アイオン・最後の敵アジア・オセアニア
種類 |
ショート
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担当 |
深紅蒼
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芸能 |
2Lv以上
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獣人 |
フリー
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難度 |
普通
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報酬 |
3.4万円
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参加人数 |
10人
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サポート |
0人
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期間 |
01/22〜01/27
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●本文
TOMITVで放映中の『超時戦記・アイオン』は分類的に言えば特撮ヒーロー物である。先史人類ムーの遺産を受け継ぎ変身する若者3人が、太古の地球からゲートを越えてやってくる敵ジャドゥと戦う、というものだ。最終回は3回続き物の予定だが、内容の最終決定はまだなされていない。
「敵のボスがこう2段変形? とかって思うんだけど造形がイマイチねぇ」
監督はぼやく。時間もないが金もない。ぶっちゃけて言えば、もうフィルム撮りは終わってなければいけない筈なのだ。
「監督、それよりボス役なんじゃないですか? 今までやってた子、海外に逃げちゃったじゃないですか」
「そうなんだよねぇ」
助監督の指摘に監督は心なしか視線を落とす。去年までボス役をやっていた俳優は『修行したい』と言い残して渡米してしまった。契約問題とか色々あるが、現場はそれよりも人を補充しなくてはならない。
「凄い脚本家が現れて3回分のシノプスと、お薦めのボス役と、その演出プラン‥‥全部ひっくるめて持ってきてくれないかなぁ」
「‥‥監督。それは俺が子供の頃に読んだ童話の中ぐらいにしか現れないですよ。ほら、現実逃避なんかしてないで仕事しましょう。せめて今日の撮影分ぐらいやっておかないと、うるさく言う人が現場に来ちゃいます」
「そうだな。じゃ、あと5分で休憩終わりって伝えてきてくれ」
「わかりました」
助監督は走り去る。監督は気に入りの帽子を取り、頭をくしゃくしゃとかきむしると、また無造作に帽子を被った。
そして監督のつぶやきはその場に残っていたスタッフなどから少しずつ漏れてゆくのであった。
●リプレイ本文
「敵の新キャラが7人は厳しくない?」
「監督、なんでそう我が侭言うんですか。この間は全部ひっくるめて持ってきてくれたらってぼやいていたくせに」
噂は噂を呼び、最終3話のシナプスだけでなく、俳優陣まで取り揃って現場に現れた。けれど監督の表情は冴えない。ケイ・蛇原(fa0179)が示した、桐生董也(fa2764)の脚本とケイ自身が書いたコンテを見て、相変わらず首を捻っている。御神村小夜(fa1291)の書いた新キャラ衣装案は、まだじっくりと見る段階でもない。
「1人か2人、ヒーロー側の人間でも良かったかなぁ」
「途中で寝返る役が1人いますよ」
ケイが新キャラの解説部分で止まっている監督に、桐生が書いた脚本の展開を示している。彼らが来たときも、助監督が『時間がない』と叫んでいたのだ。ここで採用されなかったら、関係者の誰かが倒れるだろう。
ケイの背後で、小夜は口を挟まず、じっと監督の様子を窺っている。反面、桐生は『何でも言ってみろ』と言わんばかりの態度だ。
「前のボスだって鱗模様だったし、恐竜系の外見はありでしょ」
切羽詰った助監督の推しもあり、提示した基本路線は了解された。ただし、細部には随分と変更が入り、おかげで桐生は脚本の手直しに追われている。
「従姉妹が妹に変更だが、台詞はそのままでいいか。武器が‥‥」
スポンサーの意向で、ジャドゥのメンバーが死ぬときは光に包まれて消える。また剣はヒーロー側が使っているので、使用する武器はそれ以外にすること。細かい指定は他にも色々あったが、その変更に桐生が取り組めたのはケイが的確に監督や古参スタッフと意見調整を重ねたからだ。
小夜が案を書いた衣装も、作成に充てられる時間が限られているので、いわゆる戦闘員のものからパーツを取って使い回しだ。足りない部分は急ぎ発注するが、この関係書類は小夜が書く羽目になった。ラフ画は専門のスタッフが描いたが、アップした後に小夜が自分の手際を暗く反省しているのも、ケイが慰めていた。
もちろん、俳優陣に様々な変更点など知らせるのも、ケイの役目である。
最終的な配役は、ラスボスのルー・ジャドゥ王が水守竜壬(fa0104)、妹のナセラ王女に蘇我・町子(fa1785)、将軍『非のザンシア』西園寺 紫(fa2102)、王のガーディアン、イオスがT3(fa2577)、シスが天深・菜月(fa0369)、ガーディアンにしてムーの生き残りの姉弟、妖狐サキに辻 操(fa2564)、漆黒のリーンが勇姫 凛(fa1473)と、当初案通りに新キャラ7名。菜月は、以前のボス役の代役もワンカット努める。
「リーン! ローラーブレードは隠せと言っただろうが!」
「監督、ローラースケートって言わなくなったね」
撮影に目処がついて、いつもの調子を取り戻したらしい監督が、勇姫を怒鳴りつけたところで撮影が開始された。
シーン ジャドゥ神殿ゲート前
周囲を飾り立てられたゲートが黒く輝き、するりと影が抜き立つ。影が傍らに立ってから、ようやく神官がそれに気付いた。
「だめだなぁ、そんなに鈍くっちゃ」
「ザンシア将軍っ、まさか!」
「君みたいに、いつまでも役目が果たせない神官は、もういらないって」
逃げようとする神官の背に、ザンシアが掌から黒い弾を放つ。それは天井まで上がって、そこで幾つもに分裂して神官へと降り注ぐ。弾かれ、床に倒れた後に光となって消える神官。
またゲートが輝き、ザンシアが跪くのと同時に、ゲートの中からルー・ジャドゥをはじめとするガーディアン達が姿を見せる。
「これが、新たなる我らの地か」
シーン アイオンとの接触・シス、サキ
翔、剛の制止を聞かずに海岸へと飛び出す。待ち受けるシス、サキを見付ける。
「何度来ても、この地球は我々のものだ!」
ムーの剣を手に言う翔に、サキが冷たく返す。
「思い上がるな。元はといえば、我らの星ではないか」
「除きなさい、サキ」
シス、サキの脇を掠めるように、炎のエンジュ、氷のヒョウジュを翔に放つ。魔法弾の威力に下がる翔。
そこに追いついた剛が、剣風でシスを攻撃。剣風を受けたシスの腕からは、青い血が流れる。サキ、ペンダントに祈りを込めて、その傷を癒す。
「まて、その力はまさか!」
引き留める翔の声を振り切り、ガーディアンは姿を消す。
シーン アイオンとの接触・ルー、イオス、ナセラ
ムーの剣をかざす櫂に、ローブの裾を払ったナセラが問いかける。
「過去の力を乱用して、地球を傷付けているのはお前達。いいえ、その剣がなくとも、お前達は破壊しか出来ない生き物なのです」
「貴様らは違うとでも?」
「ひ弱な民よ。素直に従うなら、我の元で未来を得させてやったところだが、貴様にその資格はないな。イオス」
ルーの命令に、イオスが無言で櫂に躍り掛かる。篭手を着けた拳の一撃を、剣で受ける櫂。激しく位置を変え、戦う2人。
櫂、ほくそ笑むナセラの姿を目に留める。
「よそ見とは、余裕か?」
ルーの哄笑と共に、イオスの一撃を喰らって倒れ付す櫂。
シーン ジャドゥ神殿
アイオンについての報告を受け、跪くガーディアン達の中から、ルーがサキとリーンを呼ぶ。無表情に顔を上げる二人。
「奴らの持っている剣の力は、どのようなものだ?」
「ひとつは風の刃を放ち、ひとつはいかなる鎧も突き通します」
「最後のひとつ、おそらくは火山の力を操る技術の結晶。しかし奴らが使いこなせているとは思えません」
玉座に座るルーの持つ杖に、ナセラが手を置いて言う。
「お兄様、火山を操る力があれば、我らの時代は救われます」
ルー、杖で床を叩き、リーンに命じる。
「その剣、奪って来い」
シーン アイオンとリーンの共鳴
剣の力を解放した剛の攻撃を身軽に避けるリーン。
「君達は邪魔なんだ。僕達がムーに帰るために‥‥喰らえ、ダークダッシャー」
黒い光を纏って高速で進み、翔の剣を奪おうとするリーン。剣に触れた途端に、翔とリーンから蒼い光が放たれる。目を覆い、苦しみだすリーン。
「この光は、ムーの力‥‥お前は一体」
アイオン3人の手の甲から、ムーの紋章が浮かぶ。顔を上げたリーンの額にも同じ紋章が。
「なぜだ、なぜジャドゥのガーディアンにその紋章が!」
「待て、翔。まさかこのガーディアンは、ムーの生き残り‥‥」
リーン、額を隠してその場から走り去る。
「違う。僕はジャドゥのガーディアン、リーンだ!」
シーン ガーディアン・シスの最後
裏切ったリーンを襲うシス。リーンはシスの攻撃を受けて、負傷している。
「ムーの生き残りだと思って甘くしてやれば、主様を裏切るとは。ここで死んで、その宝玉の力を我らに寄越しなさい」
リーンの額にムーの紋章。その紋章をシスが踏みつけようとしたとき、アイオン3人が駆けつける。
「そいつを放せ。仲間割れはみっともないな」
翔に言われて、にやりと笑うシス。
「仲間割れ? お前達の仲間は、我らの敵でしょう。ほら、動いたら仲間が痛い思いをしますよ」
リーンにエンジュを放つシス。ペンダントを奪おうとしたところで、背後から近寄った剛の剣風に弾かれる。翔と櫂、リーンを助け起こす。
「ガーディアンは、魔力を放つまでに動けない時間が、0.05秒‥‥」
「この、裏切り者め!」
ヒョウジュを放つがかわされ、次の攻撃に移る前に剣の力を解放したアイオンの攻撃を次々と受けて、倒れていくシス。最後の力を振り絞って、絶叫。
「主様、我らの時代を!」
シーン サキとザンシアの最後
アイオン、ジャドゥ神殿に迫る。直前で待ち構えていたサキと戦闘。本来の妖狐の姿を取り戻したサキに苦戦する。
「弟の仇、かみ殺してくれよう」
櫂を押し倒したサキが、首に喰らいつこうとした瞬間、リーンの声が割って入る。
「姉さん、その人達は仇じゃない!」
はっとして顔を上げるサキ。神殿へと向かって走ってくるリーンの姿が見える。サキの姿が人間へと戻り、額にムーの紋章が浮かんでは消える。
「君もムーの生き残りか? どうしてジャドゥに味方する?」
「うるさい‥‥貴様らに何が分かる」
よろよろと立ち上がったサキ、神殿に駆け戻ろうとして、現れたザンシアに気付く。ザンシア、冷酷な笑みを浮かべて、すでに黒の魔法弾を手に浮かべている。
「裏切り者は、粛清だよね。リーンもサキも、もういらないよ。アイオンと一緒に滅んじゃえ!」
黒の魔法弾、発射。同時にリーン目掛けて走る翔。サキは瞬間転移。魔法弾、翔、サキ、櫂、剛に命中。リーンは翔とサキに庇われて無事だが、サキはペンダントを掲げて、祈りの力を発動。
癒しの光が消えたとき、無傷のアイオンとリーンがその場に残っている。翔の剣の柄に、サキのペンダントの宝珠がはまる。
「サキまで裏切るなんてね。でも、もう死んじゃったから、誰も癒してくれないよ。面倒だから、まとめて掛かってきなさい。殺してあげるから」
ザンシアの放った魔法弾、剛の剣風に相殺される。翔が白く輝き始めた剣を持って、ゆっくりと神殿へと進み始める。
「なんで、死の魔弾が!」
「黙れぇっ!」
翔の剣から、炎が伸びてザンシアを飲み込む。リーンがそれを見て呟く。
「マグマを操る剣が目覚めた」
シーン ジャドゥ神殿崩壊
地盤が揺れている神殿内で、イオスがアイオンの3人を相手に素手で戦っている。櫂と剛が連携して攻めるが、イオスは神殿の先へは進ませない。
神殿の玉座では、ルーが最終形態に変身中。
「あのようなひ弱な民に倒されるわけには行かないのだ」
頭を下げるナセラ、また妖しげな笑み。
イオス、翔の攻撃を受けて、神殿奥へと吹き飛ばれ、突然動きが鈍くなる。それでも玉座の前で、戦う体勢。
竜身に変じたルー、玉座から立ち上がる。ナセラ、背後で杖をもって控える。
「ここまで辿り着いて、あと一歩と思っていよう。だがその一歩は、死への一歩だ」
「今は俺達の時代だ。けして貴様らには渡さん」
「翔、他の奴らは任せろ」
「お前のノルマはその親玉だ」
剛、イオスに攻撃。イオスは籠手で受けるが、動きに精彩がない。剛の攻撃の前に、明らかに押されていて、かろうじて持ちこたえている。
櫂、ナセラの持つ杖を折ろうと剣を向けるが、ナセラがゲートに逃げるそぶりを見せるので、ゲートの前に立ちはだかる。ナセラと睨み合い。
翔、ルーに躍り掛かるが、黒い光の息を浴びて圧し戻される。次の息は、剣で分断するも、力が拮抗。前には進めない。ルー、哄笑。
「見たことか。ムーの遺産を、お前達は使いこなすことも出来ん。我にそれを寄越せ。そうすれば、お前達以外の人間は残してやっても良いのだぞ」
「何度でも言う。今は俺達の時代だ!」
翔、叫びと共に黒の息を消失させる。剣が炎を上げ、徐々に全身を包んでいく。ルー、黒の息を吐くが届かず、杖を求めて振り返るも、ナセラは壁際に下がって杖を抱えている。
「ナセラ!」
「あの剣が目覚めたら、鎮めるためには敵を倒すことが必要だそうですわ。さもなければ、剣の力が暴走して、この星を飲み込んでしまうとサキが。ですからお兄様、この星のために、その命、捧げてくださいますわね?」
「ナセラ、何故、だ?」
ナセラの持つ杖から、黒いもやが現れ、ルー、櫂、剛、イオスを戒める。ナセラ、翔を手招くようにしながら言う。
「さあ、自分の剣を支配できない愚か者。お前も剣に食われてしまうがいいわ」
翔、もやに引きずられようとするのに抵抗、剣を握りなおして叫ぶ。
「ムーの遺産は、星を滅ぼすものなんかじゃない! 俺は、この剣を使って‥‥そのゲートを閉じるんだ! 力を貸せ、剛っ、櫂っ」
「言われなくても」
「お前って、ほんとに勝手」
ナセラ、杖を振るってもやを操るが、ムーの剣の光が徐々に勝る。同時に翔の剣の炎が小さくなり、刀身のみに。
「二度と、この時代に現れるな!」
翔の剣の炎、ルーとイオスに向かう。ルー、イオスを突き飛ばして、1人で炎を浴び、光になって消える。神殿の各所が崩れ始める。
翔、剛、櫂は足元をよろめかせながら、ナセラを取り囲もうとする。その動きが鈍いことに乗じたナセラ、包囲を破って飛び出そうとするが、イオスに腕を掴まれる。
「お放し、イオスっ。王女のわたしのいうことが聞けないの!」
「わが主は、ルー・ジャドゥのみなれば‥‥」
イオス、ナセラを抱えてゲートに飛び込む。振り返りざま、翔にひとつ頷いてみせる。
「ゲートは、閉じる」
翔、剣を振りかぶり、ゲート目掛けて振り下ろす。
まだ特殊処理が済んでいない映像を見たケイは、熱心に拍手をした。隣でT3が、紫と話しているのは、自分達の演技のことだ。
「台詞が聞き取りにくくないだろうか」
「いえ、あの声がいいと思います。私、あちこち裏声になってしまって」
その会話に笑ったのは勇姫と操の2人。
「ザンシアとは別人みたい」
そういう2人も、相当別人だ。そしてなにより、
「このお茶に毒なんか仕込んでないか、ナセア。町子の毒なら飲んでもいいが」
「どんな毒よ。もー、メイクさんにも口説き文句言ってたでしょ」
水守と町子の会話は、撮影のときの様子をすっかり忘れないと耳がおかしくなかったかと思う。もちろん町子の茶は毒入りではなく、普通に美味しかった。
「あの台詞はもうちょっと長くても良かったな」
「こういう動きのときは、もう二、三秒あると動きが映えたかもしれません」
桐生は細かいところのチェックに余念がなく、菜月はアクションの間合いの説明などしている。
「監督さんが、差し入れどうぞって」
撮影が終わって心底安堵した様子の小夜が、そう言って菓子折りを示した。
アイオンの放映は、この春先に終わる。
(代筆:龍河流)