ウェスタ・感謝イベントアジア・オセアニア
種類 |
ショート
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担当 |
深紅蒼
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芸能 |
2Lv以上
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獣人 |
フリー
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難度 |
普通
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報酬 |
4.6万円
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参加人数 |
10人
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サポート |
1人
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期間 |
04/15〜04/21
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●本文
美少女変身もののミュージカル『光のウェスタリス』の公演は小中学校の長期休暇を意識した日程となっている。観客の半数は『大きいお友達』と呼ばれる青年達であるが、残りの半数は親子連れだったからだ。それは原作漫画が連載されていた雑誌が小中学生をメインターゲットとしているからだろう。春・夏・冬。1年に3回の公演ここ2年ほどは続いていた。
公演の少し前にファン感謝イベントがある。公演の宣伝目的であるが、新キャストのお披露目や、ゲーム、普段は歌わない歌、質問などここでしか見ることの出来ないモノもある。扇子やカード、シールなどのちょっとしたお土産も観客に配られ、時にはネットオークションに掛かる場合もある。次回は丁度ゴールデンウィーク中に行われるのだが、実は問題が山積している。
敵役『タキタ』を長年務めていた役者が降板を打診してきているのだ。巫女役の中にも自分のブログで降板を思わせる書き込みをする者がいて、ファンサイトや公式サイトの掲示板は騒然となっている。
「実際のところはどうなっているんですか?」
「さぁねぇ。最近プロデューサーも秘密主義みたいでさ、俺等にはなんの情報もないのよ」
スタッフ達にも詳細はわからないらしい。
「でもさ、キャスト候補にとっちゃあチャンスかもしれないね」
「あぁ。タキタは多分‥‥変わるだろうからなぁ」
「まさかこんなことになるなんて‥‥」
アシスタントプロデューサー(AP)の三上あかねはへたり込んだ。古いキャスター付きの椅子がガチャガチャと不快な音をたてる。この時期にキャストの入れ替えなど寝耳に水であった。しかし、なんとかしなくてはどうにもならない。
「‥‥しかたがない。なんとか探さなくっちゃ」
忙しくてずぼらなプロデューサーはあてにならない。自分がなんとかしなくては! とあかねは思った。
●リプレイ本文
●不可能を可能にする呪文
アシスタントプロデューサーの三上あかねの毎日は多忙の一言に尽きる。主な原因は怠惰なプロデューサーの下についているせいだが、人事関係というものは一朝一夕ではなんともならない。当面はただ馬車馬の様に働くしかなく‥‥当面は降板された役をなんとかするしかなかった。
「あの、三上あかねさん‥‥ですよね」
あかねが名を呼ばれたのは都内にあるダンススクール巡りをしている時であった。ミュージカルに踊れない者が出ることはあまりない。余程ネームバリューがある場合以外は踊れる者が抜擢される。振り返ったあかねの視界に入ったのは見たことが女の子だった。ダンスレッスン用らしい服装をしているが、このスタジオで前に会ったことはない。
「タキタ役を探していると聞きました。私を使って貰えませんか?」
自己紹介をした後、霧島 愛理(fa0269)は単刀直入にそう言った。あかねは少し首を傾げ、それから溜め息をつく。
「もう部外者にまで知られちゃっているのね。驚きの速さよね」
ミュージカル『光のウェスタリス』の敵役、タキタの正式な降板はどこにも発表されていない。このぶんでは各方面から売り込みが来るだろう。
「私、私なりのタキタを演ってみたいんです。前に演ってらした方よりは若いけど、クールな部分と内に秘めた情熱を表現出来ると思います」
愛理はあかねに自分をアピールする。良い瞳をしている、とあかねは思った。野心的な瞳だが、この業界で上を目指そうとしない者はいない。
「ウェスタを観たことはあるの?」
「はい」
愛理は即答した。
「わかった。じゃ3日後にここに来て。ダンスと演技を見せて頂戴。話はその後で‥‥」
あかねは自分の名刺の裏に日付と時間、そして稽古場のある場所を記入する。
「わかりました。ありがとうございます」
勢いよく愛理は頭を深く下げた。扉が1枚愛理の前で開かれた。
最寄りの地下鉄駅から小走りで稽古場へやったきたあかねは、扉に辿り着く前に飛び出してきた人物に気が付き立ち止まる。
「お願いします! 私に巫女役をやらせてください! 是非是非やらせてください!」
「こ、こらー! 声が大きいでしょう!」
あかねは焦って低く頭を下げた娘に飛びついた。どこから手に入れたのか、あかねの携帯電話に昨日から頻繁に電話を掛けてくる芸人あずさ&お兄さん(fa2132)であった。
「まだオフレコの話を叫ばない! 俳優さんじゃないにしても、この業界にいたらわかるでしょう?」
降板などとは一言も言っていないのだが、あずさは口答えしなかった。
「すみません。でも、どうしてもどうしても私を女の子として巫女役に使って欲しいです。こう見えても芸人ですから、舞台度胸だってあるし、だからアドリブにも強いし、何より自分をあざといくらい可愛く見せるテクニックもあります!」
自分で言うようにあずさの仕草は可愛らしい。しかしあかねの目に魅力的に映っているかはわからない。ただ、必死に食らいつく姿勢は好ましかった様だ。
「‥‥わかった。そこまで言うなら、ミュージカル俳優として使えるか使えないか見せてもらう‥‥それで納得いくわよね、お互いに」
「はい! ありがとうございます」
あかねは日時を指定した。この日からあずさの特訓が始まった。まずはダンスの基礎を徹底的に仕込まれる。
稽古場では大道寺イザベラ(fa0330)があかねの帰りを待っていた。
「突然で申し訳ありません、責任者の方はいらっしゃいますでしょうか?」
アポイント無しでマネージャーと稽古場を強襲したのだが、生憎責任者と言える者は誰もいなかった。それであかねが戻るまで稽古場の隅で待っていたのだ。
「APの三上です。何か?」
業務用の表情であかねが尋ねるとイザベラは半歩進み出た。
「巫女役が降板したことを聞きました。私を使って貰えませんか?」
「あなたを? 失礼だけどあなたアイドルよね。芝居はね、トップアイドルがなんちゃって映画やドラマに出演するのとは訳が違うのよ」
あかねの口調はやや厳しかった。けれどイザベルは引かない。
「わかってます。ルックスもダンスもお芝居も‥‥自分程度のアイドルなら掃いて捨てるくらいいるのは分かってます。でもあたしはこの役が演りたい。この仕事をしたいんです。この役にかける情熱では誰にも負けません!」
強い瞳の色だった。その目がじっとあかねを見つめる。まだ仄かなながら、イザベルには『何か』あると感じさせるものがある。少なくてもあかねはそう思った。
「自分で台本も作ってみました。ダンスだって演技だって見て貰えるなら今すぐやります」
あかねを見つめたままイザベルは上着を脱ぐ。露出の高い服装なので、目のやり場に困る程あちこち見えている。あかねはクスッと笑った。
「‥‥わかった。あなたの熱意はわかったわ。だから、日を改めて実力を見せて」
「はい! ありがとうございます。頑張ります」
イザベルの顔にぱぁーっと笑顔が浮かんだ。
イザベルが帰った後であかねはもう1人出演希望者を迎える。名前は姫乃 唯(fa1463)。事務所から電話が入っていた娘だ。
「おはようございます、新人アイドルの姫乃 唯です! 宜しくお願いしますっ」
稽古場があるビルの一室、あかねが仕事場にしている部屋に入るなり、唯は型どおりの挨拶をした。ペコリと愛らしく頭を下げる。
「新人さんの挨拶回りならTV局とか雑誌社の方が良いんじゃないの?」
あかねは唯に聞く。
「あの‥‥光のウェスタリスのファン感謝イベントで、人手が足りないって聞いたんです。だから‥‥もし宜しかったら、あたしも何かお手伝いさせて頂けませんか? 雑用でも何でもお手伝いしますっ」
「アイドルに雑用なんてさせられないわ。当たり前じゃない」
「いえ、本当になんでも良いから使って欲しいんです。それで、あたしの歌を聞いて欲しいんです。もし公演時間に余裕があったらあたしの歌を‥‥」
「ストップ」
あかねは唯の言葉を遮った。
「それは出来ない。だからそれ以上は聞かないわ」
「‥‥えっ」
唯の表情が暗くなる。
「芝居のイベントに来てくれるのは芝居が好きな人だから、関係ない歌に割く時間は取れない。まったく‥‥新人さんだからって事務所は何を期待して寄越しちゃってるのかな? えっと、どこだっけ事務所」
あかねは携帯を取り出す。
「いえ! あの! 本当は雑用でいいんです!」
唯は必死だった。
「こんにちわ〜あれ? お客様ですか?」
扉を開けてた麻倉 千尋(fa1406)はあかねと唯を交互に見つめる。
「あら? 久しぶり」
「お久しぶりです。人手が足りなくなってるって聞きました。また今回もお手伝いに来ちゃいました。よろしくお願いします」
千尋はニッコリと笑う。
「強引だなぁ。あんまり変わってないかと思ったけど、ちょっと業界慣れしてきたんじゃないの?」
「そんなことないです。半年間仕事は頑張ってきましたけど、お芝居もダンスまだまだですよ」
千尋は屈託のない笑顔を浮かべる。小さな仕事も多かったけれど、そのどれもが千尋のかけがえのない『経験値』となっていると思う。
「しょうがないな。2人とも‥‥じゃあテスト受けてみる?」
あかねは唯と千尋を交互に見つめ、イタズラっぽく笑った。
●希望という名の呪縛
ウェスタの初演からの役者が降板することは公然の秘密であった。正式な発表があったわけではないのだが、新しい動きはもう既に始まっていた。
「本当に降板しちゃうのかなぁ‥‥ずっと楽しみにしてきた人もいると思うと、なんだか残念」
この情報を聞いた時の、それが一角 砂凪(fa0213)の感想だった。人が足りなくて困っているというのなら、どんな手伝いでもしたいと思う。半年前にも少しだけ係わった舞台だから、少なからず思い入れがあるのかもしれない。
「やっぱり巫女の役をしてみたいって思うよね。機会があったら、お手伝いしたいって気持ちを伝えたいな」
エリア・スチール(fa0494)もウェスタのキャスト降板という情報を聞きつけた。出来れば巫女の役をやってみたい。けれど、どう行動すれば良いのか考えがまとまらない。巫女役の演技にしてもだ。
「清楚で大人しいイメージで演ってみたいのですが‥‥わたくし、どうしたら良いのでしょう?」
思いを表現してぶつけてみたいという気持ちは高まるが‥‥。
大曽根カノン(fa1431)は巫女役リベンジ組であった。今度こそはと思う。けれど、降板の噂はすぐ広まったのに、オーディションなどの情報は一切流れてこない。
「巫女っていうからには信心深い人だと思うのよね。僕はそれほど神様を信じている方じゃないかもしれないけど、清楚な部分と鬼気迫る部分を演じ分けられたら‥‥いいなぁ」
どちらかといえば、カノンはダンスよりも演技が得意であった。だから、演技力をアピールできたら良いと思う。年齢なんか演技でカバーするつもりであった。
緑川メグミ(fa1718)はタキタ役に焦点を絞っていた。主役は巫女かもしれないが、舞台の成功には敵役の比重も大きい。メグミにとってタキタは魅力的な役であった。自分なりの演技方針もある。役者変更で一時は人気が低迷するかもしれないが、新たなファンを開拓できるという希望もある。その辺りを強くプロデューサーにアピールしたかった。
「ウェスタのプロデューサーの方に会いたいの? ムリじゃない?」
「あのミュージカルのプロデューサーって滅多に顔を見せないんだって」
「あぁ、だからPAの三上さんが人の3倍働いているんだよね。気の毒〜」
「おいおい、三上さんが聞いたらキレるぞ」
「三上さんなら奔走してるからどっかで網張ってれば逢えると思うよ」
ダンスをしていると何もかも忘れてしまう。いつもの柔軟運動から短い練習曲までをこなすと、知らない間に1時間ほど過ぎていた。鶴舞千早(fa3158)はタオルで額の汗を拭く。最近、ミュージカルで役を降板した人がいるという。もし、自分だったらどんな風にその役を演るだろう。
「巫女の役ってどんななのかな? あたいにも出来ちゃったりするモノなのかな?」
踊ることが楽しい。けれど、踊る事と演技する事が求められるミュージカルって、そして巫女役をするってどんな気持ちなんだろう。
「へこたれたりしないから、演らせてくれないかな〜」
僅かな希望は情熱となり、この業界で生きる糧となる。千早は練習を再開した。
あかねは自分の目で判断した。巫女役、タキタ役とも該当する者はいなかったが、敵の配下としてあずさ、愛理、イザベラを名前のある役付として抜擢した。千尋と唯は敵にさらわれる役とした。
「これからよろしくね」
まだまだ問題は山積だが、GWの感謝祭は開催出来そうであった。