外道の甲虫 前編アジア・オセアニア

種類 シリーズ
担当 塩田多弾砲
芸能 フリー
獣人 4Lv以上
難度 やや難
報酬 20.7万円
参加人数 8人
サポート 0人
期間 09/27〜10/01

●本文

 そこには、宝が眠っていた。
 とある金持ちの馬鹿息子、北矢島紀一郎。通称KIKI。彼は、父親が集めた美術品を手に入れようと、仲間たちと赴いていた。
 高利貸しの父親。詐欺まがいの方法で、高額の利子をむしりとる男。世の中全てが金と豪語していた金の亡者。が、彼も死は免れられなかった。
 不健康な生活から病気になり、彼は苦しみ死んでいった。彼同様、彼の周囲の人間たちも金の亡者。愛人はもちろん、肉親も例にもれない。
 遊ぶ金ほしさに、KIKIは仲間と一緒に父親の屋敷へと忍び込んだ。宝石や高価な骨董品など、手を付けずにいる宝物が眠っている。そいつをちょっといただいて、金にして遊んで何が悪い? そもそも金は社会において流通させるもの。それを行うわけだから、自分のやってることは正しい事。オレオレ詐欺で、馬鹿な老人を騙すのも飽きた頃だし。
 そういう自分勝手な理屈とともに、KIKIは数人の悪友とともに内部に侵入した。思った以上に、隠し財産は多かった。宝石や貴金属、現金、そして美術品。彼らは金になりそうなものを適当に見繕い、いただいてから退散する予定であった。しかし‥‥。
主犯のKIKIがいきなり怪物に変身するなどと、彼らは予定に無い。そして、それが襲ってきた時の対処法も、彼らは知らなかった。
 防犯カメラは、KIKIが変身し共犯者たちを惨殺する様子を映し出していた。警察はKIKIが怪物に扮し、仲間を殺したのだろうと指名手配した。
 そして、一週間後。

 つつましく生活していた、獣人一家。それが、密室となっていた家の中で食い殺されて発見された。
 いや、密室ではない。たった一つ、地下に穿たれた巨大な穴。人間どころか、巨大な獣が行き来できるくらいの穴が穿たれていたのだ。それは、下水道に続いていた。まず間違いなく、犯人は何らかの目的で穴を掘り、侵入したのだろう。
 しかし、どうやって? ただひとつ言える事は、そいつは下水道から穴を掘り、地上の住居に住まう者を餌食にしているという事だ。

「で、このKIKIとかいう奴の目撃情報が寄せられていた。某県F市下水道の、入り口付近‥‥(スライドに地図を映し出し)このあたりだ。皮膚が変色し腐敗臭が漂っていたそうだから、感染し、潜伏した状態で移動。そして、そこから変身し‥‥後は言わずもがなだ」
 担当官も、些か興奮気味に話す。
「ほぼ事実と断定された仮説だが、こいつは父親の家に忍び込み、封印されていたお宝を目にした。その中にナイトウォーカーが潜み、感染した。で、地下の下水道に身を潜め、そこから地上へと這い出て来ては、犠牲者を食い殺していると、そういう事だろう」
 更に彼は、話を続ける。
「この、感染者‥‥『KIKI』とか名乗っているこいつも、とんでもないやつだ。自宅を捜査した警察からの情報だが、こいつは女性を薬で眠らせ、そこから写真やビデオなどで弱みを握り‥‥ま、あとは諸君らの想像通りの事をしていた。更にこいつは女性を陵辱する事で精神的に壊し、壊れたら捨てて、そしてまた新たな獲物を見繕い襲って‥‥という事を何度も繰り返していたそうだ。いや、男に対してもそうだな。女性に彼氏がいたら、そいつに彼女を寝取ったビデオを送りつける‥‥と言う事すらやっていたらしい。今まで捕まらなかったのは、金で可能な限りもみ消しを行っていたからだそうだ」
「その記録と、写真や映像が部屋から発見された。被害者の女性たちは、全員が自殺他殺問わず死んでいるか、行方不明になっている。その犯人は、まず間違いなくKIKIだろう。更にKIKIは、自分のやってきた行いを『小説』というかたちでネットにHPを作り、公開している。『これは歪んだ愛情表現であり、女性を貶める意図はありません』などと但し書きしてな‥‥。まったく、語るだけで反吐が出る」
 小説の内容や文体のいくつかには、既存の小説から盗作した疑いすらある。そう付け加えた後、スライドには、また別の意味で反吐が出そうな写真が写し出された。
「ナイトウォーカー自身が糞なのか、それともKIKIという奴が糞なのかは知らんが、今回の事件の犯人もまた反吐が出る事を行っている。何の罪も無い者たちを血祭りにあげるのもそうだが、こいつには意図的に感じられるある行動が見える‥‥殺戮行為そのものを、楽しんでいるようにな」
 新たな写真が出されたが、担当官は顔をしかめた。
「これは、赤ん坊の写真だ。だがナイトウォーカーは、この子達を面白がるように引き裂いて、肉片にしてしまっている。見たところ、単に殺戮そのものを楽しむだけに、赤ん坊を殺したにしか見えん。生きたままでな」
 なぜなら、生存者が居たからだ。寝たきりの老いた獣人が、自分の目前で娘夫婦と孫を殺し、そのまま地下に逃走するナイトウォーカーを目撃していた。しかも逃走時には、老人を生かしたままで。そいつは娘夫婦と孫たちをわざわざ殺すところを見せつけ、絶望して死ぬように仕向けたというのだ。
「彼は踏みこんだWEA職員にそれだけ伝えると、悲しみの末に心臓発作で亡くなった。奴は、食うためでも、ただ単に殺すためでもない。自らの楽しみのためだけに、獲物をじわじわと苦しめ、辱める。それがこいつの存在目的と断定して間違いなかろう。もしもこの世に存在が許されない害悪があるとしたら、このKIKIとかいう外道と、こいつが変身したナイトウォーカー以外あるまい。こいつは、生前は人の心を侮辱し、今はナイトウォーカーとともに人の命を陵辱している。そして‥‥今のこの瞬間も、こいつはどこかで同じ事を行っている」
「だが‥‥」
 担当官は、口ごもった。
「残念な事に、こいつはどういう能力を持つのか、どうやって倒せるのかが分からん。分かっていることは、こいつは至近距離から重火器を直撃しても傷ひとつ負わない事と、角が武器だと言う事。そして、空を飛べるらしい事。その三つだけだ」
 ベテランの獣人たちが、装備を整えてこの甲虫へと挑んだが、傷ひとつ負わせる事が出来なかったというのだ。救援に駆けつけたWEA職員の目の前で、彼らは得た情報を口にして、そのまま息を引き取った。
「今現在、やつ‥‥コードネーム、『ミーン・キラー・ビートル(外道殺人甲虫)』、通称MKBは、関東圏内のここ‥‥このF市の市街に出没している(某県F市のスライドを出す)。F市は下水道がよく整っていて、市内に縦横に走っているが‥‥それは、やつにとっても動きやすいという事に他ならん。次に現れそうな場所はF市の、この住宅街だ。
 こいつの装甲は、ほとんどの火器が効かん。バズーカを至近距離から直撃させたが、傷ひとつ負わせられなかった。まず諸君らには、こいつがどういう能力を持っているか、どうすれば倒せるかという『情報収集』を優先してくれたまえ。‥‥やつを確実に、地獄に叩き落す方法を見つけるんだ!」

●今回の参加者

 fa0911 鷹見 仁(17歳・♂・鷹)
 fa1206 緑川安則(25歳・♂・竜)
 fa1308 リュアン・ナイトエッジ(21歳・♂・竜)
 fa1674 飛呂氏(39歳・♂・竜)
 fa1718 緑川メグミ(24歳・♀・小鳥)
 fa3134 佐渡川ススム(26歳・♂・猿)
 fa4878 ドワーフ太田(30歳・♂・犬)
 fa5387 神保原・輝璃(25歳・♂・狼)

●リプレイ本文

『‥‥長い髪、つぶらな瞳、清楚なしぐさ、そして抜群のスタイル♪ ‥‥『汚しがいのある娘』ですね♪ これを読んだ、あ・な・た!! 彼女の未来はハッピー?・バッド? ‥‥どっちの結果を想像してますか?‥‥いや、望みますか??』
『‥‥彼女が堕ちて「奴隷の誓いを云う」場面は、納得いくまで行いたかったのですよ。今までの調教は「ここで、この台詞を言わせるため」だったのですから。‥‥とは言うものの、最初はいい感じで鬼畜モードでしたが、途中からヘタレモードで、それからはもぉ〜何が何やらな展開に。( ̄▽ ̄;)』
『‥‥ぶっちゃけた話、最初の陵辱は「私がヤリたいから」でした、当然。だいたいまだ、陵辱ならネタはあるンですよぉ〜‥‥んふふふふふっ♪ はっ?殺気?!(笑)』

 ガッ。

 モニターを殴りつけたのが、自分の拳である事に佐渡川ススム(fa3134)は気づいた。
「‥‥いやあ、蚊が止まっていてさ〜。はっはっは、カッカッカ」
 笑わせようとした彼の試みは失敗した。が、その時は誰もがむかつきと怒りを感じていたため、どんな冗談を言ったところで笑う事などないだろう。
 佐渡川は緑川メグミ(fa1718)らとともに、調査室に居た。何か調査の手助けにならないかと、WEAの調査室にて「KIKI」のデータを求め、資料室のPC、ないしはモニターに向かっていた。
「‥‥おぬしらが何を考えているかはわかる。おそらく、わしと同じじゃろうて」
 ドワーフ太田(fa4878)の言うとおり。メグミは、自分が震えているのを知った‥‥怒りで。
 皆が怒りを隠しきれなかった。自らの行為を全く悪びれず、嬉々として見せ付けている。鬼畜な己の行為を心底から楽しんでいるKIKIに対し、まともな精神の者ならば、怒らずにいられるだろうか?
「‥‥佐渡川さん、私も同じよ。女性として‥‥こんな奴、いくら殺しても殺し足りないわ」
 全員の心情を、メグミは代弁していた。
 
「どうだ?」
『死んだ‥‥よくもこんな、ひどい事ができるものだ』
 緑川安則(fa1206)のもとに、神保原・輝璃(fa5387)がトランシーバーで連絡を入れていた。
 F市の地下、下水道内部。
 ここの下水道はよく整えられており、大雨による洪水時にも十分に対処できるつくりになっていた。なんでも、過去に多くの水害が起きたため、それを防止する目的で十分に考慮して、作り上げた、との事だ。
 そのため、小型の自動車が入って走り回れるくらいのスペースがある。実際、これだけの広さがあるとは獣人たちも思いもしなかった。
 が、彼らにとっては予想外の展開が待っていた。彼らにとって有利であり、不利でもある展開が。
 二人の獣人‥‥WEAから派遣された職員で、協力者‥‥が、惨殺されたのだ。調査を始めてニ・三日後。先行していた職員二人は、下水道の出入り口付近でMKBを発見。やはり偵察へと赴いていた神保原が二人の元へと向かったのだが、到着する前にMKBは二人を惨殺してしまっていた。
 その時のやり取りで、一人は向かってくるMKBへ拳銃で発砲していた。しかし、いきなり後ろから角で貫かれたというのだ。
 その後、パニックめいた音声とともに、マーカーを打ち込んだところまではわかっている。しかし、もう一人も角で攻撃を受け、両手足を切断された。最後には、顔をえぐられていた。そして、神保原が駆けつけた時には、虫の息だった。
「‥‥許せないッす。マジに、許せないッす!」
 神保原に続いてリュアン・ナイトエッジ(fa1308)がかけつけた。が、彼もまた吐き捨てるかのように、怒りをあらわにした。
「‥‥ナイトウォーカーが外道なのか、それとも、KIKIとやらの鬼畜さの表れか」
 無言のままに、飛呂氏(fa1674)は思った。

 マーカーの反応は、地上は近くの建設現場へと続いていた。ビル街のど真ん中なれど、夜中で周囲には人気が無い。ここならば、少しくらいは大きな音を出したところで気づかれにくい事だろう。
 すぐに全員を呼び出した緑川は、マーカーの信号を確認しつつ作戦を練っていた。
「マーカーの信号によると、奴は動いてはいないな。建設中の、ビルの内部、地上から十数階のフロアに居やがる。休んでいるのか、それとも俺たちを待ち受けているのか。‥‥どう、対処したものか」
 マーカーからの信号が発信され、それは緑川の手元にある受信機にて反応が映っている。
「奴へ攻撃! 当然ッす!」
「無論だ。しかし‥‥今回は『情報収集』が先。やつの力は未知数、下手に仕掛けたら、こちらが危ない」
 リュアンをたしなめた飛呂氏、竜獣人の格闘家は、鋭い視線を工事現場へと向けた。
「先生の言うとおりだ、気がすすまんが、KIKIを完全に消し去るためには、まずは奴の事を知らないとな」
 と、神保原。
「奴は、動かずに止まっている。我々を誘っているのか?」
 太田が疑問を口にする。
「どうかしら、ナイトウォーカーの中には頭のいいやつもいるでしょうけど‥‥全てがそうとは言い切れないし」
 メグミが、ビデオカメラの準備をしつつ言った。
「‥‥行くぞ」
 作戦内容を確認し終わり、踏ん切りをつけるかのように緑川は言った。
「フォーメーションは言ったとおりだ。みんな、油断はするな。いいな?」

 全員が完全に獣化し、マーカーの信号がある場所へと向かっていく。全二十階中、地上五階の、内装どころか壁も作られていないフロア。そこに、そいつがいた。ミーン・キラー・ビートル‥‥外道の殺人甲虫が。胴体の間接部には、赤色のシグナルが点滅しているのがかろうじてわかった。間違いなく、職員が最後に放ったマーカーに違いない。
 全体のシルエットは、日本のカブトムシに似ている。が、シルエットのみで、甲殻のそこかしこには生理的嫌悪感をもよおさせる、おぞましいデザインの器官があった。
 嫌う者もいるが、甲虫の成虫にはある種の美しさがあるのは事実。しかし、MKBに関してはそんなものは皆無。吐き気のするおぞましい邪悪を、反吐がでそうな悪鬼外道の鬼畜な精神そのものを、甲虫の姿に固めたかのような印象。そいつがそこに居るだけで、その場に居た全員が覚えた。空間そのものが陵辱され、侵食され、汚濁されているような感覚を。今までにナイトウォーカーに相対した獣人たちも、これほど強烈な邪気を感じた事はそうは無い。
 フロアの中心に、そいつがいる。周辺には器材や工事の道具が積み上げられ、甲虫を囲っているかのよう。それらの陰に隠れ、緑川らは武装を確認した。
 右に十握剣、左にマルスの火を握った、竜獣人の飛呂氏。シャイニンググローブとブラストナックルを装着した、猿獣人の佐渡川。両手に特殊警棒を構えた、犬獣人の太田。刃のみの大剣・ダークデュアルブレードを携えた、狼獣人の神保原。メグミとリュアンの二人は後方で待機しつつ、MKBの情報を収集する。
 緑川は自分の装備も確認した。右手にはライフル・ARASHI、左手にはライトブレード。並みのナイトウォーカーならば、これだけの人数と装備で、まずまちがいなく倒せる事だろう。
「‥‥3、2、1‥‥GO!」
 緑川、竜獣人の古強者は、ときの声とともに銃撃した。それにあわせ、飛呂氏のマルスの火からも弾丸が放たれる。
 マルスの火、そしてARASHIからの弾丸が、甲虫、ないしはその装甲に食い込んでいた。その時点でようやく気づいたかのように、MKBはもぞもぞと動き出した。
 神保原が、最初にそいつに切りかかる。ダークデュアルブレードの剣先が、あっさりとそいつの背中の装甲、ないしは隙間に食い込んで切り裂いた。
 反対側からは、特殊警棒を握った太田の一撃。装甲が簡単にへこみ、割れた。さらに後方からは、シャイニンググローブによる佐渡川の拳がきまる。
 飛呂氏の十握剣が、前方からそいつの角を切断した。あっけない、あまりにあっけない。
「‥‥!? 兄様、罠よ! 下がって!」
 メグミが叫んだ。その通り、MKBの身体は崩れ始めたのだ。それはすぐに崩れ、床に積もった大量の砂となる。
 それと同時に、天井から何かが落ちてきた。透明だったそれは、空中でいきなり姿を現し、MKBの崩れた砂の上へと降り立ったのだ。
「こいつ‥‥ 間違いない、確信した‥‥!」
 降り立ったそいつ、本物のMKBを見つつ、緑川は確信した。
「こいつは、透明化し、砂や塵で作り上げた己の分身を動かす事を可能とするかっ‥‥! それでこいつは、おとりの方に注意を向けさせ、透明になって予想外の方向から攻撃を仕掛けるに違いない」
 先刻の、二人の犠牲者。彼らもまた、おとりに気を引かれ、後ろから不意を付かれたのだろう。
 が、そいつのすばやい動きは、まるでゴキブリ。そして、角による一撃が緑川に迫る。
 際どいところで、彼はそいつの角の一撃を回避した。代わりに角攻撃を食らったのは、緑川のすぐ後ろにあった、鉄骨の柱。
 とたんに、柱は削岩機を当てられたかのように、微細な塵と化した。
「‥‥なっ、なんじゃあ!?」
 太田が素っ頓狂な声を上げる。無理も無い、角に触れただけで、物質が「削り取られた」のだから。
 緑川をしとめ損ねたMKBは、向きを変えると太田と佐渡川へと狙いを定め、高速移動した。
「!?」
 なんとか、左右に別れて逃げる二人。とたんに、積まれた鉄骨が、「削り取られた」。
「‥‥なんと、強力な角だ!」飛呂氏が、十握剣で牽制しつつ睨み付けた。後でメグミの撮っていた映像記録から、そいつの角は「超高速で振動し、対象物を削り取る」能力を有していた。高周波振動衝角、触れるだけで、破壊される。
 ならばと、ARASHIを放つ緑川。だが、やはり無駄だ。弾丸はそいつの表面で弾くのみ。
「‥‥バズーカを無力化したならば、私の火炎砲弾は通用するかな?」
 竜獣人、ないしは緑川の口から、強烈な火炎が放たれた。並みのナイトウォーカーならば、炎上し即死するほどの火炎の一撃。
 が、それすら装甲の表面を舐めるだけ。
「まったく‥‥厄介なものだ。ならば、これはどうだ。『能力解除』!」
 緑川から波動が走り、MKBの力のひとつ、体表面を覆う薄い障壁を展開する能力を、強制的に解除した。たちまちのうちに、MKBの姿があらわになる。
「見えた!」
 そのタイミングとともに、飛呂氏と緑川とが、再び装甲の隙間へ向け発砲する。しかし‥‥。
「‥‥効かない!?」
 隙間に弾丸が当たろうが、全く効き目が無い。障壁が無くとも、その装甲は強固な事この上ないようだ。
「はっ!」
 入れ違いに、神保原が装甲の隙間へと刃を食い込ませる。が、刃が通らない。多重構造なのか、隙間部分もまた並大抵の頑丈さではない。
「「‥‥なんて‥‥デタラメな‥‥奴だ!」」
 佐渡川とリュアンとの言葉が、思わず重なった。砂の分身を操る、透明化機能もある薄いバリアを張る、高速振動する角を持つと、特殊能力をいくつもあり、それらを封じたとしても強固な装甲を有している。それを攻略するのは、まず不可能。
 つまりは、倒す方法は無い事。
 太田は気づいた。そいつがなぜ、緑川や自分らの攻撃を食らっていたのか。
 あえて、受けていたのだ。あえてわざと攻撃を受けて、自分らにより大きな絶望を感じさせようと意図していた。それに相違あるまい。
 MKBにKIKIの邪悪さが継承されているのなら、そのような卑劣な行動をしたところで驚くに値しない。
 太田の言葉を肯定するかのように、MKBは笑うようにコアの真下にある口を大きく開けていた。否、それは哄笑以外の何物でもなかった。
 その口ですら、おぞましく穿たれた、地獄の穴のようにしか見えない。牙だらけの口の内部には、奥深くまでいやらしい臓物が波打ち蠢いていた。
 脈動する内蔵が、更なる嫌悪感を漂わせる。
 だが、そいつに対して有効な手段が思いつかないならば、もはや戦っても結果は見えている。悔しいが、今回のところは‥‥。
「‥‥逃げるか」
 緑川がつぶやくと同時に、MKBも動いた。
 ゴキブリのごとく高速移動し、MKBはフロア中の柱を全て切断し始めたのだ。この建設中のビルごと、獣人らを潰すつもりに相違あるまい。
「総員撤退!」
 彼が叫ぶのと、ビルが崩れはじめるのとは、ほぼ同時だった。

 幸い、獣人たちの怪我は全員かすり傷ですんだ。空へ飛び、もしくはすばやく駆け下りたために、鉄骨の下敷きになることは避けられたのだ。
 しかし、MKBもまた同じく。そいつは角の高速振動で、まるでドリルを突き立てるかのように穴を掘り、地下へ、そして下水道内へと潜入した事が、後日の調査で判明した。
「どうして? どうして許されるのよ‥‥! どうしてKIKIみたいなやつが、戦って勝つことを許されるのよ!」
 WEAで仲間たちと治療を受けながら、メグミが絶望と無念とを含ませた言葉を吐き捨てた。