冥土のお仕事☆戦禍衆5アジア・オセアニア

種類 ショート
担当 霜月零
芸能 2Lv以上
獣人 1Lv以上
難度 やや難
報酬 3.7万円
参加人数 10人
サポート 0人
期間 09/27〜10/01

●本文

 ――思い遺したことはなんですか?
 ――行きたかった場所はどこですか?
 ――泣いている人はどこですか?
 ――その願い、その苦しみ、わたくしたちが解決しましょう‥‥。


「最悪‥‥だな‥‥」
 闇の中、黒い宝珠を弄びながら戦禍衆の一人は呟く。
「あれは‥‥人の手に余る代物だというのに‥‥独自の動きを見せ始めたか‥‥」
 闇の向こうに、赤い宝珠の姿が映し出される。
 赤い宝珠は目障りなEHのメイド達に管理され、今は彼女達の張った結界の中に守られているのだ。
 だが、赤い宝珠は元々戦禍衆のもの。
 このままメイド達の手元に保管させ、その影響を受けさせるわけには行かない。
「あれが‥‥全て変質してしまう前に‥‥片をつけねば、な‥‥」
 すぐ側に寄り添っていた戦禍衆が不安げに顔を曇らす。
 彼女にとって、彼はかけがえのない存在なのだ。
 それこそ、赤い宝珠よりも。
 先の戦いで憔悴しきっている彼が宝珠奪還に動き、よい結果を得られるとは到底思えない。
 だから、彼女は大切な人が眠りにつくのを待ってから、行動を開始する。
 ―― 憎きメイド達から、赤き宝珠を取り戻す為に。
「おいで、お前達‥‥」
 艶やかな黒髪を指に絡め、その髪から悪霊を生み出す。
 美しい人の姿をかたどったそれの瞳は闇色に染まり、どこまでも暗い影を落とす。
 次々と自分の手下となる悪霊たちを生み出し、彼女は微笑む。
「おいきなさい‥‥」
 彼女と同じ冷たい微笑みを浮かべ、悪霊たちは頷く。
 あるものはEHの正面から、またあるものはメイドの姿を模し、そしてあるものは事故を起こさせながら、それぞれが意思を持って行動しはじめる‥‥。
   

●今回の参加者

 fa0389 KISARA(19歳・♀・小鳥)
 fa1013 都路帆乃香(24歳・♀・亀)
 fa1170 小鳥遊真白(20歳・♀・鴉)
 fa1420 神楽坂 紫翠(25歳・♂・鴉)
 fa1463 姫乃 唯(15歳・♀・小鳥)
 fa2124 夢想十六夜(18歳・♀・一角獣)
 fa2601 あいり(17歳・♀・竜)
 fa2640 角倉・雨神名(15歳・♀・一角獣)
 fa3393 堀川陽菜(16歳・♀・狐)
 fa4048 梓弓鶴(22歳・♀・犬)

●リプレイ本文

●宝珠
「また、随分と危険な物を手に入れましたな」
 メイド喫茶『Entrance to Heaven』、略してEHののスタッフルームで、店長たる死神は赤い宝珠に顔を曇らす。
「リリエルも、これを見ているととても不安に駆られますの‥‥」
 見習い天使であり、メイドとして働くリリエル(KISARA(fa0389))は不安気に胸を押さえる。 
 先日、EHは悪霊たる戦禍衆による襲撃を受けた。
 メイド達はその霊力を奪われながらも何とか戦禍衆を撃退することに成功し、そしてこの赤い宝珠を手に入れたのだ。
「この力を、戦禍衆がどのように使うつもりなのかは分かりませんが、いつ爆発するか分からない地雷のような物です。他にどんな能力を秘めているのかはまだ調査中ですが、戦禍衆に渡す事が出来ないのだけは確かみたいですね」
 戦禍衆の残した日から赤い宝珠の調査を続けていた帆乃香(都路帆乃香(fa1013))は、愛用のノートパソコンにデータを打ち込みながら眉を潜める。
 先日の戦いでメイド達の力を吸収していたのはこの赤い宝珠に他ならない。
 霊力というものは大なり小なり自然回復力が備わっている。
 使い方を知っている者ならば自分の霊力を他者に分け与えたり、自然回復力を高めたりすることも出来る。
 だから赤い宝珠に奪われたメイド達の力は既に回復しているが、宝珠の中にはあの時奪われたメイド達の力が蓄えられたままなのだ。
(「もし、その力が暴走したら‥‥」)
 咲村柚子(梓弓鶴(fa4048))は自分の想像にぎゅっと肩を抱きしめる。
「結界の強化を」
 店長が死神たる鎌を振るう。
「リリエルにやらせて下さいですの〜」
 店長が行おうとしていた結界作業をリリエルが代わりを願い出る。
「あなたにはまだ早いはずですよ。この結界には、膨大な霊力を消費します。あなたの潜在霊力はわたしでも目を見張るものがありますが、自在に操れない力は信用に値しません」
「お願いしますの〜‥‥これは、リリエルが立派な天使になる試練の一つだと思いますの〜。それに、リリエルには誇れるモノが結界を張れる事しか無いですから‥‥みんなの為にもやり遂げたいんですの。
 ‥‥でないと、胸を張ってみんなの『仲間』だって言えない気がしますの‥‥‥‥」
 まだ力の全てを操りきれない事実を突きつけられ、涙ぐみそうになりながらもリリエルは退かない。
 見習いとはいえ、天使たるリリエルは生身の人間よりも霊力が高いはずなのだ。
 大切な仲間達を守る為にも、頑張りたいのだ。
「ふむ‥‥」
「あたしも結界を張るお手伝いをします。結界を張る能力はあたしにはありませんが、リリエルさんを補助することは可能です」
 深く皺の刻まれた目元を優しく細め、店長は頷く。
「では、あなたたちにお任せしましょう。わたしは、再び冥界に戻らねばなりません。地上での活動時間が限られたわたしが張るよりも、常に側で霊力を注ぐことの出来るあなた方を信頼しましょう」
「ありがとうですの〜」 
 微笑む店長に、リリエルは小さな白い翼をきらめかせて宝珠に結界を張り巡らせる。
 白い翼から舞い散る光の粉が柚子の霊力により強化され、赤い宝珠を金色の結界が包み込む。
「綺麗なものだな‥‥だが‥‥嫌な予感が‥‥する‥‥」
 その様子を黙って見守っていた雪村くれは(夢想十六夜(fa2124))は率直な感想をポツリと呟く。
 普段は決して皆と交わろうとはしない雪村だったが、仲間を大切に思う気持ちは変わらない。
 結界を張ったのがリリエルであるなら、宝珠が戦禍衆の手に渡った場合、その命の保証はない。
 見た目の美しさとは裏腹に、この強固な結界は打ち破られた際の術者へのダメージは途方もない。
(「此れを狙ってくるのであれば‥‥守らなきゃ‥‥」)
 口には出さず、けれど雪村は硬く決意する。
   

●戦禍衆
「無理を、するな‥‥」
 優しく、優しく。
 戦禍衆たる夜魄(神楽坂 紫翠(fa1420))は側に寄り添う鬼珠(神楽坂 紫翠)の髪を撫でる。
 華奢な白い指先から零れ落ちる黒髪は、闇をそのまま凝縮したかのように深い艶をもって流れる。
「でも‥‥」
 自分を気遣う恋人に、鬼珠はその表情を曇らす。
「‥‥優しいおまえに‥‥殺戮は似合わない‥‥」
 喋るのもやっとの状態の衰弱した恋人に、鬼珠の頬を涙が伝う。
 夜魄は自分を優しいというが、それは違う。
 人であった頃、最愛の人を奪われた苦しみから自ら命を絶ち悪霊と化し、愛する人を奪った女はもちろんのこと、愛する人までもその手にかけてしまった自分が優しいはずなどない。
 そして全てを消し去ってもなお苦しみから逃れることが出来ずに現世を彷徨っていた鬼珠を救ったのは夜魄だ。
 あの時、夜魄に見つけてもらえなかったら、悪霊として彷徨い続ける鬼珠はそのうち自我を無くし、ただの悪鬼と成り果てていただろう。
(「あいつらさえ、いなければ‥‥っ」)
 EHのメイド達。
 楽園の下僕共。
「殺るなら手を貸してあげるわ」
 いつの間にか側に来ていた姉の鬼魅(神楽坂 紫翠)が妖艶でいて残忍な笑みを浮かべる。
「姉様‥‥」
「あいつらにはこのあたしに傷を負わせた事を後悔させてあげる。あんたはここに残ってそいつの面倒を見てやりな」
 長い爪をぺろりと舐め、鬼魅は口の端を歪めるのだった。
  

●襲撃
「きゃああっ?!」
「あぶないんだよ!」
 突如として暴走し、納谷橋ちはや(堀川陽菜(fa3393))に突っ込んできた自動車を雨(角倉・雨神名(fa2640))が押し留める。
 パシパシと雨の関節から火花が飛び散った。
「雨ちゃん、身体が壊れちゃうんだよっ!」
 立花音羽(あいり(fa2601))と姫宮 結花(姫乃 唯(fa1463))が駆け寄る。
「このくらいの障害は‥‥平気」
 ちはやに当たる寸前で自動車を食い止めた雨は、苦しげに呟いた。
 その腕は既に折れ、切れたコードが剥き出しになっていた。
「うわ、うわわっ、雨さん?!」
 雨がメイドロボットだという事をまだ知らなかった新人メイドの結花は目の前の出来事に目を白黒させる。
「助けていただいてありがとうございます。でも、やはり雨さんは人ではなかったのですね」
 同じ新人メイドで雨の事をよく知らなかったはずのちはやは、けれど驚くことなく赤い眼鏡を少しずらして雨を見つめる。
 精巧に作られた雨は、ほんの少し口調に抑揚が足りないものの、見た目はほぼ人と同じ。
 けれどすべての霊力が瞳に集中しているちはやには、雨の纏う霊力が人のそれとは明らかに違うことに気づいていたのだ。
「どうしよう、雨さん痛い?! 直せるのかなっ?!」
「大丈夫です。じきに自動修復システムが作動しますです。それよりも、最近の自動車は無人で動くものなのかな?」
 機械音を響かせて自動修復の始まった雨の腕から、みんなの目が止まった自動車に注がれる。
「誰も乗っていないですっ、ふぎゃっ!」
 驚きのあまりよろけた結花は縁石に躓いてコケかける。
「とても強い霊力の残滓を感じます。急いだほうが良いようです」
 皆、ちはやの言葉に頷いて、宝珠の安置されているEHへと急ぐのだった。
 
  
●暴走
「何か‥‥変な霊気を感じる気がするのですけど‥‥よく判らないですの〜」
 結界を張り終え、カウンターでくつろぐリリエルは男装の麗人・真白(小鳥遊真白(fa1170))の淹れたノンアルコール・カクテルに口をつける。
 カルアミルクに近いそれは、真白の霊力も加えられて口当たりが良くまろやかで、リリエルの疲れを癒す。
「疲れが溜まっているのかもしれないな。そうだ、宝珠の解析は進んでいるのか?」
 今日に限って客が一人も入らないことにいささか不審感を感じながら、丁度スタッフルームから出てきた帆乃香にも真白はカクテルを差し出す。
「この宝珠には吸い取った力を別の物に変える力がある‥‥それを使いこなすことさえ出来れば様々な奇跡も起こすことが出来るはずなのですが‥‥」
 カクテルを受け取り、帆乃香は溜息をつく。
 その瞬間、店の窓ガラスが一斉に割れ、あたり一面を悪霊が埋め尽くす!


「さあ、この前の傷の恨み晴らさせてもらうわよ!!」
 ヒステリックな笑い声を上げ、鬼魅は鬼珠の髪から作り出した悪霊たちを操り、結界を張ったことにより霊力の弱まっていたリリエルと柚子に狙いを定めて霊波動を撃ち放つ!
 黒い光の矢が二人を打ち抜こうとしたその瞬間、
「そうはさせないんだよっ!」
 結花が霊力をこめたモップで矢を叩き落とし、ちはや、音羽、雨が鬼魅と仲間の間に割ってはいる。
「間に合いましたね」
 ちはやは冷静に呟き、眼鏡をずらして即座に鬼魅の霊力を探る。
 人であれば心臓に一番霊力は溜まるものだが、悪霊たる鬼魅から強く感じるのは左肩。
 だが皆にその弱点を伝えるより早く、ちはやの身体を悪霊が拘束する。
「ちっ、小賢しいね! お前達に受けた傷、そっくりそのまま返してやるよ!」
 暗黒の矢を次々と打ち放ち、そして自らの意思を持たぬ悪霊たちがメイド達に絡みつき、その身体を蛇の如く締め上げる!
「だめ‥‥これ以上負の霊力を浴びたら‥‥宝珠が危ないですの‥‥っ」
 リリエルが締め上げられながらも自らの正の霊力を宝珠に送り、その結界を維持しようとするが、赤い宝珠は結界から滲みこんでくる鬼魅の霊力に反応し始めていた。
 赤い色が深紅へと深みを増し、金色の結界を内側から破ろうとするかのごとく膨張しだす。
「リリエルさん、あたしの霊力を使って! 全部使い切ってくれて構わない。あたしは持ちこたえてみせます。仲間は誰一人として、欠けさせません!」
 意識を失いかけるリリエルの手を握り締め、柚子は自らを省みずすべての霊力を送り込む。
「愛? 友情? そんなものでこのあたしと殺り合おうっていうの? 笑わせるんじゃないわ!」
 メイド達の苦痛の表情にヒステリックな喜びを見出し、鬼魅は止めとばかりに肩に手を当てる。
 肩とその手の間にみるみる闇が広がり、膨らんでゆく。
「雨さん、肩です! あの人の弱点はあの肩にあります。あなたなら出来るはず‥‥っ」
 眼鏡が床に落ち、その眼鏡になぜか一瞬怯んだ悪霊の隙をついてちはやは雨に鬼魅の弱点を伝える。
「私にはつくられた感情しかないけれど‥‥皆様を守らなくてはいけないということはわかります。あなたを、撃退します!」
 雨の腕が光り輝き、機械で生み出された霊力が漲る。
「ロケットパーンチ!」
 雨の叫びと共に、その片腕が胴体から離れてミサイルの如く鬼魅の肩を貫いた。
「そんな、こんな小娘どもにあたしが?! ‥‥いやよ、消えるのはイヤーーーーーーーっ!」
 肩を打ち抜かれ、自らの闇に鬼魅はゆっくりと飲み込まれてゆく。
「‥‥宝珠を貴方達に渡すわけには、いかないの‥‥渡せば沢山の人が泣く事になるから‥‥でも‥‥」
 拘束が解け、自由になった雪村は心を込めて歌を歌う。
 
 ―― 色鮮やかな花達が、一輪ずつ咲き誇る
              その彩で人魂魅了せりし
 思い秘めしその小さな胸 ふわりとスカート翻す
              花は力を秘めしもの 彩り力を纏い紅を守る――

 ―― 幸せだったあの頃の、光と花を思い出して
              その思い出があなたを守るから
 迷い彷徨うその魂 願う先は楽園
              その願い、その苦しみ、わたしたちが受け止めましょう
 どうか、心安らかに――

 途中から音羽も歌いだし、二人の聖歌はメイド達の傷を癒し、鬼魅の心を穏やかに導く。
「貴方もこの星へとお還り。今なら安らかに眠れるはず‥‥」
「たとえ消えても、心は、想いは、みんな残るんだよ」
 二人の歌に、鬼魅の瞳から邪気が消えてゆく。
「どうして、あたしは悪霊になったのかしら‥‥」
 もう余りにも記憶が遠すぎて、思い出せない。
 けれどそれももうどうでもよいことだった。
 心に、身体に、暖かいものが溢れているから。
 メイド達の見守る中、鬼魅は微笑んで闇と共に消え去った。       
  

「っ、宝珠は?!」
 真白がはっとして宝珠に駆け寄る。
 宝珠は今まさに割れんとしていた。
「このままでは暴走します、もう止められません!」
 帆乃香がパソコンの画面をおびただしく流れる情報量と現実に叫ぶ。
「割れちゃうんなら、割っちゃえ!」
 パニくった結花が宝珠を掴み、えいっと床に叩きつける!
 膨張を続けていた宝珠は叩きつけられた衝撃で結界と混ざり合い、その表面に亀裂を走らす。
「リリエルさんの結界の力と宝珠の力を相殺させましょう!」
 ちはやが叫ぶ。
 皆頷き、リリエルに力を注ぐ。
「リリエルだって、何時までも同じじゃないですの〜っ」
 皆の霊力を受け取り、リリエルがその正の霊力をもって宝珠の負の霊力を中和する。
 
 パリンッ‥‥
 
 赤い宝珠はその暴走を止め、粉々に砕け散るのだった。  
 

●エピローグ
「お疲れさん」
 真白が皆に霊力増強カクテルをつくって振舞う。
 カクテルとはいってもそれは見た目だけのこと。
 アルコールの代わりに霊力が込められたそれは仲間達の疲弊した身体にじんわりと浸透し、疲れを癒してゆく。
「雨にはこれだな」
 ロボットであるがゆえに通常の飲み物は口に出来ない雨に、真白はオレンジ色のカクテルを差し出す。
「これなら雨も飲めるのです♪」
 それは雨を作り出した研究所より支給されたオイルを霊力で加工したものだった。
「お掃除頑張りまーす!」
 いち早く飲み終わった結花はモップを持ってお店のお片づけを頑張るのだった。