ダーク・ラビリンスアジア・オセアニア
種類 |
ショート
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担当 |
塩田多弾砲
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芸能 |
1Lv以上
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獣人 |
1Lv以上
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難度 |
易しい
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報酬 |
0.2万円
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参加人数 |
8人
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サポート |
0人
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期間 |
11/16〜11/20
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●本文
かつて、深夜に放送していた番組があった。吸血鬼探偵もので、一部の客層には結構カルト的な人気を得た‥‥といわれている番組。
吸血鬼の探偵が主役の、その名も「ダーク・ラビリンス 吸血探偵ファイル」。
このたび、その作品の続編製作が決定し、撮影が開始される事となった。
が、予算不足で、どうしても足りないものがあった。それは‥‥、特撮の予算。
この作品、ホラー風味な出来なので、どうしても特撮に手抜は許されない。許されないのだが‥‥。
「だめだー! どうしても予算が足りん!」
監督と脚本家とプロデューサーと特技監督が、それぞれ頭を抱えていた。
続編の第一話。主人公の吸血鬼探偵が、人間を襲っていた化けガラスと、夜の街を空中戦するというクライマックスシーンの打ち合わせにて、トラブルが発生したのであった。
人間が夜に何者かにさらわれ、食い殺された連続殺人事件。犯人の巨大化けガラスは、クライマックスには夜の街の上空を、やはり蝙蝠の翼で飛翔する主人公の吸血鬼探偵と追いつ追われつのドッグファイト。最後には、化けガラスは粗大ごみのゴミ捨て場に追い詰められ、空中で止めをさされる‥‥といったもの。
しかし、この最後のシーンに、監督がダメ出ししたのだ。
「監督、やっぱフルCGで作り直ししましょうよ。どうせ放送日に間に合わないんですから、延長してもらって、その間にクライマックスシーンの作画したほうが良いですって」
「何言ってる! もう既に三週間もオーバーしてんだぞ! いくら元が深夜のマイナー番組だからって、伸ばしすぎだ! それに、化けカラスのデザインが、ゴミ捨て場でのマペットと、飛行シーンでは違いすぎるだろーが」
「でも監督、特技監督の言うとおりかもですよ。そろそろ第一話を完成・放送し、二話めの撮影も開始しないと、番組自体が立ち消えしちゃう可能性だってあるんですから。先日に、局の会議でも言われましたし」
と、プロデューサー。
「脚本も、これ以上はいじれませんよ。それに、あのクライマックスシーンを無理に入れろって言ったのは監督ですからね。これ以上はなんともなりません」
脚本家が不平そうに言う。
「ともかく」
と、プロデューサー。
「本編の方は既に撮影終了し、編集も済み。 このクライマックスの『吸血鬼対化けガラス』の空中戦をなんとか撮影できれば、納品して、ギリギリ放送に間に合うわけですね? で、CGでのモデリングは、今からでは修正不可能と」
「そうです。そもそも監督がCG嫌いとか言い出すし‥‥」
「何を言う! 吊りや生身のアクションこそが基本! CG使えば全て済むといったお前らみたいなのがいるから、日本特撮は衰退したんだろーが!」
「いいえ! あんたみたいな古い技法にこだわる頭の固いのが、日本特撮を衰退させた原因です!」
「ちょっとちょっと! 今それどころじゃあないでしょう!」
監督と特技監督の喧嘩をよそに、プロデューサーは結論を出した。
「とにかく、一番時間がかからんのがライブでの撮影なんですな。アクション俳優志望してる若手にでも声をかけて、なんとかモノにできるアクションシーンを撮るように、一つおねがいしますよ?」
かくして、スタントマンの募集が決まった。と言っても、クレーンで役者を釣り、ゴミ捨て場の空中で化けガラス(のマペット)と死闘を演じるというものだ。
かなり特殊ではあるが、撮れないものはない!‥‥と、監督は熱意を新たにしていた。
「そこの君! ぜひ参加してくれたまえ! 我々とともに、深夜特撮番組の明日の星になろうではないか!」
「‥‥撮影、無駄にきついけどね」
「これプロデューサー、余計な事は言うな」
●リプレイ本文
『「‥そうか、犯人はお前だったのか」
夜中。山奥のゴミ捨て場にて、探偵が大烏に鋭い視線を投げかけていた。
「人間を恨むのは分かる。だが‥‥無関係の人間を襲うのは間違ってるぜ」
探偵の言葉に、カラスは吼えるように鳴き、襲い掛かった。
探偵は、帽子と上着を脱ぎ去った。そこにはコウモリの翼と、獣めいた顔が現われた』
「‥‥カット!」
監督、鷹見仁(fa0911)の声とともに、現場に僅かな安堵が漂った。
「ここまでは良し。問題はここからだな」
茶臼山権六(fa1714)が、その様子を見ながらつぶやいた。彼は地上でのカメラマンも担当している。
「ああ。で、ゴンロク。主人公側のスタントは?」
「ばっちり用意できてるぞ。クレーンの準備も万端だ」
権六が顎をやった先には、クレーン車がスタンバイしていた。そして半獣化したリス獣人の勇姫凛(fa1473)が、吊られる準備をしていた。彼のコスチュームにはコウモリの翼が取り付けられ、羽ばたくギミックが内蔵されたそれを使い、吊られつつ空中戦を演じるというわけだ。
『ダーク・ラビリンス 吸血探偵ファイル セカンドシーズン』
第一話「復讐の大カラス」のクライマックスシーンの撮影は、今のところ滞りなく進んでいる。カラスがこのゴミ捨て場に戻ったところに、主人公の吸血鬼探偵・吾妻和弘が追い詰めたシーンまでは撮れた。
ここから先は「大カラスが襲い掛かり、吾妻もコウモリの翼を出して空中戦」。そして、「結果、カラスは敗れ墜落」‥‥となるはず。
敵の化けカラス役として、尾鷲由香(fa1449)がスタンバイしている。彼女もまた準備はしていたものの、勇姫と違いクレーンでは吊られる様子はない。鷹獣人の彼女は既に獣人化し、全身の羽毛を蘇我・町子(fa1785)、そして権六によって黒く塗らせていた。
「化けカラス、OKです!」
蘇我が作業を終え、下がった。鷹ではあっても全身が黒いため、カラスと言われても違和感が無い。いや、かえって「化けガラス」という超常的な存在にふさわしい存在感をかもしていた。
「ヒメにイーグル、準備はいいかしら? クレーンを動かすわよ。‥‥鉄、お願いね」
「わかった、今から動かす」
AAA(fa1761)が声をかける。彼が合図をするのを確認して、小金#キララ(fa2187)がクレーンの操縦席にて、操作し始めた。
勇姫の身体が、徐々に持ち上がる。
山奥の撮影でよかったと、AAAは思った。幸いに、周囲は人気は無く、さらに夜のせいか、ゴミ捨て場に近付く者もいない。おかげで、人払いなどのわずらわしい作業をせずに済む。
ゴミ捨て場は広く、撮影するためのスペースには困らない。人もいないため、皆が獣人である事を隠す必要も無い(もちろん、用心はしているが)。
残念なのは、クレーンが一台のみだという事だろう。このクレーンのレンタル代も本編監督の自腹であり、それでいっぱいいっぱいだ‥‥との事らしい。そのため、操作は小金♯とAAAが交替で行うことにしていた。
条件は整っている。あとは、撮影しだいだろう。
この撮影前、権六などはプロデューサーに挨拶に行った。その時に化けガラスの正体や通行人役などを提案したものの、すでに間に合っているとの事で却下された。が、その意気込みが買われたのか、エンドロールにスタッフとして記載しても良いとの言葉をもらった。もちろん、仕事を終わらせた上での話だが。良い画を撮れば、それに越したことは無い。
その気持ちを表すかのように、クレーンに吊られ勇姫は空中に舞い上がった。
「‥‥やっぱり、ピーターパンとはちょっと違うな」
半獣化した状態で、コウモリの翼を背負っている状態。コウモリもリスも、同じげっ歯類。故に、遠目から見る分には、勇姫の姿はコウモリのそれに近かった。
「化けカラス、位置につきます!」
尾鷲は翼を羽ばたかせ、自前で夜空へと舞い上がった。カラスを装った鷹は、コウモリの翼を持つ吸血鬼の後方に位置した。
その後ろには、半獣化した鷹獣人の鷹見が、ハンディカメラを手にして滞空している。地上でのカメラは権六だが、空中視線でのカメラは彼が担当することになっている。
鳥系獣人の利点を活かし、普通では取れない映像を撮ってみせる。鷹見が構えたカメラは、彼自身の視線のように鋭かった。
「よし、シーン♯07、アクション!」
鷹見の言葉とともに、撮影が続行した。
『「くっ! ちょこまかと!」
化けカラスの飛行能力は、吾妻のそれを上回っていた。吸血鬼としての能力を用いても、カラスに攻撃が当たらない。
そしてカラスは、吾妻の後方から体当たりして、失速させた!
「吸血鬼が‥‥カラスに負けるのかよ!」』
勇姫がクレーンを蹴り、勢いをつける。そのタイミングを見計らうと、尾鷲が体当たりをしかけた。
「痛っ!」
化けカラス‥‥を演じた尾鷲は、その勢いとともに勇姫のコウモリの翼にまともにぶつかった。ボキっという、嫌な音が聞こえた。
「カット! 小金♯、勇姫を下ろせ!」
鷹見が空中で、大声を放った。
「どうしたの? イーグルかヒメ、怪我した?」
「見てみろ、エース殿。撮影にちょっとばかし、熱中しすぎたようであるな」
権六の言葉を、AAAはすぐに理解できなかった。が、勇姫を見て、彼はすぐに理解した。
コウモリの翼、その片方が、折れてしまったのだ。すぐに権六と蘇我が修理にかかる。
「どんな具合かしら?」
「まずいな。基部の骨とギミック自体が壊れてしまっておる。修理できない事は無いが‥‥元通りにするには、かなり時間がかかるな」
AAAの言葉に、権六は首を振った。
そして残念ながら、予算の都合でコウモリの翼の予備は作られていなかった。
「‥‥ごめん、あたしのせいで」
うなだれる鷲尾を、鷹見は制した。
「いや、あのシーンを撮るように指示したのは俺だ。責任は俺にある。それに、謝るより先に、最後のシーンをなんとかしないとな」
幸いにも、あらかた撮影は終了していた。あとは最後の、化けガラスを倒すシーンのみ。
だが、コウモリの翼を動かせない今となっては、どうすればいいか‥‥。
「‥‥ねえ、僕にちょっと提案があるんだけど」
停滞した重い空気を払拭するかのように、勇姫が手を上げた。
「‥‥やるしかないか」
彼の提案を聞いた一堂は、それを実行に移そうとスタンバイした。
「シーン♯28・テイク17、アクション!」
『落下する吸血鬼に、カラスは周囲から何度も体当たりをしかけた。吾妻探偵の目には、地上がどんどん迫るのが見える。
飛行能力を失った吸血鬼に対し、最後に嘴で止めをささんと、ガラスは吾妻探偵に突撃した!』
足にワイヤーをくくりつけ、逆さまに吊られた状態で、勇姫は撮影に臨んでいた。その周囲を化けカラスの鷲尾と、カメラの鷹見が舞っている。地上からそれを撮っているのは、権六だ。
小金♯の操作で、ワイヤーは徐々に繰り出され、落下しているかのように勇姫は地上へと下ろされていった。
徐々に落下する吸血鬼。その一瞬の隙を突いて、化けカラスが嘴で突き殺そうと体当たりする! 今現在撮っているのは、そういったシーンであった。
タイミングが重要だ。テイク16までは上手くいかなかったが、今度こそ‥‥‥!
『「やめてくれ、俺は、お前を殺したくない!」
落下する吸血鬼。彼の手から、薔薇の花びらが放たれた。無数のそれは、カラスを包み込む。
「はっ!」
幻惑されたカラスは、突撃を吸血鬼に受け止められた。彼はそのまま、カラスを腕に抱きとめ、地面へと共に落下した。
激しい落下音。そして、立ち上がったのは吾妻探偵。
化けガラスは、鉄骨に串刺しにされていた。苦しそうに痙攣していたが、やがて動きを止めた。
「‥‥墓標くらいは、もっとましなのにしてやりたかったよ。せめて、あの世では安らかにな」
カラスを見て、吸血鬼は静かにつぶやいた』
「カット! OKだ!」
鷹見の声が響き、安堵の空気が周囲に流れた。完璧とは言わないが、現時点で可能な限りの手を尽くしたカットを撮り終えたのだ。カメラチェックを行った鷹見は、満足そうにうなずいた。
「お疲れ! 撮影終了!」
その言葉に、皆の手から拍手が沸きあがった。
皆、疲労困憊であったが、清々しい顔だった。いいものを作る。そういう志が一つの形で実ったのだ。疲労より先に、充実感と満足感が彼らを包んでいた。
夜明けに、周囲の闇が白み始めた。が、それはこれからの皆に対する、祝福の光にも見えた。
後日。編集し、鷹見と権六が持ってきた映像を見て、監督はやや興奮気味に賛辞を述べた。特技監督ですら、CGを使わずともここまでのものを撮れるかと、舌を巻いていた。
「どうやって撮ったのか」という特技監督の質問に、権六は答えた。
「企業秘密です。ま、我輩たちの創意と工夫による結果‥‥とでもしておいて下され」
「ダーク・ラビリンス」は放送開始した。EDのスタッフロールには、鷹見の名前が、記載されていた。
撮影スタッフの獣人たちは、全員がそれを見て、そして満足を覚えていた。