冥土のお仕事☆戦禍衆3アジア・オセアニア

種類 ショート
担当 霜月零
芸能 1Lv以上
獣人 1Lv以上
難度 普通
報酬 1.2万円
参加人数 8人
サポート 0人
期間 07/19〜07/23

●本文

 ――思い遺したことはなんですか?
 ――行きたかった場所はどこですか?
 ――泣いている人はどこですか?
 ――その願い、その苦しみ、わたくしたちが解決しましょう‥‥。


「In the Dark、闇は何処まで深いのか」
 赤く染まった月を見つめ、EHのメイドである美女は赤い髪を夜風になびかせる。 
 先日見かけた戦禍衆―― 鬼伯。
 かの悪霊が関わっているとなると、なにやら因縁めいた物を感じずにはいられない。
「So dark、だからこそ、闇は深まるのかもしれないな」
 彼女にしかわからない言葉を呟いて、踵を返す。
 月は、より一層血色に染まってゆくのだった‥‥。
  

☆冥土のお仕事出演者募集☆
 深夜特撮番組『冥土のお仕事☆』では、メイド服に身を包んだ特殊能力を持った少女達が、助けを求める幽霊達の願いを叶え、天国へと導いています。
 そして今回『冥土のお仕事☆戦禍衆3』では、悪霊の統治者『主』の直属の配下『戦禍衆』の面々と戦っていただきます。
 戦禍衆は一人でもOKですし、数人でも良いです。
 また、人数が足りない場合などはNPCが参加します。

●今回の参加者

 fa0389 KISARA(19歳・♀・小鳥)
 fa0898 シヴェル・マクスウェル(22歳・♀・熊)
 fa1105 月 李花(11歳・♀・猫)
 fa1420 神楽坂 紫翠(25歳・♂・鴉)
 fa2057 風間由姫(15歳・♀・兎)
 fa2601 あいり(17歳・♀・竜)
 fa2910 イルゼ・クヴァンツ(24歳・♀・狼)
 fa2968 吉田 美弥(12歳・♀・猫)

●リプレイ本文

●プロローグ
「夜魄にい〜。これ遅くなったけど、渡すね?」
 そういって、戦禍衆の一人・柊塊(月 李花(fa1105))は霊石を夜魄(神楽坂 紫翠(fa1420))に手渡す。
「これは、鬼叫の‥‥手間をかけたな?」
 小さなその欠片は、夜魄の親友であった鬼叫の形見。
「そばにいたのに、何もできなったよ」
「‥‥お前のせいでもない‥‥」
 唇を噛み締める妹の頭を、柊塊はそっと撫でながら、遠い昔を思い出す。
(「あれと、初めて会ってから‥‥もう何十年も経つのか‥‥」)
 出会いは最悪。
 それがいつの間にかかけがえのない存在となり、そしていま、夜魄よりも先に逝ってしまった。
(「まさかお前の方が先に逝くとは‥‥信じられないな?」)
 知らず、苦笑が漏れる。
「ふむ。なにやら小娘たちが面白いことになっておるのぅ」
 戦禍衆の一人、鬼伯(神楽坂 紫翠(fa1420)一人二役)の声が、物思いに耽る夜魄を現実へと引き戻す。
「ふうん? 随分と負の感情が集まってるんだね。‥‥ほんの少しつつけば、もっと面白くなるんだよ」
 鬼伯の映し出す映像を、塊も興味深げに覗きこむ。特撮効果でその姿が小さな茶色い猫へと姿を変わっていった。
 そこに映し出されているのは、メイド喫茶『Entrance to Heaven』だった。


●努力はこっそりひっそりと。
「まだまだ、ですの‥‥っ」
 見習い天使のリリエル(KISARA(fa0389))は人気のない森の中で、白い翼をはためかす。
 彼女が再度精神を集中させると、白い翼が輝き、光の粉が辺りに舞い落ちた。
 木漏れ日を思わせる優しいその光は、リリエルが願えば願うほど、その光を増してゆく。
 でもリリエルは納得しない。
 こんなものじゃない。
 まだまだ自分の力は、強められるはずだ。
(「こんなんじゃ、駄目ですの。もっとがんばるのです。蓮さんの分まで‥‥」)
 死神の青年を思い浮かべながら、リリエルはさらに気を高めようとし、
「え?」
 何かに気づいた。
 それが何なのかはわからなかったが、胸騒ぎが止まらない。
「急いで、戻りますの〜っ」
 パタパタと羽をはためかし、リリエルは大空に舞い上がる。


 同じ頃、EHのメイドである高梨雪恵(風間由姫(fa2057))もメイド喫茶の近所の公園で自己鍛錬に励んでいた。
「まだまだ力不足ですね‥‥」
 振るっていた竹刀をベンチに置き、雪恵も腰掛ける。
 死神であり、兄でもあった蓮の能力を受け継ぎ、強大な霊力を手に入れたものの、雪恵はまだ使いこなせていなかった。
 けれど図書館で文献を調べたり、仲間のメイド達に霊力の鍛錬方法を尋ねたり、色々と努力を重ねている分だけ少しずつ、以前の自分よりも霊力が高まっている事を実感していた。
「あれ?」
 ふと見上げた空に見知った少女を発見し、雪恵は立ち上がる。
「リリエルさん? なんか急いでるみたいだけど‥‥」
 声をかけてみるが、空は高く、雪恵の声はリリエルには届いていないようだった。
 竹刀をしまい、肩にかけながら雪恵はEHへと走り出す。 
 

●罠
「にゃ? 子猫ニャ。可愛いニャ♪」
 メイド喫茶で働く猫耳メイド・ミャー(吉田 美弥(fa2968))は、店の中に迷い込んできた子猫を抱き上げる。
 茶色い子猫からはなんだかよい香りがして、ミャーはほんのりと眠くなった。
「あれ? おかしいニャ。へんな感じニャ‥‥?」
 猫妖精である彼女の尻尾がフリフリと揺れる。
 子猫に妙な違和感を感じたのだが、気のせいだろうか?
「ミャーさんの友達なのかな? 可愛いんだよ」
 カチューシャを直しつつ、赤い巻き髪ツインテールを揺らして迷い込んできたその子猫を立花音羽(あいり(fa2601))は覗き込む。
 その瞬間、子猫の目がにっと細まる。
 なぜだろう?
 音羽は急に不安でたまらなくなった。
「おいおい、喫茶店なんかOPENしている場合ではないだろう? 力を使いこなすことが先決の筈だ」
 苛立たしげに店の看板を叩き、レイ(シヴェル・マクスウェル(fa0898))が代理店長――久我有瀬(イルゼ・クヴァンツ(fa2910))を睨みつける。
 店内の客が何事かと振り返る。
「‥‥ここはメイド喫茶です。お客様をもてなし、敬うことも大切な仕事ですよ」
 いま自分がどこにいるのか。
 それをレイに確認させるように、代理店長は周囲の客になんでもないと微笑んでみせる。
 レイが何の事を話しているのかはよくわかっているが、一般人にDの時間――死者にかかわるEHの本当の仕事を知られるのは困るのだ。
「それがどうした? こんな事をしている間にも、あいつらは着々と準備を進めているんだ。くそっ」
 焦る気持ちのままに、レイは拳を壁に叩きつける。
 子猫がいつの間にかその足元にすりより、レイを見つめている。
「あなたの不甲斐なさへの苛立ちを、皆にぶつけないでください‥‥」
「なんだと? それはどういう意味だ?!」
 レイは冷静に、むしろ冷たくすら見える代理店長の胸倉を掴む。
 普段のレイならばいくら怒っても同僚に手を上げるようなことはしないはずだった。
 だが、苛立ちがどんどん増して自分を抑えることが出来ない。
「うにゃーっ、お店で喧嘩しちゃ駄目ニャっ」
「二人とも落ち着いてだよっ」
 ミャーと音羽がおろおろしながらそレイを抱きしめるように引き離す。
「わっ?!」
「なにがあったんですの〜?」
 丁度店に戻ってきた雪恵とリリエルは、抱きとめられているレイに目を見開く。
「‥‥‥‥くそっ!」
 二人の手を払い、レイは顔をしかめて店を飛び出していった。
 
 その、後姿を。
 子猫姿の塊と、客の中に紛れ込んでいた鬼伯が歪んだ笑みで見つめていた。
 

●思い出と今と仲間と戦禍衆
「‥‥うまく行かないものだな? Friend‥‥」
 勢いで外に飛び出したレイは、十字架を握り締めて空を見上げる。
 戦禍衆・鬼伯。
 それは、レイにとって忘れられない悪霊だった。
 アメリカで、いつも共にいた相棒を失ったのは、つい昨日のことのよう。
 独断専行の目立つレイとなぜか気が合い、唯一背中を預けることの出来た戦友であり親友であった彼女はもういない。
「‥‥私が、愚かだったから」
 自信があったのだ。
 並大抵の悪霊には負けない自信が。
 そこを鬼伯につけこまれた。
 力押しではなく、精神に働きかける鬼伯の罠に陥り、あの日、レイは彼女を信じる事が出来なかった。
 彼女の言葉に耳を傾け、その忠告を聞いていたなら、レイの身代わりになって彼女が命を落とすこともなかったのだ。
 代理店長の長い銀髪は、彼女のそれと重なる。
 ふっと溜息をつき、レイは握っていた十字架を胸元にしまう。
「レイさん」
 後を追いかけてきていた音羽がタイミングを見計らって声をかける。
「‥‥すまなかったね」
「ううん、いんだよ。もう落ち着いたかな?」
「ああ」
「よかった! さっきはレイさんらしくなくてびっくりしたけど、でも、仲間同士で喧嘩しちゃうなんて嫌なんだよ。
 だから落ち着いたなら、一緒にお店に戻らないかな?」
 音羽の言葉に、レイはハッとする。
「らしくない、か?」
 そう、この感覚。
 自分の感情が必要以上に負の感情に支配されるこの状況は、以前にも経験したことではなかったか?
「店に戻るんだ!」
「あうっ、待ってだよ〜」
 全力で走り出したレイのあとを、音羽も駆け出す。
(「どうか間に合ってくれ」)
 レイの思いは祈りに似ていた。
  
 
 店の中は、惨憺たる状況だった。
「ミャーはミャーだからミャーなんだよ! 尻尾触んないでニャ!」
「もうもうっ、こんなコトをしている間に戦禍衆はやってくるかもしれないんですよ!」
 いつも明るいミャーがブチきれ、おっとりした雪恵も食器を投げ出す。
 代理店長は派手に叫んだりはしていないものの、唇を噛み締め、そっぽを向いている。
 そして店内の客達もそんなメイド達を無視してお互いに喧嘩を始めていた。
 とても皆、普通の状態ではなかった。
「こんな時にケンカなんかしてたらダメですの〜」
 おろおろとリリエルが泣き出し、仲裁に入るが突き飛ばされる。
「みんな、しっかりしてなんだよっ」
 ほんの少し店を開けていただけでこんな状況になっているとは思いもしなかった立花は、けれど店に入った瞬間やっぱりわけのわからない不安に襲われて泣きじゃくる。
(「どこだ? あいつはどこにいる?!」)
 皆と同じように胸に沸き起こる不安を経験から押し殺し、レイは店内の負の感情に集中する。
「見つけた!」
 店の一角。
 そこに座る客にレイは迷うことなく拳を叩き込む。
「ほほっ、随分と手荒い歓迎じゃて」
 客―― 鬼伯はレイの一撃をあっさりと避け、にやりと嗤う。
 その瞬間、塊と鬼伯の術が切れた。
 メイドも客も、はっとしたように顔を見合わせる。 
「やれやれ、久し振りにこの術を使うかの〜。ほれ、内面に溜めているモノを吐き出すのじゃ」
 くつくつと嗤い、鬼伯は術を発動する。
 空間が捩れ、実体を持たない下等な悪霊が店の中に溢れ出す!
「お客さまっ?!」
 雪恵が客に腕をねじりあげられ悲鳴を上げる。
 客の目はまともじゃなかった。
 ぶつぶつと何かを口走り、雪恵を離さない。
「こっちに来ちゃ駄目だってば、みんな、外に逃げてだよっ」
 立花が必死で客を外に避難させようとするが、客はメイド達に群がる。
『メイド‥‥大好きなんだ‥‥』
『僕のものおおおおっ』
『邪魔をするな‥‥ずっと一緒にいるんだよおおおお‥‥』
 普段は胸の片隅にある独占欲を剥き出しにし、客同士で取っ組み合いの喧嘩まで始めだす。
「なぜだ? 何故お前達はこうまでして負の感情を撒き散らす?!」
 レイが鬼伯の術を拳で叩き落しながら睨みつける。
「撒き散らしてるわけじゃないんだけどな。もともと溢れてるそれをちょっと集めてるだけなんだよ」
 子猫の口から答えが返り、一瞬意識を逸らされたレイの腕を悪霊が切り裂く。
「攻撃で役に立てないのなら、その分絶対に仲間を守りますのっ」
 リリエルが前に飛び出し、結界を張り巡らす。
 レイに追撃しようとしていた悪霊はその結界の前に弾け飛んだ。
「くっ!」
「代理店長!」
 お客を庇いながら悪霊を払っていた代理店長が片膝をつく。
 前回の戦闘で傷付いた身体はリリエルやメイド達によって治療されていたが、それでも本調子とは言いがたい。
 そして鬼伯と塊の術にはまり、辛い気持ちを押し殺しているレイに冷たく当たってしまった。
 レイに言った、自分の苛立ちを他人にぶつけないでという台詞は、代理店長自身の事でもあったのだ。
 大切なメイド達を危険にさらすことなく、守りたい。
 けれど力が足りなくて、自分のせいで仲間が傷付く。
 気持ちばかりが焦り、上手く力が振るえなかった。
「代理店長、下がってニャ!」
 無茶をしかける代理店長をリリエルの結界の中に引き込み、ミャーは意識を集中する。
「ミャーさん?」
「黙ってニャ」
 雪恵の胸に手を当て、ミャーはその小さな手の平から自分の霊力を雪恵に分け与える。
 ミャーの霊力は雪恵の胸に輝く蓮の花に融合し、その輝きを安定させる。
「ミャーさん、ありがとうございますっ!」
 雪恵は腕を前に差し出し、光り輝く鎌を具現化させる。
 それはミャーの力を得て、以前よりもずっと雪恵の手に馴染んでいた。
「覚悟してくださいっ!」
 下級な悪霊を瞬時に切り裂き、雪恵は音羽の歌声とリリエルの結界に守られながら鬼伯に切りかかってゆく。
 次々と消される悪霊と、自分に向けられる鎌を避けながら鬼伯は塊を抱きかかえる。
「頃合いじゃな? ほれ、一旦引くぞ。これ以上こちらの戦力を減らすわけにもいかんのじゃ」
「う〜、分かったんだよ。いく」
 人型に戻り、不貞腐れながら塊は頷いた。
「逃げるのか?! お前達の目的はいったい何なんだ!」
 レイが拳に霊力を貯め、大砲のように鬼伯に発動する。
「獄霊界の崩壊を止めるんだよ」
「無知とは残酷じゃて」
 塊と鬼伯。
 それぞれが答えを口にし、大砲と化した霊力が当たる前にその場から姿を消し去った。
   

●エピローグ
「店のほうは、わたしのほうで処理しておきましたよ」
 EHの店長であり、死神でもある老人は、代理店長に声をかける。
 今日店に来ていたお客様の記憶を冥界の許可を得て書き換えたのだ。
 客達は目の前で起こった事を忘れ、いつものようにメイド達との楽しい一時を過ごしたかのように。
「また、皆を危険にさらしてしまいました‥‥」
 音羽が巻いてくれた腕の包帯を見つめ、代理店長は俯く。
「ふむ。‥‥少し、わたしと話しましょうか」
 代理店長の肩を優しく抱きしめる。

 次の日。
「あれ? 代理店長はどこなのかな?」
 いつもいるはずの姿が見えず、音羽は心配そうに辺りを見回す。
 怪我が悪化したのではと不安になるメイド達に、店長はメイド服に身を包んだ代理店長を連れてくる。
「代理店長は、しばらくお休みしていただくことになりました。代わりに、新しい店員さんが入ります」
「久我有瀬です。宜しくお願いします」
 頭を下げる代理店長、いや、新しいメイドに仲間達の顔に笑顔が浮かぶ。
 気負いすぎて、背負い過ぎてしまうなら、一度その荷を降ろしたほうがいい。
 皆と同じ位置に立って、自分を見つめなおすのも良い機会かもしれない。
「‥‥Sorry」
 まだ代理店長に謝っていなかったことに気づき、レイが頭を下げる。
 胸の十字架が、心なしか温かくなったような気がした。