冥土のお仕事☆〜蓮〜アジア・オセアニア
種類 |
ショート
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担当 |
霜月零
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芸能 |
2Lv以上
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獣人 |
1Lv以上
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難度 |
難しい
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報酬 |
3.9万円
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参加人数 |
8人
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サポート |
0人
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期間 |
05/31〜06/04
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●本文
――思い遺したことはなんですか?
――行きたかった場所はどこですか?
――泣いている人はどこですか?
――その願い、その苦しみ、わたくしたちが解決しましょう‥‥。
「そろそろ、か‥‥」
死神の青年は、ぼんやりと消えかける右手を見つめる。
もう、消えることに未練はなかった。
人も、死神も、桜も、全ての生命はいつか消える運命。
だから‥‥。
「最後に、俺は‥‥」
ヴァイオリンを具現化させ、死神たる青年は月夜にそっと、奏で出した。
☆冥土のお仕事出演者募集☆
深夜特撮番組『冥土のお仕事☆』では、メイド服に身を包んだ特殊能力を持った少女達が、助けを求める幽霊達の願いを叶え、天国へと導いています。
そして今回『冥土のお仕事☆〜蓮〜』では、死神たる青年『蓮』が最後の時を迎えます。
悪霊と戦って、皆を守って消え去ることもあるでしょうし、大切な人たちとの語らいの中で消え去ることも、また、まったく違った斬新な切り口で消え去るのも可です。
●リプレイ本文
●天界に咲く花
地獄界、餓鬼界、畜生界、修羅界、人間界、天上界。
人は、誰しもこの六つの世界で輪廻転生を繰り返すという。
即ち、六道輪廻。
そして、そのうちの一つ『天上界』には池がある。
そこには、いくつもの蓮の花が浮かぶ。
清廉にして潔白、純粋にして清浄なるその蓮の花から死神は生まれ、人々の魂を新たなる世界へと導く。
●復讐
「さて、どいつにしようかな?」
悪霊たる戦禍衆の少女・柊塊(月 李花(fa1105))は、メイド喫茶『Entrance to Heaven』―― 略してEHのデータを眺め、口の端を歪める。
主様の為に働き続ける彼女の邪魔をする憎きメイド達。
『‥‥その、真ん中の娘。そいつは、家族を亡くしたばかりだな』
戦禍衆の一人・夜魄(神楽坂 紫翠(fa1420))の声が闇に響く。
「‥‥それじゃ、こいつに決めた♪ 今の所、こちらばかり手傷負っているから、リベンジしないとね」
写真を一枚手に取り、彼女はくすりと嗤う。
●メイド喫茶『Entrance to heaven』
「ごめんなさい、遅れましたっ」
制服姿の高梨雪恵(風間由姫(fa2057))が、EHに駆け込んでくる。
「もうお掃除は済んだんだよ。今日は空いてるから慌てなくとも大丈夫だよ♪」
メイド仲間の立花音羽(あいり(fa2601))が慌ててスタッフルームに飛び込む雪恵に笑いかける。
「ニャ? ニャにか用事があったのかニャ?」
モップを片手に、猫尻尾を揺らしてミャー(吉田 美弥(fa2968))が小首を傾げる。
「‥‥お兄ちゃんの四十九日が近いから」
雪恵は、スタッフルームの扉越しに答える。
雪恵の兄・秋葉蓮(鹿堂 威(fa0768))は、悪霊に殺されたのだ。
人が死ぬと四十九日の間その魂は地上を彷徨うといわれているが、雪恵の兄はEHの助けにより天界へと旅立ち―― 死神として生まれ変わっている。
兄が天国へと旅立つのを見送った雪恵は、だからもう、兄の魂がこの世を彷徨っていない事を知っている。
けれど、四十九日を迎えるとなると心にざわめくものがある。
「わたし達にできることなら、何でもお手伝いしますから、遠慮なく言ってくださいね?」
サエ(アカネ・コトミヤ(fa0525))がそんな雪恵の心中を慮る。
サエの言葉に、立花もミャーもうんうんと頷く。
手伝いは、実際は雪恵の親戚であり、今現在の保護者である高梨のご夫婦が滞りなく執り行うだろう。
けれど、心のケアは仲間達の仕事だ。
何もせずとも、側についていてもらえたら、どんなに心強いか。
「ありがとうございます」
メイド服に着替えた雪恵は、そんな仲間達の気遣いに、嬉し涙が浮かぶのだった。
●時間
「このままでは何時消えてもおかしくないですの〜。何かお心当たりはございますか?」
見習い天使のリリエル(KISARA(fa0389))は、一見、平然としている蓮に物陰で声をかける。
「‥‥何のことだ?」
尋ねられた蓮は、ウェイター姿の人化を解き、死神の姿に戻った。
「誤魔化してもだめですの〜。蓮さんの霊力が酷く弱まっていますの〜」
「そっか。お前、天使だもんな‥‥くっ!」
リリエルの言葉に頷き、蓮は膝をつく。
「蓮さんっ!」
「いいか? このことは誰にも言うな」
支えようとするリリエルに、けれど蓮は厳しい目を向ける。
「でも〜‥‥」
「絶対にだ!」
再度口止めをして、蓮は黒い翼をはためかせ、夜空へと飛び去ってゆく。
(「理由がわかりませんの‥‥」)
蓮が消えかけている原因がわからず、何も出来ない自分にリリエルは深い溜息をつく。
●罠
秋葉蓮の四十九日。
雪恵がお世話になっている高梨の家は、慰問客でごった返していた。
「ん? あれは柊さんかニャ?」
ミャーが美貌の青年・柊 紫苑(神楽坂 紫翠(fa1420))に気づく。
彼はEHのライバル喫茶『Fantasy Space』のイケメンウェイターだ。
「本当ですね。どうしてこちらに?」
彼と面識のあるサエも眼鏡を抑え、確認する。
すると、彼のほうもメイド達に気づいた。
「今晩は。久しぶりだな」
「お知り合いですの〜?」
会釈する彼と初対面のリリエルは小首を傾げる。
「近所の喫茶店のウェイターさんだよね? 噂通りかっこいいんだよ♪」
紫苑と初対面の立花も、噂だけは聞いていたらしい。
(「サエさんたちのお知り合いなら、きっと気のせいですの〜」)
リリエルは、紫苑に感じたほんの少しの違和感に邪悪なものを感じたのだが、仲間達の知り合いならと納得する。
―― 戦禍衆だと、気づかずに。
(「えっ?!」)
喪服代わりに着ていたブレザー姿の雪恵は、自分が今見た光景に目を見張る。
「お‥‥兄ちゃん‥‥?」
亡くなった兄が、庭の外に佇んでいる。
一瞬、死神である蓮かと思ったが、違う。
薄っすらと霞む兄は、雪恵に微笑むと背を向けて歩き出す。
まるで、着いて来なさいと言う様に。
(「どうゆうこと? 蓮さんがお兄ちゃんなんじゃなかったの? お兄ちゃんは一体?!」)
混乱する頭で、けれど雪恵は兄を見失うまいと、その後を追いかける。
●雪恵
『かかったね』
高梨の家からどの位離れただろう。
兄の姿に被さり、少女の声が闇に響く。
そして兄は、雪恵の目の前で幼い少女の姿―― 柊塊に姿を変えた。
「騙したのね! ‥‥っ?!」
咄嗟に踵を返し、距離を取ろうとするが出来ない。
「逃がさないよ?」
捕らえた獲物を決して逃さないように周到に罠を張り巡らした塊は勝利を確信する。
(「誰か‥‥お兄ちゃん、助けて!」)
雪恵の悲鳴が、結界の中を虚しく響いた。
「雪恵っ?!」
霊力の弱まりで人化することも出来ず、死神の姿のままでいた蓮は、けれど雪恵の声に気づいた。
「させるかよ‥‥絶対に!」
どんどん弱まってゆく雪恵の気配に、蓮は霊力を振り絞り転移する。
紫苑と話していたサエ、立花、ミャー、そしてリリエルは、すぐ側でありながら違う場所に居る雪恵の微かな声に気がついた。
「いまのっ‥‥!」
「急ぐニャっ」
すぐさまミャーが声のしたほうに走り出す。
「こっちのほうですの〜」
リリエルも霊力を感知し、正確な方向を指し示す。
「皆さん、一体?」
紫苑が白々しく、声をかける。
「ごめんなさい、説明は後です」
「またなんだよっ」
ただならぬ気配に、リリエルとミャーの後を、サエも音羽も全力で追う。
その後姿を見つめ、
「急ぐがいい‥‥手遅れだが」
女性的な美貌をゆがめ、紫苑はくつくつと嗤う。
●蓮
そこは、血の海だった。
「雪恵!」
「雪恵さんっ?!」
転移し、または結界を越えて雪恵の元に駆けつけた仲間達が見たものは、血の海で眠る雪恵の姿だった。
「あははっ、もう遅いんだよ」
塊が弾けたように嗤う。
「そんな‥‥嘘ですよね?」
現実を認めたくなくて、サエは口元を手で覆う。
鼻をつく鉄錆の臭いと目の前の光景。
くらくらと激しい眩暈がサエを襲う。
「違うの。まだ生きているの〜!」
リリエルが叫ぶ。
「時間の問題だね! お前達もだよっ」
けれど塊は鼻でそれを嗤い、無数の塊が出現し攻撃を繰り出して来た!
「大丈夫ニャ。皆がいればどんなピンチもへっちゃらニャ」
ミャーが猫耳をピンと立てて空元気を出す。
それでも大丈夫だと言い聞かせていれば、嘘も本当になるのだ。
丸まりかける尻尾をピンと立て、ミャーは霊力を集中させる。
「どれが、本物なのかわかりかねますっ」
サエが霊力を具現化して作り出した銃で塊を迎撃するが、消しても消しても再びその姿は元に戻る。
「これじゃ、近づけないんだよっ」
次々と現れる塊に、立花も成す術がない。
「駄目ですの、このままじゃ間に合わない!」
普段のおっとりとした口調が消え、結界を張って仲間達を塊の攻撃から守っていたリリエルが叫ぶ。
雪恵の微かに残っていた霊力が急速に消えてゆく。
「絶対に、失うわけにはいかないんだ!」
蓮が、リリエルの結界を飛び出す。
「そんな身体のお前なんか‥‥?!」
嘲笑おうとして、塊は凍りつく。
蓮の霊力が今までとは桁外れに強く、輝いているのだ。
「ニャ? 蓮さんの霊力がどんどん強くなってるニャ!」
その圧倒的な霊力の輝きに、ミャーは一瞬戦いを忘れそうになる。
「西浄の願心、清蓮の真名に於いて命ず。清浄なりし水よ、この地にありし不浄の徒を悉く退けよ!」
蓮は己の全てをかけて、極限まで高めた霊力を解き放つ。
瞬時にして消えてゆく塊の影と、光の粒子に変わりかける本物の塊。
「うそだ、塊が消えるなんて、嘘だよっ」
消え行く自分を抱きしめて、塊は半狂乱に叫ぶ。
その塊の周囲を、黒い檻が包み込んだ。
『やれやれ、手間のかかる』
闇の中に声だけを響かせて、戦禍衆たる夜魄は負の霊力によって塊が消えるのを留め、そのまま塊と共に闇の奥深くへと消え去った。
●二人、共に
「ダメですの〜、ここまでいくともう、見習いのリリエルには癒せないです〜」
蓮と雪恵。
消えかける二人を前に、リリエルは泣きじゃくる。
「霊力をこれ以上留めておけません!」
ホーリーナパームを使う以上の霊力を駆使し、二人をこの世界にとどめようと力を送り続けるサエは、倒れそうになる自分を必死で堪える。
今倒れたら、二人とはもう永遠に会えない。
「このままでは、生まれ変わる事も出来ずに完全に消滅してしまいますの〜」
「何か方法はないのかなっ」
治癒の歌を歌い、けれど目を覚ますことのない二人に立花も半狂乱だ。
「ミャーは諦めないニャ!」
二人の手を握り、ミャーも必死で祈りを捧げる。
みんなの祈りが届いたのか、薄っすらと、蓮の瞳が開いた。
「リリエルの力では〜‥‥二人を一緒に助けることはもう無理ですの〜。
‥‥蓮さん、選んで下さいませ。二人、天国に帰り輪廻の輪に乗って生まれ変わるか‥‥それとも、雪恵さんと同化して彼女の霊力の一部となり、彼女を助けるか‥‥」
意識の戻った蓮に、リリエルは選択肢を迫る。
そんな彼女から、蓮は雪恵に視線を移す。
もう、心は決まっていた。
雪恵の手を握り、蓮は微笑む。
その姿は蓮の花へと変わり、リリエルの力によって雪恵の中へと消えていった。
「お兄ちゃん‥‥」
兄としての記憶と、死神としての記憶。
そしてその類稀な霊力。
蓮の同化により、その全てを受け継いだ雪恵は、胸を押さえる。
いま自分は、みんなの、そして蓮の力で生きている。
兄は、蓮は、ここにいる。
ずっと、雪恵の側に。