砂中に潜む害意アジア・オセアニア

種類 ショート
担当 塩田多弾砲
芸能 フリー
獣人 3Lv以上
難度 やや難
報酬 9.9万円
参加人数 8人
サポート 0人
期間 10/13〜10/17

●本文

 砂浜。
 海岸線にて、その若者たちは少々破目を外しすぎた。酒に酔った彼ら六人は、焚き火をして騒いだのだ。
 深夜。海岸沿いの道路脇にある酒屋に侵入し、酒やビール、つまみを失敬した彼らは、酒を飲みつつ車を走らせていた。
 やがて彼らは、砂浜で焚き火しながら酒を飲もうという事になり、それを実行した。
 もちろん、焚き火に使う薪などない。その代わりに、ボートの木製オールや近くの民家の塀を剥がしたものなどをもちより、ライターで火をつけ、焚き火を始めた。
 浮かれ騒ぐ彼ら。もちろん持ち込んだオーディオ機器で、大音響で音楽を流し、周辺地域の住民の安眠妨害する事も忘れていない。
 そして、妨害された者の中に、怒り心頭になった者がいた。
 声優志望の鳥羽浩太郎。アルバイトして生活費を稼ぎながら、養成所に通いレッスンを受けている彼は、今日はくたくたに疲れていた。レッスンを受け終わり、工事現場のバイトが終わった頃には、身体は睡眠と休息を要求するあまりに、帰り道に歩きながら意識を失いそうになったほどだ。
 アパートに帰り着き、ベッドに倒れこんだ彼は、そのまますぐに眠りに付いた。幸い、明日は休日。バイトもレッスンも無い。明日は一日中眠って、体力を回復させるとしよう。
 だが、彼の目論みは崩れ去った。眠りに落ちたのもつかの間、一時間ほどですぐに彼は叩き起されたのだ。
 犯人は、裏の窓、ないしはそこに臨む海岸にて騒いでいる六人の若者たち。焚き火をしている場所は、彼のアパートから100mと離れていない場所であったのだ。
 枕に頭を押し付けて、無理やりにも眠ろうと試みた。が、どうしても眠れない。
 いい加減に頭に来た鳥羽は、アパートから飛び出し、直接注意してやろうと、焚き火の方へと向かって行った。

「今何時だと思ってるんだ! 夜中の二時半だぞ! 静かにしろ!」
「あー? 静かにしろだってさー、アンタが一番うるせーよバーカ」
「耳塞げば静かになるぜー。アタシってあったまいー♪」
 焚き火を囲み、そこには五人が輪を作って酒盛りをしていた。鳥羽は周囲の砂上に転がっている空き缶の数を見て、彼らはかなりの酒を消費したと判断した。
 話しても無駄と知った鳥羽は、騒音の元であるCDラジカセをとりあげ、スイッチを切ろうとした。
「おいてめー、なにしやがる!」
「ザケてんじゃん、なめてんのか?」
「頭おかしいんじゃね?」
 すると、後ろに控えていた三人の男女が立ち上がった。手には薪に用いた材木やオールなどが握られている。
 まずいと思った鳥羽だが、そこに最後の一人が暗がりの方から戻ってきた。全員の視線がそちらに向けられる。
「‥‥なんだ、やけに長いションベンだったな?」
「うんこじゃねーの? きったねー」
 ろれつの回らない口調で囃したてる若者たち。だが、そいつは四つん這いになり、吐くように唸った。
「おいおい、んなとこで吐くんじゃねーよばーか。お前しか免許持ってねえんだからよ。車どうすんだ‥‥」
 が、次の瞬間。彼は手で砂をかき、潜ったのだ。まるで、モグラかオケラのように。
 否、鳥羽は見た。そいつの腕が、オケラのそれに似た甲殻に覆われていた事を。そいつはひと一人が這って入れそうなほどの大きさの穴を穿ち、そのまま砂中へと消えていった。
「‥‥なんだぁ? なんかの冗談か?」
「もしもーし、何潜ってんだよ〜?」
 一人が、出来た穴に手を肩まで突っ込んだ。が、へらへら笑ってたそいつは、次の瞬間。悲鳴を上げた。
 穴の中に、まず間違いなく潜っていったそいつに、腕を引かれたのだ。穴そのものが、何かの生き物の口のようにそいつを吸い込み、地上から姿を消し去った。
「な、なんだ!」
「マジ! いやああっ!?」
 流石に酔いが覚めた彼らは、大急ぎで逃げ出した。停めている車までは、約200mくらい離れている。五人は一目散で駆け出した。鳥羽など見向きもせずに。
 が、車にあと数mの時点にたどり着いた若者は、すぐ足元に現われた昆虫めいた怪物に抱きとめられた。
 断末魔の悲鳴とともに、首筋に噛み付かれる。そのまま先刻のように、怪物は砂中へと若者の身体を引き込んだ。
 砂中に消えた仲間を見て、女性二人は叫んだ。おぞましい死が迫ると言うのに、立ち止まっている。
 否、一人は腰が抜けて、逃げ出せないのだ。四つん這いになって逃げようとしたが、砂中から現われた顎に足首を噛付かれ、悲鳴とともに彼女もまた引きずり込まれていった。
 残りの二人は、二人して立ちすくんでいた。両者とも、抱き合ったまま一歩も動けない。
「俺にくっつくな! あれに食われるだろうがよ!」
「な、何言ってるのよ! アンタが食われろ!」
 言い争っている最中。足元から現われたそれは、二人を一緒に仲良く引きずり込んだ。二人の断末魔の悲鳴が響き、砂中に消えるのに一分もかからなかった。
 音楽が響く中、鳥羽はその様子を呆然と見つめるしかなかった。否、できなかったのだ。が、すぐに我に帰る。
 WEA関係組織で受けた講習会の「緊急時における、敏速な回避行動学」。それを思い出せたのは幸運だった。
 烏の獣人である鳥羽にとって、獣化し空を飛ぶことは朝飯前。しかし、今は夜中。暗闇の中をうまく飛べるかどうか。
 が、足元すぐ近くの砂中から怪物が現われるのを見た時、彼は獣化を完了し、その翼を漆黒の夜空に羽ばたかせた。
 怪物は、大音響をがなりたてるCDラジカセを狙い、鋭い大顎で挟み込むと両断した。同時に、嘘のように静寂が戻り、辺りは静まり返った。
 聞こえてくるのは、焚き火の炎が爆ぜる音と、波の音。
 やがて、怪物はそのまま砂中に潜み‥‥二度と姿を見せなかった。
「‥‥どうやら‥‥助かったのかな‥‥」
 夜空を飛ぶ鳥羽は、空中から現場を見つつ、安堵した。
 地面に降りようとは欠片も考えなかった。自分のアパート、ないしは開け放したままの窓へと直接飛び込んだ彼は、ベッド上にて自分が落ち着くのを待った。
 ともかく、最初にすべき事‥‥怪物から逃げ出し、生き延びる事は行った。次に行なうべき事は、この出来事を連絡する事だ。鳥羽は、獣化を解きつつ携帯に手を伸ばし、WEAへと通話した。

「‥‥で、現場は海水浴場だが、幸いな事に現在はシーズンオフで立ち入り禁止になっている。夏には人が来るが、それ以外の季節は人が入り込むことは無い。今回の犠牲者たちのような者を除いてな。犠牲者連中の車はおさえてある。で、目撃者からの情報によると、用を足しに別の場所に行った馬鹿者の一人。そいつが途中で目にしたと思われるエロ本を発見した。まず間違いなく、それに潜伏していたに違いない。
 やつは砂の中から、地上にいる奴らの位置を何らかの方法で感知し、いきなり襲いかかる恐るべき奴だ。やっかいな相手だが、なんとかして倒さねばならん。やってくれるな?」
 WEA担当官が、君たちに状況を説明した。

●今回の参加者

 fa0295 MAKOTO(17歳・♀・虎)
 fa0640 湯ノ花 ゆくる(14歳・♀・蝙蝠)
 fa1294 竜華(21歳・♀・虎)
 fa1890 泉 彩佳(15歳・♀・竜)
 fa2196 リーゼロッテ・ルーヴェ(16歳・♀・猫)
 fa3134 佐渡川ススム(26歳・♂・猿)
 fa3678 片倉 神無(37歳・♂・鷹)
 fa4301 樫尾聖子(26歳・♀・鴉)

●リプレイ本文

 自分を含めて今回集まった獣人たちを見て、猫獣人リーゼロッテ・ルーヴェ(fa2196)は、果たして任務を遂行できるのか不安になっていた。
 飛行する事が出来るのは、鴉獣人の樫尾聖子(fa4301)、鷹獣人の片倉 神無(fa3678)、蝙蝠獣人の湯ノ花 ゆくる(fa0640)に竜獣人の泉 彩佳(fa1890)。
 半数は空中から戦う事ができるが、残り半数は空中に逃れる事はできず、餌食になってしまう可能性も高い。その中には、自分も含まれている。
 女性二人、MAKOTO(fa0295)と竜華(fa1294)。ともに虎獣人で、それぞれがプロレスラーに武術師であり、通常の戦闘ではまず間違いなく頼りになる。
 だが、今回の敵は、まともにかかってくる相手ではない。地中からいきなり出現し、足の裏からでも攻撃を仕掛けてくる事が可能。それに、空中からでは攻撃を受けずにすむだろうが、逆に攻撃を仕掛ける事はできるのだろうか。危険を感じたら、そのまま逃げてしまうかもしれない。
 リーゼロッテの焦燥を知ってか知らずか、猿獣人の佐渡川ススム(fa3134)は、多少問題性のある発言をしていた。
「これは下心無しに、純粋な任務遂行を願っての事。故に、目標が感染していた情報媒体であるところのエロ本を閲覧するのに、何の問題があろうか? いやない」
「はいはい、そこまで。ってゆうかキミ、さっきみたいにヘンな本懐に入れてんじゃあないでしょうね〜?」
「い、いやいやいや、滅相もない」
 MAKOTOの言葉に、佐渡川は必死になってかぶりを振った。彼女のスープレックスは絶品だが、それを再び食らいたいとは思わない。
 が、他愛のない会話は、リーゼロッテの緊張をほぐし、僅かではあったが心に余裕を作らせた。この余裕が、任務遂行に役立てばいいのだが。

 砂浜は、まるで凪の状態になった水面がごとく、静まり返っていた。
 夕刻、暮れなずむ太陽が周囲を夕日の赤色から、闇夜の黒へと塗りつぶされつつある。そしてこの砂浜は、怪物が潜む海原と同じ。
 シーズンオフ中には人が近付かないのは、不幸中の幸いと言えた。そして、近くには鳥羽のアパート以外には、あまり人が住んでいなかった。
 アパートには、鳥羽以外にも住民がいたが、そのほとんどは獣人。人間の住民は幸いにも管理人の友人であり、WEAが与えた料亭のタダ券で管理人とともに豪華な料理を楽しんでいるはずである。少なくとも今夜は。
 さらに、人家のある周辺の地面は、コンクリートとアスファルトに覆われていた。
「やっぱり、足音で地上の獲物を感知してるんじゃないかと思うんです。ですから、アヤが思うに、大きな音を出す音響装置はかえって止めたほうが良いんじゃないかと」
 彩佳が提案するが、他の皆はそうは考えては居ないようだ。
「どうかな。キミの言う事ももっともだけど、それは推測に過ぎないよ。殲滅させる可能性を高くするために、僕は用意しておくべきと思うんだけど、どうかな」
 MAKOTOが、彩佳に反論した。少なくとも、鳥羽の証言を鑑みるにつれ、「音を発するもの」を地中から感じ取り、攻撃する可能性は高いのだ。が、もちろんMAKOTOも彩佳の言葉を否定するつもりは無い。ひょっとしたら、「音」と「振動」。両方で感知している可能性もあるし、むしろその方が理にかなっている。
「ともかく、僕たち地上班と、空を飛べる空中班とで待ち伏せする‥‥って事で良いんだよね」
 彼らが立てた作戦は、以下のようなもの。
 梶尾と片倉、鴉と鷹の、鳥系獣人。そして蝙蝠獣人であるゆくる、竜獣人の彩佳。四人はそれぞれ獣化・半獣化し、翼を広げ空中に待機する。
 地上では、MAKOTO,竜華、リーゼロッテに佐渡川が、地上から目標を誘き出すために行動。
 その具体的な方法は、ランタンを付けて灯りを確保し、砂浜の中心部にそれを置く。同様に、音量最大にしたオーディオを用いて音楽を流し、目標のナイトウォーカーを誘い出す。
 地上班は、それをなんとかつかみ出し、地上に引きずり出す。
 空中班の片倉は然る後、空中より強襲。鋭敏視覚にて狙いをつけ、飛羽針撃でナイトウォーカーの前足を狙撃。地中を掘削するのに用いている前足を使用不能にすることで、逃走手段と地中潜行能力を奪う。
 梶尾はペイント弾を発射して目印に、ゆくるはヘッドライト装備で空中に待機し、闇波呪縛・虚闇撃弾を立て続けに放つ。彩佳はそれらのサポート。
 そして、空中班の行動と攻撃が終わった後、地上班も攻撃し、可能ならばナイトウォーカーのコアを抉り出し、これを殲滅する。
 これが、彼らが立案した作戦であった。
「‥‥うまくいくと、いい‥‥」
 もふもふとメロンパンを齧りつつ、ゆくるはつぶやいた。

 力強い翼を羽ばたかせ、鴉と鷹の獣人は砂浜の夜空を飛びまわる。
 同じく、蝙蝠の翼と蝙蝠に酷似した翼が夜風を切り裂き、星が瞬き始めた夜空に踊っている。
「さーってっと、オケラかアリジゴクのお化け、出てくるかしらね。色気ってもんがわかる相手だったら、この私のボディを見せるだけでさっさと出てくるんだけどねえ」
「ええ、全く。僕なんかもう誘惑されてメロメロですよ〜」
 竜華の豊満なボディに、顔をうずめようと試みた佐渡川であったが、逆に顔面を掴まれた。
「で? 次はどこを掴まれたいのかしら〜?」
「‥‥いえ、出来ればこの手を離していただけたら嬉しいかなあと」
 二人のやり取りを横目で見つつ、リーゼロッテは裸足となり、砂浜の感触を足裏で感じつつ、獲物の接近を待っている。完全獣化した猫獣人は、砂浜を見つめつつ、油断なく待機状態を続けていた。
 がなり立てる音楽が、耳に響く。
 この音に、果たして気づいてくれるか。焦燥感を抱えつつも、リーゼロッテは待ち続けた。

 一時間ほど経っただろうか。それは唐突に訪れた。
「‥‥!?」
 僅かな振動すらなかった。いきなり顔を出したモグラ叩きのモグラのように、それは砂中から顔を出した。
 クワガタの大顎というより、どちらかといえばアリジゴクのそれに近い。が、そいつの習性はアリジゴクよりもオケラのそれだった。
 リーゼロッテの足裏には、感じ取れる振動などなかった。
 佐渡川が懐中電灯を点滅させ、空中に居るものたちへと知らせる。死をもたらすそれは、害意とともに砂中へと戻ると、沈黙を守った。
「来るよ! みんな、気をつけて!」
 全身に完全武装したMAKOTOが、水面に潜む殺人鮫を討たんがごとく、携えた武器を構えた。手にした槍・黒十字と、体に着込んだキャッツアイの刺繍が、夜の海岸に美しくきらめく。
 あいつ、どこに出てくる。佐渡川か、リーゼロッテか、竜華か、それとも‥‥。
「!」
『それとも』が実現した。MAKOTOのすぐ足裏に、そいつの大顎が現われたのだ。間一髪、足を引っ込めるのが遅かったら、掴まれていたことだろう。
 しかし、幸いにも空中の梶尾のペイント弾が、そいつの頭部に命中した。一瞬動揺し、動きを止める。
「破っ!」
 MAKOTOが、槍を突き出す。鋭い黒十字の穂先が、そいつの体を突いたが、そいつの甲殻がそれを弾いた。速やかに砂中にもどったそいつは、再び沈黙する。
「なぜ、現われない? 『音』だけでなく、彩佳の言うとおり、『振動』でも察知してるのか?」
「‥‥ならば、行なうべき点は一つ」
 竜華の言葉に、発奮したかのようにリーゼロッテ、佐渡川は行動を起こした。
 走り出したのだ。白虎と猫と猿の獣人は、砂中の害意を引きずり出さんと駆け出した。
 来るか、来るか、来るか、来るか、来るか‥‥‥!?
「‥‥来た!」
 間一髪、竜華の足に噛み付こうと、砂中からそいつが顎を開きあらわれたのだ。
 細かい砂を被ったそいつは、砂で出来た害悪の塊のよう。それが今まさに、竜華のすぐ足先に顔を現したのだ。
 初戦における、最初の攻撃ならば、彼女はその餌食になっていたに違いない。が、仲間がすぐ近くにいて、マーキングを施され、さらには対策を練ってある。
 そして、戦闘能力を有する獣人でなければ、おそらく怪物は食事にありつけたかもしれない。
「細振切爪!」
 夜の海岸に妖艶さすらかんじさせる、美しい白の獣人が、醜い怪物へと爪をつきたてた。
 爪は、そいつの装甲をかすっただけ。しかし竜華は、そいつが逃げぬようそのまま掴み‥‥金剛力増によって、地上へと引きずり出す! 
「釣れたよ、大物がね!」
 昆虫めいた四肢を見るにつれ、オケラ、もしくはセミの幼虫にも似た印象のデザインだと‥‥空中の片倉は思った。
 鋭敏視覚を発動させているため、そいつの腕が装甲に覆われた、頑強そうな物である事も見て取れた。あとは、それを潰すだけ。
 竜華、リーゼロッテ、佐渡川が三方向から押さえ込んだせいで、足をじたばたさせるナイトウォーカー。飛羽針撃がうまく狙いを貫くよう、片倉は祈った。
「南無三!」
 片倉が、羽を放った。空中を貫く鋭い手裏剣となったそれが、視覚に捕らえた怪物の前足、ないしは甲殻の継ぎ目を正確に貫き通す。体液をほとばしらせながらうなり声をあげて、ナイトウォーカーは悶えた。そのまま体をもぎ放し、砂中へと戻ろうとする。
 が、前足はすでに、片方はもぎ取られて使えなくなってしまっている。砂中に戻ろうにも戻れず、隙だらけで攻撃する余地は十分にあった。
「はーっ!」
 MAKOTOの手から、槍が投擲された。貫徹しなかったものの、黒十字がそいつの体に突き刺さり、装甲にヒビを走らせる。苦悶とともに、そいつは砂上を高速で移動し始めた。地上班の円陣を突破し、砂上をすばやく走る。
「‥‥逃がさないです!」
 堤防の、人家へと続く道。地面がコンクリにかためられたところにたどり着く直前、空中の彩佳からのソニックナックルがそいつを強襲した。出会いがしらの攻撃が怪物の頭部に炸裂するも、頭部を守る装甲によりさしたるダメージになってない。
 が、それはゆくるの攻撃の補佐であった。
 それに続き、空中のゆくるが蝙蝠の翼とともにそいつに強襲したのだ。
「‥‥闇波呪縛‥‥!」
 触れた手から、呪縛の力が放たれ、ナイトウォーカーの動きを封じる。
「‥‥!!」
 そのまま、吸触精気にて怪物の命を吸い取る。止めの虚闇撃弾を放ち、コアを抉り取る頃には、ほとんど動きを止めていた。

「‥‥(もふもふ)」
 メロンパンを口にしつつ、ゆくるはWEAのバンにて休息していた。
 その近くでは、WEAの職員からタバコをせしめ、うまそうに煙を吸い込んでいる片倉の姿があった。
 状況が終了したのち、近くで待機していたWEAの職員に連絡した一堂は、同じくWEAのバンにて休憩中であった。
「一仕事したあとの一服は、また格別だな。そうは思わんかい?」
「‥‥うん(こっくり)」
 片倉の言葉に、にっこりしながら相槌を打つゆくる。
 砂中を進むナイトウォーカーは倒した。これからも様々なナイトウォーカーが現われ、そして今回のように苦心し苦戦する事だろう。
 だが、メロンパンがある限り、それらの艱難辛苦は乗り越えていけられるだろう。
 もふもふとメロンパンを齧りながら、彼女は物思いにふけるのだった。