鎧の中に潜む闇アジア・オセアニア
種類 |
ショート
|
担当 |
塩田多弾砲
|
芸能 |
フリー
|
獣人 |
3Lv以上
|
難度 |
普通
|
報酬 |
7.9万円
|
参加人数 |
8人
|
サポート |
0人
|
期間 |
08/09〜08/13
|
●本文
鎧、甲冑、アーマー。
戦争の道具にして防具である、彼の道具。
古くは遠き神話の時代から、その素材も皮・青銅・鉄と、数多く。
東西問わず、過去には戦い、いくさ、戦争の歴史がともにあり、それらは武器や武具の開発・活躍の歴史と言っても過言ではなく。
とある屋敷には、鎧が多く置かれていた。それらの持ち主は獣人。そして、彼は鎧に殺された。
御手洗義明。悪役面の彼は、悪事を行なってきた‥‥映画の中で。
メジャーではないにしろ、俳優としてはひとかどの地位に立った彼は、芸能プロダクションを設立。着実に業績をあげていったせいか、老後を苦労せず過ごせる程度の財産を持てた。
引退した現在、郊外の屋敷にて一人暮らし。そして、生前にやりたかった趣味、すなわち撮影に用いた衣装や、レプリカ、骨董品屋を回って手に入れた甲冑を見つけては、それを購入し、自分の屋敷にコレクションしていた。
彼は家族に先立たれ、養子を有していた。御手洗栗太郎。まだまだ駆け出しの音楽家で、最近になってようやく売れ出してきた若きアーティスト。
もっとも、栗太郎は現在アパートに一人暮らししており、毎日忙しく過ごしている。たずねてくる回数も少なくなり、義明はちょっと寂しく感じていた。
が、ある週末。栗太郎が訪ねるので、義明は待ちわびていた。なんでも、結婚を前提に交際している女性を紹介するとの事だ。血のつながりが無くとも、自分の息子。ひょっとしたら、孫の顔を見ることも出来るかもしれない。どんな女性か、彼は楽しみにしていた。
飼い猫のチリも、喜ぶに違いない。あの老猫もまた、栗太郎を好いていた。きっと栗太郎の恋人も気に入るだろう。
そういえば、チリは何処に行った? 夕べから姿を見せていない。‥‥ふと、彼は聞き取った。鎧を飾った部屋から、何者かの足音が響くのを。
腐っても獣人、それも百獣の王たる獅子の獣人。こそ泥を相手にするくらいわけはない。
彼は爪と牙をむき出し、鎧を飾っている応接間の一つに足を踏み入れた。
「俺が彼女と訪ねた時は、親父は戦っていました。その‥‥鎧と」
君たちの前で、栗太郎が事件内容を語った。
「驚かせようと、俺は圭子と一緒に、早めに訪ねることにしたんです。途中でチリを見つけたんですけど、あいつは逃げていきました。あの時、おかしいと気づくべきでした。チリは俺を見たら、何も言わずとも近付いてきたってのに」
調査員の報告によると、逃亡したナイトウォーカーと思われる足跡などの痕跡が、御手洗の屋敷、ないしは近くの町中にて確認されていた。おそらく、それがチリに感染し、屋敷へと向かったのだろう。
「俺は、そのまま屋敷へ行きました。けど、呼び鈴押しても誰も出てこない。おかしいと思って、郵便受けの中にある合鍵を使って中に入りました」
そこで彼は、遭遇したのだ。武士の鎧と取っ組み合っている養父の姿を。
「俺は、西洋鎧と一緒に飾られている棍棒をつかむと、鎧をブン殴りました。どっかのバカが鎧を着込んで、親父を襲ってるもんだと思って。けど‥‥違ったんです」
棍棒は兜を打ち、それを胴体から弾き飛ばした。が、そこには中の人間の姿は無かった。
あったのは、うねる長い毛の束。それが、鎧の胴体部分へと引っ込んでいく。首無し武者は、狙いを栗太郎へと向けた。
後ろからは、悲鳴が。心配した圭子が様子を見に来たのだ。
「逃げろ! 圭子!」
栗太郎もまた、必死になって鎧と戦ったが、そいつの力はものすごい。つかみかかられ、首に手をかけられた。このまま絞め殺されるのも時間の問題‥‥。
薄れゆく意識の中、圭子が、そして義明とが鎧に攻撃するのを彼は見た。
圭子は、飾ってある戦斧をつかみ、鎧の腕を切り落とした。切断面には「毛」の束が、いやらしくのたうっている。そこから伸びた「毛」は、鞭のように圭子を打ち据えた。
隙を見て義明が体当たりし、栗太郎は鎧から逃れられた。三人は部屋から逃げ、事なきを得たのだった。
「俺はすぐにWEAに連絡を入れました。幸い、圭子の怪我は軽く済みました。ですが、親父が‥‥」
義明は、長くはもたなかったのだ。
「逃げる際に、ちらっとですが、鎧の中から何かが這い出てくるのが見えました。あいつが、俺の親父を殺した奴に違いないです。敵を、やつを殺してください!」
栗太郎が見かけた、這い出る何か。それは、「毛虫」を思わせる、毛むくじゃらの肉塊。
WEAでもマークされていた、ナイトウォーカーの一体に間違いないだろう。コードネーム「H・D」こと「ヘアドレッサー(髪留め)」。そいつは、長い体毛を武器にしていた。そのため、本体は40cm程度の芋虫状だが、直径1m前後の毛の塊に見える。
移動速度は遅いが、そいつの恐ろしさの前にはなんでもない。体毛は、最長3〜4m(もっと伸ばせるかもしれない)。それを鞭のように薙ぎ払ったり、打ち据えたり、締め付けて攻撃する。また、いくら切断したところで再生能力が凄まじく、すぐに長く伸びる。
それだけでも厄介だというのに、こいつは実体化した際に「服」を着込むことで「擬態」する事を覚えたのだ。
「毛」は、強力ではあるが手足のように胴体を支えることは出来ない。移動の際は、毛を何かに巻きつけて引っ張るか、本体の胴体部にある擬足を動かすしかなかった。
しかしそいつは、「毛」そのものを袋のようなもので外側から押さえつけまとめることで、「毛」を腕や足と化し、歩いたり手を使ったりする事が出来るようになったのだ。よたよた歩きと、不器用な手さばきしか出来なかったが。
このナイトウォーカーが最後に確認された時は、潜水用の全身ゴムスーツに入り込み、毛を伸ばして内部に密集させ、人間に成りすましていた。
これで別のナイトウォーカーと共謀し、人間の振りをして獲物を誘き出し、別の強いナイトウォーカーに襲わせる。そしておこぼれに預かる‥‥といった事を行なっていた。
「しかし、今回はおそらく単体だろう。こいつ自身が単体で襲い掛かるという事例は今まで見られなかった。それと、人間の服よりも頑丈な『甲冑』を見つけたんだからな。その中に入り込み内側から毛で操れば、人間のふりをするのみならず、鎧が自分自身を守ってくれる。鎧を失っても、別のに入れば良い事だ。つまり、どういう事か分かるか?」
担当官が、栗太郎に代わり説明する。
「こいつは、知恵を身につけたって事だ。自分の非力さを、知恵をもってカバーする事を覚えた。となると、さらに厄介なことになるのは言わずとも分かるだろう。ひょっとしたら、複数の鎧を操ったり、人間が使う武器や道具、たとえばナイフや剣、銃などをあつかったり、車を用いて遠くまで移動できるようになるかもしれん。そうなる前に、こいつをしとめるんだ。ぐずぐずしている暇は無い。任務につくのならとっとと用意してくれ」
●リプレイ本文
屋敷は、周囲に人家が無い場所にあった。小高い丘の上に建ち、周辺には木々が繁っている。
屋敷は、スタジオや事務所にも使えるほどの広さがあった。御手洗もまた、将来的には会社の仕事場兼住居にするつもりで購入したらしい。もっとも、幸か不幸かスタジオや仕事場にする必要はなくなったため、多くが倉庫や物置になってしまっていたが。
獣人たちが獣化しても人目にはつかないのはありがたいが、問題もまたいくつかあった。
「つまりは、防火設備は無いと?」
MAKOTO(fa0295)が、御手洗栗太郎へと何度も念を押した。
「ええ。水道が通ってますが、台所や庭、トイレや風呂場、水周りの蛇口のみです。消火器も置いてはありますが、今じゃほとんど使い物にならないと思います。知っている限りでは、10年以上は消火器を取り替えていないはずですから」
更に悪い事に、周囲には木々が繁っている。屋敷で火事が起きたら、最悪の場合周囲を巻き込み、山火事になりかねない。
「つまりは、屋内で火を放ったり、火器を用いるのはひかえろって事か。くそっ、厄介になりそうだぜ」
「全くデス」
九条・運(fa0378)の言葉に、ミカエラ・バラン・瀬田(fa0203)が同意する。
「御手洗君、この屋敷だが‥‥君の父上が建てた訳ではないんだな?」
「はい。俺も詳しくは知りませんが‥‥元は明治や大正時代に、どこかの華族が別荘として建てた建物だそうです。その子孫が絶え、放置されていたところを、親父が購入し手を加えたとかで」
栗太郎の言葉に、緑川安則(fa1206)はうなずき、かぶりをふった。
「甲冑だけでなく、屋敷もまた歴史的な価値のあるものかもしれない、という事か‥‥ますますやりにくくなってきたな」
だが、困難なミッションは今まで何度も遂行してきた。ナイトウォーカーとの戦いを始めたのも昨日今日の事ではない。
困難ではあるが、不可能ではない。そして不可能ではないという事は、成功させる算段は十分にあるという事。怪物を血祭りに上げ、地獄へと叩き落す手段が無くなったわけではないのだ。
接着剤。
大量に用意された接着剤が、対ナイトウォーカー用装備として、皆の手に渡っている。
が、外に乗りつけた車の中にも、火器攻撃用の燃料などは用意してあった。
樋口 愛(fa5602)が、ツテより用意し用意させた業務用接着剤。缶に入ったそれは、十数個ほどが手元にあり、缶の持ち手に手をかけるだけでどこかくっつきそうな錯覚すら覚える。
MAKOTOと九条の姉弟、ミカエラ、樋口。彼らは緑川とともに、館を前に佇んでいた。
「なあ、やーくん」
緑川へと、尾鷲由香(fa1449)が声をかける。
「接着剤入りのペイント弾、これだけしか用意できなかったけど‥‥足りるかな?」
「仕方ない。足らせておくんだな。それに、最悪の場合はここに火を放つ事も考えておかないと」
「やーれやれ、おっかねえ話だな。ま、接着剤自体通用するかどうかわからねえが」
ベオウルフ(fa3425)が、話に割り込む。
「だが少なくとも、外に誘き出しちまえば、火炎砲弾や炎で攻撃できるんだろ? 最悪の場合、そっちでも対処できるようにしてあるんだ。何とかなるだろうよ。だろ?」
「ああ」
ベオウルフの言葉に、椚住要(fa1634)は静かにつぶやいた。
獣人たちはまず、集団で応接室へと向かった。聞くところによると、鎧の数は相当数あるらしい。仕舞い込んでいるものも含めれば、5〜60体くらいはあるとの事だ。無論、レプリカやハリボテも含めての事だが。彼の被害者は、紛い物と分かっていても、「鎧」という存在そのものに魅かれていたらしい。
しかし、応接室に飾られていた数体は、本物の西洋鎧だった。警戒しつつ接近してみるが、動く様子は微塵もなし。解体して、外へと運び出す。
床の間にも、やはり数体の、今度は日本の鎧武者が鎮座している。注意深く近付いてみると、それもまた問題なし。
被害者が最後にナイトウォーカー「ヘアドレッサー(髪留め)」と戦っていた部屋に向かうも、やはり反応は無い。気配も無い。あるのは、ばらけた一体の鎧と、そのまま鎮座している鎧が数体。
「‥‥なんだか、拍子抜けだな。奴はどこに隠れていやがるんだ?」
25体目の鎧を運びつつ、九条は見えぬ敵へと言葉を吐いた。
「油断はしちゃいないが‥‥イラつくぜ。奴にからかわれてるみたいでな」
「落ち着きなさい。そのイラつきが、後になってミスを誘発するもんよ」
と、九条の姉は言葉をかける。彼女はベオウルフとともにギリシャ風デザインの鎧を運び出していた。幸いそれは、胴鎧と兜のみで構成されており、内部に何も潜んでいない事は一目瞭然であったが。
が、九条のみならず、ミカエラもまたイラついていた。彼女は九条以上に、牙をむき出し、歯軋りしている。
「‥‥まずいな」
緑川が、彼女の様子を見て危ぶんだ。
作業を始めて一時間ばかり。張り詰めていた感情がゆるみ、冷静さが次第に無くなってくる。そして、不快から怒りが生まれている。
戦いにおいては、冷静さを欠いた方が負けだ。感情はパワーをもたらすが、冷静さ無くして猪突猛進するだけでは、付け入る隙が生まれる。つまりは、敗北する確立が高くなるという事に他ならない。
「‥‥だが、怒りは時として、驚嘆すべき行動力と活力をもたらす。それが、幾度もピンチを回避してきたのも事実」
獲物を追い詰めた時に、彼女の、ミカエラの怒りがうまく働けば良いんだが。
全員完全に獣化していたせいか、あるいは比較的運び出しやすかったせいか、一階応接室とその周辺に置かれていた鎧は全てが外へと運び出された。その数は45体。中には、鎧を着た少年たちのアニメ、ないしはそのキャンペーンの展示用に製作された等身大人形もあった。
「一階は、問題なかったか。となると、本番はこれからって事になるな」
「だね。にしても‥‥多いよなあ」樋口と尾鷲、二人は二階へ、そして他のメンバーは一階の奥の部屋へと向かって行った。
一階奥へと向かった九条とMAKOTOと、椚住。そして屋敷の外側、庭の周辺を探っている緑川とミカエラ、ベオウルフ。
知友心話にてそれぞれに連絡を入れたところ、「全て異常は無い」との事。
「くそっ、あのクソ虫は何処に居やがるんだ!」
思わず樋口は、口汚い言葉を吐き出してしまった。二時間経っても、まだ片鱗すら感じられないのがもどかしい。
奴は‥‥「髪留め」はどこだ?
そして、階下にて。三人はもどかしさから解放されていた。
「なぜだ!? なぜ空っぽの鎧が!」
九条は驚愕し、MAKOTOと椚住もあっけにとられていた。
兜が無い、がらんどうの鎧。手足の篭手やすね当てすら無い鎧がいくつか、放置された部屋。骨董品や家具が仕舞われている事から、おそらくここも物置に用いられていたのだろう。電灯は点かず、薄暗い。何があるかは見渡せない。
ここには、気配らしきものも無い。否、あるにはあったが、あまりに希薄。外から紛れ込んだ鼠か、もしくは猫か。しかし、中身が無い鎧が、なぜか動いている。間違いなく!
がらんどうの鎧が、しかも数体。篭手で拳を作りつつ、あるいは剣や斧、短剣や槍を構えつつ、浮かぶようにして迫ってくる。
「先に仕掛ける! 外したら泣かす!」
弟へ、九条へと言い捨てたMAKOTOは、金剛力増と細振切爪とを発動させ、手近の鎧一体へと攻撃した。
虎獣人の女傑が放った攻撃の前に、鎧はあっけなく倒れ、沈黙した。手ごたえがない。否、無さ過ぎだ。一体何が!?
椚住が、ギターを‥‥オーパーツ、「ブーストサウンド」の弦をかき鳴らす。鴉獣人が奏でる旋律が鎧たちの動きを封じ、音の響きが鎧の動きを押しとどめているかのように、敵の動きを鈍らせていた。
別方向から向かってきた鎧に対し、竜獣人・九条は反射的に接着剤の缶をぶちまけ、液体を浴びせかけた。
「! 姉貴、罠だ! こいつら、中には何も入ってない!」
その言葉が響いたとたん、全ての鎧が床に倒れ、動かなくなった。
否、接着剤をかけられた一体のみが、若干倒れるのが遅れていた。長く伸びた糸‥‥いや、「毛」が、接着剤をかけられた事で僅かにてかっているのを、九条は見抜いたのだ。
「そうか、奴は天井裏から『毛』を伸ばし、垂らす事で! 操り人形みたいに鎧を『毛』で吊り下げる事で! 鎧を操っていたかっ!」
その言葉を肯定するかのように、天井裏に開いた僅かな穴に、『毛』は消えていった。
二階、大広間。
しかし、今は鎧を含む、数多くのガラクタを納めた物置と化している。そこに急行したのは樋口と尾鷲、竜と鷹の獣人二人。
ちょうど、九条たちが戦った部屋の真上に位置する場所。そこには果たして、10体の鎧と、それに纏わりつく毛があった。長く伸びた「毛」は、しなやかでいやらしくうねっている。どこから生えているのか、本体がどこなのか判然としない。10体の鎧のどれかの中か、或いは別の場所に潜んでいるのか?
部屋には大きな窓があり、おりしも今は開かれている。
この部屋のどこかに、「髪留め」がいる! 知友心話を用いるまでも無くそれを互いに伝え合った二人は、頷きあい、鎧へと突撃していった。
数体の鎧が、まるでゾンビのようによろめきつつ接近してくる。それに対し、ペイント弾を投げつけ、打ち込む尾鷲。
樋口もまた、負けてはいない。携えた液体窒素を浴びせかけ、凍らせることで「毛」を無力化していく。
が、それでも鎧の全てを捌き切れはしない。ペイント弾のいくつかははたき返され、接着剤を浴びても固まるまで平然とつかみかかろうとしてくる。
9体の鎧に守られ、一体が窓から外へと逃げて行った。西洋鎧。プレートアーマーだ。
「ちくしょう、あいつだったのか!」
鎧に絡まれ、逆に接着剤で床や壁にくっつけられた状態の樋口と尾鷲には、追う事は不可能だった。
が、庭に降り立った甲冑は、緑川、ベオウルフ、ミカエラの三人に出迎えられた。
「これまでだ。覚悟するんだな」
特殊拳銃スレッジハンマーが、甲冑に向けられる。ミカエラはダイヤチェーンソウを、ベオウルフはクローナックルとメリケンサックで両の拳を固めていた。
緑川の声など聞かなかったかのように、甲冑はミカエラへと襲い掛かる。ミカエラはすかさず、肩口にチェーンソウを振り下ろした。
右腕が落ちる。が、甲冑は残った左腕で迫ると、ミカエラの喉元を引っつかんだ。
「ミカエラ! 今助ける!」
ベオウルフがすかさず、パンチを繰り出す。しかし、甲冑に守られているためか、びくともしない。逆に甲冑は、ミカエラから手を離し、ベオウルフの喉元をひっつかんだ。
「がはっ!」
「くッ、こいつの本体は何処ダッ!?」
首の中から、チェーンソウを内部へと突っ込む。が、手ごたえは無い。あるのは、「毛」を切断する手ごたえのみ。
「! ミカエラ、ベオウルフを助けろ!」
緑川の言葉を受け、ミカエラは甲冑の左腕をも切断した。そしてすぐに離れる。
「お前の本体は……ここだ!」
緑川のスレッジハンマーが火を噴いた。甲冑は、頭と両腕に続き、両足をも打ちぬかれ、砕かれたのだ。
が、左足のみ、いやらしい体液が滲み出ている。
「……こいつ、鎧の『胴体』じゃなく、『脚』に潜んで、攻撃をかわしていたのか!」
ベオウルフの言葉とともに、砕けたすね当てから醜くも巨大な毛虫が這い出てきた。が、それはひどく怪我をしている。
コアを破壊された毛虫‥‥ナイトウォーカー「髪留め(ヘアドレッサー)」は、悔しげに蠢き、そのまま動かなくなった。
目標の殲滅を確認したのち、一行は屋敷内の清掃にかかった。接着剤をぶちまけてしまった場所などは、掃除するのにはちと酷。だが、応急処置とはいえ何とかある程度の目星はついた。
「それにしても」
緑川は、つぶやいた。
「奴は、成長していたな。毛は数メートルどころか、10メートルは伸ばせるようになっていた。全く、強力になる前に倒せてよかった」
これから、どのようなナイトウォーカーが出てくるか。それは、神のみぞ知る、だろう。
事件解決後。栗太郎は遺産として屋敷を受け取った。
が、おそらく売りに出し、屋敷は人の手に渡るだろう‥‥との事だ。
「あの屋敷を見ると、自分も辛いんです。親父の思い出は、自分の中だけにしまっておきます」
栗太郎は、獣人たちにそう述べた。
事件後しばらくは、屋敷に人が入ることは無かった。鎧もまた、そこに佇み動くことは無い。
屋敷は何事も無く買われ、そしてナイトウォーカーとともに消えていった。御手洗が住んでいたという、痕跡をも。