闇夜に強襲する怪鳥アジア・オセアニア
種類 |
ショート
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担当 |
塩田多弾砲
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芸能 |
1Lv以上
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獣人 |
3Lv以上
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難度 |
やや難
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報酬 |
9.9万円
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参加人数 |
8人
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サポート |
0人
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期間 |
09/09〜09/13
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●本文
「ダーク・ラビリンス 吸血探偵ファイル シーズン2」
それのTV版DVD第一巻がレンタルされたと聞き、番組のファンである彼女は喜び勇んでレンタルビデオ店へと向かった。それが、彼女の悲劇であり、同時に事件の始まりでもあった。
夜遅く。友人の明智川栗恵とともに、彼女、大伽鉢信子は、近くの大型レンタルビデオチェーン店へと向かって行った。
そして幸いにも、一本だけまだ貸し出しされていなかった。運よく先刻に、レンタルから戻ってきたものであった。信子は当然のようにレンタルし、友人を連れて家路を急ぐ事に。
すぐにでも帰って見たい。ゆえに、彼女たちは公園を突っ切って帰る事にしたのだった。
ちょうどレンタル店から信子のアパートまでは、直線距離で徒歩で15分くらいだろうか。
店の目の前には公園があり、すぐ近くにある神社へと続いている。それを迂回して進むと、時間が倍近くかかってしまう。
公園と神社は緑がしたたり、多くの木々が葉を繁らせていた。夏にはセミの鳴き声が絶えず、秋には紅葉が美しい。そして春には満開の桜が咲き、人々の目を楽しませていた。
この周辺は住宅街であり、住宅が密集している地域ではあった。そのため当然のように緑は少ないが、この公園と神社だけはその限りではなかった。コンクリートジャングルの中に現われた、本物のジャングルといったところか。
が、昼間はともかく、夜間にこの公園を歩く事は薦められない行為であった。というのも、公園の広さに比べ、街路灯の数が少なかったのだ。故に、防犯という点から見ると、非常に危険な場所でもあった。
幸いにも、この公園内で何か事件が発生したという報道はこれまで無かった。市や神社の方ではなんとか街路灯の数を増やそうとしていたものの、どちらもここ数年赤字経営が続いている状態。故に、一歩踏み出すのにためらいがあった。
つまり、夜の公園と神社は、暗かったのだ。何かが出てきてもおかしくはないくらいに。
「でねー、その吾妻さんがカッコよくてねー! シーズン1は微妙な出来だったんだけどさ、このシーズン2の面白さで魅力再認?って感じ?」
「は、はぁ、そうなんだ‥‥」
信子のミーハーさには、栗恵は時折閉口してしまう。ちょっと前までは洋ドラのなんとかという役者が好きー!‥‥と言ってたのだが、信子はいつも「これはこれ! それはそれ!」という、わけわからんいつもの言葉でごまかしてしまうのであった。
足取りも速く、信子は先へと進む。栗恵はそれを追いつつも、この愛すべき友人の事を思った。
「もしもわたしが狼女だと知ったら、どんな顔をするかな」
が、とたんに彼女は強張った顔になった。
彼女の嗅覚に、臭いが漂ってきたのだ。紛れもない、血の臭いが。
「やだ、なによこれ!」
信子が先に、その源を発見していた。街路灯の下に、犬、もしくは猫だろうか。小さな四足獣の死骸があったのだ。それは血まみれで、体中の肉を引きちぎられていた。もし明るかったら、周囲に撒き散らされた鮮血と露出し食い散らかされた内臓が、よりはっきり見て取れた事だろう。まだ臭いがすることから、おそらく死後それほど時間が経っていないのだろう。
が、そこまで見た時。
闇を切り裂き、何かが空中から強襲したのだ。
「!」
悲鳴とともに、栗恵は信子が地面に、まるで何かをぶつけられ、地面に叩きつけられたかのように倒れたのを見た。
それと同時に、悟った。間違いなく、自分もそれに襲われるだろうという事を。
空中を飛んでいるそれは、自分へと迫ってきた。狼獣人の栗恵は半獣化し、親友を守るために牙をもってそれを迎え撃たんと身構えた。
が、彼女は知った。空を飛ぶ「そいつ」の身体からは死臭が漂い、なおかつ「そいつ」の胴体には、巨大な一ツ目がぎらついていたのを。そして悟った。「そいつ」の本当の目的は、信子でなく自分だと。親友は一緒に居ただけで、巻き添えを食らっただけだと。
接近してくる気配は感じるが、それがどこからなのかは判断がつかない。そして栗恵は、一般市民であって戦士ではないのだ。WEAから簡単な護身術を学んだ程度で、彼女自身戦闘とは縁の無い毎日を過ごしていた。
焦った栗恵は、後方の上空から迫る「そいつ」を完全に見失っていた。「そいつ」は強力な嘴の一撃を肩口に食い込ませ、再び離れた。
「ヒット&アウェイ」というやつね‥‥。肩口を押さえつつ、栗恵はうめいた。もしも後方の気配に気づくのが一瞬遅かったら、脳天を穿たれていた事だろう。
が、休む暇を「そいつ」は与えない。突然闇夜から現われた「そいつ」は、今度は鋭い爪で、彼女の顔半分をかきむしった。
「!」
視界の半分が鮮血の赤に取って代わられた。残った目で、三度目の「そいつ」の襲来、そして死の運命を覚悟した栗恵だが、人がやってくる気配に一縷の希望を見出した。
「どうした!」
獣化をときつつ、助けを呼ぶ栗恵。警官が駆け寄ってくるのを見て、彼女は気絶した。
「‥‥大伽鉢嬢に明智川嬢。二人ともすぐに病院に担ぎ込まれ、一命を取り留めた。明智川嬢の顔や目の傷もかなり深い。失明の恐れもあったが、傷は瞳を切らなかったため、大事にいたらずに済みそうだ。もう少し遅れたら、ヤバい事にはなっただろうがな」
WEAにて、担当官が説明する。
「で、この公園だが。数日前より似たような事件が起こっていることがわかった。この公園に逃げ込んだ犬が、でかいカラスのような鳥につつき殺されているのを見た小学生ってのがいたんだな。それが大体五日ほど前か。夜八時から九時頃に、マラソンしていた斉藤源八郎氏も襲われた。もっとも近くに人がいたせいか、すぐに逃げちまい、怪我一つ負うことなく終わったそうだが。それが三日くらい前。
で、昨晩にこの事件だ。で、明智川嬢に源八郎氏。二人とも獣人なんだ。やっこさん、獣人を狙い、空から襲来してるってワケだよ。そしてこれが、源八郎の爺さんが携帯のカメラで撮ったという、犯人の写真だ」
写真はピントも合っておらず、一見すると何が映っているかすら分からない代物。しかし、よくよく見ると、被写体は恐るべきものであると、見ている者たちは理解した。
それは、確かに鳥だった。カラスのようにも見えたが、嘴と爪は、まるで鷲や鷹も羨むほどに鋭い。何より、胸部には昆虫のそれのような甲殻が胸鎧のように付いており、中心部にはおぞましい美しさを漂わせるものが、輝きとともに埋め込まれていた。‥‥ナイトウォーカーのコアが。
「この携帯に、『そいつ』が感染してないって事は確認済みだ。おそらく『そいつ』はあの公園のどこかで、今も獲物を狙っていることだろう。空中から襲い来るこいつを発見し、倒す事。それが今回の任務だ。やってくれるな?」
●リプレイ本文
「‥‥時間帯は、決まりまシタ。午前1:30から、5:30の間が勝負の時デス」
一度現場に赴いてコウモリたちと意思疎通し、ミカエラ・バラン・瀬田(fa0203)は得た情報から立案した、作戦時間帯を提案した。それ以外の時間帯には、人が出歩く可能性が極めて高いとの事だったのだ。
WEAの会議室。ここに今回集まった獣人たちは、得た情報から作戦を立て、それが実行可能なものか否かを話し合っている最中だった。
その結果、『トラップを仕掛け、誰かが囮となり、NWを誘き出す。そしてトラップを発動させ、目標の飛行能力を低下させ、然る後に攻撃、これを殲滅』といった作戦が行われる事となった。
「ペイントボールは、私が用意しておくネ。それを空中で投げつけて当ててやれば、印になるヨ」
と、猿獣人のレイリン・ホンフゥ(fa3739)は請合った。
「よーし、んじゃあ俺は囮役だな。暗闇の中でも目立ちまくる格好で鳥の化けもんを誘き出し、皆がフライドチキン作る手助けをしてやるぜ。『06ファッションリーダー佐渡ちゃん』の実力、ここで見せずに何処で見せる?」
軽薄な言葉は、佐渡川ススム(fa3134)。普段の軽い言動とは裏腹に、対ナイトウォーカー戦では無口で有能な行動をとる。皆はそれを知っているため、その場にいる者たちは誰も、今の彼の問いに答えなかった。
「トラップを仕掛けるのはいいですけど、立ち入り禁止にはなってないんですよね? 偽装でも、ちょっとそういう風にしておいたほうがいいかもしれないですね」
と、蕪木薫(fa4040)。
「トラップは蕪木さんたちにおまかせして、俺は波光神息を打ち上げられるような場所を確保しておくよ。失敗した時の、ちょっとした保険ってコトで」
こう言ったのはパイロ・シルヴァン(fa1772)。
「私は、ナイトウォーカーとの直接攻撃をするわね。なかなか面白そうな相手だし、ぞくぞくしてきたわ」
リーゼロッテ・ルーヴェ(fa2196)が、愛用のナイフを弄びつつ、まだ見ぬ敵に対して宣戦布告するかのように言った。
「私も、リーゼロッテさんと一緒に、直接攻撃しますね」
と、パトリシア(fa3800)。
そこまで話終わったところで、森里時雨(fa2002)が部屋に入ってきた。
「いやー、すんまそん。ちょいと聞き込みとかしてたら遅くなっちゃって。えっと、俺がトラップを担当するってのは言ったかな?」
「‥‥んで、斉藤源八郎のじーさんに頼んでたンスよ。ちょいと地域の生活時間帯情報の、聴取をね。ま、カメラ装備の見回りやら協力巡回やらがわんさかなもんでね、どんなもんかをちょいと尋ねてたら‥‥」
会合の時間に遅れた、というわけだ。
彼らは今、清掃業者の姿で現場に向かっている。じきに着く頃だ。
「それで、森里さン。斉藤さんからはなンと?」
ミカエラが質問する。
「じーさんが言うには、この周辺を巡回するのは夜中の2:00くらいまでみたいッスね。つか、この怪鳥が出てくるせいで、実際夜中に公園周辺を歩き回る奴らが少なくなったのも事実ぽいし。夕方から夜にかけては、人が行きかうからパトロールが多くなったけど、夜中だったら俺らの作業を見られるって事は、あんま心配しなくてもいいかと。っても‥‥」
森里は、残念そうな顔つきになった。
「朝は、5:00くらいから新聞配達が始まるから、それまでにケリ付けなきゃと思われ。で、予報では明日の夜明けは4:30頃‥‥。ちょいと時間的にデンジャラスっぽな状況かなーっと」
「ともかく、今から到着してすぐに始めたとしても、トラップを仕掛け終わるのは早く見積もって一時間。時間は十分あるとは言えません」
「大丈夫さ、蕪木さん。この俺が目立ちまくって誘い出してみせるとも!」
佐渡川のその言葉とともに、彼らは現場に到着した。時刻は現在午後11時。
一分でも時間は惜しい。すべき事は決まっている。整備が行き届いた機械が起動し、稼動するがごとく、獣人たちは予定していた作業に取り掛かった。
公園内は、狭いようで広かった。用意したトラップの機材では全てをマークするのは実際のところ不可能とわかったため、自分たちがなるべく戦いやすく、かつ、ナイトウォーカーが逃げられないような地形を見つけ、そこに集中してトラップを仕掛ける事にした。
そこは、周囲に背の高い大木が生い茂る広場。中央には少年相撲の土俵があり、四本の柱が屋根を支えている。遊具もあり、ペネトレイター‥‥杭打ち機を仕掛けるのも十分だ。街灯は、近くに一つ、貧弱なそれが灯っているだけ。
ここならば、空中から強襲をうけても何とかなるかもしれない。だが‥‥。
「だけど、油断は禁物。簡単な料理でも、火加減一つで台無しになっちゃうものだしネ」
カラーボールを手で弄びつつ、レイリンは周囲をぐるりと見回した。
トラップの仕掛けが終わったのは、午前2:00頃。そして、一時間半が経過した。
公園の入り口付近には「清掃中:立ち入り禁止」とロープを張り、偽装してはいる。
ワイヤーも各所に張り、皆もそれぞれに隠れ、暗視スコープを付けて、獣化・半獣化して待機に入っていた。
中央では、佐渡川が奇妙な姿で踊っている。警官や誰かに見られないようにと、他のメンバーは願うほかなかった。どう見てもマトモな人間の所業ではない。
本人は「見られたら『前衛芸術を極めるための修行してました』って言うさ♪」と言ってはいたが、それでも見られないことを願っていた。
「!?」
が、彼の動きが止まった。同時に、空中を飛来する何かが迫りつつあるのを、その場にいる獣人たちは感じ取っていた。
焦りが、獣人たちを苛む。かすかに、空を斬る音と羽ばたく音。
カラスならば、鳥目で夜間は活動できない。それになにより、胸部に巨大な眼球めいた光は、カラスのみならず他の鳥にもない。
が、飛行するそれには、確実に存在している。光る一つ眼が。物陰に隠れ、待機していたリーゼロッテとパトリシア、ミカエラ、パイロ、他の皆は、その一ツ目が自分たちを見つめ、ためすすがめつしているかのように思えた。
佐渡川の顔から、軽薄な表情が消えた。半獣化しているとはいえ、動きにくい衣装を着たまま、その場に立っていることは、彼自身が危険に陥ることを意味する。
そして今は、正にその時。皆がそう思った矢先。そいつが、急降下して佐渡川に襲い掛かったのだ。
嘴と爪とが、徐々に迫ってくる。
「今だ!」
佐渡川の叫びとともに、仕掛けたワイヤーが引かれた。森里と蕪木が仕掛けた網が放たれ、空中に広がる。それは、黒い鳥を包み込み、がんじがらめに‥‥できなかった。
そいつの鋭い嘴が、網を切り裂いたのだ。拘束しておけた時間は、僅かに数秒間のみ。
が、それだけあればボールを投げつけるのには十分。手近な木に登り、待機していた猿獣人の料理人は、この怪鳥をも料理せんと、ペイントが入ったカラーボールを投げつけた。
空中に逃れた怪鳥だが、ボールからまでは逃れられない。色彩がそいつの羽毛を汚し、悪臭がそいつの体臭に混ざった。
再び、空中に舞い戻った怪鳥。しかしそいつは、もう逃げる様子はみせなかった。今まで狩る側にいたのが、狩られる側に落とされたのだ。そいつはそれが耐え難い侮辱に感じられたのか、一声いびつに鳴、悔しげに叫び、大空へと戻ろうと試みた。
が、それは叶わない。既にリーゼロッテとパトリシア、ミカエラの三人が飛び出したのだ。
「瞬速縮地!」
リーゼロッテ、長袖を着込みつつ完全獣化した猫獣人の高速移動は、怪鳥との間合いを一気につめ、攻撃範囲まで接近する事に成功した。その手にはナイフが握られ、刃の鋼鉄が鈍色に輝いている。
「はっ!」
手のジャックナイフが、怪鳥の翼、ないしはその片方へと食い込み、肉を断った。ペイントボールによって色づけされたおかげで、狙いが付けやすかったのも幸いした。
空中でバランスを崩し、そのまま墜落する怪鳥。そのタイミングを見計らい、パトリシアもまたもう片方の翼を、仕込み傘で突き刺し、断つ。
両の翼を断たれたカラス‥‥に感染したナイトウォーカーは、無様に墜落し、地面に足をついた。が、土を舐める数秒前。胴体からクモめいた節足を生やすと、そいつは地面に降り立ち、カサカサと歩き回って逃げ出そうとした。
しかし、地面に落とされた時から、既にそれの運命は決まっていた。両手に武装、ソーンナックルとバトルガントレットを装着したミカエラが、鬼神がごとく迫りつつあったのだ。
バッタの如き、脚をもちいて跳躍するナイトウォーカー。素体のカラスが持つ嘴と鉤爪の鋭さは、まだ健在だった。
「‥‥死になサイ」
死そのもののようなつぶやきとともに、ナックルをはめた手がカラスの即頭部を捉え、ダメージを食らわした。さらにバトルガントレットの一撃が、そいつの胴体を直撃する。胴体部分を覆っていた甲殻、そしてコアにヒビが入った。
「どうやら」
その様子を見て、パイロは思った。
「俺の出番は無くて済みそうだな。彼女が味方で良かった」
ナイトウォーカーへの憎悪があってこその攻撃だろうが、それでも彼女の戦いぶりは、観る者に対し畏怖と恐怖を感じさせ、躊躇を覚えるものであった。
翼をもがれた怪鳥から、断末魔の悲鳴とともにコアが抉り出され、それは高々とミカエラの手に掲げられた。
「お掃除お掃除‥‥パイロは?」
「逃げちゃいましたよ。状況が終了したらすぐに」
ミカエラがホウキで周辺を掃いていたが、パトリシアによると、パイロは既に姿をくらましていた。
「まったく、しょうがないなあ。‥‥森里さん、そっちのトラップ解除、できます?」
「お任せ、蕪木さん! 佐渡川さん、そのワイヤーを‥‥」
「おお、これかい?(ぐい)」
「引っ張らないでって、言おうとしたのにー!」
網が被さり、囚われの身になった森里を見て、レイリンとリーゼロッテは大笑いした。
「アッハッハ! ドジだネ〜♪」
「だよねえレイリン。しかし‥‥」
公園を見回したリーゼロッテは、ため息とともにつぶやいた。
「今回のナイトウォーカー、どこから感染したんだろうね」
おそらくは、どこかの情報媒体に潜伏していたのを目にしたからだろう。
「どこだろうと、関係ありまセン」
ミカエラが、リーゼロッテの疑問に答えた。
「やつらは私たちにとって、排除すべき存在。見つけたら、倒す。それだけデスよ」
掃除をしつつ、彼女はつぶやく。
NWの正体は何か、未だに解明はされていない。が、害悪を成す存在である事は確か。
その害悪を取り除くためならば、なんだってするつもり。ミカエラは、焼却中の怪鳥、ないしはその死体を見つめつつ、改めて己の誓いを認識するのであった。