ビデオテープに潜む悪魔アジア・オセアニア
種類 |
ショート
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担当 |
塩田多弾砲
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芸能 |
フリー
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獣人 |
2Lv以上
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難度 |
普通
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報酬 |
3万円
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参加人数 |
8人
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サポート |
0人
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期間 |
07/26〜07/30
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●本文
レンタルビデオショップ。
80年代。ビデオデッキの普及とともに、関係各社はソフトを充実させんと、数多くの映像作品のビデオソフト化に躍起になった。
大作映画はもちろん、過去の名作映画の類を次々にソフト化したものの、まだまだ一本一万円以上する代物。購入し楽しむなどといった事は、一部の人間が行なう楽しみであった。
そこから、レンタルビデオ店が台頭。その数はうなぎのぼりに増え、それとともに多くのビデオソフトが発売されていった。映画の類は勿論の事、中にはクズ作品や取るに足らない凡作ですら次々とソフト化され、店頭に並んだ。
無論、お決まりである大人向けのソフトもそれに伴い、多く作られた事も含む。
好景気の80年代は、ある意味狂乱の時期でもあった。だが、バブルははじけ、80年代は終焉を迎えた。
それを端的に表すかのように、レンタルビデオ業界も90年代に入ってから、次第にかげりが見え始めた。市場の成熟とともに落着きを見せたのか、レンタルビデオ店は現在その数を減らしつつある。安価なソフト、並びにビデオテープからDVDの登場、そしてケーブルテレビやインターネットの普及にて、レンタルビデオ店はかつての80年代の勢いを削がれる事となった。
全国にチェーン展開している大手はともかく、個人で、田舎の町の片隅でひっそりと経営しているような店は経営が立ち行かず、現在も閉店していく店が多い。
とはいうものの、80年代に無駄に多く出したビデオソフトの中には、絶版となり今では視聴がほぼ不可能という作品も少なくは無い。全てにおいてそうであるように、古いものを有難がる人間もまたいるわけだ。
大学生の獣人にして、SF映画ファンの杉谷竜之介もその一人。
ここ、都内の路地裏に位置する「レンタルビデオ大宇宙(おおぞら)」。
ここは、80年代の作品を多く置いてあるレンタルビデオ店で、「新作」とラベルが貼られているのが、全てくすんだパッケージの数年前のものばかり。
カウンターの老人が店長で、店員も彼一人。なんでも、老後の暇潰しとしてこの店をやってるだけで、別に儲からなくても構わないとか。
「こう見えても、昔は客が入ったんだよ」とは、老人の言葉。
店の壁には12のTVモニターを埋め込んでおり、それぞれに別々のビデオを流し、店長はそれをいつも眺めていた。
ここは、知ってか知らずか、絶版の作品を多く置いている店であった。現在出したら、メーカーは採算が取れず、回収できないだろう作品を。
「SFツタンカーメンの謎」「ニンジャリアン襲来」「海底の恐竜ダサイナザウルス」「テラー・インベーダー」「宇宙から来たフランケン」などなど、マニアを自称する者ならば、よほどの好事家でもない限り食指が伸びそうに無い作品ばかり。で、杉谷はそういうのが好きな好事家であった。もちろん18禁な類のも置いてあったりするが、それはおいといて。
今日もまた映画を借りようと、学校帰りの彼は、一週間ぶりに「大宇宙」へと足を向けた。
が、今日はどこか違和感がある。店の周囲は、シャッターが閉まった寂れきった商店街。人通りも少なく、迷い込んだら「本当に都心かここは」と誰もが言いたくなるくらいの場所。
そのせいかもしれないが、それにしては嫌な雰囲気というか、気配が漂っている。折りしも時間は、平日の15時半。日が暮れるのはまだ早い。
気配のもとは、「大宇宙」からだった。 店は、雑居ビルの階段を上がった二階。一階は、今は潰れたコンビニの空き店舗、三階はビデオ店の倉庫、四階は店長である老人の居住スペースで、事実上「大宇宙」以外には人が入っていなかった。
そして、外からは二階の様子は、ガラス窓からしか見えなかった。窓に映った影。それは、人の姿をしたものではない。一体何が‥‥? 杉谷は階段を駆け上がり、店内に入り込んだ。
店の中は、昼間でも薄暗い。一応は蛍光灯があるものの、明るく照らすには足らず、店内はいつも薄暗かった。
が、貧弱な照明でも、謎の存在の姿は、はっきりと写し題していた。それは、「SFサタンシード エイリアン侵略種」に登場した、触手だらけの宇宙生物にそっくりだった。
そいつは吼えると、カウンターの奥、作動している12のTVモニターへと進み‥‥消えた。
後に残ったのは、腐敗した空山氏の死体のみ。
「‥‥そういうわけで、WEAに連絡が入ったわけだ」
WEA施設内にて、担当官が深刻そうな顔で説明している。
「調べたところ、三日前に身体から腐敗臭を漂わせた店主の空山源次郎氏が、店に戻って行ったところを見られている。そして、同じく三日前。空山氏の友人である大木小次郎氏が、行方不明になっている事も確認された。
一人暮らしの大木氏は、同じく一人暮らしの空山氏と夜に散歩し、お気に入りの居酒屋に行っては飲んでいたそうだ。で、大木氏のアパートの管理人は、いつも夜10時ごろには戻る大木氏がその日は戻らず、次の日も戻らなかったものだから、警察に捜査を依頼していた。まず間違いなく、空山氏に感染したNWにやられたんだろう。
そして、空山氏に擬態したNWは店に戻り、情報生命体に戻ってビデオテープに潜伏した‥‥というわけだ。
無論、その店のテープと書類を全て処分すべきだろう。しかし確認したところ、空山氏には不当な借金を背負わされた少女、さち子さんを養女にしていた事がわかった。で、とある小金持ちの好事家が、空山氏の店のテープを全て買い上げる事を約束していてね。その代金を借金に当てるつもりだったとの事だ」
つまり、テープを処分する事は極力避けねばならない、という事だ。
「現時点では、WEAが店の周囲を張っている。今のところは問題は起こっていない。が、このまま放置するわけに行かないのは説明しなくとも分かるだろう。テープに潜むナイトウォーカーを何とかして誘き出し、それを殲滅する事。このミッションに参加する意思があるなら、すぐに取り掛かってくれたまえ」
●リプレイ本文
資料によると、テープは全部で12本。
そのうち三本がB級の洋画、三本が怪奇映画 三本がSFやファンタジーに即すジャンル。
残る三本は、日本の作品ではあるが、見るのがはばかられる作品。言うなれば、18歳未満禁止なAVというやつ。
「‥‥タイトルからして、お二人には見せられない代物ですね」
赤面しつつ、日向 美羽(fa1690)はその三本の資料写真を脇にやった。と言っても、今の基準からすると目立たず、清楚で控えめな印象すら与えるパッケージ。
「もっとも兄様によると、『過激一辺倒の今に比べ、その地味さと控えめさがマニアにとって垂涎もの』‥‥だそうですわ。メグはそんなの、理解できませんけど」
義兄から聞いた情報を、緑川メグミ(fa1718)は披露した。あまり披露したくもなかったが。
「あ、アヤも、そういうのはちょっとね‥‥」
見られない二名のうち一人、泉 彩佳(fa1890)も、日向に同意する。もう一人のザジ・ザ・レティクル(fa2429)は、興味を持ちつつも、やはり赤面していた。
「ま、それはおいといて。未成年二人の受持は、他のやつにしとこう。こちらの映画が良いんじゃないかな?」
蕪木薫(fa4040)が「SFダンジョンキーパー 七つの試練」のパッケージを見せつつ言った。
獣人たちが立案したのは、以下のような作戦。
レンタルビデオショップ「大宇宙」が入っていた、雑居ビル。ないしは空き店舗の一階を区切り、そのうち一つをリビングに改装。
然る後に、そこに運び込んだオーディオヴィジュアル機器で、映画を流す。
流した後、一人ひとりが囮として、ビデオを鑑賞。ナイトウォーカーが出現したら、感染媒体として用意していた犬に感染させ、実体化させた後に各自が出撃、これを撃破。
人通りの多い商店街からこの周辺には、WEAがドラマ撮影の名目で封鎖し、職員達によるダミーの撮影が行なわれている。ある程度までは誤魔化しがきくだろう。ある程度までは。
「犬には、かわいそうな事をしてしまうな‥‥」
用意した犬を撫でた蕪木は、思わずつぶやいた。
「だが、奴らの‥‥ナイトウォーカーの生態が判明していない以上、そして現状でこれが最良と思うなら、今はこの方法しか無いでしょうね。これが最善の方法とは思わないけど」
現実は、時として非常に残酷だ。その事実を、各務 神無(fa3392)は犬を見ながら思った。
犬は保健所から引き取った、もと飼い犬の野良。その犬はかなりの高齢であった。そして、だらしない元飼い主が予防接種を怠ったため病気にかかり、現在は末期状態に。老衰か、でなければ病気で死んでしまうのも時間の問題であった。
「謝ってすむ問題じゃないケド‥‥ごめんね、ワンコ」
ミカエラ・バラン・瀬田(fa0203)もまた、犬を撫でつつ、謝罪の言葉をかけていた。
疲れきったような表情で、犬は獣人たちを見上げるばかりであった。
イルゼ・クヴァンツ(fa2910)は、何度もあくびを噛み殺していた。
かりそめのリビングにて、上映されたビデオ。その映画は、まったく退屈な代物だったのだ。
彼女が受け持ったのは、90分のSF映画。
既にくじ引きで決めた、各務の「狼女アメリカン」、ザジ「死人のえじき」、日向「ロボット・ヴァンパイアー」、泉「刑事グリアム 氷の欲望」が終わり、彼女の番が回ってきた。彼女もまた半獣化した状態で、ビデオデッキにテープを入れて、再生し、その映像に見入っていた。
実を言うと、ちょっと期待していたのだ。情報誌によると「スペース・サターン」‥‥土星の基地に閉じ込められた科学者たちが、自我を得たバイオロボット・ヘクサーに追い掛け回される映画‥‥は、本物のロボットを用いて撮影されたという。
が、腕の部分をUPにしたシーンに、本物の工業用ロボットのマニピュレーターを用いただけで、ほとんどは着ぐるみ。しかも照明が暗く、あまり全身が写らないというおまけ付。
ストーリーはというと、これも最低。ダラダラした展開が続き、「火炎放射器の直撃を受けても動き続けるヘクサーが、最後に生き残った女性をシャワー室に追い詰めるも、水を浴びてショートし、機能停止」というラストシーンを見終わった頃、イルゼは「人生における重要な時間を、こんなクズ映画に奪われた」という怒りに似たものを感じざるを得なかった。
が、鑑賞中に犬の様子を確認する事も忘れてはいない。少なくとも彼女が見た限り、感染した様子は全く無い様子だった。
「‥‥これも、外れか」
安心したような、残念なような複雑な気持ちのイルゼであった。
だるそうな様子で、犬はぐったりとしていた。
B級洋画三本は、セーフ。怪奇ものも二本は、セーフ。SFもの三本のうち、二本はセーフ。そしてAVもまた、二本はセーフ。それの二本めをたった今見終わったメグミは、赤面しつつ再生を停止した(ちなみにもう一本は蕪木)。
「ま、まあ‥‥そういうシーンはあるにはありましたが、あまり騒ぐほどのものじゃあありませんわね」
とか言いながら、顔の火照りが止まらない彼女だったりする。
「とにかく、残りは三本‥‥」
ジュラルミンケースに入れられた、三つのテープ。ケースの上からそれを見て、各務はうめいた。
「残りは‥‥どうします? 次は誰が?」
日向の問いに、皆は躊躇していた。12本中、9本にナイトウォーカーが入っていない事が確認された。そして、既に皆の受け持ちは一周し、既にくじ引きにより、メグミがもう一度見る羽目になったのであった。
実のところ、皆疲れが出てきた。映画や映像作品を見ることがこんなに苦痛と感じるとは、思いもしなかったのだ。待機組の方が、まだましである。
やがて、ミカエラがおもむろに口を開いた。
「‥‥私が。ナイトウォーカーが潜むテープが、ハッキリしてキたワケでしょ? なら、私が率先しなイいとね」
そう言いつつ、ミカエラは『SFリザードブラスター』を手に取った。
『SFリザードブラスター』。77年公開の超B級SF映画。
アメリカの片田舎。荒野に降り立ったトカゲ型エイリアンと人間型エイリアンがレーザー銃で銃撃戦を行い、人間型が撃たれ死ぬ。それを見ていた青年が、残された銃とネックレスを拾う。彼は徐々に人間型エイリアンへと変貌、レーザー銃で町の人間を虐殺しまくる‥‥といった内容。
日本では劇場未公開。「SFスペースエイリアン襲来」のタイトルでTV放映されたことがあったが、トカゲ型エイリアンのシーンが全てカット。さらにストーリーも改竄されての放送だった。ビデオ化される事で、ようやくオリジナル版を見られるようになった次第。
トカゲ型エイリアンは人形アニメで描かれ、実に見事な物であった。逆に言うと、見るべき点はそれ以外無かったりするのだが。
犬と、画面とを交互に見つつ、ミカエラはビデオを再生させていた。折りしも、トカゲ型エイリアンが、銃を抜いて人間型エイリアンと撃ち合っている場面。
犬の様子は、何事も無かった。背筋をぴんと伸ばし、画面をじっと見ている。
「‥‥背筋を、伸バし?」
ミカエラは、重心を変えた。先刻に流れた「怪星からの怪物X」に出てきた、犬に取り付き変形した宇宙生物。今の犬は、恐ろしいくらいに、それに似ていた。
犬は、ぎろりと眼球を彼女のほうへと向ける。くわっと口を開け、大きく背伸びする。
動く事さえだるそうだった犬が、なぜか俊敏な動きを見せている。その原因を、彼女は予想し、獣化し始めた。
刹那。
伸びた触手が、ミカエラのいた場所を打ち据えた。
半獣化し、翼を広げて飛び立ったミカエラは、そのまま宙を舞い、後方へと降り立った。老犬が、負の生命力をあふれさせつつ、変形する様を見つつ。
偶然にも、犬が変形したナイトウォーカーは、「一ツ目アメーバの惑星」に登場した怪物「クモコウモリ」そっくりの姿をしていた。クモがごとき脚が胴体を支え、立ち上がった様はまさに生き写しだ。その額にはコアが、巨大な眼球の様に輝いていた。
が、クモコウモリには無い肉厚の触手が、蝙蝠獣人のミカエラを狙う。爪をむき、ファイティングポーズをとったミカエラは、後方に下がり距離をとった。
しかし、周囲から仲間達が現われ、彼女は確信した。この怪物は、必ず討ち取れると。
「空圧風弾!」
「虚闇撃弾!」
待機場所から出てきたのは、小鳥獣人のメグと、鴉獣人のザジ。二人の鳥系獣人の放った攻撃が、クモコウモリの頭部と胴体に直撃した。それは致命傷を与えるには程遠いも、動揺し混乱させる牽制には十分なアクション。
その僅かな時間を、絶妙のタイミングで牛獣人の日向が追撃した。彼女は携えたオーパーツ「土竜の槌」とともに突進し、一撃を脚、ないしはその付け根へと食らわした。本当は胴体へと攻撃するつもりだったが、その隙が無かったのだ。
が、その威力は十分だった。槌の力により、重力が強化する。片側の脚が異常に重くなったことから、ナイトウォーカーの動きが鈍った。
ソニックナックルとソーンナックルに拳を包んだメグが、躊躇している怪物に、更なるダメージを食らわす。トゲ付きのグローブで怪物の脚を薙ぎ、空気の爆裂を怪物のボディへと叩き込んだ!
気圧が、彼女の鼓膜を刺激する。しかしその価値はあった。
明らかに苦しんでいる。脚を引きずりつつ、唯一の出入り口である後方の扉へと向かうが、すでに獣化し武装した蕪木、イルゼ、各務が固めていた。
立ちはだかる、熊獣人と二人の狼獣人。彼女達の牙と爪、そして手の得物。それらはナイトウォーカーを怯ませ、躊躇させた。
情報生命体に戻れはしない。既にモニターは切られ、その前をミカエラが立ちはだかっている。ミカエラは怪物を追い詰めた事を確信し、突撃した。
バトルガントレットとソーンナックルにより倍加した拳のラッシュが、怪物の脚をへし折り、怪物の触手を引きちぎる。
「トドメ!」
吸蝕精気を用い、殴った腕からそいつの生命力を吸い取った。脚から力を失い、倒れたナイトウォーカーは、もはやそこまで。ミカエラは憎悪の対象よりコアを抉り出すと、小気味良い音を響かせつつ、それを踏み潰した。
かくして、状況は終了し、任務は終わった。
後始末をした後に、テープは全てが整理され、元の状態へと戻された。
後に聞いた話では、借金は返済され、さち子も良心的な里親の元へと引き取られた。
そして、テープを買い取った人物にも、変わった様子は見られなかった、との事。
犠牲となった犬には、墓が作られた。
空山氏と、大木氏。二人の墓の隣に、ささやかながら立てられた、小さな墓標。
三つの墓へと手を合わせつつ、ナイトウォーカーによる犠牲がこれ以上増えぬよう、切に願う獣人たちであった。