おそろしき怪球アジア・オセアニア
種類 |
ショート
|
担当 |
塩田多弾砲
|
芸能 |
フリー
|
獣人 |
3Lv以上
|
難度 |
やや難
|
報酬 |
9.9万円
|
参加人数 |
8人
|
サポート |
0人
|
期間 |
03/08〜03/12
|
●本文
とある街角。
午後10時。今から五人の人間たちの人生が交差する。
ペットショップを閉めて帰宅しようとしているのは、店の経営者。入荷したハリモグラが売れることになり、彼の頭の中にはその計算が行なわれている。
奥の事務所。入社して一年になろうとしている新人が、PCの端末にデータを入力している。遅くとも午前零時には終わるだろう‥‥運がよければ。
店のすぐ近くには、深夜タクシーが停車。客を求めてあちこちを走り回っていたが、実入りが無いのでちょっと停車し、アンパンで腹ごしらえ。
車の横を、高校生が携帯でメールを打ちながら通り過ぎる。来年は大学受験、そのためには今から気合を入れて勉強しないと。
彼とすれ違い、ジョガーが走る。近所に住む老人だが、夜のジョギングを欠かさず行なっているために、健康そのもの。もうすぐ70だが、彼自身はあと10年、否、20年は生きられるだろうと思っていた。
‥‥それは、覆される事になるが。
彼ら五人、全くの無関係で面識すらない。彼らを結ぶ絆とは何か?
答え、1:彼らは全員、獣人。2:次の日の朝までに、天敵に襲われ、喰われる。
ペットショップのガラス扉は内側から壊され、何かがとびだした。
そして、血みどろの惨劇がそこで行われた。まるで何かに潰されたかのように、死体は酷い有様であった。
そこにいた五人が何者かの襲撃を受け、おそらくは食われたのだという事は明らか。
では、何に?
答え、ナイトウォーカー。
何かが転がり、惨劇の場から逃げ出した後。近所の住民により事件が明るみに。
そして数日後。怪物の姿が近くのトンネル内にて目撃された。
大通りから外れたところ。
この住宅街周辺は、未開発の山林や、かつて用いられていた古いトンネルなどがある。
区画整理のために、主要の道路は旧トンネルから外れた場所に。そして、新トンネルが開通し、住民はほとんど全てがそちらを利用している。
旧トンネルはバスがぎりぎりすれ違える程度の広しかない。ここで二つ目の事件が。
「宇宙刑事ガザン」のスタッフが、旧トンネルにて撮影をしていた。外観の雰囲気と、適度な汚れ。内部の暗さ。まさにこれは、悪の軍団の秘密基地の入り口にふさわしい。
‥‥という事で、邪怪獣とデスノイドなどのコスチュームを持ち込み、カメラテストを行う事に。
が、ADとカメラマンの二人が、内部に邪怪獣ヤマアラシクリーチャーの姿を見て、内部へと入って行った。その直後、外に停めてあったロケバスより、ヤマアラシクリーチャーの姿が現れた。
さらにその直後、トンネル内部から悲鳴が。別のスタッフが駆けつけると、そこには轢死したような姿に変わり果てた、件のADとカメラマンが。
そして、撮影用ライトの光が届かない闇の奥へ、何かが消えていく姿が。
「‥‥すぐスタッフは全員が引き上げた。内部には照明器具がまだ残されているが、それ以外は何もないはずだ。で、彼らは逃げ出した後にWEAへと連絡してきた」
君たちに、件のトンネルについての説明をするWEA担当官。
「この旧トンネルは、あと一ヶ月ほどしたら市の方で封鎖する予定だそうだ。なもんだから、撮影スタッフの連中は封鎖前にここで撮影するつもりで駆けつけたんだが、その矢先にこの事件が起きたと、そういうわけだ。
ADの方は巨大な球状の何かにぶつかり、潰されたようになっていた。パテナイフを用いないと、トンネルの壁と床にて練り潰された彼の遺体を回収するのは不可能なくらいにな。
カメラマンの方は、上半身の、右腕から右胸をもぎ取られていた。こちらの方は、まだ息があったのですぐにスタッフが助けたが、その後ですぐに亡くなった。で、カメラテストしていたんだろう、カメラには映像が残っていた」
その動画が、君たちの前に映写された。
撮影用ライトの光。その奥から、怪物めいた何かが見え隠れしている。シルエットしか見えず、細かい点は黒く影に塗りつぶされている。影が見える限り、確かにヤマアラシかハリネズミ、ハリモグラかハリセンボンを思わせる。イガグリにも、針が短いウニにも見える。
が、ヤマアラシにしろ、そいつはまともな存在ではないだろう。見たところそいつは、中型から大型犬程度の大きさ。しかし、ハリネズミにしてはトゲが短くも見え、ハリネズミかハリモグラにしては針が長すぎ、更に身体も大きすぎる。
そして確たる事は言えないが、そいつの顔には一ツ目めいた何かが見えた。
映像は、そいつがこの事件の犯人であると証明するものが映っていた。ヤマアラシにしろハリモグラにしろ、そいつはいきなり身体を丸め、画面へとめがけて転がってきた。
「‥‥残っている映像は、これだけだ。そしてこのトンネルだが、中央部付近は崩れかけ、今にも落盤を起こしそうでもある。おそらく、強烈な振動を与えたら、中央部から土砂が崩れ、埋まる事だろう。
スタッフからの情報によると、内部にはスプレーで描かれた詳細な落書きが描かれていた。まず間違いなく、やっこさんはそこに潜んでいる。こいつのコードネーム『Echidna(エキドナ)』っつう通り、間違いなく感染したんだろう‥‥エキドナの和名、すなわち『ハリモグラ』にな」
「この映像から調べるにつれ、分かった事もいくつかある。こいつはトゲ球に身体を丸め、それを獲物にぶつけて攻撃するわけだが、その球の大きさは直系50センチ近く。こんなでかいものが超高速で回転しつつ体当たりするんだから、直撃食らったらまず間違いなく即死だな。牙は無いようだが、爪がかなり鋭そうだ。そちらも注意を。それと‥‥これが一番の難点かもしれんが」
「戦いの舞台は、トンネル内。つまり限定した狭い空間内での戦いになることは予想できる。で、こいつは身体を球と化し、壁に体当たりして、跳ね返って攻撃する‥‥といった攻撃方法も持っているようだ。
スーパーボールというゴムの小さなボールを知っているか? 良く弾む玩具だが、そいつを狭い部屋の中に思いっきり投げつけた時の事を考えてみてくれ。で、そのボールを『エキドナ』に置き換えたら‥‥後は言わずとも分かるな?
そして、感染したのがハリモグラなだけに、トンネルを崩したら奴が有利だ。ハリモグラという動物は、地中を掘り進むのがうまい。生き埋めにされても、奴は平気で地中を掘り進み、地上に出て、再びどこかで殺戮を繰り返す事だろう。事態は、色々とヤバい状況なわけだ」
WEAの周辺調査によると、まだエキドナは外に出てはいない。少なくとも、そういう目撃例も無く、調査員からも報告はない。トンネルの内部にいまだ潜んでいる可能性が高い‥‥との事だ。
「住宅街からは若干離れているから、多少の大きな音は立てても大丈夫だろう。だが、この怪物‥‥もしくは怪球を倒す事は容易ではない。やってくれるか?」
●リプレイ本文
住宅街より、若干離れたトンネル開口部。
狐獣人のタレント、ベルシード(fa0190)、
ヒーローを目指す竜獣人、九条・運(fa0378)、
北辰一刀流3段の剣士、雨堂 零慈(fa0826)
チャレンジャー、河辺野・一(fa0892)。
彼らが視線を向けるは、地獄に続く穴倉。魔女や悪魔も逃げ出しそうな、おぞましき怪物の顎のよう。暗黒の口腔、入ったら最後出られぬ恐怖の穴。
集まった獣人たちは決して臆病者ではない。これまでに数々の困難な任務に参加し、これをやり遂げてきた。
が、それでも不安と恐怖を感じずにはいられない。内部にはナイトウォーカー『エキドナ』‥‥ハリネズミに感染し実体化した個体‥‥が潜み、周囲は強い振動を与えれば崩れかねない脆い状態。
敵は針だらけの球状となり、回転しつつ体当たりを行なう。それにまともにぶちあたれば命は無い。幸いにも、もしくは不幸にも生き延びた場合でも、周囲の壁に強烈な体当たりを繰り返せば生き埋めになる。
すなわち獣人たちは、ナイトウォーカーの「能力」のみならず、「状況」「地形」とも戦わなければならない。
仮にそれらに負けた場合、獣人らは生き埋めになる。ナイトウォーカーは元の素体であるハリネズミの特性を利用し、簡単に穴を掘って地上へと逃げ出す事だろう。
鋭き眼差しのカメラマン、鶸・檜皮(fa2614)、
華麗なる曲芸少女、イルゼ・クヴァンツ(fa2910)、
美貌の女傑にして愛煙家、各務 神無(fa3392)、
可憐なる唄歌い、パトリシア(fa3800)。
皆、事にあたる前に何度も装備を点検する。雨堂は己の愛剣であるレイジングスピリットに視線を向け、優美にして怖くもある刃へ目を落とす。何度もナイトウォーカーの命を奪い、自らの命を救った刀。それが今回の敵には通用するか。不安とともに感じる些かの恐怖。
よそう、不安を感じないのは不可能だが、不安に捕らわれぬよう努力する事はできる。不安は雑念を起こし、不安は失敗を誘発する。不安が負ける材料を作る。ならば、できるだけ勝利に近付くための努力をしなければ。
「用意はOK?」
多くの鎖。それに群がるは獣人たち。
訂正、鎖ではなく、鎖で編まれた網。彼らの立案した作戦は、「鎖の網で怪球を捕らえ、トンネル外へと持ち出す」というもの。
「よし、もう一度作戦を確認するわよ」
各務が煙草をもみ消し、新たな煙草に火をつけた。たちまち煙が漂い始め、彼女はそれを肺に深く吸い込む。
「ベルの灰代傀儡を囮に、地壁走動の使える者‥‥河辺野アナ、イル、パティ、そして私こと各務が鎖の網を持ち、トンネル内に。
鎖を持ち、傀儡を狙い現れた目標に対し、網を絡める。捕らえたら、残り三名‥‥鶸、雨堂、九条も参加し、それに一斉攻撃。止めを刺す‥‥うまく行くといいんだけど」
「いかせてみせますよ、必ずね」
挑戦者であるアナウンサー、河辺野が言葉を補足した。
ただの気休めに過ぎない。が、それでも無いよりかは遥かにましであろう。
「うまくいかせる」。
任務成功しないことには、この怪物をさらに解き放ち、おそらくは一挙に皆の命はもちろん、より多くの犠牲者の命も無下に奪われるはめになる。
そんな結果を出さないようにするには、作戦を成功させないと。
「うまく行くさ! 行かせてみせる!」
九条が、その言葉を更に補った。
向こう側の出口は、既に塞がれている。残るはこちら側からの出口のみ。
ベルシードの奇妙な複製が、後方からの命令とともに歩み続ける。その後ろからは、獣化し網を持った四名。
更に後ろには、同じく怪球に止めを刺す四名。九条の手には、炎が灯るランタンが。
武器を持ちつつ、彼らは待った。
そして四名も、誘き出すとともに鎖網を持ちつつ移動する。いつ内部から、あのおそろしき怪球が飛び出すか分からない。
一歩歩くごとに、一歩づつ奴に近付くことが雰囲気で実感できた。
「出て、来ないですね‥‥?」
「まさか、意図に感づかれた? そんな事は‥‥」
パティとイルのつぶやきが、焦りを含みつつトンネル内に響く。出口側は封鎖している。ならばこちら側に出てきて然るべき。
河辺野もまた、同じく疑問に思いつつも焦りに近いものを感じていた。あいつは、エキドナは気づいているというのか。先行しているベルシードさんが偽者ゆえに、引っかからないのだろうか。
この作戦は、今考えうる中では最高のもの。しかし、だからといって成功するという保障はない。
失敗か‥‥彼の脳裏にその単語がうかんだその時。
傀儡が灰になった。
「奴だ!」
各務の声が、事態を把握させる。そして数秒後、ずしりとした重量感が鎖の網を手にした四人の手に伝わってきた。網を形作る鎖、ないしはその輪が衝撃により、いくつもはね飛んでしまう。
暗くてよくはわからないが、そいつの姿、そいつの回転しつつ迫る姿は、悪夢の塊そのもののよう。スパイク球もかくやのそいつは、恐ろしくもおぞましいイガグリかウニのよう。
鎖の網に受け止められたそいつは、あまりに強すぎる力を有しつつも、網に絡め取られ落ちる。
球体から身体を元に戻したエキドナ。やはりハリネズミに感染したせいか、そいつのデザインはハリネズミを無理に歪ませた、悪趣味な冗談そのものなものであった。
「待っていたぜ! 喰らいな!」
九条が己の攻撃を放つべく、身構えた。それとともに、エキドナは体のトゲに続く第二の武器を振るう。
己の両前足についた、巨大にして鋭い爪。それがやすやすと鎖の網を切断し、拘束力を無に帰したのだ。
おそらく、そいつに会話する能力があったなら、こう言っていたに違いない。『よくもやってくれたな、これからすぐに殺してやる。トゲと爪、どちらを喰らいたいか?』と。
が、全員がそんなものを喰らいたいと思わないのは必然にして当然。エキドナが爪を振るい、自由の身になる前に九条が攻撃を放っていた。
「火炎砲弾!」
放たれたのは、彼の怒号、そして彼の怒り。いつも以上の超強力な火炎の一撃が、エキドナを襲ったのだ。
それは狙い過たず、エキドナに命中! 肉を焦がし焼きを入れる臭いが、トンネル内に充満した。
充満したものは、もう一つあった。明らかにダメージを受けた、エキドナの声が。
そいつは火達磨になり、断末魔の悲鳴を上げつつのた打ち回る。その拍子に、網から逃れられた。が、時は既に遅し。
石炭のようになったそいつは、火を消そうと右往左往していたが、やがてその動きも次第ににぶく、動かなくなっていった。
「‥‥やった、のか?」
鶸が動かなくなったそいつを見て、思わずつぶやく。
が、そいつは最後に死力を振り絞り、再び球体となった。
炎をまとわせながら、そいつは球と化し、獣人たちに体当たりを試みた。おそらく、己が死す時は一人でも多く、犠牲にする意図があったのだろう。
「下がれ!」
それの最後の攻撃とともに、雨堂のレイジングスピリットがきらめいた。それと同時に、彼の視覚も強く鋭いそれになる。
鋭敏視覚が、そいつのコアの位置を見出した。
「はーっ!」
牙っ!
刃が、エキドナを刺突した。鋭い刃が怪物を、エキドナの身体を貫き通している。
それと同時に、コアも剣により貫かれていた。
「厄介な任務だったが、なんとかやり遂げられたな」
九条が、改めてトンネル内を見つつ言った。傍らには雨堂とベルシードがいる。
「ああ。拙者も、今回はちと厄介に思っていた。が、貴殿らとの協力と連携でなんとかやり遂げられたようなものだ」
「ま、中々刺激的な相手だったよね。キミたちとの連携が無ければ、勝てなかったかもしれないけど」
雨堂とベルシードが、彼に相槌をうつ。
ナイトウォーカーの殲滅を確認したのち、一行は内部を更に調査していたところであった。
やがて、問題なしと判断がくだされ、一行は引き上げにかかった。
ガザンのロケはまた別の場所で行われる事になり、ここはまた、人の手が加えられない状況に戻っていった。
事件後、数日が経過した後。旧トンネルの完全な閉鎖が行われる事に。
暗く深い暗黒の口、恐怖の顎を持つ怪物は、その口を永遠に閉じる事となった。少なくとも、中から怪物が出てくることは、今後二度とないだろう。