閉ざされた倉庫の怪物アジア・オセアニア

種類 ショート
担当 塩田多弾砲
芸能 フリー
獣人 2Lv以上
難度 普通
報酬 3万円
参加人数 10人
サポート 0人
期間 06/29〜07/03

●本文

 そこは、なかば忘れられた倉庫。
 特撮番組、ヒーローものや怪獣ものなどの着ぐるみやスーツを仕舞いこみ、保管する場所‥‥だったが、今はもうほとんど誰も訪れる者はいない。
 ここは、90年代に倒産したプロダクションが所有していた倉庫。
 70年代なかばの特撮番組ブームが起こった頃、プロダクションはとある特撮ヒーロー番組を製作・放送し、それなりに人気を得た。
 ブームの波に乗ったためか、プロダクションも結構な収益を得た。欲目を出した社長以下幹部は、更なる特撮番組を企画し連発したものの、それらは全く支持を得られず、赤字に終わる事に。
 更に悪い事に、80年代に入って「日本特撮はダサい」という風潮が広がり、特撮ブームは終焉を迎えた。そして、赤字は膨らむ一方。
 結果、90年代に入ってすぐにプロダクションは破産。以後しばらくの間、番組の著作権は宙ぶらりんの状態で放置されていた。

 時は過ぎ現在。とあるエンターテイメント産業の大手企業が、過去の特撮番組の着ぐるみを求め、倉庫を訪ねた。
 破産する直前、プロダクションは少しでも借金返済のためにと、倉庫ごとこの土地を売りに出していた。それを購入したとある中規模の会社は、倉庫内の備品を処分・整理したのちに土地を何かに活用しようと考えていた。が、購入直後に会社内でちょっとした問題が立て続けに起こったため、それどころではなくなった。
 それに、活用しようにも交通の便が悪く、さらに土地の広さも中途半端。そして、中のがらくたを処分しようにも、あまりに量が多いために時間もかかるし金もかかる。
会社はそのまま、事実上10年近く倉庫や施設をそのまま放置した状態にしていた。もっとも、これを所有していた社長も、どこかの好事家が高値で買い取ってくれない物かと期待していたところがあったのだが。
 そのため、企業がこの話をもってきた時、社長は即座に言い値で売り渡した。少なくとも、倉庫の中にあるがらくたを処分してしまえば、あとは会社施設として利用もできよう。
 思惑はともかくとして、倉庫内部の着ぐるみは再び日の目を見る事となったわけだ。

 話はほとんどまとまり、企業の営業担当者は倉庫へと赴いた。
 倉庫はほとんど放置された状態で、管理は杜撰極まりなく、管理人を一人か二人常駐させているだけという状態だった。もっとも、施設内に誰か、または何かが入り込まない程度には見回っていたが。
 当然ながら、電気も水道も止まっている。ガラスもいくつかは割れていたが、中に人間が入り込んでいる様子は無かった。
 鍵をこじ開け‥‥南京錠の鍵を、数年前になくしたままで放置していたのだ‥‥中に入り込む。そこには、当時撮影された作品のブロップが埃をかぶりつつも出迎えてくれた。
「すごい! 『カイザーアックス』の歯車ドクロに鎖カマキリ! こっちには、『グリーンキッド』のキングトンマー! こっちには‥‥『戦え! マッハジャガー』のジッケッター戦闘員!」
 はやる後輩・桐原を押さえ、衣崎は倉庫内の状態を見回った。獣人である二人はともに特撮ファンであったがために、今の会社に就職したようなものであった。
「おい桐原、分かってるだろうが、これは仕事だ。いいな?」
「分かってますって。うわー‥‥『トライバトラー』の怪人ダークブーじゃないか。先輩、俺あっちの方を見てきますね」
「おい! ‥‥ったく、しょうがねえ奴だ」
 衣崎は苦笑しつつ、桐原の様子を見守った。彼は情熱があるのはいいが、ありすぎるのが欠点ともいえる。もっとも、欠点といえばそれくらいで、目の前の仕事に対しては情熱を燃やし全力でぶつかる。
 物事を皮肉に、斜めにしか見られないスレた性格の自分に比べ、なんて爽やかでいい奴なんだろうといつも思う。きっと俺よりも出世するだろう。そうしたら、あいつの部下になって働きたいものだ。
 そんな事を考えながら、衣崎は目の前の怪獣の着ぐるみ‥‥「ファイヤーマスク」のタイヤ怪獣タイヤーゴンの着ぐるみをチェックしていた。
 が、数分後。
「!?」
 絹を裂くかのような悲鳴。
「桐原? おい、何があった、桐原!」
 衣崎が、桐原が向かった方へと駆けつけた。
「せ、先輩‥‥逃げて‥‥」
 衣崎は、後輩が生きながらにして食われている様子をそこに見た。喉笛にくらいついたそいつは、周囲にある怪獣の着ぐるみとは似ても似つかない、恐ろしくもリアルなデザインの異形。
 衣崎はそいつを見て、昔見た「推参!ライオン仮面」に出てきたデーモン怪人ドクグンモを思い出した。暗闇から出てきた毒グモの化け物は、子供心に怖く、夜にトイレに行けなかったほどだ。
 あの時以上の恐怖が、目の前に迫ってくる。
 そいつは衣崎の姿を見ると、後輩の身体を、遊び飽きた玩具のように脇へと投げ捨てた。そして、じわりじわりとせまってくる。
 恐ろしさに声も出ない、そして、動けない。
 が、死力を尽くした桐原が、そいつを押さえつけた。
「逃げて!先輩!」
 その声を聴いて我に戻った衣崎は、脱兎のごとく逃げ出し、扉を閉めた。
 
「‥‥あのナイトウォーカーは、間違いない、倉庫の中に潜んでいたんだろう。そして、俺たちを食おうと‥‥」
 WEAの施設内にて、衣崎は説明をしていた。
 事件が起きてから、衣崎は警察を呼ぼうとして‥‥やめた。
 間違いなく、あれはナイトウォーカー。獣人を喰らう化け物。もしも警察を呼んだら、現場を捜査している間に感染されるかもしれない。否、襲われ、さらなる被害者が増えるに違いない。
「少なくともあの倉庫には、他から大型の動物が入り込める入り口は無かった。それに、クモを思わせる脚を持つ怪獣は、あの倉庫の中には入り口付近にしか入れてない。警備の爺さんの持ってた目録から、それは確認済みだ。
『トライバトラー』の怪人は、スチールを見ても分かるように雑な造形、見間違う事はない。それに、クモをモチーフにした怪人は存在しないんだ。あの怪物は着ぐるみ保管庫の奥に合った、資料室から出て来たに違いない!」
 そういって、彼は倉庫の見取り図のコピーを広げた。
「窓には全て板が打ち付けられて、出入りは出来ない。扉も全てが金属製で、固く閉ざされている。出入りできたのは、ここ最近では自分達だけだと断言できる。
 奥の資料室には、怪人や番組の資料や模型が保管されている。おそらく、あいつはその中に潜んでいて、そして桐原が近付いたのをきっかけにして実体化したんだろう。食うためにな」
 衣崎は、恨みに燃えた口調でつぶやいた。
「あいつのまっすぐなところは、俺もうらやましいと思っていた。なのに、こんな事に‥‥。この仕事も、『知られざる特撮の着ぐるみや模型の魅力を、ぜひ今の世代の人たちにも知ってもらいたいです』と張り切っていた。あいつは俺なんかより、ずっとまっすぐな奴だった。たのむ、奴の仇をとってくれ!」

●今回の参加者

 fa0160 アジ・テネブラ(17歳・♀・竜)
 fa0791 美角やよい(20歳・♀・牛)
 fa0829 烏丸りん(20歳・♀・鴉)
 fa1050 シャルト・フォルネウス(17歳・♂・蝙蝠)
 fa1206 緑川安則(25歳・♂・竜)
 fa1294 竜華(21歳・♀・虎)
 fa2196 リーゼロッテ・ルーヴェ(16歳・♀・猫)
 fa2748 醍醐・千太郎(30歳・♂・熊)
 fa3134 佐渡川ススム(26歳・♂・猿)
 fa3765 神塚獅狼(18歳・♂・狼)

●リプレイ本文

「作戦を伝える‥‥」
 シャルト・フォルネウス(fa1050)が、囲む仲間達へと言葉を放った。
「神塚、醍醐、アジ、緑川は、NWを奥から出さないよう押さえ込む。俺を含む残りのメンバーは、着ぐるみやミニチュアを倉庫外へ搬出し、内部に戦闘スペースを確保。足止め班は俺達が搬出中に、接近を許さないように押し返せ。倒そうとは考えるな。スペースが出来たら存分に戦える、それまで耐え抜いてくれ」
 彼らが立案した作戦。それは、

:美角やよい(fa0791)、烏丸りん(fa0829)、竜華(fa1294)、リーゼロッテ・ルーヴェ(fa2196)、佐渡川ススム(fa3134)、そしてシャルト。
 このメンバーで、最初に着ぐるみを倉庫の外へと搬出。そうすることで、内部に戦闘スペースを確保する。

:神塚獅狼(fa3765)、醍醐・千太郎(fa2748)、アジ・テネブラ(fa0160)、緑川安則(fa1206)は、内部から実体化し出現したナイトウォーカーに対し、押さえ込むなどして足止めせよ。
 
:倉庫外へとミニチュアを搬出し、ある程度戦うスペースを確保した後、全員が戦闘に参加。然る後、ナイトウォーカーを殲滅する。

「‥‥簡単にまとめたら、そんな感じか。俺には、敵の動きは鋭敏聴覚と気配を感じ取って逃げ回るしかないだろうが‥‥うまくいくかな」
 不安を口にする神塚。アジは波光神息を、シャルトと烏丸は虚闇撃弾を、緑川は青毒黒爪もしくは降魔刀を用いて殲滅を図っていた。他のメンバーも、それぞれに持てる能力を用いて戦闘に参加する予定である。
 だがそれでも、不安は拭いきれない。そもそも今回は、周囲の状況がいいものとは言えない。この状況の悪さが、作戦失敗につながらなければ良いのだが。

「ああ、こないだの特撮関係の会社の? 倉庫内の整理に?」
 管理人は、だらしない印象の中年男性。会社においてこの倉庫の管理人は、閑職としてあてがわれていた。
「いやいやいや、もうしばらくこのままにしておいて欲しかったよ。する事といったら定時連絡とちょっとした見回りくらい。ははは、定年までここでこの仕事をしたかったもんだ」
 そんな軽口を叩きつつ、彼は件の倉庫まで案内した。
「ここが‥‥」
「そうです。ま、中のガラクタには手をつけちゃおりませんで。何かありましたらお手伝いしますから、呼んでくださいな。あ、ケーキごちそうさん。ちょうどツマミが無かったもんで、ありがたくいただきますよ」
 あくびしつつ、やる気が全く無い態度で彼は竜華に言った。
「‥‥あの人、労働意欲ってのが完全に欠けてるな。よく会社の方で首にしないもんだ」
「だね。しかも昼間っからビール飲んでるし。ケーキ代、なんか損した気分だよ」
 リーゼロッテが相槌を打つ。獣化しているのがばれぬように、彼女はケーキやクッキーを購入し、挨拶代わりにと管理人に手渡す事を考えていた。それを食べさせて、詰め所に釘付けに‥‥というのを考えての事だ。
 しかし、それは杞憂だった。管理人はほとんど一日中、詰め所に缶詰で、出歩く事はまれだった。している事といったら、置いてあるTVを見るか、官能小説や雑誌を読むか、昼間から飲み食いに励むか、そのどれか。博打の類をしないだけ、まだましではあったが。
 ともかく、管理人に対しては心配はいらないだろう。そして、この周囲にはあまり人通りが無いため、人の目はそれほど気にしなくても良いだろう‥‥との情報ももらっていた。依頼人の衣崎と、WEAからの情報だ。
 だが、可能性は低くとも、ゼロではない。先刻も散歩していた老人たちが通りかかった‥‥倉庫を臨める場所を。
「それでも注意しないとね。さ、始めましょう?」
 促したアジの言葉が、重く響いた。

「うわ、うわ、うわ〜〜〜! これはすごいじゃないの!」
 各々、獣化する者は獣化・半獣化し、準備を整えつつ作業を開始した。が、美角は興奮を隠し切れない。
「これ、『ファイヤーマスク』の怪獣ね。コンコルダーにドクガスマン、それにゾウドリル! 実物が見られるなんて感激よ〜♪」
 などと言いつつ、美角は作業に精を出す。かつて「ファイヤーマスク」を再放送した時に、幼少時の彼女はこの番組を見ており、出てくる着ぐるみの怪獣を覚えていた。その時の事を思い出しつつ、バッファロー獣人に獣化した彼女は、金剛力増の助けもあっててきぱきと運んでいった。
 美角のほかに、烏丸、竜華、リーゼロッテ、佐渡川、シャルトが搬出を続ける。物言わぬ怪獣や怪人の着ぐるみは、沈黙のままに運ばれるのを望んでいるかのごとく、佇んでいた。
 「ファイヤーマスク」の怪獣たちは、美角一人ですみそうだ。その奥にある「グリーンキッド」の怪獣、そして棚に置かれている「ぽんぽこポン太」の埃をかぶった小道具は、烏丸と佐渡川が受け持っていた。
「なあリンさん、この番組見てたかい‥‥ってあらら」
「悪いけど、仕事は真面目に。軽口を叩いてないで、周りに注意してくださいね」
 佐渡川を軽くかわし、ポン太の撮影用小道具を運ぶ烏丸。積もった埃が自慢の肌を汚すが、貴重な資料を運ぶという使命感が、その煩わしさを忘れさせてくれる。
 少なくとも、倉庫の入り口近くには、NWは居ない‥‥。防塵マスクとヘッドランプを装備したリーゼロッテが最初に入り込み、偵察した結果から導き出されたものだ。
 奥の、小部屋と接している場所。血の跡とちぎれた服の切れ端が、その周辺に散乱していた。その事から、間違いなくNWはその部屋、ないしは周辺に潜んでいるだろうと推測し、まずは入り口近くから片付けることにした。
 日差しが、倉庫と獣人たちを照りつける。待機組は倉庫奥と周辺に感覚を尖らせ、搬出組はせっせと着ぐるみを運び出し続けた。
「!」
 一瞬、緊張が走る。が、それは着ぐるみだった。「ブロンズ仮面」に登場したザゾリアン星人‥‥サソリというより、海サソリやクモをモチーフにしたもので、遠目にはクモのようにも見えるデザインだった。
 比較的、スムーズに作業は進んでいく。中央部分の棚やハンガーには、多くの着ぐるみは、怪獣や怪人以外に、どこにでもありそうな動物の着ぐるみもまた多くしまわれていた。どうやらそれらは、特撮番組の撮影用とは関係なさそうなものらしい。
「薬局、もしくは薬屋で使用した、キャンペーン用の着ぐるみらしいね‥‥ん!?」
 先刻から、周囲に感覚を尖らせていた神塚たちは、感じ取った。
 何かが‥‥居る!
 しかし、かの奥の扉は、まだ閉まったまま。「トライバトラー」のサタン怪人ダークブーも、沈黙を守ったまま。
 が、トライバトラーのサタン怪人の着ぐるみが立てかけてある棚には、書類らしきものもいくつかあった。後でわかった事だが、それはトライバトラーの脚本、もしくはそのコピーの一冊。
 その中に、桐原を食らった怪物が紛れ込んでいたのだ。それは実体化し‥‥新たな獲物を感知した。

「‥‥天井だ!」
 神塚が感知したそれに対し、待機組の戦闘班は全員、天井へと視線を向けた。
 まるで、巨大な膨れ上がった卵。それが第一印象。
 正確には、それは怪物の腹部。ぎょろついた一ツ目がごとく、コアがそこには煌いていた。
 周囲へと伸ばしているのは、枝か何かかと思われたが、それは長大なクモの脚。本体は1m程度の大きさなれど、広げた脚の長さはゆうに3m以上はあった。まさにそれは、広がる悪夢を思わせるデザイン。
 最悪なのはデザインセンスのみならず。縦に裂けた口をカチカチとさせながら、そいつは釣り下がりながら獣人たちを餌食にせんと迫ってきた。
「‥‥搬出作業中断! 下がれ! 戦闘班、行け!」
 シャルトの的確な指示に従い、搬出班は作業を中断。そして待機していた戦闘班が進み出た。
 まだ奥の方はだめだが、倉庫中央部は搬出作業が完了し、スペースが出来ている。そこに落とさない事には、着ぐるみを破損させてしまう‥‥!
 進み出た四人に対し、竜の少女へと狙いを定め、ナイトウォーカーは凶悪な顎と脚とを広げ、天井から覆いかぶさるようにして強襲した。
 が、それに対処する術を、彼女は、アジは体得していた。
「波光‥‥神息!」
 淡い光の円錐が、アジの銀白色の竜の口より放たれた。それは邪悪なる存在を懲らす神の息吹のごとく、ナイトウォーカーの醜い身体を直撃する。生命体のみに効果のある攻撃の光は、同じく生命体であるナイトウォーカーにも容赦なく打撃を与えた。。
 明らかにダメージを負った怪物は、天井より落下し、脚を引きつらせつつ床へと叩きつけられた。昆虫めいた長大な八本脚が振り回され、手近の棚を倒す。
 レスラーの醍醐は、思わず笑みを浮かべた。自分のかけた幸運付与が、うまく役にたってくれた事が嬉しかった。
「随分と掴みやすそうな格好じゃあないか」
 その幸運を無駄にせず、彼は間髪入れずにそいつに組み付いた。敵はクモ型の怪物。掴むのに苦労は無い。
 波光神息と落下の衝撃で、そいつはまだ混乱し、立ち直っていない。そして落ちたのは、搬出を終えたスペース近く。
 熊獣人の逞しく太い腕が邪悪の塊を引きずり、作り出した戦いの空間、ないしはその床へとボディスラムの要領で叩きつけた。
「良くやった! 後は任せろ!」
 完全獣化した、竜獣人、緑川が入れ替わった。両の拳に握られた、茨が如き護拳、ソーンナックルが、怪物の醜い身体にめりこみ、更なるダメージを食らわせていく。
 汚らしい体液が飛び散り、明らかに傷つき弱った鳴き声を、そいつはあげた。
「‥‥逃がさん、虚闇撃弾!」
 起き上がって、倉庫の入り口へと急ぐナイトウォーカー。だが、すでにシャルト、そして烏丸らが固めていた。
 シャルトと烏丸が放った、暗き闇の塊が如き球。怖気をもよおさせるそれが、怪物の身体をえぐり、その生命力を奪う。
 やがて、力尽きたのか。そいつはぐったりして動きを止めた。
「よし、コアを潰す!」
 が、シャルトが接近したとたん、そいつは最後の力をふりしぼり、長い脚をもって跳躍した。
 倉庫の出口へと向かっていくナイトウォーカー。だが、そいつのあがきもそこまでだった。
 ブラストナックルをはめた佐渡川と、獣化した竜華が、その前に立ちはだかっていた
先刻までの軽いノリをどこかに置き忘れたかのように、佐渡川は冷静に、そして冷酷に、怪物へと攻撃した。ナックルは爆発しなかったものの、攻撃補助のアイテムとしては十分。めり込んだ拳は、そいつを後ろざまに吹っ飛ばした。
 すかさず、竜華が後ろから羽交い絞めする。
「今、早く狙って!」
 竜の名を持つ虎の女傑が、怪物の逃げ道を奪い取る。
「‥‥!」
 瞬速縮地で一気に間合いに入ったリーゼロッテが、鋭い爪を一閃させた。
 腹部のコアが抉られ、潰されるのを、獣人たちはしっかりと見守った。

「‥‥亡くなった桐原って人の分まで頑張って、企画成功させろ」
 衣崎に、シャルトは結果を報告し、搬出した着ぐるみを渡していた。
 事後。着ぐるみを搬出し終えて事後調査を行なった結果、ナイトウォーカーは殲滅されたと判断。この任務は解決したものとなった。
 烏丸は、衣崎に会わず、ひたすらスーツを手入れし、整備していた。「故人の墓に参るより、こうする方が故人に喜ばれると思いますから‥‥」とは、彼女本人の談。
「衣崎さん、桐原さんが貴方を生かそうとした意味を‥‥忘れないでくださいね?」
「ああ、もちろんだ。‥‥あいつの分まで、がんばるよ。みんな、ありがとう」
 アジの言葉に、衣崎は感謝の言葉が出たのを知った。こうやって、素直に「ありがとう」と口に出来たのは、久々だと気づいたのだ。

 後日。
 これらの着ぐるみやミニチュア、当時の書類などは、特撮作品の重要な資料として、丁重に保管される事になった。
 桐原は亡くなっても、その想いは生き続ける。それを忘れずに、明日を生きていこう。
展示された「トライバトラー」の着ぐるみを見るたび、それを思う衣崎だった。