ニワトリにさよならをアジア・オセアニア
種類 |
ショート
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担当 |
塩田多弾砲
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芸能 |
フリー
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獣人 |
1Lv以上
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難度 |
普通
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報酬 |
1万円
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参加人数 |
8人
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サポート |
0人
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期間 |
02/08〜02/12
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●本文
某県某市、市立滝沢小学校。
そこの、五年三組が行なっている課外授業。
それは、飼育。兎と鶏を飼育し、育てる事で生命の尊厳を学ぶといったもの。生徒たちの多くは、兎と鶏に対して愛情を注ぎ、それを育てる事に意義を見出していた。
が、皮肉にも生徒たちは学ぶ事になった。血と殺戮を、飼育したそれらから。
獣人の子供、涼野宮美玖。彼女は、今日もまたウサギ小屋のウサギが死体と化しているのを発見した。
滝沢小学校では、去年夏ごろからとある被害が発生していた。すなわち、ニワトリ小屋とウサギ小屋にタチの悪いいたずらが行なわれていたのだ。
最初の内は、ゴミを投げ入れたり、落書きされたりなどの程度であった。が、次第に放火したり、内部のウサギとニワトリを傷つけたりと、そういった被害が出始めた。
そして、ついにウサギやニワトリ、ヒヨコが惨殺される事件が発生した。ウサギやニワトリは数羽が撲殺され、ヒヨコは生きたまま棒に串刺しにして、地面に突き立て放置といった、残酷極まりない光景が繰り広げられていた。
当然、警備員が見張るも、人が居る時には必ず何もおきない。やがて2〜3週間ほどが過ぎてほとぼりがさめると、犯人は再び同様の事件を繰り返す。まるで、警備員や学校職員の隙をついてこういういたずらを行う事を、楽しんでいるかのようでもあった。
当然、犯人はわからず、犯人を目撃した者もいなかった。
そして美玖はある時、偶然に見てしまったのだ。土曜の夜。WEAの緊急会合‥‥この地域周辺にナイトウォーカーが潜伏している可能性が高いという警告‥‥の帰り、彼女の唯一の肉親であり保護者である祖父とともに学校の近くを通った。
そこで美玖は、ニワトリ小屋とウサギ小屋に入り込む三人の姿を見かけた。
それは、近所をたむろしている高校生。否、元・高校生。
美玖が二・三年生頃に、学校に放火した時の容疑者になったが、証拠不十分で釈放された者たちであった。聞くところによると、たちの悪いイタズラを行う事で有名であり、彼らならそのような事を行なってもおかしくは無いとの事だった。ちゃんと進学していたら高校一年生になっているはずだが、近所の世間話から聞くところによると、三人とも高校を退学させられたらしい。
祖父とともに、それを見ていた美玖。しかし、その場所からは遠く良く見えなかったが、彼女たちは「見た」
ニワトリ小屋に、巨大でおぞましい影が浮かんだのを。
それは、昆虫めいた脚をもっていた。それで立ち上がったら、高さは2mをはるかに超える。
嘴が伸びると、それは三人の内のひとりの額を貫いた。
そこから先は、二人とも見ていない。なぜなら、恐ろしさのあまりに逃げ出したからだ。
祖父がWEAに連絡した後も、美玖はあまりのショックに数日間ガクガクと震えていた。
祖父の涼野宮清士郎ですら、いまだ悪夢を見て吐き気をもよおすのだ。小学五年生の少女ならば無理もない。
「で、学校では翌朝にそいつらの死体が見つかった。ニワトリにつつき殺され、目玉を抉り出された三人の死体がな。当局は変質者の仕業と見て、周辺地域を色々と見て回っているが、当然犯人は見つかってない。それが五日ほど前の事だ」
君たちはWEAにて、今回の事件についての説明を受けている。
「で、昨日までに犬や猫の死体が発見された。それもかなり多くのな。この住宅街の近くには、(地図をスライドに写し)この通り、ほとんど廃屋になったマンションがある。五階でそれぞれのフロアに四つの部屋があるんだが、見ての通り古くていつ崩れるかわからん。土地の所有者と建物の所有者も異なり、権利問題が色々うるさく、金の問題も手伝い、建替えのための取り壊しすらできてない状況だそうだ。
で、件のナイトウォーカー‥‥便宜上、地獄のニワトリ野郎って事で『ヘルチキン』と呼ぶが‥‥こいつはまず間違いなく、このマンションのどこかに潜んで居やがる」
スライド上の地図に、いくつかの光点が重ねられた。それは一直線になっており、端はそれぞれ、学校とマンション。
「ヘルチキンによるものと思われる、死体の発見場所をつなげたものだ。これらの死体には、共通する特徴がある。‥‥全てが、目玉をつつきだされ、えぐられているんだ。最初が滝沢小学校の不良三人組、次がこの家で飼われていた犬、この点が野良犬、ここが野良猫‥‥ってな具合だな。
しかし、昨日に発見され、警察に報告された以外、今のところ犬猫およびそれ以外で『目玉をえぐられ突き殺された』死体は見つかっていない。まず間違いなく、このマンション内のどこかに潜伏しているんだろう」
スライドが消え、担当官は君たちに向き直った。
「マンション内には、住民はいない。だが、前の住人が置いていった家具や書類などが残されてはいるようだ。おそらく、それらのどれかに感染しているのかもしれない。落書きもいくつか見受けられるし、周囲から投げ入れられたゴミなどもある。感染媒体には困らんだろう。
ニワトリ野郎も、戦闘力はかなりあるものと予測できる。簡単にはいかない事件になるかもしれない。やってくれるなら、すぐに準備を整えてくれたまえ」
●リプレイ本文
静かだった。
聞こえてくるのは、遠くに響く都会の喧騒。くぐもった車の音と、朽ち果てた建物を打つ、ゆるやかな風の音。
獣人たちの前に見えるのは、怪しい古ぼけた廃マンション。そしてそれは、説明しがたい恐怖をかもし出している。それは静寂によって紛らわされはしない。なぜならそこには、あまりに危険な死の影が、夜歩くものが、地獄の鶏が潜む場所だったからだ。
ミカエラ・バラン・瀬田(fa0203)がそれを見た。
静寂がそこを支配する。凍てつきそうな空気の中、獣人たちが往く。夜の闇を。
靄が渦巻くが如き暗闇。あらゆる音は木霊となり、闇の中に吸い込まれ消える。まるで、悪夢の材料になるかのごとく。ミカエラは物怖じせず、仲間たちとともにマンションへと向かう。仮に彼女一人のみとしても、臆する事はなかっただろうが。
体が火照る。あたかも、熱病に浮かされるがごとく。四肢に熱き力が滾る。それは銃に装填され、今か今かと放たれるのを待つ弾丸のよう。
彼女はナイトウォーカーを憎んでいた。が、それらと戦うのは楽しくない事もない。そいつらにどんな手を使っても、良心は痛まないからだ。今回はどのような殺し方をしてやろうか。猟奇めいた妄想に、ミカエラの心が残酷な笑みを浮かべた。
「どーよ最近? 鳥インフルエンザとか流行ってるらしいけど大丈夫か? ‥‥ん? そんな事よりこれが欲しいって? しょうがねぇなぁ。じゃあ、鬼退治についてくるなら…」
道化めいたやりとりは、佐渡川ススム(fa3134)。
またはアマチュア芸人、
下ネタ男、
対NW戦闘員。
異種獣話にて、近くをうろついていた猫と頓狂な言葉のやりとり。手にしていた冷えきったフィッシュバーガーを投げて寄越すと、猫はそれをくわえ、闇へと消えた。一瞬硬直し、そして彼は知った。猫に晩飯を取られたことに。
「‥‥その可哀相な人を見るような視線はやめて〜」
猫とのコントを冷ややかな目で見つめるは、ミカエラを含む、彼の仲間。
「‥‥ま、まあ、周囲に人があまりいない場所で良かったですよね」と、紗原 馨(fa3652)の声が響く。
マルチタレント、
短刀使い、
狐獣人の少女。
彼女の言うとおり、都会のど真ん中に関わらず、マンション周辺はあまりに人気の無い一帯。まるで真空地帯、人の生活空間の隙間。最寄のビルは不景気で店舗募集中、最寄のマンションも高額ゆえか住民はほとんどゼロ。かてて加えて、近くには寺院と墓地。廃マンションに人が住み着いたら、毎朝の挨拶とともに眼下に広がる墓場が目に入った事だろう。
「確認しますけど、待機班と探索班の四人ずつ二組に分かれて‥‥ってことで、いいですね?」
バッファローの姿と力をその身に宿しは、美角やよい(fa0791)。その顔にかけるは、漆黒の黒眼鏡。眼球を防護するための装備。やはりサングラスをかけるは、猿獣人の河辺野・一(fa0892)。
「佐渡川さん、紗原さん、マリアーノ・ファリアス(fa2539)さん、フォルテ(fa5112)さん。そしてわたくし河辺野。以上五名が探索兼囮としてマンション内を探索。ミカエラさん、美角さん、そしてディンゴ・ドラッヘン(fa1886)さんが待機班で、誘き出して来た『ヘルチキン』と相対。然る後に撃破・殲滅‥‥間違いないですね?」
「ええ、間違いはありません。このようなおぞましき存在、我らの手で確実に討ち取りましょうぞ」
嫌悪感とともに、吐き出す一言。
其はディンゴ。
竜獣人、
拳法家、
ダマスカスの鎧を着込みし者。
竜の言葉に、頷く同志。狩が始まる。夜空に浮かぶは月。今宵は正に、狩の夜。狩人の月夜。
マンション入り口、エントランスルーム。
広く、天井もある。円形のそこは、髣髴とさせる。ギリシア遺跡の円形闘技場、コロッセオを。
三人の獣人、竜のディンゴ、蝙蝠のミカエラ、野牛の美角を残し、二人の狐、三人の猿は階上へと向かう。
「五階の501号室にいたりシテ! 501‥‥コワイ、ダシ!」
悪戯な瞳で、無邪気な軽口。栗鼠猿の少年獣人は、恐怖を知らぬ言動を。
しかし周囲への警戒は怠らず、視線の先に敵はないかと、送るは油断無き眼差し。
其に守られしは、手にアーチェリーを携えた狐の少女、
フォルテ、
旅芸人、
ジャグラー、
アーチャー(射手)。
囮を買って出た彼女。狙う獲物、ナイトウォーカーにとっては上質の獲物だろう。狙う敵が、食いついてくれればの話だが。
「僕のアーチェリー‥‥通用するといいんだけど」
その肢体に、不安という名の重圧がのしかかる。それはフォルテの五感をなめつくし、なお締め付ける。まるで目に見えぬ拷問、見えざる敵。
折りしも一行、三階の踊り場。ここより一室ずつ見て回る事に。
「ここには‥‥いないな。っていうかなんだこりゃ、ねじくれた悪夢の森、ここに爆誕ってか〜?」
佐渡川の言葉が、部屋に響く。確かにそこはねじくれた、悪夢と混沌のユニバース。奇妙な世界を形作るは、ねじれた鉄材と歪んだ木材。廃棄して然るべき、汚れたジャンク。
そこはかつて、今はいない前の住民、ないしはそのアトリエだったところ。廃材を用いてはオブジェを作り出す、奇妙にして奇怪な作家の部屋。
部屋の主は急死したが、オブジェだけはそこに置かれ、見る者無きままに朽ち果てつつある。
「ここも、無さそうですね。それにしても、なんだかヘンなものばかり‥‥」
「!」
紗原がオブジェの一つをよく見んと近付いた、まさにその時。
オブジェの一つが、動き出した。
「ヘルチキン(地獄の鶏)? いいや、へルビーク(地獄の嘴)ですよっ!」
河辺野の指摘、フォルテの射撃、マリアーノと佐渡川の戦闘への切り替えが全て同時に発生し、実行され、状況が変化した。それと同時に、狙うべき怪物‥‥恐るべき存在の全容が、一行の前に曝された。
そいつを鶏と形容するのは不正確。確かに鶏には違いない。が、体は各部が逞しい筋肉の塊であり、爪は臆病者(チキン)と呼ぶには相応しくない凶暴で凶悪なる鋭さ。河辺野がもらした言葉どおり、嘴はどんな猛禽でも羨むほど、尖り鋭い槍の穂先がごとし。それはまるで、地獄そのものすら穿ち、ほじり返す事すら可能という錯覚すら起こさせる。
否、錯覚でない事を判明せんと、そいつの嘴が河原野を襲う! 壁に嘴を、床にもカギ爪を穿つ。鋭い先端が、コンクリートに恐ろしい痕跡を残し、室内を破壊する。
床に強烈な穴を穿ち、床そのものに巨大な穴が開く。嘴の一撃一撃が死の調べ。甲高い鳴き声は、一つ一つが死への誘い。胸部に輝くコアが、死の誘いを更に増す。
獲物の誘い込みを成功したナイトウォーカーは、獲物を穿ち、貫き、捕食する事に力を削ぎ始めた。
「!」
紗原が、襲われた。サングラスをしていたところで、そんな防御は紙に等しい。サングラスは易々と貫かれ、目玉が抉り出される。
灰代傀儡の変わり身が、受けた攻撃とともに消滅した。これが本体への攻撃であれば、彼女の人生はここで幕を下ろしただろう。
幸いにも、それは幻。幻影、偽者。
それが稼いだ時間と、フォルテの掃射が功を相した。彼らはすぐに、階下へと逃走する。
ヘルチキンはそれを追い、甲高い鳴き声で突進した。
玄関ルーム、エントランスホール。
処刑場と化したそこには、処刑人が三人。
ミカエラ、
美角、
ディンゴ。
トランシーバーにて受けた連絡で、ここにナイトウォーカーが降り立つのはわかっていた。そしてそれは、今目の前に。
既に他の連中は、物陰に隠れている。既にもう、ここで行なわれる処刑の目録は作られている。ここは手術台、外科医は三人、摘出するは鶏の形をしたおぞましき腫瘍、膿、腐った患部。
獣化した三名が、一斉に襲い掛かった!
前世紀の怪鳥、陸上を闊歩し支配したジアトリマやエミューのような飛べぬ鳥。ヘルチキンもそれらを彷彿とさせつつ、逞しい両足で突進した。
「ディンゴ・ドラッヘン。推して参る!」
「はーっ!」
「!」
三者三様の掛け声で、獣人もまた突進する。
鋭き嘴の突き。凶暴な槍の一撃にも勝るそれは、一撃一撃が死そのものな重たき攻撃。それを紙一重でかわすミカエラは、接近を試みる。
が、悪夢の鶏はそれを許さない。
「!」
そのとき、一瞬の隙ができた。アーチェリーが放たれ、片目に突き刺さった。空を切ったフォルテの一矢が、言葉どおり一矢を報いる事になったわけだ。
美角の突撃が、金剛力増で増した一撃とともに、嘴をかいくぐり、ヘルチキンの胴体に頭突きを食らわした。力とともに、たたきつけ、たたきつけ、たたきつける。
その攻撃を見計らい、ディンゴが行動した。懐に飛び込んだ彼は、一撃を食らわさんと強靭な四肢の攻撃を放った。が、美角の攻撃を耐え抜いたヘルチキンが、その嘴を突き上げる。
それに対抗するは、ディンゴのドリルアーム。貫き穿つ地獄の嘴と、貫き抉る回転する螺旋とが、鋭き切っ先同士を付き合わせかち合わせる。
その一瞬を見逃さない、怒れる蝙蝠の処刑人。
「これでも、グラップラーオブイヤーに自薦するほどの自信はあるんデスカラネ!」
言葉どおり、グラップラーとしての実力がミカエラを踊らせ、彼女を戦わせる。片手の爪が、胴体に食い込まれる。もう片腕は、おぞましき敵の首にしがみつく。
金剛力増を用い、美角がそれを手伝った。即ち、地獄の鶏の脚に組み付き、これを倒したのだ。間髪いれずディンゴが、ドリルアームの螺旋を用い、その胴体へと深く貫いた。
怒れる怪物、怒りの嘴、怒った一撃。鋭き嘴の一撃が、ディンゴの心臓を貫き通さんと突きたてる。
が、ダマスカスアーマーが、彼の身を守った。
「熊のNWの締め付けすら凌いだこの鎧! 容易く砕けると思う勿れ!!」
「YES! Go to hell(地獄に落ちな)!」
歪みと狂気めいた笑いとともに、ミカエラが最後の攻撃を放った。
最初の一撃は、嘴に。おそるべき武器は、ミカエラの拳の前に砕け散った。
次の攻撃は、胸板に。鈍く輝くコアへと放たれ、それを抉り取る。
最後の攻撃は、コアそのものへ。怒りとともに床に叩きつけ、それを砕いた。
遅れて断末魔の声が放たれ、数秒後、静寂が甦った。
三途の川の渡し守へ、怪物をゆだねた一行。
周囲の状況を確認し、彼らはWEAへと連絡を入れた。
状況整理し、ひとごこち入れるメンバーたち。が、ミカエラのみは猟奇にして暴力的な行動を止められはしなかった。
「殺された方々が報われるような味かどうか‥‥確かめてヤル」
起こした焚き火の炎で、抉り出した目玉を焼く。周囲の仲間たちは近付きたがらないも、そんな事はどうでもいい。
ケモノめいた、まさに獣めいた仕草で、そいつの目玉へ噛み付き飲み下す。これでこそ、敵を完膚なきまでに叩き潰したというものだ。
復讐や憎しみは空しいもの? 誰がそんな世迷言を?
憎悪は力、復讐は力、戦う時に頼りになる力。
ナイトウォーカーを狩る戦士として、この力を蓄え、そしてこの命ある限り狩り続けよう。
苦くまずい、焼いた目玉。それは復讐者としての、甘美なる味わいとが同居する。
その二者の奇妙な混合を味わいつくし、ミカエラは堪能した。