鉄巨神ビッグアイアン2アジア・オセアニア
種類 |
ショート
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担当 |
塩田多弾砲
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芸能 |
2Lv以上
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獣人 |
フリー
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難度 |
やや難
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報酬 |
9.4万円
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参加人数 |
7人
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サポート |
0人
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期間 |
07/28〜08/11
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●本文
「なんですって? 海外ロケ?」
宮雨慶太郎は、予想外の言葉に、しばし耳を疑った。
「うむ。実はオーストラリアの海外営業の折に、この作品の事を先方に話したら、大変気に入ってくれてね。スポンサーになってもいい‥‥という言葉をもらったんだよ」
放送局のプロデューサーが請合う。
「鉄巨神ビッグアイアン」。まさに二話目の撮影真っ只中ではあったが、ちょうどロケ地に難儀しているところでもあった。
剛太郎少年が、父から譲り受けた「ビッグアイアン」。そして、特殊戦略防衛部隊「STONE」の助けもあって、彼らは世界支配を企む巨大コンピューターシステム「BIG」が繰り出す巨大ロボと戦っていく。
前回1話は、日本の都市で、巨大ロボ「プレッシャー」とビッグアイアンとの戦闘シーンに難儀したものだった。
今回は、オーストラリアの青空と原野を利用した、オープン撮影で、ビッグアイアンを撮影してみてはどうだろうか‥‥というのが、先方の声。
「オーストラリアはシドニーに出現した、『BIG』巨大ロボ、『デスストーム』。強力な電磁竜巻を発生させ、それを武器に用いるその巨大ロボは、電子機器を使用不能とし、暴風をもって全てを吹き飛ばす。
シドニー全滅を聞きつけ、駆けつけるSTONEと剛太郎少年たち。デスストームの電磁竜巻に一敗地にまみれるも、STONEの特殊戦闘機によって一旦基地へと帰還。
そこから、エアーズロックに偽装したBIGの巨大地下基地を発見したSTONEは、オーストラリア国防軍とともに攻撃をしかけるものの、デスストームの前になす術もない。
が、自己修復を完了したビッグアイアンが再び起動。オーストラリアの広大な原野のもと、二体の巨神が対峙する!」
「ステファン・アーウィン氏は広大な土地を所有する、結構な資産家でね。映画のスポンサーになって、資金提供する事も少なくは無いらしい。
で、もう一つ。先方の息子さん、ロバート・アーウィンはCGイラストレーターなんだが、日本の特撮作品が大好きでね、宮雨くんの名前を聞いたら、すかさず父親を口説き落としてくれたわけだ。‥‥まあ、彼のイラストレーターとしての実力は、可も無く不可も無しといったところかな。自分が見たところ、決して下手とは言わないが、少々人をひきつける魅力や個性に欠けている、といった感じか」
なんでも彼は、かなり日本特撮に入れ込んでいるらしい。私費で日本の造形家に着ぐるみの製作を依頼し、吊りやミニチュアなど、日本のアナクロな特撮技術をたっぷり使った「怪獣」映画を、仲間達と共に自主制作したくらいだ。
「CGなんか必要なし! ニッポンのTOKUSATUなら、KIGURUMIでKAIJU! これ常識!」とは、彼の言葉。
「‥‥いや、僕もいちおうCGクリエイターなんだけど。つか、CGクリエイターの言葉じゃないだろ、それ」
「まあともかくだ。宮雨ちゃん、そういうわけで、オーストラリア行きの話、ちょっと考えてくれないかな」
かくして、話は整い、宮雨たちはオーストラリアに赴いての撮影を開始する事になった。
が、いくつか問題点がある。
一つ。デスストームの電磁竜巻を、どのようにして撮影するか。
着ぐるみ自体は出来ている。胸部に巨大なファンを有し、両肩にも巨大なジェットエンジンのようなファンを背負っている。
これらを回転させ、突風を起こし、ビッグアイアンと戦う‥‥のは良いが、この電磁竜巻をどのようにして表現するか。
実際に後ろのほうで、巨大扇風機を用いて突風を作るか。あるいはCGで、竜巻を作り出すか。
炎や雷撃ならば、まだ扱いやすかろう。だが「風」となると、かなり難儀する事は目に見えている。しかもただの竜巻でなく、電磁竜巻なのだ。
ビッグアイアンの必殺技、「エンド・オブ・ユニバース」の時と同様に、様々なイメージを練り直さねばならないだろう。
二つ。オープン撮影で、どういう構図で撮影するべきか。
日本のセットでは、天井の高さやスタジオの広さに問題があるために、イメージどおりの広さを作る事ができない事もしばしばだった。オーストラリアでは、広さに関してはいう事は無い。
が、クライマックスの「BIGオーストラリア基地での戦闘シーン」では、周囲に対象物のない平原で撮影しなくてはならない。つまり、周りが広すぎて、巨大ロボなのに巨大感を出せないで終わってしまう‥‥という事も考えられるわけだ。
撮影方法を工夫しない事には、「無駄に広い平原で、巨大に見えないロボがポツンと立ってる」という、マヌケな絵面になりかねない。
ま、大きな問題はそれくらいだ。
後は「可能ならばでいいが、ロバート・アーウィンを使ってやってくれないか」との事。とにかく、日本特撮の中に混じって、何かしら皆の役に立ちたいと考えているらしい。
と、このような状況で、豪州行きが決定してしまった。
こちらも、実力あるスタッフ、たとえば以前に参加してくれた連中のような人材が欲しい。現地に在住してる者でも構わないが、とにかく優秀な人材はいるに越した事は無い。
「‥‥やってみるか」
決意し、宮雨は行動を起こし始めた。
●リプレイ本文
「君らとは、以前にいっしょに仕事したよね。今回もよろしく頼むよ」
タケシ本郷(fa1790)、結城丈治(fa2605)、如鳳(fa2722)と握手しつつ、宮雨は挨拶した。
「君たちとは、初めてだね、これからよろしく頼むよ」
遥雄哉(fa0206)、パイロ・シルヴァン(fa1772)、大豪院 さらら(fa3020)、大空 小次郎(fa3928)と握手しつつ、同じく挨拶した。
「さて、分かってると思うけど、僕らがする事は特撮シーンの撮影だ。本編はほとんど撮りおえている。だが、特撮シーンの撮影と、それによる合成・編集はまだだ。そのためには、きみらの協力が必要だ。しっかり頼むよ」
:大豪院 さらら記録 特撮日記 その1 スーツアクション・ビッグアイアンvsデスストーム
以前にプレッシャーの機ぐるみを担当したタケシだが、今回は主役、それもプレッシャーとは異なるタイプの着ぐるみを、担当することになった。
「っと、少しは動きやすいな。とはいうものの‥‥重いぜ!」
前回は、二人で一体の着ぐるみを担当していた。それに比べればやりやすいが、それでもやはり主役機、しかも重量級である事に変わりは無い。
一歩踏み出すごとに、ふらっとよろめきそうになる。力強いアクションが出来るよう、何とか慣れないと。
それにしても、実に広い。
広々とした荒野は実に開放的で、組んだオープンセットは実景と同じく太陽光をいっぱいに受けている。スタジオの照明に比べ、まるでリアリティが違う。
しかも、広い。手狭な日本のそれと異なり、本当に広々としている。
「ホンゴウ? リハーサルに入るけど、OK?」
現地スタッフが声をかけてくる。デスストームのスーツを着ており、これからビッグアイアンが破れ、倒されるシーンのリハを行なう予定だ。
「ああ、いいぜ。始めよう」
ポイントは、倒される時の無機質さ。決して、生物感を出してはならないだろう。
それから、自動修復機能が働き、再起動するシーン。生物でなく、ましてや単なる機械でもない、重要なシーンとなろう。
スーツ内部で獣化することで、そのシーンを入魂の一場面として演じるつもりだ。ちなみに、相手のアクターも獣人。同じく獣化して、渾身の演技を見せるつもりなのはお互い様というわけだ。
「凄いぞ! 流石は日本のトクサツだ!」
もっとも、獣化は慎重にしないとならないだろう。
スポンサーの息子、ロバート・アーウィンが、撮影を間近で見ているからだ。
結局、彼は下働きのような事を担当する事になった。正直なところ、彼は単なるミーハーでありそれほど役に立つわけでもなかったが、日本の特撮物に対する愛情と情熱だけは本物らしく、文句一つ言わずに動いてくれている。
彼とともに、遥と大空もまた下働きを手伝ってくれていた。
「リハ行くよ。3、2、1、アクション!」
宮雨監督の指示のもと、電磁竜巻を表現するのに用いる巨大扇風機も動き始めた。
:大豪院 さらら記録 特撮日記 その2 ミニチュア製作 メカニック・戦闘機作成
「へー。最近のプラモデルと違って、色分けされていないんですね?」
「ああ。塗装そのものに凝るのならば、かえって成型色は単色の方がいい。もとから白だとなお良いな」
パイロに対しちょっとしたウンチクを傾けつつ、彼が仮組みした戦闘機にカラースプレーを吹いていく如鳳。大地を歩む陸亀のように、一歩一歩を着実に踏みしめるかのような仕事ぶりだ。
「それに、成型色が異なりすぎると、塗料を塗った下から浮き出て、みっともない出来になるしのう。まずは白のサーフェイサーで吹いて、乾いたら塗装ぢゃな」
「ふーん、大変なもんですね」
「ああ、接着剤要らずの塗装要らずな最近のプラモは大したもんぢゃが、こういう小道具はそうもいかん。とどのつまりは、製作者の創意工夫が重要ってとこぢゃ」
サフ吹きが終わり、如鳳は別の作業に入った。
STONE特殊戦闘機「ルビーウイング」。鮮やかな紅色は、青空に映えるだろうという意図の下に決められたものだ。
赤い翼には、レッドのクリアパーツ。これは、空間烈消「ウイングイレイザー」という装備。この翼から発する超重力にて次元そのものを消去し、電磁竜巻を消去するという設定だ。
クリアパーツの作成にはちょっと骨が折れたものの、それに見合うだけの効果が現われた。
あとは、劇中で効果的に動かす事が出来ればいいのだが。
「ミスター如鳳! 言われたとおり、戦闘機のプラスチックモデルをもう1カートン持ってきました! あと、これ、どうですか!?」
ロバートが、ブロップ用のプラモデルを持ってきた。そのついでに、彼自身が組み上げ、塗装したオリジナルの戦闘機が如鳳の目の前に差し出された。
「‥‥まあ、悪くはないが‥‥考えさせてもらうぞい」
色々な意味で、そう応える他はない如鳳だった。
:大豪院 さらら記録 特撮日記 その3 演出・特殊効果
「‥‥というわけで、こういう演出を行ないたいと思うんですが」
結城は、宮雨に申し出る。うなずきながら宮雨は、彼の提案にGOサインを出していった。
「いいね、土煙に関しては君のアイデアの方がダイナミックな画が撮れそうだ。早速試してみてくれたまえ。他には、何かあるかな?」
「演出なんですが、引き気味のアングルで、土を盛って作った山をバックに‥‥」
「‥‥ふむ、それは僕も考えていたな。良し、その方法も試してみてくれ。じゃあ、セットのスタンバイを頼むよ」
その言葉に従い、結城は自らのアイデアを実現するために行動した。彼の指示に従い、大豪院、大空、そしてパイロに如鳳らも協力してセットを組み、盛り土から山を作ったりする。
「パイロ君‥‥大丈夫?」
「大丈夫、‥‥よし、OKっと‥‥。あとは、これで効果的な画面が撮れるかどうか、確かめられれば良いんだけど」
ビッグアイアンが大地を踏みしめるとともに、地面そのものが爆烈し土煙を上げるという結城のアイデア。地面に埋め込んだその仕掛けを踏むことなく、パイロと大豪院は何とか外へと出た。
「ミスター・パイロ、ミス・サララ、お手伝い‥‥NO−っ!」
ちなみにロバートは、手伝おうと思って近付き、火薬を爆発させてしまったりする。
「‥‥手伝おうとしてんのか、邪魔してんのか、分からないわね」
冷や汗かきつつ、そう評する以外にない大豪院であった。
:大豪院 さらら記録 特撮日記 その4 完成・ラッシュ・試写 その一部
「‥‥ビッグアイアン、荒野にて立ち、デスストームと対峙する。
デスストーム、ビッグアイアンに対して背中と両肩のローターを回し、強烈な烈風を浴びせる。
土と砂埃を立て、烈風がビッグアイアンへと襲い掛かる。
荒野の中、岩山にて立つ剛太郎。
剛太郎「こ、これはっ!?」
烈風、竜巻状になってビッグアイアンを打ち据える。竜巻の内部、稲光が走る。電磁竜巻だ。
電磁竜巻、ビッグアイアンを直撃。誤作動を起こすかのように、小刻みに各部を動かすビッグアイアン。
そのまま、身体を硬直させ、地面に倒れこむ。
剛太郎「ビッグアイアン! 立て! 立って!」
泣き叫ぶ剛太郎、だが、電磁竜巻のせいか、Iコマンダーには「error」の文字が。
剛太郎自身も、竜巻に吹き飛ばされそうになる。両手で身体をかばい、ひざまづく剛太郎。
剛太郎「‥‥! ‥‥?」
突然、風が消える。
空には、戦闘機が。その翼には、ルビー色の輝きが。
戦闘機、ルビーウイング。それが烈風の中を飛行すると、ナイフで切り裂くかのように烈風そのものが切り裂かれ、消滅していく。
風が切り裂かれた場所から、ミサイルを撃ち込むルビーウイング。着弾するデスストーム‥‥」
「‥‥倒れているビッグアイアン。その巨体を遠くの、STONE所属ヘリの内部から見ている剛太郎。
手のIコマンダーには、「System Complete」。
剛太郎、期待とともに叫ぶ。
剛太郎「立て、ビッグアイアン!」
GAU! の咆哮とともに、手足を動かしつつ、立ち上がるビッグアイアン。
ビッグアイアン、頭部を巡らし、遠くのデスストームを見据える。対峙している戦車隊や戦闘機部隊を、電磁竜巻で破壊しているデスストーム。
身体をそのまま曲げ、伸ばし、空中に跳躍するビッグアイアン。
オーストラリアの空に、その巨体を跳ばすビッグアイアン。
デスストームの近くに着地! そのとたん、周囲の地面が爆裂を起こし、土煙がたつ!
画面手前に山、それと対比するかのような巨体のビッグアイアン。改めて対峙する、ビッグアイアンとデスストーム。
剛太郎の乗ったヘリ、ビッグアイアンの戦いが一望できる場所に着陸。
飛び出した剛太郎、ビッグアイアンとともにデスストームに対峙するかのように、戦いの様子を見据える。
剛太郎「いくぞ、デスストーム! 砕け、ビッグアイアン!」
ビッグアイアン、その声に呼応し、「GAU!」と咆哮する‥‥!」
:大豪院さらら記録 特撮日記 その5 打ち上げ・バーベキュー
大豪院が手配したシャンパン、ロバートが私費で購入し、持ってきたオージービーフ。
それをバーベキューしつつ、打ち上げは盛り上がった。
「今回は、以前よりもちょっと厳しいスケジュールだったから、うまくいくかどうか分からなかったんだけど‥‥いやあ、なんとか終わって良かったよ」
宮雨が、今回集まってくれたスタッフへと激励の言葉をかける。
「みんな! 今回参加できて、自分は凄くラッキーでした! 大変勉強になったよ! もしもまた、オーストラリアに来る事が会ったら、ぜひ訪ねてください!」
ロバートもまた、熱っぽく語っていた。彼の日本特撮熱は、まだまだ覚めやらぬ様子ではある。
ともかく、こうやって若き情熱が、新たな作品を作り上げてくれた。
この情熱が、みんなの未来を切り開く鍵になってほしい。そう願う宮雨であった。