冥土のお仕事☆戦禍衆4アジア・オセアニア

種類 ショート
担当 霜月零
芸能 2Lv以上
獣人 1Lv以上
難度 やや難
報酬 3.7万円
参加人数 8人
サポート 1人
期間 08/30〜09/03

●本文

 ――思い遺したことはなんですか?
 ――行きたかった場所はどこですか?
 ――泣いている人はどこですか?
 ――その願い、その苦しみ、わたくしたちが解決しましょう‥‥。


 闇の中。
 悪霊たる戦禍衆の主と呼ばれし存在は、漲る負の霊力に薄っすらと笑みを浮かべる。
『わしの身体も、大分よくなったのぅ‥‥おぬしらのお陰じゃて』
 周囲に控えるのは、戦禍衆の面々。
 深く頭を垂れて、指示を待つ。
『復活の日は、もうすぐじゃ‥‥。獄霊界と地獄界を決して繋げる事なかれ‥‥』
 主の言葉に頷き、戦禍衆達は作為を張り巡らす。
 既に、戦禍衆の幹部が欠け、獄霊界、地獄界、そして現世に影響が出始めている。
 一刻も早く、負の感情を集め、邪魔なメイド達を始末しなくては。
 ――そうしなければ、自分達が消滅してしまうのだから。
 主の手から、赤い宝珠が生み出される。
 人の血を思わせる深い赤は、禍々しさと同時に、なぜか懐かしさを感じさせた。
「それは‥‥主様、それを使われるおつもりですか?!」
 戦禍衆の一人が、それが何であるのかに気づき、悲鳴に近い叫びを上げる。
 それは、以前戦禍衆の一人が使用した白と黒の宝珠に近いものがあった。
『お前達を‥‥信用しておるぞ‥‥』
 主はそう呟き、そっと眠りにつく。
 戦禍衆はその赤い宝珠を決して傷つけぬように賜る。
「確かに、これを使えばメイド達も負の力も、全て解決するでしょう‥‥」
「だが‥‥この宝珠を使わずに済めば‥‥それに越したことはないな」
 戦禍衆達の呟きも、闇に融けてゆく。
 

「どうして、こんなことに?!」
 メイド喫茶『Entrance To Heaven』
 その店員の一人が異変に気づき、叫び声をあげる。
 既に一般客はどこかへと消え、店内に残っているのはメイド達のみ。
「いつの間にか、罠を張られていたようですね‥‥」
 代理店長は表情こそ平時と変わらず無表情なものの、その声には焦りが滲む。
「Bad Communication、最悪だな。レディを誘う時はもっと上品にするものだ」
 赤髪のメイドは姿の見えない敵に悪態をつく。
 その身体からはどんどん霊力が奪われている。
 赤髪のメイドだけではない。
 この店にいる全てのメイド達の霊力が徐々に、だが確実に奪われているのだ。
 罠に嵌り、逃げ道を失ったメイド達は、奪われる霊力に苦しみながらも突破口を切り開くのだった。 
 

☆冥土のお仕事出演者募集☆
 深夜特撮番組『冥土のお仕事☆』では、メイド服に身を包んだ特殊能力を持った少女達が、助けを求める幽霊達の願いを叶え、天国へと導いています。
 そして今回『冥土のお仕事☆戦禍衆4』では、悪霊の統治者『主』の直属の配下『戦禍衆』の面々と戦っていただきます。
 戦禍衆は一人でもOKですし、数人でも良いです。
 また、人数が足りない場合などはNPCが参加します。
  

●今回の参加者

 fa0389 KISARA(19歳・♀・小鳥)
 fa0898 シヴェル・マクスウェル(22歳・♀・熊)
 fa1013 都路帆乃香(24歳・♀・亀)
 fa1420 神楽坂 紫翠(25歳・♂・鴉)
 fa2057 風間由姫(15歳・♀・兎)
 fa2601 あいり(17歳・♀・竜)
 fa2910 イルゼ・クヴァンツ(24歳・♀・狼)
 fa4048 梓弓鶴(22歳・♀・犬)

●リプレイ本文

●戦禍衆
「‥‥これは‥ある意味切り札と諸刃の剣だから‥‥使用は控えたい所だが‥‥ふむ‥‥」
 悪霊の統治者たる主様より受け賜った赤い宝珠を見つめながら、戦禍衆が一人・夜魄(神楽坂 紫翠(fa1420))は思案する。
 出来ることなら代わりの宝珠を使用したいところだが、代わりがきくような代物ではない。
 だからこそ切り札であり、諸刃の剣なのだ。
 代わりがきくのであれば、その価値は無いに等しい。
「発動までに要する時間が‥‥問題だな‥‥」
「塊が時間を稼ぐんだよ」
 思案する夜魄に、同じ戦禍衆であり妹である柊塊(月 李花)が陽動を買って出る。
「ふむ‥‥」
 塊に夜魄は頷き、瞳を伏せる。
 夜魄の身体から黒い霧が立ち上り、夜魄と寸分違わぬ姿をかたどった。
「‥‥こいつを共に行かせよう‥‥」
 影創呪―― 術者の霊力を元に、術者とまったく同じ能力や記憶を持った影は、塊を守るように佇む。
「夜魄にぃ、必ず成功させてみせるんだよ」
 夜魄から赤い宝珠を受け取り、塊は影と共に敵の場所―― Entrance to Heavenへと転移するのだった。 


●メイド喫茶『Entrance to heaven』
「お帰りなさいませ、miss」
 メイド喫茶『Entrance to heaven』。
 そこは、シックなメイド服に身を包んだメイド達はもちろんのこと、イケメンウェイターも取り揃えたメイド喫茶としてはちょっぴり邪道なお店。
 その店の中でも、一際異彩を放つレイ(シヴェル・マクスウェル(fa0898))は、ウェイター姿で店を訪れた女性客を席へと案内する。
 レイは正真正銘の女性なのだが、180を越す長身に加えて無駄のない筋肉と褐色の肌が異性的な魅力をも醸し出し、手を取られた女性は彼氏と同伴であったにもかかわらず頬を赤らめた。
「お帰りなさいませ、ご主人様。お嬢様と共に、ミルクティーは如何ですか? 朝摘みの茶葉でお淹れ致します」
 そして彼氏が何か反論するよりも早く、代理店長ことメイド姿の久我有瀬(イルゼ・クヴァンツ(fa2910))が彼氏に声をかける。
 久我のサラサラの銀髪は、赤髪のレイと並ぶとより一層映え、お互いを引き立てあう。
 彼氏は怒りかけたのも忘れ、久我に淹れてもらった紅茶をどぎまぎと口にした。
 絶妙のフォロー。
(「Thank you」)
 目線だけでレイは久我に礼を言い、久我もほんの少しの微笑でそれに答える。
「ご主人様、今日のメニューはいかがなさいますか?」
「はい、『あっち向いて萌え』ですね。かしこまりました」
 帆乃香(都路帆乃香(fa1013))はメニューブックを片手に新しい客をテーブルへと案内し、立花音羽(あいり(fa2601))はメイドメニュー『あっち向いて萌え』―― 『あっち向いてほい』のメイドバージョンを注文され、お客と共に談笑を交わす。
「Entrance to heaven特製メニュー、天使のパフェをお持ちいたしましたですの〜」
 見習い天使なメイドのリリエル(KISARA(fa0389))は、本当の白い翼を模造品に見せかける為にふんわりと動かしながら、羽根を模したチョコレートを飾ったパフェをお客様にお持ちする。
 カウンターでは帆乃香と高梨雪恵(風間由姫(fa2057))は手際よく食器を片付け、そして新人ながらも実力派の咲村柚子(梓弓鶴(fa4048))が新しいお客をご主人様として店内に案内しようとした時だった。
(「‥‥?」)
 レイが違和感に眉を潜める。
 それは新しい客から感じるものではなく、直感。
「あの‥‥お店、早めに閉めませんか?」
 柚子も表情を曇らせ、こっそりと久我に耳打ちをする。
 ここで何かよくないことが起こる、そんな気がしてならないのだ。
「私だけではないみたいだな」
 仲間達を見回し、その全ての顔に浮かんだ緊張感にレイも久我の側に来て店を閉めるように促す。
「仕方がありませんね。お客様を危険にさらすわけにはいきません。皆さん、お客様をお見送りする準備を」
 久我の指示に従い、メイド達は即座に自分達の受け持ったお客様に声をかけてゆく。


●絶対絶命? いいえ、必ず打ち勝ってみせる。
「さて、客‥‥お客さまがいなくなるまでwaitingしてもらったのは有り難いが‥‥どういうつもりかな?」
 レイが客の引いた店内の虚空を見つめ、にやりと笑う。
『よく気がついたね。でも、もう遅いんだよ!』
 虚空から塊がその姿を現し、舞を舞う。
 その舞は見るものの心を狂わし、その動きを鈍らせる。
「なんでっ?! 私、こんなことしたくないんだよっ」
「立花さん、離してください‥‥っ」
 音羽の腕がその意思とは無関係に雪恵を羽交い絞めにする。
 そして常日頃剣道で己を鍛えている雪恵も、通常ならばそんな音羽の単調な行動から逃れられるのだがいかんせん、塊の術のせいで動きが鈍り、音羽を振り払えない。
「Unpleasant smell、だがその手は二度と食らわない」
 レイが塊から発せられる香りに気づき、霊力をその身に纏って身体にそれが染み込むのを防ぐ。
 柔らかく鼻腔をくすぐる甘いその香りは、吸った者の精神に働きかけ不信感を煽るのだ。
「あなたが噂の戦禍衆ですね。大切な仲間たちを傷つけるあなたを、あたしは決して許しません。覚悟してください!」
「ん? この感じは‥‥待つんだ!」
 レイが自らの霊力に違和感を感じ、柚子を止めるが間に合わない。
 柚子は霊力を纏った拳を塊に繰り出す。
 だがやはり霊力が上手く働かない。
「?!」
「何の用意もなしにここに現れたと思っているのかな? 愚かなんだよ!」
 霊力を纏わない少女の拳は脆く、悪霊たる塊に少しのダメージも与えることが出来ない。
 繰り出される悪意の力の前に、動けない雪恵と音羽を巻き込んで柚子は大きく後ろに吹っ飛んだ。
 そして店内に赤い魔法陣が現れる。
「この力は一体‥‥くっ」
 久我とレイが吹っ飛んだ三人をその腕に受け止めながら、周囲を取り囲む魔法陣を見つめる。
 その身体からは凄まじい勢いで霊力が奪われてゆく。
「あははっ、かかったんだよ。お前達はもう逃げられない。主様の為にその霊力を全て捧げるんだよ!」
 勝利を確信した塊は嘲笑と共に夜魄の影の元へと転移する。


●みんなで、力を合わせて!
「いくら戦禍衆とはいえ、こんな事が一人で起こせるはずは‥‥絶対どこかに特異点があるはず‥‥」
 帆乃香はノートパソコンを開く。
「奪われてゆく霊力の流れを特定できれば‥‥でもこのままじゃ処理が間に合いませんっ」
 霊力を帯びたそのパソコンは、帆乃香が奪われる力に比例してその処理能力が落ちる。
 成す術もなく奪われてゆく霊力の残りをパソコンに回そうにも、奪われてゆく霊力に耐えるだけで精一杯だ。
「こ、こんなことで‥‥っ!!!」
 塊の術による拘束がとけ、自由になった雪恵は竹刀を魔法陣へ叩きつける。
 けれどただでさえ通常の霊力は弱い雪恵にはこの場で立っているのがやっとの状態。
 根性で振り下ろした竹刀は赤い壁となってメイド達を閉じ込める魔法陣にあっさりと弾かれ、雪恵もその場に崩れ落ちる。
「雪恵さん、無茶しちゃダメですの〜。ここはリリエルが頑張りますの〜っ」
 金色に輝く光の粉を散らしながら、リリエルが結界を張り巡らす。
 リリエルの結界により、霊力の流出速度がぐっと下がった。
「リリエルさん、感謝します。雪恵さん、しっかりしてください。負けないでください!」
 意識を失いかける雪恵に、柚子はその霊力を分け与える。
 その瞬間、雪恵の胸の蓮の花が輝き霊力が漲り始める。
「くっ‥‥お兄‥‥ちゃん」
 兄であり、死神であった蓮の力をその身に宿らせ、雪恵は持ち直す。
「音羽さん、あなたの歌なら霊力の流れが特定出来るかも知れません、お願いします」
 帆乃香が流出の弱まった霊力をパソコンに回し、音羽に助けを求める。
「みんなと一緒なら、きっとなんとかできるんだよっ」
 音羽はすっと立ち上がり、胸の前で両手を組み、祈りの聖歌を歌い始める。
 霊力を込めたその歌は、リリエルの光の粉と共に結界と、魔法陣の中に満ちてゆく。
「雪恵さん、あなたも協力してください。あたしも頑張りますから。リリエルさんに力を!」
 柚子に補佐されながら、雪恵は迸る霊力をリリエルに送り込む。
「大丈夫、リリエルは頑張れますの〜‥‥リリエルは天使ですもの」
 結界を維持する霊力と、魔法陣に奪われてゆく霊力。
 その消費量は人であったならとても耐え切れるものではない。
 天使であるリリエルは人よりは多くの霊力を有しているものの、それでも長く耐え切れるものではない。
 けれどリリエルは仲間の為に大丈夫だと微笑んでみせる。
(「雪恵さんと柚子さんの霊力をもってしても、彼女が持ちこたえられるのは後数分‥‥それまでに特異点を発見できなければ‥‥」)
 久我はリリエルの無理に気づいていながら、止める事をしなかった。
 いま彼女を止めれば、結界により阻められていた霊力の流出は一気に加速度を増し、メイド達は死に至る。
 だから久我は、リリエルにではなく自分の内に霊力を高める。
 帆乃香が特異点を見つけたその瞬間に、元凶を打ち崩せるように。
 ふと、レイと目が合う。
 考えていることは同じなのだろう。
「歌が、反響しているんだよ!」
 音羽が歌うのをやめ、天井を見上げる。
「宝珠はあそこにあるはずです」
 音羽の歌が流出する流れをパソコンで探っていた帆乃香も同じ場所を見上げる。
 周囲を囲む魔法陣は一枚岩のように見え、けれどそこだけが妙に歪んでいる。
 ほんの小さなその歪みは、けれど決定的だった。
「負けて‥‥なるものですかぁっ!」
 雪恵が柚子から分け与えられた霊力とともに光の鎌を具現化させ、迸る力は歪みを切り裂き―― そこに潜んでいた夜魄の影と、その手に輝く赤い宝珠を曝け出した。
『‥‥‥』
 魔法陣を破壊され、霊力の吸収を妨げられたというのに、夜魄の影は微動だにしない。
「?!」
 それどころか、メイド達の霊力だけでなく悪霊たる塊の霊力まで直接赤い宝珠で吸収し始める。
「夜魄にぃ、影が暴走してるんだよ!」
 塊が闇の向こうにいるはずの本当の夜魄に助けを求めて転移する。
 本来、夜魄と同じ能力と思考を持ち得るはずの影は、けれど赤い宝珠による影響でただの木偶と化していた。
 そしてそんな影の隙を見逃すメイド達ではなかった。
「容赦はしませんよ?」
 久我の愛刀が煌き、宝珠の周りに張り巡らされていた結界を切り裂く。
「Checkmate」
 久我の作った結界の隙間にレイが溜め続けたありったけの霊力を撃ち放つ。
 物言わぬ木偶は塵と化し、後には赤い宝玉が残される。
「宝珠‥‥こんな物に一体どんな力が‥‥?」
 残された宝珠を手に、帆乃香はノートパソコンにわかっているデータだけでも打ち込む。
 メイド達の霊力と、天使であるリリエルの霊力。
 そして雪恵の中に眠る死神の霊力。
 その様々な霊力を一瞬にして奪ってゆく力は尋常ではない。
 十分に調査しなくては。
 帆乃香の手に平で、赤い宝珠は沈黙を守り続ける。


●エピローグ
「‥‥クッ!! ‥‥術が破られたか。‥‥負担も大きいが‥‥あいつ等もしばらく動けないだろう‥‥」
 獄霊界の闇の中で、夜魄は舌打ちをする。
 影の暴走さえなければあるいは勝利は彼の手にあったのかもしれない。
 けれど本人ではなく、影に任せたのは彼自身。
「ごめんなんだよ‥‥」
 影の暴走から退避してきた塊は、霊力を消耗し衰弱した兄に詫びる。
 宝珠の力は強大で、本来それは主のみが扱える物。
 到底夜魄一人の霊力で扱える代物ではなかった。
 だからこそ影を作りメイド達の元へ送り込み、自らは獄霊界に残り、そこに満ちる負の霊力を利用して影に送っていたのだ。
「宝珠を奪われたか‥‥だが‥‥このままにしてはおけないな‥‥」
 強大すぎる力を秘めた宝珠は、人間如きに扱えるものではない。
 けれどこのまま放っておけるはずもない。
 破壊か、略奪か。
 時期を見て動く必要があるだろう。
 詫びる妹の頭を優しくなでながら、夜魄は次の算段を練るのだった。