冥土のお仕事☆夏祭り☆アジア・オセアニア
種類 |
ショート
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担当 |
霜月零
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芸能 |
1Lv以上
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獣人 |
1Lv以上
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難度 |
やや易
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報酬 |
1.1万円
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参加人数 |
8人
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サポート |
0人
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期間 |
08/02〜08/06
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●本文
「暑いですねぇ」
メイド喫茶Entrance To Heaven、略してEHのメイドは、おっとりと呟く。
「そうですね。こんな日は、やっぱり花火でしょう?」
暑いといいつつもスーツをきっちりと着込んだ代理店長が花火セットを取り出す。
「あ、さっきそれを買いにいってたのニャ? 線香花火もあるニャね」
猫耳&猫尻尾を揺らし、別のメイドも大きな瞳を期待に輝かす。
「地元からは少し離れますが、花火大会も開催されるようです」
机に向かっていたメイドも、愛用のノートパソコンのキーボードを打ち、瞬時に情報を調べながら眼鏡を押し上げる。
「ならば、決まりですね」
あまり表情を表さない代理店長の微笑で、全ては決定されるのだった。
☆メイドのお仕事出演者募集☆
深夜特撮番組『冥土のお仕事☆』では、メイド服に身を包んだ特殊能力を持った少女達が、助けを求める幽霊達の願いを叶え、天国へと導いています。
そして今回『冥土のお仕事☆夏祭り☆』では、争いを避け、まったりとお祭りを楽しんでいただきます。
また、人数が足りない場合などはNPCが参加します。
●リプレイ本文
●メイド喫茶『Entrance to heaven』
「ふぇ〜、『花火』ですか? リリエルはまだ見た事がないから楽しみですの〜」
EHのカウンターの中で、メイド服姿の見習い天使・リリエル(KISARA(fa0389))は背中の白い羽をはためかす。
「今日は花火大会なんだよ。屋台とかもきっといっぱい出るんだよね。楽しみなんだよ♪」
赤髪ツインテールを揺らし、メイド仲間の立花音羽(あいり(fa2601))もご機嫌。
花火が一体何なのかわからないリリエルにも、音羽の嬉しそうな顔を見ていればそれがどんなに楽しいものか想像できる。
「日本のお祭りでは浴衣を着るのよ」
まだお店は営業中だというのに花火大会が待ち遠しいらしく、高梨雪恵(風間由姫(fa2057))はスタッフルームにおいておいたバックから浴衣を取り出す。
「金魚柄なのね。古風で風情があるわね」
最近EHに入ったばかりの新人メイド・咲村柚子(梓弓鶴(fa4048))が雪恵の浴衣をみて、あたしも夜は浴衣になろうと呟く。
「そういってもらえると嬉しいです。この浴衣は、とても思い出深いですから」
亡くなった母の形見であることは言わず、雪恵はそっと浴衣を抱きしめる。
「おいおい、そんなことをしている場合ではないだろう‥‥あ、いや、いや、仕事だけじゃなく、Break Timeも必要かな」
そしてアメリカからの留学生・レイ(シヴェル・マクスウェル(fa0898))は浮かれる仲間達に釘を刺そうとするが、逆に代理店長―― いや、一時的に代理店長をお休みして一般メイドと同じ姿をした久我有瀬(イルゼ・クヴァンツ(fa2910))にちらりと一瞥されて言い直す。
レイはどうしても彼女に弱いのだ。
「皆さん浮かれていますね。私も浴衣を用意しておきました。‥‥っと、はい、ご主人様。お呼びでしょうか?」
花火大会の情報を愛用のノートパソコンでチェックしていた帆乃香(都路帆乃香(fa1013))は、お客様に呼ばれてポニーテールを揺らして接客に戻ってゆく。
この店からは少し離れているものの同じ沿線でのお祭りだから、花火大会の前にメイド喫茶による客も多く、店内はいつもより賑わっていた。
恐らく、ライバルイケメン喫茶の『Fantasy Space』も相当混んでいるに違いない。
「ライバル店に負けていられませんからね。あと一息、頑張りましょう」
スーツを脱いで、肩書きを外してもやっぱり代理店長は気質が代理店長。
浮かれるみんなに声をかけ、自分も接客へと戻ってゆくのだった。
●イケメンウェイター喫茶『Fantasy Space』
「‥‥しっかし、祭りのせいか? いつもにもまして客が多い。やれやれ」
イケメン喫茶FSのイケメンウェイター・柊紫苑(神楽坂 紫翠(fa1420))は、休みだというのに臨時バイトに借り出されて不平をもらしつつ、けれど微笑は絶やさずに仕事をこなす。
「店長〜、夕方になったら、上がりますから」
このままだと深夜まで借り出されそうで、紫苑はきっちりと店長に釘を刺す。
「はい、お嬢様。こちらは夏祭り特製デザート花火パフェでございます」
お客から注文された花火を模して生クリームの上にチョコスプレーをまぶし、糸のように細い飴を飾ったパフェを差し出し、紫苑はバイトに勤しむ。
●浴衣姿は艶姿
「こんな感じですか〜?」
リリエルが天使から人へと実体化して、雪恵を真似て浴衣姿になってみる。
蝶々柄の白い浴衣は、どことなく雪恵の金魚柄に似ているかもしれない。
「リリエルさん、それでは死人ですよ? 浴衣や着物は左前です」
和服を普段から着慣れているのだろう。
艶やかな黒髪によく映える朝顔柄の浴衣を着こなして、帆乃香はリリエルの浴衣の間違いを正す。
雪恵をみながら変身したから、浴衣の重ねが左右が逆になってしまったのだ。
「慣れないと難しいよね」
青地に朝顔柄の浴衣に白い帯をなんとか結び終えた柚子も苦笑する。
「Opposite? ふむ、着ていればいいというものではないのだな」
レイは久我が何気に用意してあったレイの分の浴衣を帆乃香に手伝ってもらいながら着る。
「浴衣にはアップが似合うんだよ♪」
モダンな赤地に蝶々柄の浴衣姿の音羽は、スティックとデザートクリップを使い、少々纏め辛いレイの髪を上手にアップ。
「Thank you」
軽くウィンクして礼を言い、レイはふと、久我を見つめる。
「なんですか?」
いきなりまじまじと見つめられた久我は小首を傾げる。
光の加減で僅かに紫がかって見える久我の浴衣姿は艶っぽい。
「いや、綺麗だな、と思って」
だから、レイがこういう感想を口にするのはもっともなことだろう。
「‥‥ありがとうございます」
あまり感情の顔に出ない久我の頬がほんのりとピンクに染まるのだった。
●夏祭り
花火大会の会場に着くと、そこは人で溢れかえっていた。
ぎゅうぎゅうとおしくら饅頭のような人の波にメイド達は押しつぶされて流されてゆく。
「うっきゃーっ、迷ってしまいましたの〜」
そしてやっぱりというかなんというか。
リリエルはみんなとはぐれてしまったらしい。
ドーンと派手な音を立てて打ち上げられる花火に驚いている間に、人ごみに飲まれてしまったのだ。
見知らぬ顔ばかりになったそこからリリエルは実体化を解いて霊体になり木の上に舞い上がる。
こうすれば、一般の人にリリエルの姿は見えないし、あたり一体を見渡せるから仲間達との合流もしやすいだろう。
「‥‥あの時は、蓮さんが迎えにきてくれたんですよね‥‥」
天に近い小高い木の梢は、観覧車の天辺から見た風景に良く似ていた。
遊園地でみんなとはぐれて、気がついたら観覧車の天辺に座っていたリリエルを迎えに来てくれた優しい死神はもういない。
「蓮、さん‥‥リリエルは、もう、泣かない、から‥‥強く、なるから‥‥頑張る、から‥‥だから‥‥今、だけは‥‥」
夜空に散ってゆく花火に、リリエルの頬に涙が伝った。
「いらっしゃいませ♪ 本日もご来店ありがとうございます」
浴衣姿で柚子は営業スマイルを振りまく。
店からは離れているとはいえ、同じ沿線。
常連客も花火を見に来ていて、急遽EH仮出店となったのだ。
もちろん、仮のお遊びだから御代は全て無料。
「ああ、申し遅れました‥‥新店員の、久我です」
常連客の一人が自分を接待するのが代理店長だと気づき慌てると、久我は口元にほんのりと笑みを乗せて挨拶をする。
何気なくメンバー全員フリルのメイドカチューシャをつけているのはどこからともなく久我が用意したからだ。
それだけではなく、久我は一体どこから調達したのか、簡易テーブルやらちょっとしたお菓子、そしてティーセットまですぐに手配してしまったのだ。
お陰で臨時店舗は大盛況!
「お嬢様、本日はヘアセットのサービス付きだよ♪」
男性だけでなく女性客の常連に会い、音羽は人込みで乱れてしまったお客様の髪をやっぱり器用に結い上げる。
「こちらで着付けのサービスもいたします」
人込みを抜けてもきちんと浴衣を着こなした帆乃香が手を上げると、常連さんだけでなくたまたま通りかかった浴衣姿の女性達がわっと列を作り出した。
日本人とはいえ、浴衣は普段着慣れない人のほうが多い。
混雑で着崩れてしまった浴衣をだまし騙し着るよりも、手馴れた帆乃香に直してもらうほうがいい。
(「あらあら、お休みにならなくなってしまいましたね。‥‥でも、こういう日常も悪くはありませんよね」)
ずらりと並んだお客様を見て、その幸せそうな笑顔に帆乃香は苦笑しながらも満足感が心を満たす。
「なんだ、結局仕事しているんだな」
「レイさん、いままでどこに?」
大量のたこ焼きを片手に現れたレイに、雪恵が尋ねる。
「hesitates‥‥いや、Visit。日本文化の見識を広めていたんだ」
道に迷った、などとは口が裂けてもいわない。
でも久我の目は誤魔化せない。
「葉っぱ、ついてますよ?」
レイの髪に付いた葉っぱを手に取り見せる。
一体、どこを通り抜けてきたのやら。
「サクラの時もそうだったが‥‥綺麗だな」
誤魔化し半分に見上げた花火は本当に綺麗で。
儚く散ってゆく光がメイド達の頭上で煌く。
丁度、同じ頃。
バイトを終え、帰宅したマンションの屋上から紫苑は花火を見ていた。
「ふう‥‥花火か? すぐ消える物は、儚いから、綺麗なんだが‥‥」
一瞬の輝きを放つ死ぬ瞬間の魂の輝きもまた、別格。
紫苑の姿に、戦禍衆たる夜魄の姿が重なる。
夜空に散り行く花火と共に、逝くのは誰の魂なのか。
●エピローグ
「こうゆう花火も素敵ですね♪」
久我の用意した手持ち花火をみつめ、柚子はご機嫌。
盛大だった花火大会も終わり、久我が手配した仮店舗用品をみんなで片付けて、帆乃香がパソコンで探し出した近所の空き地に集まって、花火に火をつける。
打ち上げ花火のような派手さはないものの、指先から迸る小さな光はほんのりと和んだ。
いつまでも、この小さな平和が続きますように。
メイド達の笑顔に、久我も微笑んだ。