怪像ガーゴイルアジア・オセアニア

種類 ショート
担当 塩田多弾砲
芸能 1Lv以上
獣人 1Lv以上
難度 普通
報酬 0.8万円
参加人数 8人
サポート 0人
期間 04/16〜04/19

●本文

「ダーク・ラビリンス 吸血探偵ファイル セカンドシーズン」
 この番組も、いろいろあったが何とか無事に製作され、放送された。が、やはり全13話は短い。すぐに番組も後半戦を迎えようとしていた。
 平たく言えば、放送終了が近づいていたわけだ。
 が、プロデューサーと局の製作担当は欲目を出し始めた。セカンドシーズンは結構な人気が出たため、視聴率も(前回に比べ)結構良い。評判だって悪くないし、セカンドシーズンにつられてファーストシーズンのDVDセットも売れ行きは倍増していた。
 で、視聴者からのアンケートでは「もっと続けて」という声多し。
「よし、全26話製作しよう。現在7話まで放送してるが、あと13話付け足せばオッケー」
 かくして、特番をはさんだ二週間の後、延長分の放送が決定した。

 しかし、コトはそう単純にいかないのが世の常。
 来週に蟷螂男が登場する8話「死を呼ぶ双刃」が放送されることになっているが、10〜13話は最終回用に書き下ろされた、一続きの物語。
 つまり、9話以降には最終回23〜26話まで使えないと言う事。
 つまり、5週間分の余裕があると見た彼らであったが、すぐに9話を仕上げないとまずい事になったわけだ。
 本編の監督、役者、スタッフたちには、スケジュールや契約の更新をもちかけ、なんとか都合が取れそることに。が、監督たちは「延長した分は、10話以降でないと本格的に参加できない」とのコトだった。
 本編の役者たちも、急な話に関わらずなんとかOKが取れた。が、それでも余裕があるわけでなく、クライマックスシーンは以前の通りに、「スタントマンが演じ、それをアテレコ」という事に。
 短絡的で軽率なプロデューサーらは、シナリオライターをせっつかせ、なんとか一本のシナリオをアップ。それをもとに本編の撮影を急がせた。
 
「‥‥まあ、そういうわけで。『ダーク・ラビリンス 吸血探偵ファイル セカンドシーズン』の第9話「怪像ガーゴイル」をとっとと撮影しなくちゃならなくなったわけだ」
 喫茶店にて、プロデューサーは懇意にしているエージェントに話を持ちかけていた。
「で、いつもどおりクライマックスシーンのスタントマンとスタッフを募集、か。一つ言わせろ、馬鹿だろお前ら」
 呆れ顔で、エージェントはコーヒーを喉に流し込んだ。
「ったく、延長するのはいいが、もうちょいと考えてからやれよ。欲ばっかりかいてたら、かえって損するだけだぜ」
「そんな事言ってもだなあ、なんか今期は調子がいいんだよー。この調子の良さをもうちょいとばかし継続させたいと思うのは、プロデューサーや製作者としては当たり前の感情だろ? な? な?」
「っつーか、お前の調子の良さが何とかならんか。ま、お前には借りがあるし、これまでもバカな事を要求されて、バカバカしいことを強要されもした。今更こんなバカな事をニ・三上積みされたところで、驚きもしないがな」
「バカバカ言わないでくれよ、俺とお前の仲じゃあないか」
「あーわかったわかった。で? 今回欲しい人材はどんなんだ?」

「怪像ガーゴイル」
 遠縁の親戚から、とある屋敷を相続した男性。しかし屋敷には、かつて人が次々に殺されたという悪い噂が立っていた。
 厳重に封じられていた、天井裏に続く部屋。掃除するためにと封をはがして部屋に入ると、そこには一体の怪物像が。
 西洋建築の悪魔像ガーゴイルだと知り、きっと以前にアンティーク好きな親戚が購入したのだろうと放置。
 が、その日から周辺地域で吸血鬼のそれのごとき事件が。
 夜毎、屋敷の周辺を飛ぶコウモリの翼の怪物の目撃談。そして件の怪像の牙だらけの口には、なぜか鮮血が。
 そのような中、吾妻の押しかけ助手である女子高生、紅山明美がこの屋敷に駆け込む。友人を訪ねての小旅行からの帰り、道に迷い一晩止めてもらう事になったのだ。
 が、男の親戚が残した日誌を偶然にも発見。事件の真実を知る。
 怪像は、石像のふりをしているだけの生きている怪物だった! 
 部屋に封じていたのだが、相続した男性が知らないうちにそれを暴いてしまったのだ! 日記からその事実を知る明美は、携帯で吾妻に連絡を入れた。
 吸血鬼探偵の吾妻は屋敷に向かう。だが、時遅く怪像も男を襲い、その血を吸い取っていた。明美に迫る怪像。
 屋敷を舞台に、怪像ガーゴイルと戦う吾妻。が、事務所から持ってきた「ドーム・オブ・リヴィング・アイドル」という、魔力を秘めた酸の小瓶を投げつけられる。ガーゴイルは身体を溶かされ、倒される。

「なるほど。で、簡単に言えば、この最後のガーゴイルと吾妻との対決シーンを撮影する人材が欲しいと」
「簡単に言わなくとも、そう言うコト。できるかな? かな?」
「かな? じゃあねーよ。ま、やれるだけやってみるがな。贅沢は言うなよ?」
「一つだけ贅沢言わせて。吾妻役はコウモリか竜の獣人で、ガーゴイル役は竜の獣人で頼むよ〜? ガーゴイルの造形物ね、CGなんか作ってるヒマないし、着ぐるみも流用できるの無かったし。なもんだから、竜獣人の役者を獣化させ、表面に塗料塗って石像っぽく見せた、お手軽な処理で済ませたいんだなあ。残念ながら、自分の知り合いはみんな都合悪くてね。そこんとこ、ヨロシク!」
「‥‥こっちも贅沢言わせろ。(電卓弾き)報酬はこれだけもらうぞ?」
「え? ‥‥‥‥ちょっと、お高いかなあ‥‥‥‥」
「この話は無かった事に」
「あーわかったわかった。冗談だって、もーやだなー」

「ってわけで、蝙蝠獣人か竜獣人で、ガーゴイル役を募集中だ。できればガーゴイルは竜で、吸血鬼吾妻は蝙蝠でってのが理想だがな。他は、明美役と、撮影スタッフやその他下働きだな。ま、短絡的なバカPDを助けると思って、参加できるやつは応募してやってくれ」

●今回の参加者

 fa0611 蒼月 真央(18歳・♀・猫)
 fa0826 雨堂 零慈(20歳・♂・竜)
 fa1772 パイロ・シルヴァン(11歳・♂・竜)
 fa3020 大豪院 さらら(18歳・♀・獅子)
 fa3115 (22歳・♂・鷹)
 fa3141 宵夢真実(23歳・♂・蝙蝠)
 fa3308 ヴァールハイト・S(27歳・♂・竜)
 fa3426 十六夜 勇加理(13歳・♀・竜)

●リプレイ本文

「じゃ、自己紹介を頼めるかな?」
 エージェント言うところの「バカプロデューサー」通称バカプロは、にへらっとした表情で見回した。
「は、はい! スタントの蒼月 真央(fa0611)です! 以前も参加させて頂きました、今回もよろしくお願いします!」
「ガーゴイル役、第二形態の雨堂 零慈(fa0826)だ。よろしく。とりあえず、桜の季節であるから、桜餅と桜湯はいかがかな?」
「パイロ・シルヴァン(fa1772)だよっ、よろしく! ガーゴイル役第一形態ですっ」
「私は大豪院 さらら(fa3020)。セットの図面を引きます。一生懸命図面を引かせてもらいますわ」
「撮影や裏方担当の飆(fa3115)だ。最高の画を撮れるよう、尽力するぜ」
「宵夢真実(fa3141)。俺の役柄は吸血鬼探偵・吾妻です。俺もいつかは、メインを張ったドラマを延長させてみたいですね」
「ヴァールハイト・S(fa3308)だ。よろしくな。俺の役もガーゴイル役だ。第三形態だな。がんばるぜ」
「最後はうちやな。衣装関連と音楽監督全般を担当する、十六夜 勇加理(fa3426)いいますさかい。よろしゅう!」
「うんうん。今回セッパツメツメ状態だから、ひょっとしたら集まらないかなーとか思ってたけど、どうやら杞憂に終わって良かった良かったー♪ さて、それじゃあ行け行けゴーゴーで撮影スタートしちゃってくれるかな? かな?」
 調子のいい口調で、バカプロは「お願い♪」とポーズをとる。
 その様子に呆れつつも、この仕事をなんとか成功させようと誓い合う出演者たちであった。
「気合入れてコトにあたらんと、この人が何するか分かったもんじゃああらへんからなあ」
 皆の心情を代表するかのように、十六夜はぼそりとつぶやいた。

「シーン02 テイク10 アクション!」

『明美、屋敷内の一室で、古い日記帳を読んでいる。
明美「‥‥『1950年○月○日:像は、悪魔の血が染み込んだ、岩を削り完成したもの。そんな馬鹿な』
『×月○日:像が、近所の住民に襲い掛かるという具も無い噂。そんなことがあるわけが無いだろう‥‥』
『△月×日:噂は本当だった。あの像は成長している。血を吸うことで、より強く、逞しくなる!』
『△月△日:警察に言っても信用されず、狂人扱いされるがオチだ。化物封じの札を用い、部屋そのものに封じるとしよう。願わくば、誰もあの部屋、あの怪像に手を出すことが無き様』‥‥」
 明美、本を閉じる。
明美「それじゃあ、あの像が勝手に動き出したってコト? でも、この日記が正しいとしたら‥‥ご主人は?」
 明美、その時に悲鳴を聞く。大慌てで部屋の外に出る。
 吹き抜けの二階から、玄関を見下ろす明美。そこには、翼を羽ばたかせながら、屋敷の主人(ヴァールハイト)に襲い掛かり、のどを締めつけている怪像、ガーゴイルの姿が。
 悲鳴の主は、屋敷の主人。だが、手より力が抜ける。
 ガーゴイル、首をめぐらせて明美へと視線を移す。
ガーゴイル「‥‥見タナ‥‥」
 しわがれた声で、翼を羽ばたかせながら見上げるガーゴイル。逃げる明美を追い、翼で空中に飛び上がる‥‥」

「カット!」
 カットがかかり、ガーゴイルは空中で羽ばたきつつ、そのまま待機した。
「よし、いいぜ。この位置からだったら、いいアングルで撮れる! こっちは問題ない」
 飆が、カメラを構えながらうけあった。
「OK、ガーゴイルの第二、第三形態は待機してますのん? よろしゅうお願いします。あと、衣装はここ置いときますさかい」
 十六夜の手から、獣化した雨堂とヴァールハイトは衣装を受け取った。と言っても、衣装というよりズボンと皮ベルトの胸当てくらいしかないが。
 ヴァールハイトのアイデアで、ガーゴイル役は三体の役者が演じ分ける事で、三形態を表現するという事になったのだった。第一形態がパイロ、そして強化した第二形態。吾妻からダメージを食らい、更に強化した第三形態。
 ちょうど三者三様の体型と体格の竜獣人が、三人集まった。故に、竜獣人三人が順番で入れ替わることで、三形態に見せかける。単純ではあるが、なかなか効果的なアイデアである。
 それを気に入った監督は、すぐにそれを採用。かくして三種類に変化するガーゴイルが誕生したわけである。
 三人は、既に体中にドーランを塗りたくり、肌の質感を石造のそれに見えるようにしている。パイロは既にそれで石像になりきり、怪像ガーゴイルを演じていた。
「よっし、次行くぜ!」
 監督の掛け声とともに、皆の表情に緊張が走った。

「シーン06 テイク04 アクション!」

「部屋に逃げ込んだ明美。しかし部屋の扉を破り、ガーゴイルが追ってくる。
明美「来ないで!」
ガーゴイル「貴様モ‥‥我ガ贄トナルガイイ‥‥」
 蝙蝠の翼をばたつかせ、ガーゴイルが迫る。明美、ガーゴイルから逃れようと廊下へと逃げる。
 吹き抜けに張り出した廊下。だが、一階に通じる階段の前には、ガーゴイルが待っている。
 明美、迫るガーゴイルと一階までの高さを見比べ、廊下から一階へと飛び降りる!
 一階にある、来客用のソファに飛び降りた明美。ソファを破壊しつつも、明美はなんとか無事。しかし、ガーゴイルが彼女の目の前に降り立つ。
ガーゴイル「無駄ダ、死ノ運命ヲ受ケ入レロ!」
 玄関を背に、迫るガーゴイル。観念する明美だが、玄関の大扉が開く。
吾妻「明美? 無事か?」
明美「吾妻さん! こいつよ! 早くやっつけちゃって!」
 ステッキを持った吾妻の姿がそこに。吾妻、周囲を見回し、倒れている館の主人の死体を目にする。
吾妻「そういう事か。悪意の塊であるガーゴイル像に、いつしか意思が芽生え定着したというわけだな」
 ステッキを構える吾妻。ガーゴイル、尻尾を振りつつ吾妻に向かってくる。
 吾妻、ステッキを振るって打ち据える。勢い余って、アンティークを飾った棚に激突するガーゴイル。そのまま棚も倒れ、ガーゴイルを下敷きにする。
明美「やったの?」
吾妻「いいや、まだだ! 外に逃げろ!」
 明美、立ち上がると言われたとおりに逃げる。棚を払い、ガーゴイルがその姿を再び現す‥‥
吾妻「こいつを‥‥うまく浴びせられるか?」
 彼の手には、液体が入ったガラス瓶が握られていた」

「カット! よし、三分休憩! 明美ちゃん、足大丈夫?」
「‥‥は、はい!」
 彼女は先刻に受けた、監督の説明を思い起こしていた。

『ガーゴイルに追い詰められた明美は、吾妻が来るのを信じてここから飛び降りるんだ』
『ほぇ! また落下ですか!?』

「‥‥まあ、スタントとしてはこの程度、朝飯前の歯磨きのようなもんですけどね」
 落ちるところには、ソファに隠すようにしてマットレスが敷いてある。そのため、彼女は足を折らずに飛び降りることが出来たのだ。 
「ガーゴイルその二、OK?」
「ああ、いつでもいい!」
 怪石像に扮したガーゴイルの準備は、とうにできていた。第二段階を演じる雨堂の体型は、パイロのそれより逞しく力強そうだ。
「鎧の準備は?」
「はい、出来てます。けど、ほんとにセットの統一感を出さなくていいんですか?」
 大豪院が、不満の声を漏らす。
 セットとなる屋敷は、すでに取り壊す直前のものを借り入れたとの事。だからこそ好き放題に暴れ周り、撮影できる許可をもらえたのだが。
 が、セットを色々設計したり、その内部を構成したりと張り切っていた大豪院にとっては、不満であった。
「和風テイストを活かした内装にする‥‥って考えがあったのに。監督さん、ホントにいらないんですか?」
「やってもいいが、資金と時間の問題がクリアできるか? 無理だろ? ならば今回はあきらめるんだな。少しでも時間を食う事は避けなくちゃあな」
 その通り、時間が無い。面白くない大豪院は、内装をそれらしく汚したり色合いを整えたりして、その分動き回った。
「鎧、OKです!」
 
「シーン11 テイク09 アクション!」

「第二形態になったガーゴイル。棚の残骸をかき分けて出てくる。一回り大柄になっており、さらに凶暴そうな顔付き。
ガーゴイル「コ、コロス、貴様、倒ス」
 飾ってある西洋鎧まで歩み寄ると、剣と盾を手にする。咆哮し、空中に舞い上がる! 
 吾妻もまた、背中から翼を出現させ、空に舞い上がり攻撃をかわす。ガーゴイル、剣で斬りつけるが、吾妻のステッキで払われる。吾妻も、ステッキでフェンシングの様に突くが、盾によってそれをことごとくガードされる。
吾妻「くそっ、邪魔な盾だ!」
 ガーゴイルの尻尾が振るわれ、間一髪でそれをかわす吾妻。
ガーゴイル「コロスゥゥゥッ!」
 盾でパンチをくれるガーゴイル。そのまま吾妻、吹き抜けから三階の張り出し廊下に。そして後ろの部屋へと転がり込む。
 そこは、物置。様々なガラクタが置かれている。とっさに、脇にあるハルバードを手にする吾妻。
 ハルバードを振るい、ガーゴイルへと突きかかり、薙ぎ払う吾妻。
 ハルバードの先端、鉤部分でガーゴイルの盾をひっかけ、落とす。更に、槍部分で突き、斧部分で剣の刃を断ち切る。
ガーゴイル「ア、アジナ真似ヲォォッ!」
吾妻「こいつはオマケだ、とっときな!」
 吾妻、ハルバードの穂先、槍の刃を胸に食い込ませる。そのまま吹き抜け部分へとハルバードごと落とし、階下へとたたきつける‥‥。
 息を整える吾妻」

「カット!」
「よし、最後は俺だな」
 一番の大柄な竜獣人‥‥スタンバっていたヴァールハイトのガーゴイル第三形態が立ち上がる。
「あと少し。もうちょいと頑張れ!」
 飆が、応援の檄を飛ばす。彼も先刻から、無理な姿勢からの撮影を行なっていたが、それによる疲労をものともせず、撮影し続けていた。
「ああ。任せてくれ」
 宵夢も、微笑みつつそれに答えた。レンタルした、この番組のファーストシーズンのDVD。それを何度も見て、彼は動きを研究し、それを意識して演技していた。
 その努力が、うまく結果に現われると良いんだが。彼もまた、別の意味で戦っていた。この戦いに勝てるよう、宵夢はさらに気を引き締めた。
 
「シーン19 テイク20 アクション!」
 
「息を整える吾妻。手すりから、ガーゴイルを確認しようと覗き込む。
 いきなり、ハルバードの先端が階下から伸び、鉤で引っ掛けられて吹き抜けに落とされる。
 とっさに、空中で翼を伸ばし、落下を免れる吾妻。
 ガーゴイル、更に巨大な体躯となり、新たな得物としてハルバードを握っている。それを振るい、吾妻を薙ぐ。
吾妻「くっ!」
 ステッキで受けるも、防ぎきれず弾き飛ばされる。吾妻、見上げて吹き抜け上の天窓へと飛翔する。
ガーゴイル「コ、コロス。コロス!」
 ガーゴイル、串刺しにせんとハルバードを槍のように投げつける。
 天窓にぶち当たり、ガラスが割れる。吾妻、そこから外に飛び出す。懐から、先刻のガラス瓶を取り出し、構える。
ガーゴイル「ニガサン! コロス!」
 ガーゴイル、翼を羽ばたかせて吾妻を追い天窓から外へ。
 天窓から出たとたん、吾妻から投擲されたガラス瓶が顔に命中する。
 ビンは割れ、中身の液体がガーゴイルの顔にかかる。腐食しているかのように煙が立ち上り、ガーゴイル、顔をかきむしって液体を拭き取ろうとする。苦しそうな悲鳴を上げて、きりきり舞いするガーゴイル。
吾妻「『ドーム・オブ・リヴィング・アイドル』、石の怪物に効く魔の液体だ。迷わず、餓えず、ただの石に戻るがいい!」
 断末魔の悲鳴とともに、再び吹き抜けに落下するガーゴイル。玄関前のホールに、落下し床に叩きつけられる。
 いくつもの石片となって、砕けちる。ガーゴイルの顔、焼け爛れているが、それもすぐに溶け、やがてホールに動くものは何も無くなる。
 玄関扉から、明美が。空中から吾妻が、ガーゴイルだったものの脇に立つ。
明美「これで、終わったの?」
吾妻「ああ、おそらくな。誰が何のために作ったのかは知らんが、人に害なすだけなら、無くなっちまった方がいい」
明美「そうだね‥‥私、ここのご主人、助けられなかったよ」
吾妻「気の毒だったな。だがお前は、できる限りの事をしたよ。後始末は、警察のお友達に頼もう。さ、帰るぜ?」
 吾妻とともに、玄関から外に出る明美‥‥」

「カット! お疲れ、撮影終了!」
 疲れきった皆の体と頭に、その言葉が響き渡り、喜びが染み渡った。
「な、なんとか撮影、間に合いましたね‥‥」
 蒼月が、疲れた声で吾妻‥‥宵月とともにへたり込む。
「ああ、お疲れ。疲れたな」
 クールな印象の宵月の顔も、少々疲れが見える。しかしそれ以上に、一つの仕事をやり終えた喜びが表れていた。
 それは二人だけでなく、この仕事を受けた皆の顔に現われていた。それは、水増しで製作されたとはいえ、皆にとっていい仕事を終えたという事に他ならなかった。

「いやー、みんな。よくやってくれた! この調子で次も頼むよ!」
「それはいいが、今度こういう水増し仕事をさせたら、こちらも考えがあるぞ?」
 オンエア後の打ち合わせにて、バカプロにエージェントはツッコミ入れていた。
「スタッフに無理させて作らせた回なんだ。こんな事が毎回続くと思うな。この番組を本当に良いものにしたいのなら、その短絡的な思いつきでの行動を控えるようにしろ。いいな?」
「OKOK。僕も反省したから、次はこんな事無いようにするよ。なんにしろみんな‥‥ありがとうな」
 さすがに浮かれ口調は消えていた。少なくとも、彼は彼なりにこの番組のために一生懸命なのは、エージェントも知っていた。
「‥‥さて、次のスケジュールはっと」
 彼はそれを見守りつつ、自分の手帳を確認した。