
遊園地の光が、一つ、また一つと消えていった。
●エピローグ
「彼の想いは叶ったようですね」
EHにみんなが戻ると、柚木と代理店長が出迎えた。
「良く頑張りましたね。それにしても、いつの世も変わりませんね‥‥私も似たようなことをやったものです」
代理店長も昔、同じように幽霊との時間を共にしたことがあるのだろうか?
なぜかメイド服を着ている代理店長を、戻ったばかりのメイド達は不思議に思う。
「魂は、何度でも生まれ変わるのです。だから、きっとまた亮くんにも会えるのです」
ふんわりとリリエルは天使らしく雪恵を包み込んだ。
「もう、あまり時間は残されていないようだな‥‥」
蓮は誰にも見つからない物陰で壁にもたれながら荒い息を吐く。
彼に残された時間はもう、あとわずかだった‥‥。