特捜ロボ ジュピター9アジア・オセアニア
種類 |
ショート
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担当 |
塩田多弾砲
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芸能 |
1Lv以上
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獣人 |
1Lv以上
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難度 |
やや難
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報酬 |
1.3万円
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参加人数 |
8人
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サポート |
0人
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期間 |
12/14〜12/20
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●本文
新番組製作決定!「特捜ロボ・ジュピター9」!
…したのはいいが、中々大変そうな作品だなと、プロデューサーは考えていた。
「ロボと刑事のコンビによる特撮アクションか。並みの役者にはちっとばかし、荷が重いかもな」
特撮ヒーローにはアクションが付きもの。だが、この作品のアクターはかなりタフなやつでなければ務まらないだろう。
ヒーローは二人。様々なギミックを内蔵した犯罪捜査ロボット「ジュピター9」と、それを操る熱血刑事「神衣ライ」。
戦う相手は、やはりロボットを操って世界中の財宝を盗み出しコレクションする、犯罪組織「コレクター」。
ジュピター9はバイクに変形したり、体内に内蔵した武器を使って、敵犯罪ロボと戦う。これは着ぐるみで表現する事になる。
が、着ぐるみ自体、かなりの重量がある。撮影用の様々なギミックが内蔵されているし、電飾だって施されている。こいつを着込むだけでも重労働だ。その上で敵ロボと殴りあったりするとなると、相当のパワーとスタミナが必要になる。無論、演技力も重要なのは言うまでもない。ロボットらしい動き、アクションシーンでの格闘。それらを着ぐるみを着つつ演技できる奴がいるだろうか。体力のみならず、精神力もかなりタフな奴でもないと、つとまらないだろう。
ライ刑事役の方は、当然顔出しで演技することになる。が、こちらもジュピター9に比べて楽とは言えないだろう。
特殊刑事「神衣ライ」は拳法使いで、しかも自分でアクションして、さらにジュピター9が変形したバイクを乗りこなすという設定。つまり、殺陣ができて、バイクアクションもできて、さらに素の演技力を持った俳優が必要だという事だ。ルックスが求められるのも当然である。スポンサーは、七十年代の熱血漢的な役者を希望しているため、それに準じた役者が望まれた。
潤沢な予算が使える大作ならともかく、低予算のお子様向け番組で、そこまでできる俳優など見つかるだろうか? しかも、毎週製作し、放送しなければならないのだ。
オーディションも何度か行ったが、今までイメージにあった俳優は見つからなかった。
「まったく、こんな企画思いついた奴の顔を見てみたいぜ」
発注し、届いたマシンジュピター‥‥ジュピター9のバイクモードを見て、プロデューサーは思わずぼやいた。
じきに、ジュピター9の着ぐるみも納品されるはずだ。
特撮スタッフに発注した、ジュピター9変形シーンの映像も完成している。変形用モデルとCGを巧みに組み合わせて作り出されたそれは、なかなかの出来ばえで、完成した時が楽しみである。
お膳立ては整っている。後は、役者を集めて作品そのものを撮影しないとならない。
スポンサーは、まずはプレゼン用のパイロット版を作って、見せて欲しいと言ってきている。期日まではまだ十分に時間があるが、そろそろ撮影を始めなければならない。
パイロット版のコンテや脚本は、大体決まっている。ロケ現場の確保もしてある。
:コレクターの首領、ドクター邪華が、手下の美女ロボット「レディ・アイアン」に命じ、銀行の金庫襲撃を命じる。
:レディ・アイアン。クライムロボ「スクラッシャー」の能力で、金庫を破壊。保管されていた稀少ダイヤモンドのトランクを奪う。警察を蹴散らし、逃走するレディ・アイアンとスクラッシャー、コレクター戦闘員たち。
:だが、それを追うライとマシンジュピター。
採石場にて、マシンジュピターとコレクター戦闘員とのバイクチェイス。
:逃走しようとするレディ。立ちはだかるライに、スクラッシャーを向かわせる。
:ライ、マシンジュピターに指令「チェンジ! ジュピター9!」
特捜ロボ・ジュピター9とスクラッシャー、ライとレディとの戦いに。
:「ジュピター9! ロボット破壊砲!」
スクラッシャーは破壊され、レディはダイヤのトランクをそのままに逃走。
「『犯罪組織コレクターとの戦いは始まったばかりだ。行け、神衣ライ! 戦え、ジュピター9!』…ってナレーションで締めと」
普通のヒーローものとは、ちょっと異なる。主人公は変身するわけでなく、ロボットを操り戦わせる。しかし主人公自身も、格闘技の達人である。
この作品が製作されるか否かは、パイロット版の出来にかかっている。
楽な道のりではない。こんな手間のかかるものを率先して作るなど、バカ以外の何者でもない。が、この業界はこのような作品を作るために血道をあげているバカが多い。愚かにして偉大なる大バカが。
自分もその一人だ。そして自分は、特撮関係に関しては救いようの無いバカで有名である。特撮バカである自分を、彼は自分で呆れつつも誇りに思っていた。
自分と同じバカがいるかどうか、プロデューサーは今度行うオーディションにはそんなバカがいることを願った。
●リプレイ本文
「シーン♯03 テイク15‥‥アクション!」
:ナレーション「犯罪組織『コレクター』のアジト。組織の首領にして悪の天才、ドクター・邪華は、今日もまた宝物を狙っていた」
邪華「『アオルンガの太陽』‥‥この世に二つと無いダイヤモォォォンド‥‥この輝きは、私のコレクションにふさわしい‥‥あぁ」
デスク上に、立体映像で映し出される見事なダイヤモンド。
邪華「私の可愛いレディ・アイアンよ‥‥ミッションのダウンロードはカンプリィートしたね?」
視線の先に跪いたレディ・アイアンの姿が。その目の輝きが、赤の点灯から緑の点滅に切り替わる。
レディ・アイアン「ミッション・ダウンロード完了!」
邪華「グーッド。では、出撃したまえ! わが名のごとく、邪悪な華を咲かせるのだ!」
レディ「はっ!ドクター邪華の為に!」
「‥‥カット! OK!」
監督の声が飛び、緊張が若干緩和された。
「よし、五分休憩! その後で、バイクシーンのリハいくぞ!」
その言葉を聞き、ドクター・邪華とレディ・アイアンこと、四ツ目 一心(fa1508)と龍 美星(fa2426)は一息ついた。
「しかし、中々のアイデアを思いついたもんだぜ。ドクターをこんなキャラに変更しちまうとはな」
「俺なりに考えてみた結果だが、やっぱり変か?」
プロデューサーの言葉に、四ツ目は若干不安そうに尋ねた。撮影前に彼は、自分なりに考えた邪華のキャラクターを提案し、演じて見せたのだ。それは、元の邪華‥‥万能椅子に座り、命令を下す中年男性‥‥と著しく異なるものであったが、プロデューサーと監督はこれを気に入り、こちらを採用したのであった。
「いやいや、こっちの方が面白いぜ。監督もそう言ってただろ。大丈夫、責任は俺が取る」
別の場所では、Key(fa0426)がノートパソコンを広げ、スタッフと打ち合わせていた。声優アイドルの彼だが、今回は音響効果やBGMなども担当している。彼は撮影の合間、監督に作曲したBGMを聞かせて指示を仰いでいた。
「とにかくインパクト重視でいいんですかね?」
「インパクトももちろんだが、勇ましさも欲しいね」
「では、こんな感じでは」
PCで作り出した音楽に、監督は関心を示した。
「おっ、いい感じだ! よし、撮影がひと段落したら、この方向でちょっと作ってみてくれ」
そうこうしているうちに、休憩が終わった。次のシーンを撮影すべく、皆てきぱきと動き出した。
マシーンジュピターにまたがり、各部をチェックする。
「ベースマシンは‥‥なるほど、悪くない。ハンドルに、サスの状態は‥‥ちょいと干渉するな」
慣らし運転しつつ、九条・運(fa0378)はマシーンジュピターの各部をチェックしていった。
「ここの装甲版が少しばかり引っかかるが、あとはなんとかなりそうだ」
「コレクター・バイク部隊のセッティングもOKデス! いつでもいいデス!」
アイドル歌手の森村・葵(fa0280)が、声をかけた。彼女もまた、張り切っている。
声の主の周囲には、彼女を含め五人組の戦闘員たち。森村の他にはそれぞれ、Key、伊達正和(fa0463)、湯ノ花 ゆくる(fa0640)、河辺野・一(fa0892)。みな、人数稼ぎのために戦闘員役も兼任していたのだ。
「え? 翼はいらないですか?」
声優の湯ノ花は、半獣化した状態で役に挑もうとした。が、監督からのダメだしを受け、いささか落ち込んでいた。
「ゆくるさん、気にせずがんばって! ‥‥わたくしも、『戦闘員の掛け声は、今回は要らん』って言われちゃいましたし」
河辺野も、提案を却下されていたのだ。
『コレクターの戦闘員どもは強盗や泥棒、言うなればプロの犯罪者たちだ。そんな奴らが蝙蝠の翼を付けたりするのはおかしいだろ?』
事実、コレクター戦闘員のコスチュームは、黒ずくめの軍用ジャケットに近いデザインだった。頭部はぴったりしたヘルメットに、ゴーグル状の黒メガネ。悪の秘密結社のコスチュームというより、特殊部隊の戦闘服に近い。確かにこれでは、翼を生やしたり特徴的な掛け声を付けたりしたら、違和感を覚えるだろう。
『だが、お前さんたちがそれだけやる気を出してくれてるのは感謝してる。もしもこいつの放送・製作が決定したら、お前さんたちのアイデアを検討させてもらうぜ』
監督のこの一言で、河辺野は俄然やる気を出していた。
「シーン♯16 テイク03‥‥アクション!」
:ナレーション「銀行より、まんまとダイヤ『アオルンガの太陽』を奪取したレディ・アイアン。しかし、それを追う神衣ライ! 走れ、マシーンジュピター!」
レディ「うるさいハエめが! コレクター戦闘員、奴を倒せ!」
戦闘員「了解!」
ライに迫り来る、バイク部隊。
ライ「来たか‥‥行くぞ! マシーンジュピター、GO!」
呼応するがごとく、光るマシーンジュピターのランプ!
「本気で戦うつもりで演らせてもらう。みんな、いいな!?」
九条は、皆に宣言していた。リハーサルを終えた後、彼らは本番に入った。
竜の獣人の言葉に嘘はなかった。皆、それなりに覚悟を決めてはいたが、それ以上の覚悟が必要だと思い知らされる羽目になった。
:迫り来るバイク1・2。それらにマシーンジュピター。
すれ違いざま、ジャックナイフターンで、バイク1を跳ね飛ばし、バイク2にぶつける!
周囲を囲み、迫り来るバイク3〜6.
しかし、アクセルターンしつつ回転し、バイクを翻弄! 立ち上がりざま、ウィリージャンプ!
後方から襲い来るバイクに、いきなりブレーキをかけて逆に後方に。そしてリアガードをマシーンジュピターの前輪で叩き潰す!
「‥‥カット! よし、十分だ!」
本気の戦いを演じきった。監督の言葉に、九条は、そして皆は、満足そうに笑みを浮かべる。
が、バイクシーンは終わっても、これから真に重要な場面を撮らねばならない。
「戦いは、これからだぜ!」
九条は、疲れなど感じさせない口調でつぶやいた。
クライムロボ・スクラッシャーの着ぐるみを着つつ、九条は気合を入れていた。かなり大柄で、右腕には回転ノコギリ、左腕にはドリルが装着されていた。それぞれ、駆動ギミックが内蔵されている。
「敵をスクラップにするクラッシャー‥‥俺はスクラッシャー‥‥!」
暗示をかけるがごとく、彼はぶつぶつとつぶやく。
「レディ・アイアン。OKアル!」
龍は、腕を上げて答えた。
「神衣ライ、ジュピター9! 準備は!?」
「OKだ! いつでもいいぞ!」
「‥‥OKです!」
伊達もまた、九条に負けぬほどの気合が入っている。
ジュピター9内の河辺野は、予想以上の着ぐるみの重さに驚いていた。獣化した状態であっても、気を抜くと倒れてしまいそうだ。
だが彼は、いまや着ぐるみ内部で闘志を燃やしている。
「行きますよ、九条さん‥‥いや、スクラッシャー!」
「シーン♯32 テイク24‥‥アクション!」
:マシーンジュピターとともに、廃工場にレディ・アイアンを追い詰めたライ。
しかし、スクラッシャーが襲い来る!
ライ、腕のコマンドモバイルに命令を。
ライ「チェンジ! ジュピター9!」
マシーンジュピター、ロボに変形する!(変形シーン、ここで挿入) ジュピター9、登場!
レディ「おのれ、こしゃくな!」
拳法の構えをとる、レディ・アイアン。
レディ「ドクター邪華によって、私には世界中の拳法がインプットされている! マシーン拳法を受けてみろ、神衣ライ!」
ライ「望むところだ! 行くぞ!」
ライvsレディ! ジュピター9vsスクラッシャー!
ライのパンチと、レディのキックの応酬! しかしライ、分が悪い!
ジュピター9も、スクラッシャーと四つに組み付き殴りあう!
「これは‥‥くっ! 思ったよりキツイです!」
スクラッシャーの猛攻を受け、ジュピター9、ないしはその着ぐるみ内の河辺野は、体中から汗が大量に滴り落ちるのを感じていた。マスクの覗き窓部分が、息で曇り視界を妨げる。
が、それはスクラッシャー側も同じだ。敵役に作られただけあって、スクラッシャーはジュピター9以上に大きい胴体で、手足も思うように動かせる位置にはついていない。それでいて、オーバー気味のアクションをして、なおかつその動きに、ロボットらしさを含ませねばならない。
改めて着ぐるみの難しさを、二人は思い知った。演技力、体力、そして忍耐や耐久性を含めた精神力。その三つが無い事には、着ぐるみを演じる事はできないと。
:怒涛のごとく襲い掛かるレディ・アイアン! しかしライ、それをかわして跳躍!
ライ「必殺! 龍神三連脚!」
レディ「きゃあああっ!」
腕を負傷するレディ。傷口にはメカが。
スクラッシャー、両手の武器を振るい、ジュピター9を破壊せんと迫る。
ライ「クラッシュチェーン!」
ジュピター9の両腕から、チェーンが。それはスクラッシャーを打ち据える。
ライ「レーザースライサー!」
ジュピター9、頭部の両耳パーツを手で取り外し、投げつける。たちまち、スクラッシャーの両腕の武器が切断される。
ライ「とどめだ! ジュピター9、ロボット破壊砲!」
ジュピター9の胸部が展開し、破壊砲の砲身が。そこから、強力な砲撃!
スクラッシャーに命中! 爆発!
レディ「ああっ! スクラッシャー!」
ライ「おおっと、ダイヤは返してもらうぜ!」
逃げようとするレディの前に、ダイヤのケースを持ったライが。
レディ「おのれっ! これで勝ったと思うなよ、神衣ライ! コレクターは不滅だ!」
捨て台詞を残し、背中からジェットを噴射し、空へと逃げていくレディ。
「‥‥犯罪組織コレクターとの戦いは始まったばかりだ。行け、神衣ライ! 戦え、ジュピター9!」
河辺野のナレーションが、クロージングを飾る。その台詞が後日に収録され、撮影は終わった。
かくして、パイロットフィルムは完成した。
「予想以上のできばえだ。こいつなら、会社の上役たちも、すぐにゴーサインを出すことだろうよ」
特撮バカどもが、ここにまたひとつの作品をフィルムにたたきつけてくれた。
プロデューサーは忘れられなかった。試写の時に見せてくれた、参加者たちの笑顔を。
たとえお蔵入りになったとしても、この作品を作り出した連中は、次はもっと凄いものを撮るだろう。そういう確信が、彼の目には見えた。