超格闘士メタルカイザーアジア・オセアニア
種類 |
ショート
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担当 |
塩田多弾砲
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芸能 |
1Lv以上
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獣人 |
1Lv以上
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難度 |
やや難
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報酬 |
1万円
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参加人数 |
8人
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サポート |
0人
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期間 |
01/12〜01/16
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●本文
「だめだ! それじゃあ普通の特撮ヒーローだろう‥‥いかんいかん! リアルにしろとは言ったが、それじゃただの不良の喧嘩だ!‥‥それで迫力や力強さを出してるつもりか! ヒーローが威嚇するような行為をしてどうする!‥‥上っ面だけの悪っぽさなどいらん!‥‥動きがオーバーすぎだ、そんなわざとらしさなぞ必要ない!」
車椅子の監督の口からは、怒号が飛ぶ。
自主制作あがりの監督は、知名度はそれほどでもないが、様々な賞を取っており、実力はあった。そして今作のプロデューサーとは友人であり、入魂の一作を撮影している最中であった。
「超格闘士メタルカイザー」。
『今までに無い、特撮ヒーローを!』
『武器なしで、己の身体を武器とする徒手空拳の戦い。格闘技での戦いこそが戦士の基本』
『嘘のない戦いを。格闘家の目から見ても、なるべく嘘がない格闘を』
そういったコンセプトの作品ではあったが、監督とプロデューサーはその一点を突き詰めすぎて、撮影は頓挫していた。
「いいか、今のお前は邪悪な行為を邪悪と思わず、呼吸や食事と同じくらいあたりまえの事と思い込んでいるような奴だ。無駄に凄むな、その言い方じゃ、気取ったヤクザかチンピラ程度にしかならん。凄まずとも普通の言葉で、鬼や悪魔ですらゾッとするような奴をイメージしろ!」
「その殺陣じゃ派手すぎだ。もっと抑えろ! 現実のストリートファイトで、そんな大げさな構えはしないだろう? だが、だからといって地味すぎにはするな。派手さを押さえ、ケレンのある戦いを見せろ!」
「血糊や特殊効果に頼るな! 普通に格闘のシーンだけで、超人的な技量を見せられるはずだ!」
ちょっと撮影したら、このような怒号が飛ぶ。そのため、普通のスタッフはいい加減辟易していた。辞めていった者も少なくはない。むしろ、今残っているスタッフより、辞めた者の方が多いくらいだった。
「で、基本的な設定はどんなものなんだ?」
プロデューサーに悩みを打ち明けられた、知人のエージェントは、メタルカイザーの設定書を渡され、ぺらぺらとめくった。
:武器や兵器を開発し、世界中に売りさばく巨大秘密組織「クリムゾン」
彼らは、メカニックによる強化改造手術を施したサイボーグ「メタルボーグ」、細胞強化作用を有す寄生体カイザムを寄生させた生体強化人間「カイザーノイド」。この二つの技術を用い、究極の兵士を製造しようと企んでいた。
改造されるのは、拉致された優れた頭脳と肉体を持つ者たち。とくに優れた武道家は被験者として選ばれた。
神皇流拳法を極めた武道家、本郷鋼児もその一人。彼はメタルボーグへ改造されるも、脱走する。
鋼児のもとに迫り来る、クリムゾンの魔の手。彼はすでにカイザムに寄生されていた。メタルボーグとカイザーノイド、両方の力を持った究極の改造人間「メタルカイザー」に変身した鋼児は、戦う事を決意する。
「ふむ、まあまあだな。しかし、なんで監督はそんなにこだわるんだ?」
「やっこさんも、昔は空手や格闘技をやってて、かなりの腕前をもってたんだ。だが、ある時に不良どもからストリートファイトを仕掛けられてね。腰に錆びたナイフを刺され、それが原因で下半身不随になったんだよ。ものがスーパーヒーローものとはいえ、彼は人を傷つけたり、暴力を肯定するような格闘は見せたくないんだろうよ」
「でも、だからといって嘘のある戦いは見せたくないし、ケレンのある戦いも見せたい。はっ、難しいもんだな」
かぶりをふるエージェントに、プロデューサーは悩みを滲ませた声で言った。
「俺も、彼の言う事は分かる。だが、今のままではスポンサーの玩具会社に出すプロモーションも撮れないだろう。最悪、監督を変えるか、企画が立ち消えになる可能性もある。コスチュームや機材は揃っている。ただ、監督の希望に添える役者や人材が必要なんだ」
「それも、監督のこだわりに付き合えるど根性を持つやつがな。よし、俺がちょっと求人をかけてみよう。おそらくは、少しは根性のある奴が出てくるはずだ」
「ああ、頼むよ」
というわけで、求人案内が出されることとなった。
具体的な内容は、人気の無い港の埠頭、倉庫街にて。クリムゾン基地から逃亡した鋼児に、追撃者が強襲する‥‥というもの。
格闘シーンは‥‥。
戦闘員メガレギオン(低レベルのメタルボーグ)が集団で襲い掛かり、変身前の鋼児と戦う。
彼らを倒した鋼児に立ちはだかる、カイザーノイド「メガフィスト」、メタルボーグ「ブラスター」。
『神皇気装!』 メタルカイザーに変身する鋼児。
メガフィストはボクシング技で、ブラスターは全身の火器で戦う。
格闘技「疾風怒濤(いわゆる乱舞系の技)」、気弾を放つ「皇咆拳(格ゲーでいう飛び道具系の技)」で両者を倒す鋼児。
今回撮るのは、いわゆるパイロット版。しかしこれが完成した暁には、その出来いかんで正式に製作が見送られるかスタートするかが決められる。今後の判断材料として、重要な指針になるというわけだ。
作品的には、オーソドックスに。しかし、無駄に熱血的にせず、だからといって気取りすぎてクールにもせず。
直球だが、派手すぎず。リアルで迫力ある格闘を見せるが、暴力的すぎないように。
難しい注文だ。
誰もが監督についていけず、撮れなかった。果たして、こいつらはついていけるかどうか。
求人に集まる役者たちを思いつつ、監督は思いにふけった。
●リプレイ本文
「お前らか。今回の撮影に参加する奴らは」
車椅子の監督、宮雨慶次郎は、「超格闘士メタルカイザー」の撮影に参加希望する者たちを、値踏みするかのように、そして期待するかのように視線を向けた。全身から放っている鋭い気配と、ドスの効いた太い声。監督と言うよりも、その筋の人間と言われても違和感が無い。サングラスが、更にその印象を深める。
「では、簡単に自己紹介を頼むよ」
プロデューサーの蛍崎雪之輔が、獣人たちに言葉をかけた。こちらは対照的に、穏やかで腰が低い。
「わたくしはトール・エル(fa0406)。わたくしの美しさがあれば、何も問題ありませんわよ。おっほっほ!」
「あたしは飛鳥 夕夜(fa1179)。よろしく」
「飛鳥 信(fa1460)だ! おっさん、アンタの中の格闘家‥‥俺が出してやるぜ!」
「風和・浅黄(fa1719)。監督、今回はよろしくお願いするよ」
「龍 美星(fa2426)アルネ! どの役でも、是非参加したいネ! ヨロシクお願いします」
「わたくしは、アキ(fa2477)。スポーツモデルをつとめています。よろしくお願いします」
「俺は、レーヴェ(fa2555)。よろしく頼む」
「ドン・ドラコ(fa2594)。格闘家ってカンジ?」
全員の自己紹介が終わり、宮雨はゆっくりと静かに言った。その口調は静かなだけでなく、どこか優しげでもあった。
「まず最初に、参加してくれて感謝する。皆、考えあって参加したんだろうが、俺もまた、できる限り努力する」
彼はサングラスを取って、車椅子に座ったまま頭を下げた。見ると、その片目は潰れていた。
「で、俺のやり方は聞いての通り、荒っぽいし怒号が飛ぶ。お前らはそれを覚悟して、参加してくれたものと思っている。もしも俺に納得いかないと思っていたり、反感を持っているのなら、言っておく。そんなプライドは糞食らえ、とな。この現場のボスは俺、そしてお前達はボスに従え。これは依頼と同時に、命令だ。いいな」
サングラスをかけなおす。口調が、ドスの効いた先刻のものに戻っていった。
「今日はここまで。明日の朝5時にここで打ち合わせを行う。何か質問は?」
明朝。
朝早くに集まった獣人たちは、早速自らの提案を監督にぶつけてきた。
「本郷鋼児の妹に、女性刑事か。これを使えと?」
「一般人がいるからこそ、敵の強さがわかるもの。でなければ、鋼児の強さが引き立ちませんわ。どう思われて?」
「ええ。主役の強さを際立たせる演出に使ってほしいと思いまして」
それぞれを提案したのは、トールとアキ。だが、彼女達に対し、監督はかぶりを振った。
「このままでは使えん。鋼児が一度会いに来て、‥‥との事だが、それだったら尾行され、そのまま全員人質にとられる。違うか?」
「そ、それはそうですけど‥‥」
「『行方不明の鋼児を、刑事と妹が探している』ならば、それほど無理ないだろう。アキ、お前さんの方だが‥‥」
「はい?」
「カイザムに寄生されたってのは無しだ。カイザムは超重要機密扱いされ、カイザーノイド作る以外詳細不明の代物だ。そんな時限爆弾を抱えた奴を、国際警察は現場によこすのか?」
「そ、それは‥‥」
悩むアキに、プロデューサーが助け舟を出した。小道具の小手を示し、
「では、この、バトルグローブをはめた‥‥という設定にするんだ。彼女がクリムゾンの存在を知り、妹も同行。そこで襲われ‥‥という展開ならどうだろう?」
うなずくアキとトールに、監督は促すように言った。
「よし、どういうキャラか固めておけ。ぼうっとしている暇はないぞ。他に、アイデアはあるか?」
「シーン28、テイク30‥‥アクション!」
『人気のない倉庫街を走る、本郷礼奈。そして、国際警察機関のエージェント、緑川昭子。
その後ろから迫る、メガレギオン!
礼奈「昭子さん、兄様はあいつらに!?」
昭子「ええ。でも、今は逃げないと!」
だが、逃げ道はふさがれた。そして退路には数人のメガレギオンが。鋼鉄のマスクは、表情を見せない。
メガレギオンの後ろの人影。それは冷酷に言い放つ。
声「おとなしく降伏しろ。そうすれば、手荒な事はしない」
礼奈「兄様や罪のない人たちを拉致したくせに、何を言ってるの!」
昭子「そうよ。貴方達の悪行もこれまでにしてやるわ!」
声の主、姿を現す。黒いコートに身を包みミラーシェードのサングラスの女性。二人を一瞥する。
女性「抵抗は無駄だ」
昭子「無駄かどうか、試してみたら? バトルグローブ・オン!」
昭子、右腕を露に。メカグローブをはめている。それが光り輝く‥‥』
「‥‥カット! さっきに比べたら少しはましだが、まだまだだ! 龍!」
ブラスターを演じる龍に、監督が声をかける。
「ブラスターの台詞が淡々としすぎだ。一見無感情だが、心の奥底では冷酷な感情が渦巻いている、そういった感じでやれと言ったはずだ! メガレギオン!」
次に、レーヴェ、ドラコ、飛鳥夕夜、飛鳥信、風和へと声をかける。メガレギオン役は、人数を増やすために他の役と兼任しているのだった。
「お前らは集団で一人のファイターだと思え。一人が目立つような戦い方はするな、『一人が全員、全員で一人』を心がけた戦いをしろ! アキ、トール!」
「「は、はいっ!」」
「二人とも、ちっとばかし抑え気味で演じろ。トール、『兄様や罪のない人たち‥‥』の台詞のところ、前半は少しため気味でやってみろ」
監督は再びメガホンを振り上げた。
「3分休憩後、テイク31行くぞ!」
「シーン30 テイク36、アクション!」
『‥‥バトルグローブをはめた昭子、メガレギオンの攻撃を受け、それを弾く。
メガレギオンの一体の拳を払い、グローブの一撃がマスクを捕えた! 砕かれ、後ろざまに吹き飛ぶメガレギオン。
しかし、洗練されたメガレギオンの一体が、昭子の隙をつく!
無駄な動きをせず、メガレギオン、昭子の鳩尾に肘を食らわせる。そして、拳や蹴りを見舞う。防御する昭子、バトルグローブはぼろぼろに。
ブラスター「脱出の確率変更、現状では5・7%。降伏勧告を受け入れるか?」
昭子「誰が‥‥あなたなんかに!」
ブラスター、礼奈へと視線を向ける。
ブラスター「実験体の肉親か。今後の活動妨害となる確率、推定45%」
ブラスター、コートを脱ぎ捨てる。その姿は、メカニカルな銃口を備えた、鋼鉄の兵士。
昭子「礼奈さん!」
近付こうとするが、メガレギオンに阻まれる。
礼奈「い‥‥いやあっ!」
その刹那、
声「待て!」
雄々しき声が、その場に響き渡った』
「よし、カット!」
監督の声が響く。彼の視線は、飛鳥信へと向けられていた。
「次は出番だ。お前の本郷鋼児、とくと見せてもらうぞ」
「‥任せてくれ。あんたの中の格闘家、俺が出してやる!」
「意気込みだけは認めてやろう。実力も伴うと良いがな」
その口元が僅かに微笑んでいるのを、飛鳥は見逃さなかった。
「シーン38、テイク26、アクション!」
『礼奈の前に現われた、一人の青年。彼の蹴りが、ブラスターにヒットする! 後方へ吹っ飛ぶブラスター。
礼奈「兄様! 無事でしたのね!」
鋼児「ああ、問題ない」
鋼児、立ち向かう。メガレギオン、周囲に展開し武器を取り出す。
メガレギオン「バトルスティック・オン」
根を構えるメガレギオンたち。
鋼児、構える。その構えは、若木が静かに、枝を広げているかのよう。複数の根が、鋼児を打ち据えんと振り回される!
迫り来る棒を、弾き、受け、そして攻撃に転じる鋼児。だが、その顔は戦いを望んでいない。スティックに吹っ飛ばされ、構えなおす』
「カット! だめだ、もう一度! 飛鳥信、それじゃあただの優柔不断だ。戦いを望まないが、戦わなくてはならない。この点を徹底してくれ。メガレギオン、お前らさっきの『集団で一人』を忘れたか? 一対一の戦いは、メガレギオンには求めていない!」
監督が名指ししたメガレギオンは、ドラコが演じていた。
「このスタイルは、アタシのアイディンティティよ。変えようもないってカンジ?」
「言ったはずだ、そんなものは糞食らえとな。必要ない」
その言葉に、ドラコは不快感を表し、嘲るような口調の言葉を発した。
「ふん、監督の立場で威張り散らしたところで、アンタが負け犬って事は変わんないカンジ? そんな身体になったのも、格闘家として未熟だからじゃない。暴力でない格闘技? 所詮格闘技は暴力、ワケわかんない事言ってんじゃないわよ!」
「ドラコさん!」
飛鳥夕夜が、その言葉をさえぎろうとしたが、手遅れだった。しかし監督は、怒りより哀れむような顔になっていた。
「‥‥お前に、面白い話をしておこう。昔、お前と同じ考えの負け知らずの格闘家が、正反対の考えの奴と戦い、あっさり負けた。相手は『自分の考えを理解したら、より強くなる』と言い残し去ったが、それを理解する前に、格闘家は14歳の女の子に助けを求められた」
重い空気が流れたが、監督は構わず続ける。
「彼女は、とある不良グループから抜けたいが、仲間が許してくれない。助けてくれ‥‥とな。で、10人ほどのチンピラが迫るのが見えたもんだから、そいつは助けてやろうと少女に背を向けた。その子に、錆びたナイフで脊髄を刺されるとは思いもせずにな」
「!?」
「そいつらは、以前にその格闘家がぶちのめした奴らだった。恨みを晴らすため、不良どもはリーダーの妹とともに一芝居うったわけだ。覚えておけ。暴力の果てには惨めな末路しかない、とな」
皮肉めいた笑みを浮かべ、監督はドラコに言った。
「ギャラは払ってやるが、お前は俺の作品にはいらん。消えろ。‥‥撮影再開だ。皆、ぐずぐずするな!」
メガフィストのコスチュームを着た風和が、ファイティングポーズをとり準備をしていた。
「シーン42、テイク50。アクション!」
『メガレギオンを倒した鋼児。悲痛な表情で、ブラスターはそれを冷ややかに見つめている。
ブラスター「最低限の品質に到達している事は理解した。変身して戦え、メタルカイザー。クリムゾンは貴様の戦闘データを求めている」
礼奈「メタル‥‥カイザー?」
昭子「まさか、重要機密『カイザム』の?」
ブラスター「それを知る必要はない。従わぬ場合、死あるのみ。カイザーノイド・メガフィスト!」
物陰から現われる人影。しかしそれは、徐々に人外のシルエットに変化する。サソリのような甲殻類のそれに。
ボクシングのようなファイティングポーズをとる、メガフィスト。
ブラスター、火器を構える。
鋼児「礼奈、その人と隠れていろ」
決意の表情とともに鋼児、武道の構えを取る。
鋼児「鎧輝、装着!」
武道の演舞がごとき動きとともに、身体の各所が変形。メタルカイザーに! その様子を、物陰から驚愕の表情で見守る二人。
礼奈「そんな‥‥兄様!」
構え、そしてメガフィストと拳を打ち合うメタルカイザー。
ブラスター、二人の戦いをモニターしている。すばやいフットワークに、翻弄されるメタルカイザー。
メガフィストの拳を巻き込み、肘打ちを食らわす!そして掌打! 懐に入られるメガフィスト。
メタルカイザー「奥義、疾風怒涛!」
力強い拳の連打が、メガフィストの拳をかいくぐり放たれ、最後にはアッパーで止めを!
ブラスター「‥‥予想の戦闘能力より、67%以上の威力を確認‥‥。モード変換」
身体の各部を展開し、火器を露出させるブラスター!
ブラスター、機械的な正確さで砲を撃つ。が、カイザーには紙一重でかわされ続ける。
突進し、身体を沈めるメタルカイザー。その銃撃をかわし、ゼロ距離で気弾の掌底をブラスターに!
メタルカイザー「奥義、皇咆拳!」
ブラスター、火花を散らしながら倒れる。
ブラスター「メタルカイザー‥‥格闘力‥‥メタルボーグの15倍以上‥‥これが、神皇流の力‥‥」
ブラスター、メガフィスト、倒れた敵を見つめるメタルカイザー。そのたたずまいは、どこか物悲しい。昭子と礼奈、物陰から出てくる。
昭子「本郷、鋼児さんね? いったい、何をされたの?」
礼奈「兄様! その姿は‥‥」
メタルカイザー「‥‥俺は、変えられた。人殺しをする道具に、破壊するための道具に」
カイザーの姿が、再び鋼児のそれに。
鋼児「俺は、やつらにカイザムを寄生させられ、メタルボーグとして改造された。カイザーノイドとメタルボーグ、両者のパワーを持った人間兵器にするためにな」
礼奈「兄様‥‥」
鋼児「師から授かった神皇流も、俺の存在意義も、すべて殺戮と破壊の道具に変えられてしまった。礼奈、もう俺はお前の兄さんじゃない」
礼奈と昭子から離れる鋼児。
礼奈「待って、兄様! あなたはそれでも、私の兄様よ!」
鋼児「来るな! お前の足元の、そいつらを見ろ。人を導き、心を育む神皇流の教えは、今は誰かを殺すだけ。 お前を、そんなことには巻き込みたくはない! 本郷鋼児は死んだ! 俺は、メタルカイザーだ!」
慟哭とともに、夜の闇の中に消えていく鋼児』
ナレーション「こうして、二人の前に現われた鋼児は、二人の前から去っていった。彼は、クリムゾンに奪われた。人としての尊厳を、そして自らが築き上げた志を。果たして、彼はいかなる運命が待ち構えているのか!?」
「ようやく‥‥完成したか」
プロデューサーの安堵の呟きが、やたらと大きく響いた。
「色々あったが、ともかくこれでひと段落。あとは、先方に気に入ってもらえれば良いが」
監督の親友は、この作品に参加した役者たちにも思いを馳せた。
もしも放送できたのなら、それは君たちのおかげだ、ありがとう、と。