劇団ホワイトウェハースアジア・オセアニア
種類 |
ショート
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担当 |
深紅蒼
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芸能 |
フリー
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獣人 |
フリー
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難度 |
難しい
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報酬 |
1.3万円
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参加人数 |
8人
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サポート |
0人
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期間 |
11/08〜11/12
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●本文
●例えばこんな企画はいかが?
メジャーというわけではないが、演劇好きには注目されるつつある『劇団ホワイトウェハース』。ここでは主催の望田重明(40歳)が主に脚本と演出を担当しているのだが、古参の役者にそれらを手伝わせる事もある。そろそろ新しい風を入れるつもりなのだと言うのだが、実際は雑用程度をさせられるだけで後進を育てようと思っているとは到底思えない。しかし、数年前にこの劇団からTVに大抜擢された役者もいるし、なによりここならとりあえず食っていける。役者もスタッフ達も、望田に惚れ込んでいるわけではないが、辞めるつもりもないのであった。
「そろそろさ、あの企画またやらない?」
パソコンの前で伸びをした望田は近くにいた林田誠(28歳・古参の役者)に言う。
「あれ、金かかりますよ?」
「いいじゃん。その分ちょっとチケット高くすれば。売れンじゃない、それでも。オレなんか疲れちゃったんだよね。ここらで変わったことしたいじゃん」
望田は脳天気につぶやく。
「……あのですね望田さん。そもそもホンがないじゃないですか?」
定期公演の脚本が仕上がる期日は10日も前に過ぎている。この世界じゃ『脚本が当日まであがってこない』なんて恐ろしい話も多々あるし、それで公演が中止になることもないわけじゃない。
「ホンはさ、公募しない? うちの奴らや‥‥その知り合いでもいいや。数集めればそれなりに良いのが来るかもしれないじゃん。ね、決まり!」
「望田さ〜ん」
林田は深い溜め息をつく。経理に相談しなきゃ予算だって組めないだろうし、こんな適当に決めて良い話ではない。
「時期的に‥‥クリスマス企画でいいな。選り好みしなきゃハコ(芝居をする場所)もなんとか押さえられるだろう。観客巻き込み参加型の芝居。こりゃ楽しくなりそうじゃん」
望田は嬉しそうに言った。
●リプレイ本文
●プレゼンテーション
審査員席というほど仰々しい席は元から作られていなかった。会議用の長テーブルと、折り畳み式の椅子が5つほど並べられている。そのど真ん中に望田重明がいた。劇団ホワイトウェハースの主催であり、座付き脚本家兼演出家である。つまり、独裁者と言っても良い人物だ。さすがに望田一人というのはアレだと思ったのか、古くから劇団に所属している林田誠が隣に座っている。
「じゃ始めてよっか。他に来る審査員もいないだろうしね」
皆忙しく働いているのだ。望田の道楽に付き合う者は普通はいない。
「そうですね。よろしく〜」
林田は劇団の新人に声を掛ける。新人が進行役らしい。
「じゃ最初の人から連れてきます〜」
新人は開け放した扉から姿を消し、変わりに翠漣(fa0003)が入ってきた。
「可愛いね、キミ」
「望田さん!」
ニコニコしっぱなしの望田の軽口に林田が低く制止の声を出す。一礼した翠漣はクリスマス公演についてのアイデアを語り始めた。
「この時期ですから屋外は無理だと思いました。寒いですから。それで、ダンスパーティの会場を舞台としたものはどうかと思いました」
「ダンスね〜」
「はい」
翠漣は1つうなずく。
「お客様にもダンスを踊っていただいて、それから主演の男性と女性が愛を誓い合うなんてどうでしょう。まぁ‥‥踊りに集中してしまうと芝居を見るのが難しくなってしまうかもしれませんが‥‥」
「う〜ん、そうだねぇ」
次に入ってきたのは姉川小紅(fa0262)だった。
「レストランを舞台にした芝居を提案します。食事込みの値段ならチケットはちょっと高めでも良いと思うんです。そこで待ち合わせをしている女性に男性2人がアタックするというちょっとコメディが入ったラブストーリーです」
女優をしているという小紅は緊張した様子もなくアイデアを語る。
「で? 観客はどうするの?」
「レストランの客の役です。それで、2人の男性達はどちらが女性に相応しいか、客に同意を得ようとアピールするんです」
「ふ〜ん。で、客の反応でどっちか決めちゃうの?」
望田が聞くと小紅はうなずいた。
「ご明察です」
「なかなか良いねぇ」
3番目はクルティア・ディット(fa0344)であった。外見は可愛らしい子供然としているが、その瞳は妙に大人びている。
「わしが考えたのはサンタクロースのお話じゃ。クリスマスらしかろう。で、袋を落としてしまったんじゃ。願えばなんでも手に入る袋じゃが、大人が使うと3度で破裂してしまう。その前に取り戻せるかどうか、というのが話の筋じゃ」
「ほ、ほほぉ〜」
見た目と口調のギャップに望田もちょっとペースが掴めないようだ。
「まぁコメディじゃな。袋を拾うのは酔っぱらいと学生。で、最後の婚約者達が良い願いをして袋はサンタクロースに返されるのじゃ」
「観客の扱いはどうするの?」
「戻った袋をまた落としてなぁ。今度は客に拾って貰って、ケーキか何かと交換で返却して貰うんじゃよ」
「う〜ん、客の扱いがちょっと弱いかなぁ」
4番目は宇賀 霞(fa0713)だった。
「へーいつもは舞監なの?」
「そうだ」
霞はニコッと笑ってアイデアの説明を始める。
「父親が子供に絵本を読んでいるんだが、マンション住まいの子供がうちには煙突がないからサンタが来ないと言い始め、実はその問題はサンタの国でも話題になっているのだと父親が言うんだ。そこで暗転して場面が変わり、サンタの国での議論を‥‥これを観客も参加しての問答劇にしようかと思ってる」
霞にもやはり外見と口調のギャップがある。
「客が答えるの? それとも質問するの?」
「質問するのは役者だ。じゃないと誘導できないからな。アドリブで客の答えを引き出して上手く結末に持っていく。結末は新米サンタがここから入るという予告のカードをばらまこうと提案して終わる」
「う〜ん。まぁ客次第と言うことだから、アブナイ橋ではあるね〜」
5番目は笹木 詠子(fa0921)であった。
「人が集まると言うことの理由付けから考えたの。1つはディナーショー殺人事件。もう1つはレストランに強盗が入って立て籠もる。客はどちらの場合もレストランのお客さん。これなら不自然じゃないと思うの」
「そうだね〜いいんじゃない?」
熱意の籠もらない言い方だが、望田に褒められて詠子はパァっと微笑む。
「ディナーショーならこちらの劇団の看板役者さんのディナーショーということにして、テーブルを廻っていたその役者さんが死んじゃうの。その犯人をお客さんが推理するの。立て籠もりなら、警官役の役者が客に紛れていて‥‥って感じ」
「う〜ん。どっちもなかなかいいんじゃい。あらかた食事が終わった後に芝居を始めれば良いんだしねぇ〜」
6番目に入ってきたのは御神村小夜(fa1291)であった。プロデューサーなのだから、企画を立てる事には慣れている筈だ。
「ピエロのお話です」
小夜は話を続ける。
「場面は冬の街角です。辛い境遇の少女を励ますピエロのお話なのですが、稚拙な芸で皆に笑われているピエロが、それでも最後まで芸をし続ける。それを毎日見ているうちに暗く希望もない少女が少しずつ変わり始めていく。そしてピエロは実は見習いのサンタで、クリスマスが終わると街を去っていく‥‥というストーリーです」
小夜は一気に語り、それから息を整える。
「観客はどう処理する?」
望田が尋ねる。
「ピエロの稚拙な芸を見る観客役です」
「ただ見てるだけかぁ。まぁ悪くはないけどねぇ」
5番目は谷渡初音(fa1628)であった。
「舞台は大学の講義なんかで使うひな壇型の講堂を希望。設定は遠い未来よ」
「ほぉ。未来モノは初めてだね」
望田は林田に言う。
「そこでは秘密でだけど、幸福も命もエリート集団であるサンタクロースが操作出来て、年に一度の奇跡が子供のランクに応じて送られる。これをあるサンタが担当の子供に漏らしてしまう。子供は最低の奇跡を授かり死にそうな妹の為にこの会議場にやってくる。死を撤回しろってね」
「ふ〜ん。で、客もサンタ?」
「そうよ。安く売っている紙のサンタ帽かなんかを入り口で配って被って貰うの」
「なるほどね。講堂ってのは珍しいハコだね」
「えぇ。正面にスクリーンがあるから映像なんかも使えるし、いいと思うの」
望田は何かを考える様子だ。
最後は山田夏侯惇(fa1780)であった。
「えー会場は世界中のパティシエが集まるコンクール会場です。で、役者には様々な思いを秘めてコンクールに参加したパティシエを演じて貰い、お客様には審査員になっていただくのです」
「ふ〜ん。ケーキはどうするの?」
「近場のケーキショップとタイアップしてはどうかと思います。店の宣伝にもなりますからね。芝居ではパティシエ達の経緯を語り、どうしてコンクールに参加することになったのかを語るです。で、お客様が最も指示をしたケーキによって勝者が決まり、各人物の後日談が語られ、舞台は終了‥‥なんです」
「面白いね。良いんじゃない。毎回結末がちょこっとだけ違うなんて、楽しそう」
「ケーキが食べたいだけじゃないんですか? それに‥‥役者は大変ですよ」
ぼそっと林田が言った。
全ての企画が披露され、望田と林田が話し合う。形の上ではそうだが、事実は望田の独断である。
「コレがいいんじゃない。ケーキ職人の。それからさ、ディナーショーも良かったよね。いっそ、殺人犯がわかったら立て籠もりでも良いんじゃない?」
「‥‥は、はぁ」
「じゃさ、さっそくあの2人に連絡してよ。早速企画を進めるからってさ」
「二つもですか?」
望田の講堂はいつも突飛だが、さすがに今回は林田も思わず聞き返す。
「なんとかなるって。平気、平気」
ヒラヒラと手を振る望田に林田はめまいを通り越して、気が遠くなりそうだった。クリスマスまで時間はほとんど無かったからだ。