冥土のお仕事☆戦禍衆2アジア・オセアニア

種類 ショート
担当 霜月零
芸能 2Lv以上
獣人 1Lv以上
難度 やや難
報酬 3.7万円
参加人数 8人
サポート 0人
期間 07/05〜07/09

●本文

 ――思い遺したことはなんですか?
 ――行きたかった場所はどこですか?
 ――泣いている人はどこですか?
 ――その願い、その苦しみ、わたくしたちが解決しましょう‥‥。

「西方地区に、再び災害ですっ」
 メイド喫茶Entrance to heave、略してEHの営業時間だというのに、メイドの一人が叫ぶ。
 首を傾げる店内の客の目に気づき、少女は慌ててスタッフルームに駆け込んだ。
「あの人たちのいったこと、気になるんだよ」
 赤髪ツインテールの少女もスタッフルームに入り、慌てているメイドに声をかけた。
「この災害は、自然災害ではありえませんね。戦禍衆の言った言葉は、真実なのかもしれません」
 EHの店長は、青ざめているメイド達に紅茶を入れる。
 メイド喫茶EH。
 その真実の仕事は、迷い、彷徨える魂を天国へと導くこと。
 特殊能力をもった店員達は、ある時は地縛霊となってしまった幽霊を救い、またある時は悪霊と戦い続けている。
 そして戦禍衆と名乗る悪霊達の襲撃を受けたのはつい先日のこと。
 今までの悪霊とは格の違うその強さにメイド達は苦戦しつつもなんとか勝利することが出来たのだが、その時、悪霊の一人が呟いたのだ―― 獄霊界と現世は表裏一体だ、と。
「西方地区へ向かいましょう。死者をこれ以上増やすわけには行きません」
 店長の言葉に、メイド達は緊張した面持ちで頷くのだった。


 ☆冥土のお仕事出演者募集☆
 深夜特撮番組『冥土のお仕事☆』では、メイド服に身を包んだ特殊能力を持った少女達が、助けを求める幽霊達の願いを叶え、天国へと導いています。
 そして今回『冥土のお仕事☆戦禍衆2』では、前回同様悪霊の統治者『主』の直属の配下『戦禍衆』の面々と戦っていただきます。
 戦禍衆は一人でもOKですし、数人でも良いです。
 また、人数が足りない場合などはNPCが参加します。

●今回の参加者

 fa0389 KISARA(19歳・♀・小鳥)
 fa1013 都路帆乃香(24歳・♀・亀)
 fa1105 月 李花(11歳・♀・猫)
 fa2057 風間由姫(15歳・♀・兎)
 fa2601 あいり(17歳・♀・竜)
 fa2910 イルゼ・クヴァンツ(24歳・♀・狼)
 fa2968 吉田 美弥(12歳・♀・猫)
 fa3366 月 美鈴(28歳・♀・蝙蝠)

●リプレイ本文

●炊き出しだ☆
 西方地区。
 そこでは、季節はずれにも見える災害に苦しめられていた。
「そんな‥‥雨は止んでいるのに増水が止まらないなんて‥‥」
 西方地区のとあるホテルの一室を借り、自慢のノートパソコンで情報収集をしていた帆乃香(都路帆乃香(fa1013))は、西方地区の災害状況に柳眉を潜める。
 梅雨のこの時期、増水による防波堤の決壊や、それに伴う地盤の崩れは時にあること。
 だが、この場所で今起きている災害は、どう考えても自然現象には程遠かった。
「獄霊界から溢れた負の感情が、現世に影響を及ぼしている‥‥これが増水の原因?」
 本来、現世と獄霊界は繋がってなどいないはずなのだ。
 だが、パソコンから読み取れる情報と現実を照らし合わせると、そうとしか考えられなかった。
「獄霊界からの現世への影響を抑える方法は‥‥」
 焦る気持ちを抑えながら、帆乃香はキーボードを打ち続ける。


「はいはーい、みんな順番に並ぶニャ」
「ちゃんと全員分あるんだよ♪」
 明るく可愛く元気よく☆
 メイド喫茶EHのメイド達が、いつものメイド服やフリルいっぱいの割烹着を羽織って炊き出しを行う。
 ミャー(吉田 美弥(fa2968))と立花音羽(あいり(fa2601))の言葉に従い、洪水により家を失った一般市民はきちんと整列しだす。
「熱いから、気をつけてね?」
 高梨雪恵(風間由姫(fa2057))は一際小さな子供に出来たてのお粥をそっと差し出す。
 はふっはふっと息を吹きかけて冷ましても、上手に食べられないその子供を膝に乗せ、雪恵はそっと食べさせてあげる。
「おねーちゃん、ありがとー」
 にこっ。
 幼い子供の笑顔に、雪恵もついつい笑顔になる。
 ずっと、色々なことが続いて、続きすぎていて。
 疲弊していた心がすっと軽くなってゆく。
(「そうよね。みんな、頑張っているんだもの。わたしも頑張らなくっちゃ」)
 うん、と頷いて子供の頭を撫でていると、代理店長(イルゼ・クヴァンツ(fa2910))から声がかかった。
「今日は暑いですからね。みんな、少し休憩しましょう」
 暑い、といいながら、代理店長はいつも通り男物のスーツをピシッと着こなしている。
「リリエルは、少し外の様子も見てきますの〜。逃げ遅れた人とかはいないと思うのですけど、心配ですの〜」
 見習い天使のリリエル(KISARA(fa0389))は、人に実体化しつつ、いつも背に生えている白い翼をかなりの霊力で人の目から隠しながら避難所を後にする。
 EHのメイド達の前だけでなら白い翼を生やしていても問題ないが、一般人の前で生やしていたら大問題になる。
 だから、白い翼を隠すのにはそれなりに霊力と体力を必要としたが、リリエルはそれをやってのける。
(「あの時は、助けることが出来ませんでしたの‥‥でも、いまは少しでも多くの人を助けるために、がんばりますの〜」)
 帆乃香から入る定期連絡で、この場所の災害が自然現象などではないことが分かった。
 悪霊が関わっているのなら、今度こそ被害を最小限に食い止める。
 リリエルは硬く決意して、人目の付かない場所で実体化を解き、川や山、周囲の異変を少しでも感じ取ろうと霊力を高めてゆく。
 
 
●闇の影
「う〜ん、鬼魄にいの方が得意な術だから大変だよ。鬼魅ちゃん手伝ってよ?」
 戦禍衆と呼ばれし悪霊たる少女・柊塊(月 李花(fa1105))は、背後に佇む鬼魅(月 美鈴(fa3366))を振り返る。
 けれど和服姿の美女は鬱陶しげに髪をかきあげ拒絶する。
「あたしに手伝わせる気? その系統の術はまかせるわ。夜魄の妹なんだから精々頑張りなさい」
「ちぇっ。頑張るけどさ、酷い臭気なんだよ‥‥」
 霊石を弄びながら、塊は顔を顰める。
 一見、何の変哲もないその場所は、けれど二人の目には耐え難い臭気と深遠の渦が視えていた。
 悪霊たるその身をもってしても息の詰まるその場所で、塊は現世と地獄界がこれ以上繋がらないように封印の呪を唱え始める。
「そうそう、あんたには出来るんだからあたしを頼らないでよね。大分負気も集まってきたし、これも使って頂戴」
 高飛車な鬼魅は、手に持つ魔鏡を煌かせる。
 地獄界から湧き出すそれとはまた違う、けれど悲しみと怒りと苦しみがない交ぜになった様々な負の感情が渦となり、その鏡の中に吸収され続けている。
「災害はいいよね。負の感情の収集に事欠かないんだよ。これだけあれば、封印も楽なんだよ」
 塊は口の端を歪めて魔鏡から負の感情を取り出し、封印の呪に織り交ぜてゆく。
 丁度その時、リリエルが現れた。
「貴方達、なにをしているんですの〜!」
 白い羽をはためかせ、リリエルは怒りのままに叫ぶ。
「忙しいって言うのに、邪魔は、入るし‥‥まかせたよ?」
 舌打ちして塊は鬼魅に任せる。
「そうね〜。丁度血が見たかった所なのよ」
 鬼魅はくすくすと嗤い、いたぶりがいのありそうな獲物に赤い唇をすっと舐めるのだった。
  
 
●戦いは、何時だって残酷で。
「いけない、リリエルさんがっ‥‥!」
 パソコンで常にメイド達の位置を把握し、地域の霊力に気を配っていた帆乃香が叫ぶ。
 よりによって、戦闘能力のない彼女が戦禍衆と鉢合わせしてしまうとは。
「ああ、もう、どうして彼らの存在に気づけなかったのでしょう?!」
 地獄界から溢れる瘴気に気を配っていたから、そこに紛れる二つの負の霊力に気づけなかったのだ。
 帆乃香は苛立たしげにパソコンを引っつかみ、ホテルを後にする。
(「晴明桔梗印‥‥どうか、間に合ってください」)
 メイド達が地獄界と現世の繋がりを防ぐ希望はきっとそれなのだ。

 
「その程度で、あたしに逆らう気なの? 呆れた天使ね」
 炎の鞭に巻かれ、白い羽を燃やされながら呻くリリエルを、鬼魅は心底おかしそうに嘲笑う。
 ピシリと振るわれる炎の鞭は、情け容赦なく身動きの取れないリリエルに浴びせられた。
(「リリエルは、リリエルは‥‥負けませんの!!」)
 涙が滲みそうになるのを必死でこらえ、リリエルは鞭を振り解こうともがく。
 だが、結界能力に長けた彼女は、その分火力に欠ける。
 鬼魅の力を打ち破るには弱すぎた。
「終わりね?」
 くすくすと嗤う鬼魅の声は、けれど次の瞬間悲鳴に変わった。
 鞭を振るうその腕が、ぽとりと切り落とされている。
「うちの子たちに手出しをした邪気‥‥忘れる筈がありません」
 血に濡れた刀を構え、何処までも無表情ながらも怒りのオーラを身に纏った代理店長がその場に佇んでいた。
 代理店長も、ずっと気に病んでいたのだ―― 大切なメイド達を守れなかった事を。
 ほんの少しでも傷付いてなどほしくはないのに。
 だから、一見普段と変わらない素振りを続けながら、その実、ずっと上の空だった。
 話しかけられても数テンポ遅い反応は、けれどその無表情な冷静さと普段からの機敏さでメイド達に気づかれることはなかったけれど。
「許しはしませんよ?」
「このあたしの美しい肌に、よくも傷を!」
 怒りのままに髪を振り乱し、鬼魅は先ほどまでとは比べ物にならない霊力を解き放った。


「代理店長!」
「大変ニャ!」
 帆乃香から連絡を受け、現場に駆けつけた立花とミャーが同時に叫ぶ。
 そこには、血の海に沈む代理店長の姿が。
「どうして、なぜ?!」
 現状を理解できず、雪恵はその場に立ち尽くす。
「ほんと、何でこんな雑魚にあいつはやられたんだろうね? でも、容赦しないよ!」
 鬼魅の鞭がしなり、メイド達へと襲い掛かる!
「させませんの〜っ!」
 その瞬間、リリエルが叫び、結界を張り巡らす。
 リリエル自体は動けなくとも、メイド達を守るための結界を張ることぐらい出来るのだ。
 いいや、出来なくともしてみせる!
「今度こそ護りますの〜!」
 強い意志は、強い力となり、鬼魅の攻撃を全て弾き返す。
「代理店長、しっかりするニャっ」
 ミャーは抱きかかえて代理店長を結界の中に保護し、立花が癒しの聖歌で傷を癒してゆく。
 立花の歌に癒されながら、代理店長は唇を噛み締める。
「駄目です‥‥あなたたちを戦わせるわけには‥‥っ」
「動いちゃ駄目なんだよ。すぐに全部治るわけじゃないんだよっ」
 ツインテールを揺らし、立花は戦おうとする代理店長を抱きとめる。
 代理店長にだって、わかっているのだ。
 EHに入ったからには、遅かれ早かれ、メイド達が傷付く日が来ることは。
 けれどそれでも、大切な少女達には誰一人傷付いてなどほしくない。
 変われるなら、全部自分がその傷を受けてしまいたい。
 そのほうがメイド達が傷付くより、ずっとましなのだ。
「‥‥大切な人を、守りたいです」
 ぽつり。
 雪恵が呟く。
 誰の笑顔も、無くしてはならないのだ。
 絶対に。
「雪恵さん? まさか、また暴走?!」
 雪恵の胸に蓮の花が光り、浮かび上がったのを見て立花が叫ぶ。
 けれどそれは暴走ではなかった。
 仲間達が、大切な人が、幸せでいるために。
 その笑顔を守るために自分になにができるのか。
 雪恵の手に、光り輝く鎌が具現化される。
「それは、蓮さんの鎌ニャ! 雪恵さん、力を制御できてるニャっ」
 ミャーの叫びに、雪恵は微笑む。
「わたしも、みんなを守るわ。お兄ちゃんは、ここにいるの。みんなも、いまここにいるの。誰一人、悲しむことがないようにしたいの!」
 叫び、鎌を振るう。
 振るわれたそれはカマイタチを繰り出し、リリエルの拘束を、そして鬼魅の身体を切り裂いてゆく。
「こんな、小娘どもがっ?!」
「‥‥転送するよ? これ以上不利になるのは、やばいし‥‥体勢建て直しだね」
 パチン。
 それまで、メイド達には目もくれずに封印の呪を施していた塊が舌打ちと共に指を鳴らす。
「このまま引き下がるわけにはっ‥‥お前、来るんだよ!」
 リリエルの結界に血塗れの腕を伸ばし、聖なる力に焼かれながら鬼魅はミャーの腕を掴む。
「行かないニャっ」
 けれどミャーはその瞬間、子猫の姿に変わり、鬼魅の腕をすり抜けた。
「くそっ、くそっ! このあたしが、こんな小娘にっ」
 まさに鬼の形相の鬼魅は、塊と共にその場を消え去った。 

   
●五芒星
「封印には、五芒星が使えるはずなんです」
 現場に合流した帆乃香は、ノートパソコンに映し出した画像を指し示す。
 戦禍衆が去ったその場所は、まだ地獄界から噴出す邪気に満ちていた。
 この邪気の流出を止めなければ、災害も止まることはない。
「ミャーさんは、右へ、代理店長は‥‥北側へ。いえ、もう少し右側、ええ、その場所です」
 メイド達の霊力の強さを考えながら均等になるように、帆乃香は位置を指示して行く。
「そしてわたしがこの場所で。みなさん、いきますよ?」
 ノートパソコンに描かれた画像と、それに付随する術を帆乃香は胸の中で反芻する。
 頷くみんなを確認して、帆乃香は術を唱える。
 メイド達の身体から霊力が放たれ、光の柱となって天と地を繋ぐ。
 その五つの光は晴明桔梗印―― またの名を五芒星を描いて邪気を封印する。
「一体、どれほどの邪気が溢れるのでしょうか? けれど、きっと止めて見せます」
 みんなで力を合わせれば、きっと。
 メイド達は、顔を見合わせて力強く頷くのだった。