冥土のお仕事☆戦禍衆アジア・オセアニア
種類 |
ショート
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担当 |
霜月零
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芸能 |
2Lv以上
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獣人 |
1Lv以上
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難度 |
やや難
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報酬 |
3.7万円
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参加人数 |
8人
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サポート |
1人
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期間 |
06/21〜06/25
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●本文
――思い遺したことはなんですか?
――行きたかった場所はどこですか?
――泣いている人はどこですか?
――その願い、その苦しみ、わたくしたちが解決しましょう‥‥。
『許さぬ‥‥許さぬぞ‥‥』
闇の中、悪霊を統べたる主様と呼ばれし悪霊が呻く。
そのすぐ側には、意識を失った少女―― 柊塊が檻の中で倒れている。
『戦禍衆よ‥‥彼奴らを‥‥必ずや仕留めるのだ‥‥塊をこのような姿にした事を‥‥決して許すことなかれ‥‥』
主の声に、悪霊たる戦禍衆の面々は無言で深礼をし、自身等もまた、闇に溶け込んでゆく。
メイド達への魔の手は、もうすぐそこまで迫っていた――。
☆冥土のお仕事出演者募集☆
深夜特撮番組『冥土のお仕事☆』では、メイド服に身を包んだ特殊能力を持った少女達が、助けを求める幽霊達の願いを叶え、天国へと導いています。
そして今回『冥土のお仕事☆戦禍衆』では、悪霊の統治者『主』の直属の配下『戦禍衆』の面々と戦っていただきます。
戦禍衆は一人でもOKですし、数人でも良いです。
また、人数が足りない場合などはNPCが参加します。
●リプレイ本文
●プロローグ
メイド喫茶Entrance to Heaven、略してEH。
そのスタッフルームの奥にある水鏡の淵に一人の少女―― サエ(アカネ・コトミヤ(fa0525))は佇んでいた。
いつもつけていた眼鏡をそっと外し、水鏡を覗き込む。
「‥‥何も、見えないのですね」
懸命に瞳を凝らしても、そこに写るのは悲しげな緑の瞳。
「天使になれたら、彼を救えていたのですか?」
リリエル(KISARA(fa0389))のようにサエが天使であったなら‥‥ううん、もっと力のある天使だったら。
死神たる彼が消えるのを止めることが出来たかもしれないのに。
けれど現実はどうだろう?
どんなに願っても、人がある日突然強大な力を持った天使になれるはずがない。
もしも天使だったなら、彼が消えるあの時、救えていたはずなのだから。
サエは、水面に写る自分の姿を悲しく見つめ続ける。
●戦禍衆
薄暗い闇の中。
六つの人影が揺らめく。
「ふん、情けないわねぇ? たかだか人間にやられるなんてね」
くすくすと高飛車に女――戦禍衆の一人、鬼魅は嗤う。
その顔は、闇に紛れてよく見えない。
嘲笑われる屈辱に唇を噛み締めているのは、同じ戦禍衆の柊塊(月 李花(fa1105))だ。
先日のEHのメイド達との戦いで深手を負った塊は、兄たる夜魄(神楽坂 紫翠(fa1420))の作り出した闇の檻の中で、いまは失った霊力を蓄えている。
「ふう‥‥わが妹ながら‥‥無茶をする。とりあえず‥‥塊の統治している東方地区は‥‥修復しておいた‥‥今回の襲撃は‥‥任せる」
夜魄は溜息を付き、ソファーに腰掛ける。
そんな夜魄を、やはり戦禍衆の一員であり、夜魄の恋人でもある鬼珠は不安げに覗き込む。
「ああ、大丈夫だ‥‥そう、心配するな‥‥いまは塊に霊力を分け与えているから‥‥少し、疲れただけだ」
自分を気遣う大人しい鬼珠に、夜魄は微笑えむ。
「んじゃ、オレの出番か? 退屈しのぎになるんだろうな?」
夜魄とよく似た容姿をしておりながら、やんちゃな少年風味の鬼叫(神楽坂 紫翠(fa1420)一人二役)が身体を乗り出す。
「ふむ。ならばワシも敵の姿を直接見ておこうかの? ああ、心配せずとも良い。姿を見たら、すぐに退散しようぞぇ。
ワシは、主への報告と地獄界の様子を見てこねばならぬからの。夜魄、少しの間任せるぞ」
戦禍衆最年長にして夜魄の師匠でもある鬼伯は、すいっと杖を闇に振るう。
闇が切り取られ、スクリーンのように現世の様子が映し出される。
そこには、EHのメイド達が映し出されていた。
「こんな人間達に負けるなんてね。荷が重すぎたんじゃないわけ、この子には。で、あたしも行ってもいいわよね?」
メイド達を見下し、塊を貶しながら鬼魅は長い爪をきらめかせる。
「姉様、落ちついて下さい‥‥。主の護衛もおろそかにするわけには‥‥」
今にも飛び出してゆきそうな鬼魅を、鬼珠は止める。
「おいおい、こんな任務、俺一人で十分だって! お前らはここで待ってろよ。いいな!」
そんなやり取りに、鬼叫は仲間に人差し指をびっと突きつけ闇の中から現世へと移動する。
「やれやれ。相変わらず向こう見ずじゃわい」
鬼伯は苦笑し、その後を追った。
●メイド喫茶Entrance to Heaven
「あれ、いまの子猫ちゃんは何かな?」
メイド喫茶のメイド、立花音羽(あいり(fa2601))は足元をすり抜けて外へと散歩に行く子猫に振り返る。
「ミャーですよ。今日は猫の集会へ行くそうです」
食器を片付けながら、代理店長(イルゼ・クヴァンツ(fa2910))が説明する。
「わわっ、ミャーさん、子猫に変身もできたんだね。びっくりだよ。‥‥雪恵さん?」
立花は一緒に働いている猫耳メイドのミャーの事を思い出しつつ、なにやらぼんやりと手がお留守になっている高梨雪恵(風間由姫(fa2057))に声をかける。
「あ、うん。ごめんなさい、ちょっと、考え事しちゃってたわ」
カチューシャに手を添えて、雪恵は微笑む。
けれど何処かぎこちない。
(「やはり、みんな元気がありませんね。無理もないことですが‥‥休暇を取らせたほうがよさそうです」)
こほん。
代理店長は軽く咳払いをすると、懐から遊園地のチケットを取り出した。
「たまには、皆さんで行楽地に赴くのは如何ですか? 丁度先日、知り合いからチケットを頂いたんです」
本当はみんなの為に自分で買っておいたそれを代理店長はテーブルに置く。
「うわーうわー、遊園地ですか。素敵なのです♪」
見習い天使であり、メイド喫茶になぜかやってきたリリエルは、白い翼をはためかせる。
「‥‥‥」
けれど雪恵は黙ったまま。
大切な仲間であり、兄であった死神・蓮が消えて、まだ一週間。
仕事は頑張らなければと思うけれど、とても遊ぶ気にはなれない。
「遊園地は、ちょっとどうでしょうか?」
スタッフルームから丁度出てきたサエも困り顔。
「でもせっかく貰ったんっだもん。遊ばなくっちゃそんなんだよ。ねっ?」
立花も本当は落ち込んでいるのだが、代理店長の気持ちを考えて遊びにいこうと皆を誘う。
「そうですね‥‥せっかくのチケットですものね」
「なら、また車を出します」
雪恵も頷き、サエが車のキーを取りに行く。
「楽しんできてくださいね」
辛いことも嫌な事もみんな忘れて、少しでも元気になれますように。
そんな願いを込めて、代理店長は皆を見送る。
その、背後で。
ティーカップがパシリと割れた。
●襲撃!
「きゃあっ?!」
「いまのなんなのかなっ?!」
急ブレーキをかけて、サエは車を端に寄せる。
突然、辺りが闇に包まれたのだ。
「主、直属の護衛部隊戦禍衆の一人鬼叫!! 覚悟は、いいか?」
ドン!
メイド達の車に暗黒指弾が打ち込まれる。
黒い炎の弾丸が車を貫く。
鬼叫の笑い声ととも車は炎上し、リリエルの力によってメイド達は外に投げ出された。
「戦禍衆?! あの少女じゃないんだよ?!」
草叢に転がりながら、音羽は鬼叫に目を凝らす。
「お前ら、目障りなんだよ。とっとと消えな」
闇の弾丸が次々とメイド達に降り注ぐが、辛うじてリリエルの結界がメイド達に届くのを防ぐ。
「これ以上、仲間を傷付けさせませんの〜!」
仲間を助けられないのはもう嫌だと、リリエルは力の限りで結界を張り続ける。
その時、闇が裂け、見知った人影が現れた。
「Hey、ひさしぶり。随分なところで出くわすな」
「レイさん!」
アメリカからの留学生・レイ(シヴェル・マクスウェル(fa0898))が悠然と笑う。
「雑魚が何匹増えようとも俺の敵じゃないぜ。くらいなっ!」
自分が張り巡らした闇を裂かれ、少なからず動揺しながら鬼叫はレイに暗黒指弾を向ける。
「おっと、その攻撃はNo、Thank you。いらないな」
レイは紙一重でその攻撃をかわし、メイド達に駆け寄る。
「空間に異変を感じたから来て見たんだが、間に合ってよかった。‥‥おや? Cool Boyはどうした。姿が見えないようだが」
いつも皆と一緒にいる死神の青年がいないことに気づき、レイは尋ねる。
「ええっと、ええっと、蓮さんは蓮さんだから、どこにいても蓮さんで、だから死んじゃったわけではないんだよっ」
おろおろおろ。
雪恵とリリエルの前で蓮の話題はタブー中のタブー。
立花は、蓮が亡くなり雪恵と同化した事を知らないレイにどうにか上手く伝えたかったが、墓穴。
「リリエルにもっと力があったら、こんな事にはならなかったかもしれないのに‥‥
蓮さんが何時消滅してもおかしく無いくらい、弱っていた事も知っていたのに‥‥何も出来なかったです‥‥」
リリエルの白い頬を涙が伝い、結界が揺らぐ。
「リリエルさん‥‥蓮さんは‥‥俺は‥‥ここにいるよ」
雪恵の口調が変わり、蓮のそれになる。
「Indeed、そうゆうことか」
雪恵から感じる微かな蓮の霊力に、レイは全てを理解する。
「おい、お前ら! 俺を無視るんじゃねーよっ。これでもくらえっ!」
鬼叫の苛立ちが頂点に達し、全身が闇の炎に包まれた。
「まずいっ!!」
咄嗟にレイが霊力を解き放ち、リリエルの結界を飛び出して鬼叫を攻撃するが、援護がない。
「Whats? 何故撃たない?!」
げらげらと嗤う鬼叫に足を打ち抜かれ、レイは肩膝をつく。
リリエルはまだわかる。
全力で結界を張り続けているのだから援護など無理だ。
だが、他のメイド達は?
「雪恵さんがっ」
立花が胸を抑えてうずくまる雪恵を抱きしめる。
その雪恵の胸には、服の上からもわかるほどに蓮の花が光っていた。
「だめ‥‥力が、上手く使えないわ‥‥」
元々雪恵はただの人間。
その生身の身体に死神の霊力が同化したのだ。
並大抵のことで使いこなせるはずがない。
「私、わたしはっ」
サエが霊力で具現化させた銃から、虹色に輝く弾丸をやっと撃ち放つ。
けれど連携の取れていないその攻撃は鬼叫を掠りもしない。
サエはみとれていたのだ。
リリエルの白い翼に。
決して人間には手に入らないものに。
だから反応が遅れた。
レイが撃たれた事に動揺したリリエルの結界は揺らぎ、その隙を突いて鬼叫は暗黒指弾の雨を降らす。
それは結界を突き抜け、防ぐ術のないメイド達を貫いた。
「‥‥Cool Boyがいないと、なにも出来ないのか‥‥?」
服の袖を裂き、打ち抜かれた足を縛って痛みを抑え、レイはメイド達から目を逸らさせようと鬼叫に攻撃を仕掛ける。
「ひゃははっ、そんな攻撃俺には効かないぜっ」
心底楽しげに鬼叫は嗤い、闇に目を向ける。
「ほら、お前達の出番なんてないだろ?」
ぼうっ。
闇がスクリーンと化し、戦禍衆の五人を映し出す。
「あれはっ?!」
その内の一人、鬼伯にレイは目を見開く。
あの老獪な悪霊も戦禍衆?!
「みんな‥‥ごめん‥‥なさい‥‥」
雪恵は必死に内なる霊力暴走を抑えようと、苦しげに詫びる。
「雪恵さん、私が付いているんだよ、がんばって!」
霊力を込めた歌を歌い、立花は雪恵の暴走を抑える。
ほんとはスクリーンから注がれる戦禍衆の悪意と存在感に足が震えていたのだが、音羽は仲間の為に歌い続ける。
「苦しそうだな? これで終わりにしてやるぜ!」
鬼叫の霊力が爆発的増し、その頭上に幾千もの暗黒の剣が出現する。
悪意の渦を撒き散らし、数千の剣は一直線にメイド達へと降り注いだ!
「うちの子たちに、手出しはさせません」
ピシリッ。
メイド達にいままさに降り注ごうとしていた剣は、けれど代理店長の刀に抑えられていた。
割れたティーカップに不吉なものを感じ、代理店長も後を追ってきていたのだ。
稲妻を思わせる爆風と閃光を撒き散らしながら、刀を横凪に払って数千の剣をそのまま鬼叫に跳ね返す。
「嘘だっ、俺の無限斬が、うわああああああっ!!!」
自らの攻撃を返され、断末魔の叫びを上げて鬼叫は消滅し、闇に浮かぶスクリーンも闇ともども消え去った。
後に残るのは、小さな霊石。
「あ〜あ、知らないって怖いね? これは、返してもらうんだよ。‥‥獄霊界と現世は表裏一体。何が起こっても、知らないんだよ?」
何処からともなく塊が現れ、くすくすと嗤い、その霊石を手に取り消え去る。
「復帰の準備運動、とはいきませんか。みな、無事ですか?」
塊を追うよりも、いまは仲間達の手当てが先決。
代理店長は塊が消えた場所を見つめ、そっと刀を下ろした。
●エピローグ
「なぜ、映像が消えた‥‥? まさか‥‥あいつが倒れたとでも言うのか‥‥無知とは恐ろしい。‥‥これから‥‥惨劇が起こると言うのに」
夜魄は親友たる鬼叫が消えたことに少なからず動揺を隠せない。
「ほら、もう災害が起こってるんだよ」
くすくすと嗤い、塊は西方地区と呼ばれる現世を遠視する。
そこでは、鬼叫が倒されたことにより負の感情が溢れ出し、人々は狂気と災害に身を落としてゆくのだった。