推参!ライオン仮面アジア・オセアニア

種類 ショート
担当 塩田多弾砲
芸能 1Lv以上
獣人 1Lv以上
難度 普通
報酬 1.1万円
参加人数 8人
サポート 0人
期間 11/23〜11/28

●本文

『幻のヒーロー、ついに復活!』

‥‥という触れ込みで、かつての特撮ヒーローの全話DVDが発売される事になった。
 そのタイトルは「推参!ライオン仮面」
「ライオンの精」の力を借りて、悪と戦う正義のヒーロー。その名は、「ライオン仮面」!
 聖剣ライオンカリバーを手に、悪魔帝国のデーモン怪人をやっつけろ!!
 戦え、ライオン仮面! 行け、我らがライオン仮面!

‥‥という、ごくありふれた内容のヒーローもの。
 取り立てて特筆すべき点はない作品だが、マスクがライオンそのままのデザインと造形で、ライバルの剣士・デビルタイガーとのやり取りが有名‥‥と、濃い特撮マニアの間では語られていた。
 もっとも、かなりのマニアでもない限り、この作品自体の存在すら知らないのだが。マイナー作品の悲しさで、一般層はもちろん、特撮マニア間でもあまり知名度が高くない作品であった。
 長らく幻だったこの作品、マスターテープが発見されたため、全話DVD化して発売される事に。そしてそれに付随し、新たにライオン仮面とデビルタイガーのコスチュームが発注され、10分程度の新たなカットが撮られる事になったのだ。
 敵デーモン怪人の着ぐるみ、コブランサー・マムシーザー・ハブラスターの毒ヘビ三兄弟も、ライオン仮面同様に製作され、じきに納品されるはずだ。なんでも、当時にデザイン画が描かれたものの、番組打ち切りの憂き目にあい、着ぐるみが製作されずに終わった怪人とのことだ。もともとこれらは、宣伝用のイベントに使われる予定だったが、新作カットの撮影にも使用が決定したのだ。
 しかし、製作は急遽決定したため(なんでも、宣伝部長は幼少時、この作品の大ファンだったとか)、役者もスタッフもろくに集まっていない有様。すぐにでも撮影を始めないことには、DVDボックス特典映像集に穴が開いてしまう。もう各媒体に、「新作カット製作・デザイン画のみの幻の怪人が映像で復活!」と大々的に宣伝してしまっていた。
 さらに、当時の映像と、今回の新作カットの映像を用いて、CMを作る予定との事。この新撮部分の出来いかんで、DVDボックスの売り上げは大いに変化するだろう‥‥とは、営業部長の言葉。
 かくして、宣伝部長は急遽プロデューサーに話をつけ、若いスタッフを集めるようにと言ってきた。
「着ぐるみは発注され、後は撮影だけか。しかし‥‥」
 プロデューサーは、悩んでいた。
 脚本も、当時の没脚本が数点見つかった。それらをもとにしてカットを製作するが‥‥問題は、そのカットを実際に製作するスタッフであった。
 なにぶん、知名度が低い作品。当時の資料は散逸し、特撮マニア間でも長らく幻と化していた作品なのだ。というか、マニアですら知らない人間の方が多い。
「果たして今の若い者たちに、この作品の魅力を理解して、当時の作品の良さを再現できるだろうか‥‥」
 目下、プロデューサーにとってはそれが悩みの種であった。

 没脚本をもとにした、新作カットのあらすじは‥‥。

『悪魔帝国は、廃墟と化した建物にアジトを設立。そこで無数の毒ヘビ型ロボットを製造し、日本中にばら撒き、日本を、ひいては世界を侵略する「毒ヘビ侵略作戦」を決行しようとしていた。
 それを突き止めたライオン仮面だが、ライバルにして悪魔帝国の剣士、デビルタイガーが立ちはだかる。二人で切り結ぶも、卑怯にも悪魔帝国の毒ヘビ三兄弟は、実験動物の犬や猫を人質に、ライオン仮面を降参させようともくろむ。
 が、卑怯な戦いを嫌うデビルタイガーは、毒ヘビ三兄弟に反旗を翻し、ライオン仮面とともに戦う。
 ライオン仮面のライオンカリバーと、デビルタイガーのタイガーサーベルが、悪魔帝国に挑む! 叩き切れ! ライオンカリバー牙返し! 決めろ! タイガーサーベルカブト割り! 
 悪魔帝国の基地を爆破し、毒ヘビロボット工場を破壊せよ! 魔王キングサタンの陰謀をつぶすのだ!』

‥‥というもの。

 だが、ある意味「本当に」肝が座った奴でないと、この仕事はできないかもしれない。
 というのも、クライマックスの舞台である幽霊屋敷に、本物の幽霊が出るかもしれないからだ。
 ADが苦労しつつも撮影現場にと見つけてきたのは、廃棄された屋敷。もとは個人の図書館か何からしく、大量の本が放置されていた。そのほとんどが、雑誌や童話、マンガ雑誌や週刊誌など、ありきたりなものばかりだ。
 が、ここは「本当に」幽霊が潜むと言われるスポットでもあった。なんでも、放置されていた本を読むと、幽霊が取り憑く‥‥と、近所ではもっぱらの噂なのだそうだ。
 それを聞いたADは面白がって本を読んでみたが、なにも起こらなかったし、取り憑かれもしなかった。
「幽霊が出たら、見てみたいッスよ。つか、悪魔帝国の作戦みたいッスね」
 そう言って、ADは笑った。
 だが、確かにこの廃墟の周囲では、ちょっとした事件が起こっているのは事実だ。子供が遠目に、大きな虫だかクモみたいなものを見かけたとか、不良学生が数人でたむろし、本を拾って読んでみたら、気弱な仲間が人が変わったように凶暴になったとか、そういった類の事件が確かに起こっている。
 そして、周辺で行方不明になった人間も、ここ半年で増加しているそうだ。
 被害者の一人はホームレスで、この図書館に雨宿りしていたところを、何かに襲われていた‥‥らしい。

「‥‥こっちの方が、問題かもしれんな。今から別の場所を探しては、放送日までに間に合わない。今から別の脚本を書かせるのも論外。だからと言って、このまま撮影を続行したら、スタッフを危険に晒す事になるやもしれん。撮影しつつ、この怪異をさばききれるくらい、タフなやつら。そいつらが必要だ」
 そんな者たちがいるのだろうか? いや、探さねばならないだろう。
 プロデューサーは求人募集を出すことにした。
「集まればいいが‥‥」
 プロデューサーは、つぶやきつつも切望した。
 廃屋に潜む怪異を跳ね除け、撮影を行うことの出来るスタッフを。
 危険な状況だが、その危険をものともしないタフなスタッフと俳優。劇中のヒーロー達と同じくらいタフな者たちを。

●今回の参加者

 fa0200 影山志狼(22歳・♂・狼)
 fa0378 九条・運(17歳・♂・竜)
 fa1137 ジーン(24歳・♂・狼)
 fa1405 滝月・玲(22歳・♂・竜)
 fa1690 日向 美羽(24歳・♀・牛)
 fa1738 鉄劉生(25歳・♂・虎)
 fa2037 蓮城久鷹(28歳・♂・鷹)
 fa2321 ブリッツ・アスカ(21歳・♀・虎)

●リプレイ本文

「何度見ても、ぞっとしないぜ」
 ロケ現場を一望し、蓮城久鷹(fa2037)はつぶやいた。
 鷹獣人の鋭い目が見つめるのは、元図書館という廃墟。そして、「推参!ライオン仮面」の新作カットを撮るロケ現場。
 目前の廃墟が建っている場所は、郊外とはいえ周囲は妙に静かで、聞こえるのは風に吹かれ転がる枯葉の音のみ。それが、得体の知れない恐怖をかもし出している。発散させている恐怖は、静寂のせいと紛らわせる事は出来なかった。その場所には、実際に危険なる死の影が潜んでいる。その事実が、獣人たちに躊躇させる恐れを抱かせていた。
「ああ、見るからにキングサタンやデーモン怪人が、喜んでアジトに使いそうだ。いい場所を見つけたもんだぜ」
 竜獣人、九条・運(fa0378)が恐怖を払拭するかのように、明るい声で言った。
「だが、中には本当に悪い奴がいる。キングサタンと同じ、あるいはそいつら以上の悪玉野郎がな。そいつらの臭いが、俺の鼻に匂ってくるぜ」
 影山志狼(fa0200)が、鼻をひくつかせる。狼獣人である彼は、実際に鋭い嗅覚を持っていたが、今のところはあえて臭いをなるべく嗅がないように注意した。‥‥不法投棄されたごみやらなにやらの、腐臭や悪臭が漂っていたのだ。
「えっと、とりあえず皆さんには荷物を下ろして、待機をお願いしときますね? ‥‥『あれ』がいきなり出てきて、怪我でもされたら大変ですから」
 牛獣人のAD、日向 美羽(fa1690)が、他のスタッフへと伝達しに行った。今回の撮影班は、皆がWEAから連絡を受けた、関係者たちである。
「そういや、ライオン仮面の劇中にもあったな。デーモン怪人が潜む屋敷に、両親を助けるために子供が忍び込む‥‥って話だ」
「へえ。ヒサさん、ライオン仮面見てたんですか?」
 九条の言葉に、蓮城はうなずいた。
「まあな。ガキん時に、結構夢中になって見たもんだぜ。ジーン、お前はガキの頃は、どんなヒーロー番組見てた?」
「いや、俺は‥‥」
 この手の番組に関する知識を持たないため、狼獣人のジーン(fa1137)は答えられなかった。
「それで、レイ。 中に人は?」
「ああ。タツヤ君。先に調べたけど、人の気配もないし、最近近付く者もいないみたいだ。周囲の人払いは、しなくて済みそうだぜ」
 アーティストの滝月・玲(fa1405)が、影山に答えた。九条と同じ竜獣人の彼は、蓮城とともにロケ現場となるここを調べに先行していたのだ。無関係の者がいたら彼らを追い返し、犠牲者を出さないため‥‥と考えての事だが、もとより中には誰もおらず、その心配は杞憂に終わった。
「なら、始めるとしようぜ。撮影したくとも、現場に邪魔モンがいたら、なんもできないからな」
「ああ。デビルタイガーを、早く演じたくて仕方ないぜ」
 格闘アイドルのブリッツ・アスカ(fa2321)、体操のお兄さんしている鉄劉生(fa1738)。二人の虎獣人が促した。

 その図書館は、思った以上に広い。前日に打ち合わせたとおり、彼らは三組に分かれての捜索を実行に移した。
 日向は蓮城と組み、図書館の奥へ奥へと進んでいく。残りは影山ら三人、九条ら三人とで、地下と一階奥へ向かい、進んでいった。
「さて‥‥それじゃ、張り切って行きますよ! 大丈夫、私に任せてください!」
 メガネをかけ、どんくさい印象だった彼女だが、張り切り始めた彼女の様子に、蓮城はちょっと面食らった。既に彼女は獣化し、牛獣人特有の角を頭に生やしていた。
「あ、ああ。じゃ、行こうぜ」
 二階へと、階段を上がる。当然の事ながら内部は汚れきり、あちこちにごみやら何やらが散乱していた。不良少年たちによるものか、壁にもスプレーのペンキで、わけのわからない文字や落書きが描かれている。中には卑猥な内容のものもあった。
 威嚇するかのようなそれらを横目に、二人は二階に辿り着いた。

 二階にも、やはり多くの本が放置されていた。そのどれもが破れたり、変色している。壁に張られているのは、十年以上前のカレンダー。既に忘れられた、名も無きタレントの微笑んだ写真が印刷されていた。
 日向は放置された本に目をやった。どうやらここは、もとは子供向けの図書室らしく、捨てられていた本も絵本や童話、週刊のマンガ雑誌の類が多かった。
 ページが開かれたままの、十数年前の週刊少年漫画雑誌が、床の上に置かれている。それはどこか、禍々しい雰囲気をかもしていた。
 ごみも多い。壊れた玩具や人形、角材、がらくたの類が散乱していた。
 日も傾き始めている。そろそろ掃除‥‥というか、幽霊退治を終わらせ、撮影を始めないことにはスケジュールに遅れてしまう。
「どこだ‥‥どこにいやがる‥‥?」
 すでにざっと、内部は調べてある。床が抜けそうなところや、残された家具が倒れたり壊れたりしそうな箇所は、大体チェック済みだ。
 が、あくまで大体。書物や残された備品の類まではまだ調査していない。
「!」
 蓮城は、気配を察して振り向いた。が、どこからか迷い込んだのか、そこには猫が一匹いるだけだった。つぶらな瞳で、蓮城を見つめている。
 猫に気づき、日向も顔をほころばせた。
「あら、猫‥‥」
 数秒後、彼女の顔は凍りついた。
 猫は二人の獣人に対して駆け寄ってきた。‥‥その身体を、凄まじい形態へ変形させつつ。

「!」
 影山らと、九条らの耳に、声が響いた。それは紛れも無く、蓮城と日向のそれ。
 計六人の獣人たちは、すぐに階段へと走っていった。

「くっ!」
 日向が、思わず声をあげた。
 その猫は、もとから大きいドラ猫だったのだが、さらにそれが一回り大きくなり、まるでクモかサソリを思わせるモンスターに変形したのだ。
 外骨格の体表面に、原型である猫から逸脱した、おぞましい顔。胴体は60センチあるかないかだが、その胴体から突き出てきた八本足は、広げるとゆうに胴体の倍を超えそうだ。その脚の二本が、日向と蓮城につかみかかる。
 蓮城はドスを振るい、日向は腕力で、怪物の腕を振り払った。
「間違いない、ナイトウォーカーだ!」
 ナイトウォーカー。情報生命体にして、感染し捕食するモンスター。おそらくは、どこかの野良猫が偶然にも、此処の本がめくれた時にその場にいたのだろう。そして偶然が重なり、めくれた本のページには、化物がいた。
 感染したナイトウォーカーは、猫をクモがごとき生命体と変異させ、今まさに根源的な欲望を満たそうとしていた。
 すなわち、捕食。ごちそうを目の前にした怪物は、よだれを垂らさんが勢いで、二人に迫る。
「待てッ!」
 半獣化した姿が、その場に躍り出る。駆けつけた影山とジーンだ。その後ろには、仲間達が控えている。
「俺とジーンで気をそらす、その間に、お前らが攻撃してくれ!」
「わかった、任せて!」
 九条に言い残し、半獣化した二人の狼獣人が飛び掛った。すばやいその動きに、ナイトウォーカーが翻弄される。
「リュウセイ、行くぜ! 合体技の練習だ!」
「任せろ! 武零舞流を今こそ見せるぜ!」
 九条は仕込み傘を、鉄劉生はイミテーションソードをその手に構えている。獣人化した鉄劉生は、まさに本物のデビルタイガー、もしくはライオン丸にそっくりだった。
 二人は、互いの得物を空中に投げ出す。その軌跡に、クモと猫の合成怪物は驚くようにたたらを踏んだ。
「ソード!」
「クロス!」
「ボンバー!」
 互いの獲物を、それぞれ受け取り、二人はナイトウォーカーに打ち据え、または切りつけたのだ。腕を切られ、または腕を打ち据えられ、怪物は痛みにのけぞった。
「あそこだ! あそこに弱点が!」
「わかった、あれだなっ!?」
 滝月の指摘にブリッツが、バトルガントレットをはめて、後方から殴りかかった。
 ナイトウォーカーの胴体下部。そこには、宝石のような急所、コアがあった。拳がそれを砕き、化物は断末魔の悲鳴を上げた。

「シーン160、アクション!」

『コブランサーら三兄弟が、二人の戦士に迫る!
 槍が、ライオン仮面とデビルタイガーの攻撃を、ことごとく弾いてしまうのだ。
「わはははは! ライオン仮面、今日がおまえの年貢の納め時だ、覚悟しろ!」

 でも、弾かれた武器を、互いが受け取り、構えなおす。

『今こそ、必殺のっ! ソード!』
『クロス!』
『ボンバー!』

 ライオン仮面とデビルタイガー、それぞれがぞれぞれ武器を受けとり、コブランサーに切りつけたのだ。
 コブランサー、胴体に一撃をくらい、そして倒れていった‥‥。
『おのれ、ライオン仮面! デビルタイガー! 無念!』」

「カット!」
 撮影が途中まで終わり、皆がやれやれといった顔をする。
「えと、みなさん飲みものです〜‥‥はうっ!」
 普段どおりに戻った日向が、スタッフに飲み物を配る。その拍子に、転ぶのもまた彼女らしい。
「合体技、中々いい感じだぜ」
「ああ、練習したし、モノホンの悪にも効くしな!」
 九条が蓮城に請合った。ナイトウォーカーは死に、館内にあった本は全てあつめ、焼却した。そして、撮影を開始したのだ。
 もう二度と、出ないで欲しい。あんな化物が。
「よし、休憩終了! 次のカット行くぞ!」
 蓮城が、再び皆に言った。

 そして、新作カットは撮影された。
 DVDボックスにこのカットは収められ、ファンを楽しませるだろう。
 これ以後、図書館には二度と怪異は出なかった。