おぞましき逃亡者アジア・オセアニア
種類 |
ショート
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担当 |
塩田多弾砲
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芸能 |
フリー
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獣人 |
2Lv以上
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難度 |
普通
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報酬 |
3万円
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参加人数 |
8人
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サポート |
0人
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期間 |
02/13〜02/17
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●本文
おしなべて、生物は生存競争に打ち勝つため、平たく言えば生き延びるために、時として驚異的な力を発揮する。
それは獣人でも、そしてその天敵でも変わりはしない。否、獣人たちの天敵の方が、ある意味驚異的な力を発揮し、恐るべき結果を残す。
犠牲者を餌食にするという、恐るべき結果を。
夕刻にて、とある工場跡廃墟。
周囲は自然がとりまき、街灯もない。道路の行き止まりの果てに廃墟があるだけで、先に進む事は出来なかった。
その二人は、倦怠期に陥っていた。二人の友人は仲直りできるようにと、少しは仲が好転するようにと、色々世話を焼いていた。そのほとんど全てが無駄に終わったが。
今日もまた、館林栗恵と大河原清十郎の二人は、ドライブ旅行の果てにこの地に到着したところであった。正確には、道に迷い立ち往生した結果なのだが。本当ならば、今頃は旅館に到着し夕食を口にしているはずだった。
「あなたがこっちで良いって言ったのに!」
「ナビが修理中だったんだからしょうがねえだろ!」
「私のいうとおりに進めば、こんなところに来ること無かったのよ!」
「だったらその時に言いやがれ!」
寄ると触ると、すぐに口論。付き合い始めてそろそろ一年になるが、当初はこんなに仲が悪いわけではなかった。そのはずだった。
清十郎は確かに優しいし、思いやりもある。が、口と行動が伴わない事も又多く、言い訳もまた多い。更に悪い事に、やや不潔でだらしない一面があり、それがきれい好きで几帳面な栗恵の癇に障った。
が、栗恵にもまた欠点があった。正しいと思ったことを他者に伝えるのは良いが、それが押し付けがましく、さらには他人の異なる考え方に納得がいかない時にはとことん話し合って白黒を付けたがるところがあった。ゆえに、口うるさくうざったい女‥‥と、煙たがられる事もしばしば。
「だいたいお前は、いつもああだこうだと口うるさいんだよ。どうでもいい事もしつっこくガミガミ言いやがるし」
「何言ってるのよ、あなたがいい加減なだけじゃないの。いつもだらしなく不潔にしてるから、そんな怠け者になってるのがわからないの?」
「そんなの、関係ないだろうが! そうやって関係無い事を持ち出して、自分が正しいって言いたいだけだろ!」
「正しくないんなら、それを証明してみなさいよ! それが出来ないのは、あなたが間違ってるって事! あなたこそ、自分の間違いを認めたくないから私を非難してるだけだわ!」
正に犬猿の仲。二人が一緒にいると、いつもこうなる。きっかけは何でもいい、つまらない理由でどちらかが相手に辛辣な一言を言い出し、それに言い返す。そこから互いに一歩も退かず、最後には怒鳴りあいのいがみ合い。そして、数日間口を開かず、数日後になんとなくいっしょになり、デートして、再びこういう繰り返し。
二人のそれぞれの友人たちも「仲がいいねえ」と当初は冷やかしていたが、このところは放置している。正直、相手にときめかなくなっていた。
別れたいとも思うが、それでもどこか魅かれてしまう。なぜかはわからないが、お互いにまだ魅かれあう何かがあった。
「何が証明だ! お前こそいつも『自分が正しい』ってそればっかりだろうが! お前こそ、自分の間違いを認められない身勝手女のくせして、偉そうな事を言うな!」
が、ケンカの時には「互いの魅かれる何か」は、頭から吹っ飛んでいる。
「な、何よ! バカ!」
栗恵は清十郎の「身勝手女」の一言で、頭に血が上った。平手を一閃すると、清十郎の車から出て行き、目前の暗い廃墟の中へと消えていってしまった。
「‥‥へっ、なんでぃなんでぃ、わがまま女が・・‥」
ふてくされた清十郎は、そのままハンドルに突っ伏したが‥‥いきなり飛び起きた。
栗恵の悲鳴。それが、目前の廃墟の中から響いてきたのだ。
「栗恵? ‥‥栗恵!」
車から飛び出した清十郎は、廃墟へと踏み込んだ。誰も入り込んでいないようで、あちこち入り組み、さびついた設備や機械、資材がそのままに放置されていた。ちょっとした迷路であるようにも見える。
別の壁には、写真がいくつもかけられていた。この工場の沿革らしく、工場完成記念、創業記念、二代目社長の就任などの写真が立てかけられていた。
その壁を通り過ぎ、さらに奥に進むと‥‥。
栗恵は、すぐに見つかった。が、栗恵の目の前には、猫の死体があったのだ。
正確には、栗恵はそれに喰らいついていた。
「く‥‥栗‥‥恵?」
あまりに異様にして面妖。否、奇妙にして異常なる状況。
栗恵は、ゆっくりと清十郎の方へと顔を向けた。その瞳には尋常ならざる光が宿り、その口元には奇妙な笑みが浮かんでいた。
ここから先は、清十郎は覚えていない。こけつまろびつ逃げ出し、車に飛び乗り、そのままその場から離れたのだ。
これがもとで、清十郎は自らの命を絶った。
家に戻った清十郎は、寝床に入り込みガタガタと震え続けた。一睡も出来ぬままに。
仕事にも来ないので、心配した友人が訪ねてきた。そして、彼の口から事情を知った。目の前で、怪物じみた行動を行なった栗恵の事を話したのだ。
「あいつ‥‥怪物になってた、お、俺が、怪物にしたんだ‥‥俺が、あいつを殺して、見捨てたんだ‥‥」
栗恵のその時の形相が、あまりに恐ろしかったのだろう。それだけ言うと、彼はぶつぶつと口の中で繰り返すのみ。
次の日、清十郎を訪ねた友人は、彼が洗面所で手首を切って事切れていたのを発見した。
「これが、WEAエージェントから報告された、事件の概要。この直後、強い腐臭を漂わせた女性が、廃墟から1kmほど離れたこの場所(そう言って、スライドの一点を指す)にて目撃された。この先には、廃村がある。かつて、幽霊が出るだの何だの言われ、結局出なかった廃村がな」
WEA内、会議室。ナイトウォーカー殲滅の任務内容が、参加者たちに伝えられていた。
「こいつには、どういう能力があるのかわからん。一つ言える事は、村のどこかに潜み、そしてこのカップルのような犠牲者を待ち受けているのは間違いないということだろう。
廃村自体は、昭和60年前後くらいから放置されている。もとは人口500人くらいの小さな村落だったが、住んでるのは年寄りばかりで医者も公共機関もない。結局住民が全員死ぬか他の土地に移るかして、そのまま放置されてるってな状況だ。
が、最近県の方では再開発の話が持ち上がっている。放置したままだったら、ここに潜伏している怪物がまた別の人間に感染し‥‥ってな事が起きかねん。すぐに、館林栗恵嬢に感染し実体化したナイトウォーカーを発見し、これを殲滅せよ。
何か質問は?」
●リプレイ本文
「人払いの必要は無かったか‥‥。ま、その分思いっきり戦えるってなもんだな」
LUCIFEL(fa0475)。銀狼獣人の銀髪が、寒風にたなびきつつ流麗な画を見せる。
彼の隣には、彼に負けぬほどの銀髪を逆立てた、緑川安則(fa1206)。迷彩服に身を固め、腰に下げるは降魔刀。だが、手のUZIが刀よりもものを言わせるだろう。
緑川は、ジープで件の廃村に乗り付けていた。満載した銃火器を用いれば、間違いなく戦争を引き起こすことが可能だろう。実際、それだけの火器を持ち込んでいたのだ。警察関係の人間に呼び止められない事を、悠闇・ワルプルギス(fa5167)は願っていた。呼び止められたとしたら、まず間違いなく誤解された事だろう。
九重・コノヱ(fa2638)も、悠闇と同様の不安を覚えていた。もしも警察の厄介になる事態に陥ったら、その元凶を作ったマネージャーにも同じ責任を取らせてやる。
逆に、群青・青磁(fa2670)は慌てる様子を見せなかった。トレードマークでもある狼の覆面によって表情が見えないものの、彼はまったく物怖じしていない。
「どんな能力を持っていようがヤることに変わりはねぇ!!叩いて潰すそれだけだ」
「うむ、その通り! なにげに逃げちゃダメだっぽい汎用猿型決戦兵器を勝手に自称するこの俺が来たからにもう大丈夫! セントラルドグマっぽく深く静かに潜行しては最後にみんなでおめでとーの意味不明な大団円を迎えさせるともっはっはっは」
群青とともに些か悪乗り気味なハイテンション男は、佐渡川ススム(fa3134)。真剣なのかふざけているのか分かりにくい彼ではあったが、ことこの手の任務においては頼もしい存在である事には変わりない。
「しかし‥‥」
しかし、任務とはいえ、女性の形をしたものを攻撃するのはためらいがあるな‥‥。神塚獅狼(fa3765)が小さく、そして寂しそうにつぶやいた。
「俺も、同感だ」
神塚の言葉に、LUCIFEL‥‥ルシフも同意した。
「二人は、おそらくお互いに好きだったんだろう。別れられなかったくらいにな」
彼氏の方は、おそらく彼女のもっとも見たくなかったところを見ちまったに違いない。ましてや、そうさせたのが自分だと思い込んじまったんならさらになおの事だ。
「許容できるナイトウォーカーなんざいないが‥‥虫唾が‥‥走るぜ」
既に周辺には、人の生活圏は無い。かつての住民たちは、全員が引っ越したか他界したかで、村に残っている生活の痕跡は、ほとんどが消え去ろうとしていた。
村はかつて、工場に勤める労働者たちの住宅地として、そして街道沿いに存在する商店街として発展させようと考えていたようだ。が、肝心の街道が別の場所に敷かれることになり、村は街道から離れた、山の奥の方に位置する事に。
更に悪い事に、工場は長くは操業しなかった。若者はいなくなり、家族が定着しない。ある程度は拡大した村だったが、すでにこの時、緩慢なる終わりが始まっていたのだ。
「空から調べてみたけど、あまり良くわからなかったわね」
「ええ、地図との違いもそうなかったし‥‥この村の、どこに隠れているのか。まずそれをはっきりさせないと」
獣化し、飛行した九重と悠闇、そして緑川の三人。小鳥、蝙蝠、竜の三人はWEAから渡された地図との確認、そして空から見て目標のナイトウォーカーを見つけられないかと思っての偵察を行なったのだが、見つからなかった。
既にここを引き払ったか、あるいは空から見つからない場所に潜んでいるのか。後者である事は容易に想像がついたものの、それならばどこに潜んでいるのか。
どのみち、これほどの数の獣人が近くに来ているのだ。奴も必ず、尻尾を出すに違いない。
「A班安則だ。現在村の上空、敵影は確認できず。発見次第、応援要請を行うのでよろしく」
空中から連絡をいれ、緑川は地上へと舞い降りた。
緑川、神塚、悠闇とチームを組んだルシフは、村内部の商店街、ないしは商店を覗き込んでいた。
残りのメンバー‥‥九重、佐渡川、群青は、商店街とは違う、別の方向を探している。
「駄菓子屋か‥‥張られているポスターからすると、年代は90年代初め位か。あの頃はこれ流行ったもんだな」
色あせたポスターとカレンダーが、店内に飾られている。それはまるで、この店内だけの時間がゆっくりと切り取られたかのよう。さすがに中に入っている食品や商品まで放置されているわけではないが、それでも多くのゴミやなにやらが散らばっていた。
「まあ、こういうところは今日本中にあるからな。これからもNWとの戦闘は厄介になるのは間違いないな‥‥」
ばらばらになっていた駄玩具をとりあげ、神塚がぽつりともらした。
生活の痕跡、まるで建物そのものが死体となって放置されているかのよう。
「‥‥?」
だが、緑川が妙な気配に気づいた。
「しっ‥‥何か、感じないか?」
「いえ、何も‥‥」
悠闇が返答しかけ、そして、気づいた。
何かが、いる。何かの気配が、すぐ近くに潜んでいる。が、それがどこに潜んでいるか。そこまでは確たる事は言い切れない。
「!」
UZIを構え、緑川は店内へと銃口を向けた。
「!?」
銃声、そしてソレに続き、慌てるような連絡。
『こちらA班! 目標を捕捉! 現在交戦中! 至急応援を要す! 場所は‥‥!』
「了解、すぐに急行する! みんな!」
九重、群青ともに、獣化した佐渡川が駆け出した。
「‥‥見えたか? 今のを」
「ああ、見たぜ」
ルシフは自らの時計を見た。おそらく今、光っていることだろう。周囲が明るすぎ、淡いそれは自分には見えない状態なのだが。
駄菓子屋の屋内から、電光石火で何かが鎌首をもたげ襲ってきた。それは緑川とルシフの足元にあった錆びた石油缶を捉えると、ほぼ真っ二つにして屋内へと引きずりこんだのだ。
そこから後ずさり、距離をとる。全員が獣化し、見えざる敵、見えない怪物、不可視の目標へと視線を向けた。UZIを構えていた緑川だったが、彼に倣い他の者たちも携えていた武器を手に取る。
ルシフはライトバスター、神塚は日本刀、悠闇は鞭を、その手に握る。緑川も降魔刀の柄に、手を伸ばした。
すぐに、仲間たちがやってくる。それまでもつか‥‥。
その考えが浮かんだ直後、再び「それ」が襲ってきた。彼らは、考えるより前に行動した。
「それ」はまるで、鎌首は蛇かなにかのよう。しかし、頭部は蛇というより、甲殻に覆われた芋虫のそれだった。UZIが再び炎を吹き、着弾する。額のコアが、瞬きするかのように光った。
逃げようとするところに、悠闇の鞭が叩きつけ、巻きつける。間違いなく、そこにいるそいつを捕らえた!
「そこか! コアの場所さえ分かれば!」
三本の剣が、そいつにつきたてられた。虫唾が走る、おぞましい叫び声が周辺に響き渡った。
まるで、蛇のような、否、芋虫か蛆のような姿。頭部にはコア。全長5m、太さ60cm程度の蛆虫。胴体の下に短い脚が生えているが、先刻のようには動けずもぞもぞ這い回るのみ。
堅く巻きついた鞭によって、そいつは身動きがとれていないようだ。
「とどめだ、これでもくらえっ!」
ライトバスターの光刃が、コアへと切りつけられる。
三人の仲間が駆けつけた時、怪物の姿が、徐々に見え始めてきた。
「俺がこちらを探していれば、護月耐幻で真っ先に見つけられただろうにな」
群青がつぶやいた。
それは、いうなればハンミョウの幼虫のような生態をしていたようだ。長い胴体の芋虫状で、尻の部分は細長く掘った穴に固定。
そして、頭部の牙を持つ口で近くを通りかかった獲物にいきなり襲い掛かり、噛み付いて引きずり込むと。
クワガタの大顎を小さくしたような牙が、恐ろしげではあった。幸いだったのは、この一発芸的な能力のせいか、耐久力がそれほど無かった事。そして頭部の甲殻が、予想以上に脆かった事。
「こんな店の中に隠れていたんじゃあ、空中から見ても分かるわけありませんでしたね。ともあれ‥‥」
九重が、安堵のため息をつく。
「状況‥‥終了。撤退準備だな」
緑川の言葉とともに、ルシフらは頷いた。
これで、彼氏の魂は浮かばれただろうか。彼女の無念は、晴らせただろうか。
それは誰にもわからないだろう。だが、そうであって欲しい。おぞましい逃亡者の逃亡劇は、これで終わりだ。
二人の愛よ、永遠あれ。冥福を祈るともに、ルシフは小さく鎮魂の言葉をつぶやいた。