冥土のお仕事☆迷い鳥アジア・オセアニア
種類 |
ショート
|
担当 |
霜月零
|
芸能 |
2Lv以上
|
獣人 |
1Lv以上
|
難度 |
普通
|
報酬 |
3.6万円
|
参加人数 |
8人
|
サポート |
0人
|
期間 |
08/16〜08/20
|
●本文
――思い遺したことはなんですか?
――行きたかった場所はどこですか?
――泣いている人はどこですか?
――その願い、その苦しみ、わたくしたちが解決しましょう‥‥。
メイド喫茶『Entrance to heaven』。
略して『EH』
そこは最近流行のメイド喫茶で、シックで愛らしい黒いメイド服に身を包んだ少女達はもちろんのこと、女性客の来客も増えたことからイケメンのウェイターも取り揃えたちょっぴりメイド喫茶としては邪道なお店。
「困ったニャ」
EHのメイドの一人が、それを見て大きく溜息をつく。
「ええ、流石に、これはちょっと‥‥」
おっとりとしたメイドも困惑顔。
「みなさんどうしたですか〜? とってもかわいいです〜♪」
真っ白い羽を背に生やした少女はほわほわとそれを見つめてうっとり顔。
「おや? ‥‥雛、ですか」
買出しから戻ってきたEHの代理店長は、メイド達が見つめるそれをそっと手に取る。
小さな雛は、まだ羽根が生え揃ったばかりらしく、ピィピィと鳴く姿も愛らしいのだが‥‥。
「霊体ですね」
愛用のノートパソコンで雛の種類を調べていたメイドが顔を上げる。
問題の雛はそれはそれは小さくて可愛いのだが、霊体、幽霊なのだ。
代理店長が抱き上げたすぐ隣には、魂の抜けた雛の肉体がまあるくうずくまっている。
「死んでいるわけではない?」
「ええ。生きているのですけど、魂が戻らなければいずれは‥‥」
本来なら、死んでいないのならメイド達の霊力で元の身体に戻せるはずなのだが、いかんせん、先ほどから何度試しても上手くいかないのだ。
代理店長とメイド達。
顔を見合わせて雛を元に戻す方法を思案するのだった。
☆出演者大募集☆
深夜特撮番組『冥土のお仕事☆』では、特殊能力を持ったメイド服に身を包んだ少女達が、助けを求める幽霊達の願いを叶え、天国へと導きます。
今回のお仕事は雛を助けてあげることです。
原因不明で、なぜか魂が身体から抜けてしまった幼い雛鳥を元に戻してあげてください。
●リプレイ本文
●雛鳥
(「ん? 今何か聞こえましたの〜」)
いつものようにその背に生やした小さな白い翼で空を羽ばたいていた見習い天使のリリエル(KISARA(fa0389))は、微かに聞こえたその声に耳を澄ます。
とても小さく、弱々しいその声は地上からのもの。
「こちらのほうから聞こえた気がするのです〜」
草叢に降り立ち、周囲を探す。
そろそろ日が落ち始めた周囲は薄暗く、見え辛い。
けれどリリエルは声を頼りに探す。
すると、どうだろう?
まだ羽も満足に生えそろっていない雛鳥が一羽、木の下でうずくまって鳴いていた。
頭上を見ても巣はなく、親鳥の姿も見えない。
しかも、ただの雛鳥ではない。
「大変ですの、肉体と魂が離れてしまっていますの〜」
そう、その雛鳥は肉体と魂が離れてしまい、霊体の状態の雛が必死に鳴いていたのだ。
肉体から離れてしまった雛の鳴くその声は、普通の人間達には聞き取ることが出来ず、霊力の高い天使であるリリエルだからその声を聞くことが出来たのだろう。
「急いでつれて帰りますの〜っ」
自らの身体を霊体から実体化させ、雛鳥の肉体と魂をその白い手で包み込みながら、リリエルは大慌てで仲間達のいるメイド喫茶『Entorance to Heaven』へ戻るのだった。
●メイド喫茶『Entrance to Heaven』
「あら? 今日からいらしゃる方はまだですか?」
メイド喫茶『Entrance to Heaven』、略してEH。
そこのメイドである高梨雪恵(風間由姫(fa2057))は、そろそろ閉店になろうとしている店内を見回して代理店長・久我有瀬(イルゼ・クヴァンツ(fa2910))に尋ねる。
久我は先日から一般のメイドとして働いていたりするのだが、代理店長としての仕事もそつなくこなしている。
「先ほど連絡がありましてね。急用で今回はこられなくなったそうです」
尋ねられた久我は少し微笑して、答えた。
「残念ですけど、次は一緒に頑張れるといいですね」
新人メイドの咲村柚子(梓弓鶴(fa4048))も食器を洗いながら微笑む。
そしてナンシー(ライカ・タイレル(fa1747))が『Close』の看板をドアにかけようとした時、リリエルが店内に飛び込んできた。
●原因は何?
「雛鳥の幽霊ですか‥‥って幽霊? 除霊ですっ」
ナンシーがリリエルの手の中の雛鳥を見て、慌てて除霊を始めようとする。
小動物といえど、彷徨える霊は一刻も早く除霊して天国へ導いてあげないと、悪霊になってしまったりするのだ。
「ナンシーさん、まってください。まだ死んでいません」
祈りを捧げ、聖水を作り出すナンシーを、けれど帆乃香(都路帆乃香(fa1013))が止めた。
「そうですの〜。魂が身体から飛び出しちゃってますけど、まだ生きてますの〜」
おろおろと、手の平の中でどんどん弱ってゆく雛鳥を見つめ、リリエルが涙ぐむ。
今はまだ生きているが、このままほうっておけば間違いなく死んでしまう。
「私に任せてみろ」
レイ(シヴェル・マクスウェル(fa0898))が拳に霊力を溜める。
「‥‥おい」
「なんですか?」
そのレイの手首を、久我が見た目やんわりと、けれど実際しっかりと握って止めている。
「その手はなんだ?」
「雛鳥が死んでしまいます」
「Wait、おいおい、殴ろうとしたわけじゃないぜ?」
「それはみればわかりますよ。でも貴方が全力で霊力を注ぎ込んだら即死です」
「‥‥‥」
きっぱりと言い切られ、レイはしゅんとして拳を引っ込めた。
そしてメイド達がかわるがわる雛鳥をその霊力で持って魂を肉体へ戻そうと試みるのだが、ことごとく失敗。
「随分怯えていますね。可哀相です‥‥」
店内の後片付けを終えた柚子も、雛鳥の怯え方に胸を痛める。
リリエルの手の中で雛鳥は明らかに震え、そしてその背を撫でて落ち着かせてあげようとした柚子の手を威嚇した。
「怯えているというより、むしろこれは‥‥敵愾心?」
帆乃香が気づき、眼鏡を抑える。
よくよく見ていると、雛鳥はおびえているものの、リリエルにだけは懐いているのだ。
「何があったのですか〜? キミの判ることを、知っていることをリリエルに教えてくださいですの〜」
メイド達の霊力を雛に分けてもらい、その衰弱を回復してもらいながらこの邪気は‥‥
「これが雛が身体に戻るのを邪魔している?」
リリエルは雛に霊力で話しかける。
●御神木
「雛が活動出来る範囲なら、そう離れてはいないはずですけど‥‥」
帆乃香がノートパソコンのデータと照らし合わせ、寂れた神社とその周辺の木々を見渡す。
「リリエルさんが見たイメージは、この場所と似ていますか?」
雪恵も周囲を見渡しながらリリエルに尋ねる。
雛鳥は人の言葉を話すことはできなかったが、リリエルの心にイメージを送ってきたのだ。
そのイメージに符合する場所を帆乃香が即座にパソコンで調べ、急ぎ、この場所を訪れた。
「この子の親鳥、早く見つけてあげないと」
胸にほんのりと輝く蓮の花を意識しながら、雪恵は御神木に近づく。
リリエルの心に送られたイメージは、場所と、怪我をした親鳥。
特に親鳥に対する思いは強く、一刻も早く親鳥を探し出してあげたかった。
「赤い鳥居と、三本の杉の木、それに大きな御神木‥‥リリエルさんの言っていたものはすべてそろっていますね‥‥きゃっ?!」
リリエルのイメージと現場にあるものを照らし合わせていたナンシーの手首に、蔦が巻きつく。
そしてそれを皮切りに、周囲の木々が瞬時にざわめきだしメイド達に襲い来る!
「Darkness‥‥奴らの仕業か‥‥?!」
充満しだした邪気に、ナンシーに絡みつく蔦を拳で引き千切り、振り下ろされる木の枝を避けながらレイは戦禍衆を探す。
だが周囲にそれらしき気配はない。
幾度と無く戦った彼らの邪気と、今の邪気とは何かが違うのだ。
「リリエルの霊力でこの子は守ります。その間に解決方法を探してくださいませ〜」
弱っている雛に、この邪気は余りにも強すぎる。
リリエルは咄嗟に結界を張り巡らし、雛鳥を守りきる。
「持ってきておいて、よかった」
久我が、腰に下げていた竹刀袋を投げ捨て、その袋にしまっておいた刀で柚子を背後から襲おうとした枝を切り払う。
「ありがとうございますっ‥‥えいっ!」
柚子はお礼をいいながら、霊力を仲間達に分け与える。
まだ一人で戦えるほど強くは無いけれど、自分の霊力をみんなに分けることは出来るのだ。
そして驚くほど身軽。
不意を衝かれさえしなければ、柚子は殆ど木々の攻撃を避けきっている。
「この邪気は‥‥これが雛が身体に戻るのを邪魔している?」
帆乃香が雛鳥に微かにまとわりつく邪気に気づく。
リリエルがほぼ防いでいるはずの邪気は、けれど結界を張られるよりも前、雛が霊体になってしまった時に既にその肉体に入り込んでいたのだろう。
「うきゃっ、落ち着いてくださいですの〜。今外に出たら、危ないですのっ」
急に手の中で激しく鳴いて暴れだした雛鳥に、リリエルは慌てる。
「何を‥‥?! Caution! 右だっ」
自分と同じように雛鳥の声に気をとられた久我を、間一髪でレイが守る。
「なにか、この木の気配がちがうわっ」
胸の蓮が熱くなり、雪恵は御神木の気配を感じ取る。
本来、聖なる力で満たされているはずの御神木から、その気配を感じないのだ。
それどころか、周囲の木々に邪気を送り込んでいるような。
「私の聖水で、浄化して差し上げますっ」
ナンシーが祈りを捧げ、霊力から作りだした聖水を御神木に振り掛ける。
そして激しい耳鳴りを残し、周囲から邪気が消えてゆくのだった。
●エピローグ〜大空に羽ばたいて〜
「都市化が原因だったようです」
帆乃香がパソコンからデータを引き出す。
この寂れた神社の側には国道が走るようになり、木々は日々、排気ガスにさらされるようになった。
ただでさえ人が来なくなり、その神力が弱まっていた御神木も例外ではない。
排気ガスに汚染され、老朽化が進み、ついには正気を失ってこのような事になってしまった。
「なんとか、助けてあげられませんか?!」
雪恵が御神木を抱きしめる。
ナンシーの聖水で邪気を抑えられた御神木は、ゆっくりとその生涯を閉じようとしていた。
「可能性が無いわけではありません」
久我がリリエルと柚子をみつめる。
「貴方達二人の能力と、私達の霊力、そして自然の力を借りることが出来れば、あるいは救えるかもしれません」
どうする?
尋ねる久我に、全員頷く。
助けれるのなら、助けてみせる!
リリエルが想いを送る中心となり、柚子が緊張気味にそれを補佐する。
白い羽から金色の粉が舞い散り、メイド達は柚子とリリエルに力を送る。
みんなの力が一つとなり、金色の輝きをもって御神木に降り注ぐ。
今まさに消えかけていた命が、再び燃えてゆく。
「よかった‥‥」
成功し、霊力を取り戻した御神木に柚子は涙ぐむ。
「親鳥、こんなところにいるとはな」
レイがご神木の洞に守られてうずくまる親鳥に気づく。
御神木は邪気に支配され、正気を無くしながらも親鳥を、自然を守ろうとしていたのだ。
リリエルの手の中の雛鳥が大きく鳴いて、その霊体が自然と身体に戻ってゆく。
「親鳥も無事でよかったです」
リリエルに治療され、元気になった親鳥を見て雪恵もほっとする。
朝日の中、メイド達に見守られながら親鳥と雛鳥は大空へと羽ばたいてゆくのだった。