下水道内の怪大蛇アジア・オセアニア

種類 ショート
担当 塩田多弾砲
芸能 フリー
獣人 3Lv以上
難度 難しい
報酬 13.5万円
参加人数 10人
サポート 0人
期間 11/30〜12/06

●本文

 そいつは、明らかに飢えていた。
 そして、その飢餓感は尋常ではなかった。

「ナイトウォーカーだ。退治して欲しい」
 単刀直入にして、理解しやすいその意見。しかし、シンプルな懇願であると同時に、複雑な背景を持つ事件でもあった。

 事件のおこりは、一週間ほど前に遡る。
 ペットショップ「ジャイアントマルチ」。都内にあるそこは、爬虫類専門で中くらいの大きさの店。爬虫類専門であるが、とくにヘビを多く取り扱っていた。
 通信販売も受け付けているが、「可能な限り、現物を直接手渡し出来ないかぎり、通販は受け付けない」というスタンスも有していた。できる限りヘビが搬送中に死んでしまったりするのを避けたいと、店主の永井は考えていたのだ。
 永井は非常に几帳面であり、今まで商品の爬虫類を死なせたり、逃がしたりという事は一切無かった。そのため、商品のトカゲやヘビは、ほとんど完璧な健康状態を保っていた。それだけでなく、いい加減な客と判断したら、購入を断るような頑固さも有していた。「捨てたり、死なせたりするような人間に、店のヘビを売るわけにはいかない」とは、永井店長の談。
 店には多くのヘビやトカゲが商品として飼われているが、特に一番の大物が、「ドワーフレティキュレーテッドパイソン」。体長二メートルで、茶色いウロコを持つこの大蛇は、性質は穏やかであり、いつもガラスケースの中でのんびりしたように体を動かしていた。

 が、ある時。とある客が、店に入ってきた。
 爬虫類に快適な温度をたもつため、店内はやや蒸し暑い。そのために彼は上着を脱ぎ、それを腕に抱えた。それとともに、イラストが描かれたシャツがあらわになった。
 件のパイソンは、瞬きしない目で、そのシャツ、ないしは描かれたイラストをじっと見つめていた。
 やがて、彼はグリーンイグアナを購入することに決めた。飼育用の道具や設備一式とともに、客はイグアナを買って、そのまま帰路についた。

 二日後、その客こと根津博之は、友人の藤田六郎とともに店に訪れていた。飼育用ケースのガラス板にヒビが入ってしまっており、取り替えてもらおうと思い訪れたのだ。
 が、二人はそこに入り、愕然とした。何かが暴れたように、店内は荒らされ、めちゃくちゃになっていた。一瞬、泥棒が入り込み、荒らしたのか‥‥と思われたが、それ以上の「違和感」があった。
 藤田と根津は、すぐにその原因を理解した。全てのガラスケースが割られているのに、逃げ出したヘビやトカゲが一匹も見当たらないのだ。
 根津は、藤田とともに逃げたヘビやトカゲを探した。が、一匹たりとも見当たらない。根津はロックとパンクファッションが趣味の、生物学者の卵。爬虫類を専門に研究しており、イグアナの飼育は趣味と実益を兼ねたものだった。そしてロック歌手を目指している藤田も、爬虫類の類は嫌いではなかった。なぜなら彼自身、蛇獣人であったからだ。
 が、藤田は不安を隠しきれない。この「普通じゃあない状況」が、考えるだに不安が募るものであったのだ。
 そも、何物かがなぜこんな風にガラスケージを壊したのか? 壊したのは良しとして、中にいただろうヘビやトカゲはどこに行ったのか? それだけでなく、店主の永井は?
 ふと、藤田はドワーフレティキュレーテッドパイソン、ないしはそれがいつも入れられていたガラスケージへと目をやった。
 外側に、ガラスが散っている。‥‥外側? 他のケージは、外から内へとガラスが散っている。が、そのケージだけ、「中から外」へとガラスが散っている。まるで、内部から外へとガラスを割り、出てきたかのように。
「!」
 その推測を思いついたのと同時に、根津の叫びを聞いた。駆けつけた藤田は、それを見て驚愕し、恐怖した。

 店の奥にそいつは、パイソンは潜んでいた。そして爬虫類とは思えぬ俊敏にして鋭い動きで根津に巻きつき、締め上げていた。
 藤田はそれを見て、腰を抜かした。あのパイソンは2m前後の大きさだったのに、そいつはもう1m以上は割り増しされてるように見えたのだ。それは全身を根津に固く巻きつけ締め上げていた。もがいていた根津だがすぐに動かなくなり、ぼきぼきという音が嫌に大きく響いた。奇妙な方向へと捻られた首は、ほとんど真後ろになっている。
 大きな口を開け、そいつは根津を飲み込もうとしたが、藤田へと鎌首をもたげた。その額には、コアが鎮座し、新たな獲物を捕らえんと見つめていた。

「‥‥で、藤田くんはその場からなんとか逃げ出し、WEAへと転がり込んだわけだ。今、WEA職員が調査しているが、あいにく警察が介入してしまい、かなりの騒ぎになってしまっている‥‥」
 既に根津と永井を含め、人命が失われていたのだ。「ジャイアントマルチ」には、数人の店員やアルバイトが勤めていた。が、当日に勤めていた者たちが、全員行方不明になっている事が判明した。おそらく、この怪物ヘビに食われたことは明らかだ。
 肝心の怪物ヘビの姿は見られない。が、この事件が発生した一日後。隣町に、ヘビの化物が目撃された。
 犬を散歩させていた若い女性の獣人が、公園内で引き紐を外し遊ばせていた時の事。
 いつもは戻ってくる犬が、いつまでたっても戻らない。心配して探しに行ってみると、公園の用水路、ないしはその下水道に続く開口部。そこからヘビの化物が体を伸ばし、犬に巻きついている情景を見たのだ。
 ヘビは犬を絞め殺し、その口に飲み込んでいた。が、それは普通のヘビではなかった。額にコアがあり、胴体の一部には甲殻と昆虫めいた脚があった。
 つまり、そいつはナイトウォーカーだという事だ。

「ペットの犬を食われたその女性、神岸綾子さんだが。彼女の見ている前で、ヘビは下水道の内部へと消えて行った。やつは下水道内部をねぐらにして、獲物を探しているに違いないだろう。君たちの任務は、この下水道内に入り込み、こいつを殲滅する事だ」
 そう言って、担当官は地図を目の前で広げた。
「これは、あの公園地下の下水道の地図だ。既に最初の事件から、一週間は経っている。が、怪物ヘビの目撃は今のところ無い。おそらくは下水道内にまだ潜んでいると見ていいだろう。内部に入って奴を追うか、でなければどこかに誘き出し、奴を倒すか。どちらにしろ、厄介な任務である事には違いない。引受けてくれるなら、すぐに取り掛かってくれ」

●今回の参加者

 fa0190 ベルシード(15歳・♀・狐)
 fa0481 石榴(22歳・♀・猫)
 fa0640 湯ノ花 ゆくる(14歳・♀・蝙蝠)
 fa3135 古河 甚五郎(27歳・♂・トカゲ)
 fa3309 水葉・優樹(22歳・♂・兎)
 fa3702 鮎川 雪(17歳・♀・狼)
 fa4716 エキドナ(24歳・♀・蛇)
 fa4773 スラッジ(22歳・♂・蛇)
 fa4807 葛城・郁海(20歳・♂・狐)
 fa5082 鷹飼・源八朗(19歳・♂・鷹)

●リプレイ本文

 WEAが用意した、下水道、ないしはその地図。公園の地下に縦横無尽に広がっているそれは、まるで人体の血管をレイアウト化したかのようにも見える。
 ベルシード(fa0190)は、鋭い視線を地図へと向けていた。食い入るように地図を見つめる狐獣人の少女は、まるでレイアウトそのものを覚えこむかのように集中している。実際、覚えるために頭に叩き込んでいたのだが。
 その隣には、石榴(fa0481)が水葉・優樹(fa3309)とともに和気藹々とした様子で言葉を交わしている。
「Agileprompt始動っ♪ 優樹さんっ、改めてよろしくねっ♪」
「グループ組んでの初めての依頼。頑張ろうなっ、石榴さん」
 が、スラッジ(fa4773)は二人の浮かれた口調が気になった。
「‥‥あんたら、ちょいと良いか? 口うるさい事を言いたくはないが、ナイトウォーカーとの戦いは遊びじゃあない。浮かれていると‥‥死ぬぞ」
「‥‥スラッジさんの言うとおり、です‥‥」
 湯ノ花 ゆくる(fa0640)が、メロンパンを口にしつつ静かに言葉を口にする。
「‥‥人が、死んでます。‥‥笑ってする事じゃ、ないと思います‥‥」
 ゆったりした口調の彼女なれど、その言葉の節々に響く真剣な響きには、さすがに石榴も浮かれ口調を止めた。
「ですな。少なくとも殺された人がいる。犠牲者を悼む気持ちがあるんなら、ちっとは遠慮する事も覚えるべきかと」
 ゆくるに同意した古河 甚五郎(fa3135)に、優樹もまた言葉を失う。
「‥‥そうだな、すまない」
「‥‥ま、まあ、気楽に行きましょう? とりあえず、行動の際にはソロは禁止。決定打な行動が思いつかなかったですから、戦闘時には僕は盾になりますね。目標が見つかればいいんですけど」
 その場をフォローせんと、鮎川 雪(fa3702)は地図を指しつつ言った。
 公園内部の下水道にて、一行は決定打とも言える行動を立案できずにいた。が、各自の戦闘能力はそこそこ充実している。むしろ戦闘そのものよりも、目標をこちらが先に発見し、これを攻撃する事の方が重要であった。
 危険を察知し、逃げられたらコトである。ゆくるはサーチペンデュラムを用いて目標を発見するつもりらしいが、その試みが成功する事を雪は祈った。
 
「おい、あれって湯ノ花ゆくるじゃね?」
「えー、まさか。なんで芸能人が、あんなツナギ着てんのよ。気のせいだって」
 公園、ないしはそこの下水道の管理施設入り口にて。一行が入り込む時に、近くを通りかかったカップルの会話を、鷹飼・源八朗(fa5082)は聞いた。
「くっ、俺もいつか、もっと有名にっ‥‥!」
「ほら、何やってるのぢゃ。行くぞ」
 エキドナ(fa4716)に促され、鷹飼は目前の小さなコンクリ製の小屋へと歩を進めた。。
 鍵が開き、扉が開く。湿っぽい空気とともに、そこには錆びた鉄の階段が地下へと続いていた。階段を下ると踊り場があり、調整室の入り口、そしてさらに地下へと続く階段がある。
 この公園の池は、雨水を貯蔵し調整する調整池。その集積・調整する施設がここであった。調整室にて、公園の池や下水道内の水流や水位、排水量などをある程度、計測する事が出来る。この部屋の下には、直接下水道、ないしは下水道内点検用通路へと入り込む入り口があった。
 もちろん、内部を進むための地図は必須だが。規模はさほど広くは無いが、それでも迷い出られなくなってしまうには困らない。
「ん、WEAからの情報どおりだな」
 葛城・郁海(fa4807)が、部屋を見回しつつ言った。正直なところ不安でいっぱいだが、致し方あるまい。
「下水道に潜り込み、やっこさんの得意な状況で戦うのは得策だとは言い難い。が、だからって下水道から追い出して公園で戦おうにも、こっちの本気を出せない上に、一般人に危険が及ぶからな」
「‥‥危険だけど‥‥下水道の中で、戦うしかない‥‥?」
「どっちの方向性で行ったって、虎穴に入るのは同じだからな。だったらこっちから入ってやるさ」
 ゆくるの言葉に、葛城は片目をつぶりながら応えた。が、そのゆくるはうんざりした顔をしていた。
「ここ‥‥臭くて‥‥メロンパン‥‥食べられないです‥‥」
 下水道から離れたここでも、悪臭が漂ってくる。明らかに市は防臭設備をケチり、その分金を浮かせたに違いない。そしてまず間違いなく、下水道はここより酷い悪臭だろう。
「さて、それでは行くぞ。仕事にかかるとしようかの」
 躊躇している皆を促すかのように、エキドナが声をかけた。

 先日、藤田と神岸綾子の元に向かったゆくると石榴は、サーチベンデュラムを彼らに使わせ、ターゲットのナイトウォーカーがどのあたりに居るのかを察知していた。
 とはいうものの、その場所は曖昧で、はっきりと場所を限定するまでにはいたらない。
 現在獣人たちが待ち伏せているのは、巨大な中継点めいた地点。いわば、下水道の支流が集まり、本流となって外部へと流れ出でる場所。
 幸いにも、ここの下水は一般家庭のそれとはつながっていない。むしろここから公園外の下水道へと流れ出て合流し、そして処分場へと向かっていた。
 そして、古河の立てた策により、温水を近くの下水から流れ込むようにしておいた。実際、流れ込ませた温水のせいで貧弱な灯りのなかでも湯気がたっているのがわかる。が、そのせいで悪臭もさらに強まってしまったが。
 残飯や、腐りかけた肉や魚なども流し、それ目当てでヘビの化物がやってくることを古河は祈っていた。トカゲ獣人の彼はつなぎを着込み、暗視スコープを借り、特殊警棒を携えている。ヘビを追い詰める目論見が、うまく働いてくれれば良いのだが。
 下水道の本流、ないしはその上流の方には、ベルシード、ないしは彼女の偽者が佇んでいた。どこからか迷い込み、出口を探しているかのように見える。
「‥‥まだ、こない‥‥?」
 ゆくるが尋ねた。彼女はドリルアームを右腕にはめ、下水道内部で待ち続けている。
 視線の先にいるのは、ベルシードの偽者‥‥灰代傀儡によって作り出した彼女自身の分身。そして偽者は本物同様に、完全獣化し、狐獣人の姿を露にしていた。
 もう一人、赤狐の獣人である葛城。彼もまた、獣化し敵の姿を待ち続けていた。革ジャンとライダースーツ姿の彼は、皮鎧をまとった盗賊を髣髴とさせる。手には、ゆくるから借りた日本刀が握られていた。
 鷹飼もまた同様にライダースーツとつなぎの上半身を着込み、ドスを持って待ち構えていた。
 狼獣人の鮎川は、クローナックルとバトルガントレットを左右の腕にそれぞれ装着し、獣化している。彼女は耳をそばだて、何かが接近しないかを警戒していた。
 ヘビを追い詰める、ヘビ獣人のエキドナとスラッジ。エキドナは丸腰だが、スラッジはヴァイブレードナイフとバトルガントレットで武装していた。二人とも、ともに完全獣化している。
 最後の二人、石榴と優樹が控える。石榴はババ・ヤガーの頭蓋骨を腕に装備し、光をそこからもたらしていた。青コウの剣を持つ優樹が、彼女とともに居る。青みがかった刀身が、彼と石榴に怪物へと立ち向かう勇気を抱かせていた。
 二人は、公園内下水道奥の方へと続く、排水口の近くに潜んでいた。ゆくると古河は排水溝出口近くに、ベルシードと葛城は右に、鮎川と鷹飼は左にて、それぞれ獲物を待っている。
 みな、待った。ヘビが出てくるのを待ち続けた。

 石榴が退屈を感じ始めあくびをし始めた頃、下水道奥の方から何かが流れ、それが次第に接近してくるのが見えた。
 皆が待ち伏せている場所は、不意打ちを食らわぬようになっている。二人づつになったせいか、互いに別方向を見張っているせいで、後ろからいきなりという事もない。
 が、全員が緊張感を取り戻し、そして戦慄が走った。
 流れてきた何か、それは蛇行、まさに蛇行し、下水の水面に波紋を浮かばせていたのだ。
「来たか‥‥!」
 トカゲ獣人が、ヘビを見て言った。そしてそのヘビは、ベルシードの灰代傀儡へ向け、長大なその体を躍らせ、巻きつかせたのだった。

 巻きつかれた傀儡は、そのまま下水中央にて霧散し、汚水に溶け無くなった。そして、残るはヘビのみ。
 全員が完全に獣化し、牙をむいて威嚇し、武器や爪をもってその身を引き裂かんとしていた。
 
 ヘビは、自らが襲った獲物が霧散したことから、自分が尋常ならざる状況に至った事を知った。そして、その鎌首をもたげ、四方から迫る獣人へと巨大な顎門を広げ、捕食せんと身構えた。
 目撃例と同様、なかば水没している胴体部分は甲殻が認められ、額には一ツ目がごときコアが鎮座している。
「はっ!」
 先手を切ったのは、優樹。空圧風弾を打ち込み、牽制し、然る後に青コウの剣で切りつける‥‥というつもりだが、そいつの動きはすばやかった。すばやく体をくねらせてその一撃のほとんどをかわすと、そのまま水没した。
 ヘビにはヘビ。エキドナとスラッジが水流へと足を踏み入れる。深い部分は腰まで浸かるほどの深さだが、周辺は足首程度までの浅さしかない。なんとかその部分で戦えれば良いのだが。
 そう思っていた矢先、二人の周辺に鎌首がもたげられた。
「!‥‥こやつっ、知っているのかっ!」
 エキドナがうめいた。
 姿が似ている事を知っているのか、ヘビの怪物はヘビの獣人に対して接近しようとしない。エキドナが器用な尻尾で巻きつけて押さえ込み、スラッジのナイフでコアをえぐる‥‥という攻撃を予防しているかのように、そいつは遠巻きに挑発するように鎌首をもたげ、威嚇するように顎を大きく開いていた。
 が、二人の行為は無駄ではなかった。警戒させる事で動きを止めさせたことで、ベルシードが行動に出られたのだ。
 俊敏脚足、超高速で踏み込んだ彼女の動きは、まさに神速がごとし。ヘビがそれに気づいた時には、ベルシードは攻撃位置まで移動を終えていた。
 そこを狙い、ヘビが長大な体と尻尾を用いて、鞭がごとく、棒術がごとく薙ぎ払おうとする。鮎川はそれを受け止め、受け流した。
「飛操火玉!」
 鮎川が稼いでくれた時間を用い、ベルシードから火球がヘビへと放たれる。ウロコと甲殻に覆われた、湿った皮膚なれど、それはわずかながらダメージを与えた。
 反撃せんとベルシードへとむかった怪大蛇は、尻尾の方から葛城と鷹飼による刃の一撃を食らった事を知った。尻尾の先端をドスが切断し、尾の一部を、日本刀が切り開く。
 どす黒い血が流れ、ナイトウォーカーは痛みに吼えつつ、水没した。
 濁った水の中、巨大なヘビのナイトウォーカーは姿を見せない。戦いの場が、一時静寂を迎えた。
「やつめ‥‥どこに逃げた!?」
 古河の疑問に、そいつは答えた。彼のすぐ側に現れ、尻尾に噛み付いたのだ。
「がっ! ‥‥こいつっ!」
 痛みと同時に、彼はにやりとほくそ笑んだ。
「自分の尻尾を食うつもりか? ならば存分に味わうがいい!」
 古河の言葉とともに、彼は自らの尻尾を根元より切り離した。奇妙にくねらせるトカゲの尻尾を、ヘビはがっちりくわえこんでいる。
 さらに尻尾には、得意のガムテープを用い、信管とスタンガン、雷管などをしっかり貼り付けていた。
「電撃尻尾に爆発尻尾‥‥食らいなさい!」
 尻尾を再生させると同時に、古河はそれを発動させた。ヘビの顎がふくれあがり、下あごを吹っ飛ばした。
 逃げようとした先には、ゆくるの姿が。
「‥‥虚闇撃弾」
 彼女の手より、周囲の暗闇よりなお暗い球が放たれ、ヘビに更なるダメージを食らわす。
「終わり‥‥ですっ‥‥!」
 回転するドリルアームのドリルが、そいつのコアに突き立てられ、砕いた。

 可能な限りの後始末を行い、一行は撤収した。
 そして、後日。新聞の記事に、「逃走したヘビ、死体で発見」の見出しがあった。WEAが用意した、カモフラージュ用のヘビの死体だ。あえてそれを置くことで、『逃走したヘビは死んだ』とマスコミに思わせる狙いがあった。
 周辺地域の住民は、それを見て安心したことだろう。そして報道の方も、すぐに忘れ去られるだろう。
 そして、同じ頃。スラッジの希望が通り、野良の犬や猫などのペットを葬る共同墓地にて、ヘビの墓が建てられていた。