ジュピター9対車両ロボアジア・オセアニア

種類 ショート
担当 塩田多弾砲
芸能 1Lv以上
獣人 1Lv以上
難度 やや難
報酬 1.2万円
参加人数 8人
サポート 0人
期間 01/31〜02/05

●本文

「なんだって?」
 監督は、自分の耳を疑った。
「おい、ありゃ俺が、酒の席で出した与太話だぜ。なんでそれをマジにしなきゃならないんだよ」
「それが、ちゃんとした企画書に清書して、スポンサーに提案したところ、先方が気に入ったみたいなんですよ。で、『ウチにちょうど、古いのがある。そいつを使っても良いよ』なんてノリノリで‥‥」
 ADの言葉の意味するものは「あれは冗談でした。無かった事に」という言葉は言えないという事に他ならない。
「特捜ロボ ジュピター9」は、ただでさえ普通の特撮ヒーローものと異なり、大変な重労働の末に撮影したのだ。俳優たちの頑張りがあったからこそ、パイロットフィルムの撮影が出来て、本編の製作と放送にもめどがついた。
 ついたのはいいが、監督やプロデューサーはここに大変なアイデアを提案してしまい、それを気に入ったスポンサーは実行しろと言い出してしまったのだ。
 もっとも、その提案をしてしまったのは監督だが。お付きの弟子に「酒の席での与太話でも、作品のアイデアはある。だからメモを肌身はなさずにな」と言ったが、まさか律儀に自分の言葉をメモっていたとは。彼は、自分の軽率な言動を死ぬほど後悔した。
「だが、デザインは‥‥」
「それも、なんかスポンサーさんが、お子さんの書いた落書きを製作会社のデザイナーに手渡して、クリーンナップしちゃったらしいですよ。結構良い出来らしいです」
「あー、わかったわかった。あとはゴーサインと、このアイデアの実現ってなわけだな」
 半ばやけくそ気味に、監督は言った。

「特捜ロボ ジュピター9」のパイロットは、かなりの評判をもって迎えられた。
 ほとんど製作は決定する方向で話は進み、プロデューサーや監督は酒の席で、敵組織「コレクター」の敵ロボットに関してADらスタッフと話し合い、ほとんど冗談のようなアイデアを口にしていた。
「もっと度肝を抜くような敵ロボはないかな。ものすごいデカイやつ!」
「CGで巨大な敵ってのも、ワンパだしな。かといって、着ぐるみじゃたかが知れてるし」
「着ぐるみじゃない、着ぐるみじゃない、本当にメカで作られた敵ロボなんてどうすかね。遠くからラジコンや有線で動かすんです」
「だったら本物のメカと戦わせようぜ。そうだな、バイクや自動車だ! 本物の自動車に腕や顔を付けて、ロボって事にするんだ。ジュピター9やライ役のやつらは命がけだが、本当にすごい画が撮れるぜ!」
「いいなそれ。ジュピター9もバイクモードがあるんだし、バイクvs自動車って事で面白そうだ」
「でも、役者さんは死にますよ。こんなのやったら」
 かくして、この時の言葉が、実現した次第。
 そして、このアイデアを実際に見てみたいとスポンサーが言い出したため、パイロットフィルム第二弾が企画、実現する事になった。
「スポンサーさんは、古くなった自動車を撮影用にと提供してくれる。デザイン画もUPされ、造形が進んでる。あとは、我ながらいかれたこのアイデアに、付き合ってくれる奴らだが‥‥」
 前回、「ジュピター9」の撮影に参加した者たちでも、今回の話は尻込みするかもしれない。なにせ、演技とはいえ「本物の」自動車と戦うのだから。

 設定はこうだ。
「コレクター」は、新型犯罪ロボット「ロボモービル」を開発。ドクター・邪華と、幹部「ヨロイボーイ」の命を受け、レディ・アイアンとともに、さらなる宝の強奪計画を立案していた。
 ロボモービル。それは、車両の機動力と、クライムロボの破壊力とを兼ね備えた、正に無敵の兵器。ヨロイボーイの狙う宝‥‥古今東西の武器や鎧を狙い、ロボモービル「ホイール・デス」は、美術館や博物館、高名な武器コレクターの家や屋敷に押し入り、時には破壊して、武具を奪っていった。
 そして今日も、国立博物館に飾られた「聖騎士デュークの武具」を一式奪うと予告した。それはイギリスから贈呈された金色の鎧兜と剣と楯で、その美しさはもちろん、ちりばめられた宝石や細工は、正に宝物と呼ぶべき見事なものであった。
 が、ホイール・デスは厳戒態勢を易々と突破し、武具を強引に奪う。それを追うジュピター9と神威ライ!
 果たして、宝物を奪い返すことは出来るのか?

 ‥‥といったところ。
 新たなキャラとして、ヨロイボーイ‥‥少年でなく、青年でも良いらしいが‥‥武器マニアのコレクター幹部が登場する。右腕が義手で、西洋鎧の小手をつけているという設定だ。野心家で、ドクターの座を狙っているらしい。
 そしてなにより、ロボモービル「ホイール・デス」。車の天井にロボットの上半身が取り付けられた外見で、車本体にも様々な武装を施してある。
 造形としては、本物の乗用車の天井に実際に穴をあけ、そこにロボット上半身の着ぐるみが取り付けられている。下半身を構成する車は本物であるから、当然誰かが運転しなければならない。つまり、最低二人がかりで演じなければならないわけだ。
 窓ガラスは黒ガラスを用い、さらに鉄板やプラスチックで覆って、中は見えないようにしている。車表面にも色々とデコレートして、装甲車っぽい外観にしてある。撮影用プロップの大砲や機関銃も取り付けられている。
 が、なにより特徴的なのは、フロントに取り付けた大顎「デスファング」。クワガタムシのそれのように開閉し、ジュピター9を両断せんと挟み込むという代物。これは造形スタッフの手により、ドライバーが運転席から動かせるようにしている。
 見るからに化け物めいた車両だ。珍走団の竹やりマフラー改造車も、裸足で逃げてしまうだろう。
 ジュピター9は、ロボット破壊砲も通じないこの相手に対し、溶鉱炉に誘い込み落とす事でなんとか倒す事が出来た‥‥という決着に。
 溶鉱炉自体は、CGにて描かれ、溶ける様子もまたCGで描かれるとの事。そして、溶鉱炉がある製鉄工場のロケ場所も、手配が済んでいる。
 あとは、以前のような人材を集めるだけだ。

「前回の撮影ですら、ハードなものだったってのに。今回はさらにハードさを増す事になるな。事故が起こるかもしれないし、怪我したらただじゃすまない事は必至。だが‥‥正直なところワクワクしてきたぜ。このいかれた相手と戦いたいって大バカ特撮野郎が名乗り出てきたら、俺はそいつを心から尊敬する」
 前回同様に、きっとこいつと戦う事を望む、偉大なる愚か者が出てくるだろう。プロデューサーと監督は、期待を込めつつ求人を出した。

●今回の参加者

 fa0149 らぴす(14歳・♀・猫)
 fa0360 五条和尚(34歳・♂・亀)
 fa0494 エリア・スチール(16歳・♀・兎)
 fa0612 ヴォルフェ(28歳・♂・狼)
 fa0892 河辺野・一(20歳・♂・猿)
 fa2411 皐月 命(17歳・♀・アライグマ)
 fa2539 マリアーノ・ファリアス(11歳・♂・猿)
 fa2772 仙道 愛歌(16歳・♀・狐)

●リプレイ本文

「よし、それじゃあみんなに言っておく。まずは前作に目を通し、世界観を叩き込んでおくこと。次に、自分のキャラを、しっかりイメージしておく事。ま、お前はその必要は無いがな」
 前作でジュピター9を演じた河辺野・一(fa0892)に対し、監督は言った。
「それから‥‥これが重要だが、全力で取り組む事。お前らの本気と全開、俺に見せてくれ。いいな?」
 前作を手がけた監督は、新たな仲間達を見回した。
「じゃあ、自己紹介してくれ」
「はいです。僕はらぴす(fa0149)。ホイール・デスの上半身をするですよ」
「私はエリア・スチール(fa0494)。同じく、ホイール・デスの下半身を担当します」
「五条和尚(fa0360)と申します。僭越ですが、今回のドクター・邪華役をする事になりました」
「俺は、ヴォルフェ(fa0612)。神衣ライを演じます。よろしくお願いします」
「あたしは仙道 愛歌(fa2772)。レディ・アイアン役だよっ。よろしく!」
「ヨロイボーイを演じる、マリアーノ・ファリアス(fa2539)さ。マリスって呼んでよ」
「河辺野・一です。前回同様に、今回もまたジュピター9を演じさせていただきます」
「最後はうちやな。皐月 命(fa2411)と言いますさかい。裏方総合やメイク撮影演出等を担当させて頂きますねん。よろしゅう!」

「ヴァージョン2ってのは悪くないアイデアだが、ちょっと俺のイメージじゃないな」
「でも、役者として前作のイメージを引きずりたくないんですよ。不完全な強化タイプって事にしたら、新たなキャラクターとして演じられると思ったんです」
 次の日。仙道と監督、皐月は、撮影現場の隅のほうで意見を戦わせていた。
「せやけど仙道はん。これじゃほとんど別人やで? いっそのこと、別キャラにした方がええんちゃう?」
「だな。レディの妹タイプのアンドロイドって事にした方が、お前さんも演じやすいと思うんだが、どうだ?」
「それはいいかもしれないですけど、設定変えていいの?」
「これくらいなら許容範囲や。そうやろ? 監督はん」
「ああ。名前は‥‥仙道、なんか思いつかんか?」
「‥‥では『シスター・アイアン』なんてのはどうでしょう?」

『シーン06 テイク6。アクション!

ナレーション「犯罪組織『コレクター』。彼らの欲望は、新たな脅威を生み出した!」
 コレクター基地。ドクター・邪華が万能椅子に座っている。その隣には、メイド服に身を包んだ少女。
 机上には新聞。見出しは「怪ロボットまた武具を奪う」「聖騎士の武具を強奪予告!」など。
 万能椅子のモニターには、ニュース映像。武具の強奪に関するニュース。
 TVには、ライとジュピターの姿も。
少女「邪華様。これが、姉様を負かした相手ですね?」
邪華「ああ‥‥。お前の姉よりも強く、有能な相手だ」
 少女、その言葉にびくっと。
邪華「姉より、お前は有能かな? ‥‥シスター・アイアン」
 邪華、視線の先には、影になっている何かが。
邪華「なかなかの活躍ぶりだな。イギリスから呼び寄せたかいがあったよ」
声「だろう? 次の獲物も、『ホイール・デス』で奪ってみせるよ」
 ライトが灯ると、そこにはホイール・デスの姿が。
 そして、脇に立っているヨロイボーイ。
ヨロイボーイ「ドクター。言っとくけど、そいつの助けは要らないよ」
シスター「なんですって?」
ヨロイボーイ「ここはボクに任せてもらおう。キミは、邪魔者だ」
 悔しそうに睨むシスター。ヨロイボーイを見つめる邪華。
邪華「よかろう、今回は君に一任する。君の手腕をじっくり拝見させてもらうか」
 それを見て、聞こえないように静かにつぶやくヨロイボーイ。
ヨロイボーイ「ドクター、か‥‥せいぜいでかい面をしておくといいさ」 』

「カット!」
「‥‥どんなもんでしたか? 自分なりの邪華をイメージして演じてみたのですが」
「悪くなかったで、五条はん! 少なくとも、前の邪華に勝るとも劣らん映像が撮れたんちゃうかな」
「ああ、悪くない。ま、演技力は正直もうちょっと欲しいが、それでも十分だぜ」
 皐月と監督の賛辞に、五条は不安そうな表情を安心のそれに変えた。
「仙道はん、あんさんのシスターは、もうちょい可愛らしく演じてもいいかもな。じゃ、続きいくで!」

『シーン09、テイク15。アクション!

ナレーション「怪ロボット、ホイール・デスの猛攻! 聖騎士デュークの武具が、今まさに奪われてしまった!」
ホイール・デス。博物館へと突撃。その両腕と火器で暴れまわる。跳ね飛ばされる警備員たち。
フロントのデスファングで博物館の扉を破り、侵入するホイール・デス。
ヨロイボーイ、ホイール・デスの内部から出てくると、聖騎士デュークの武具が飾ってあるガラスケース前へ。
ヨロイボーイ「なんて綺麗なんだ。ボクのコレクションにふさわしい!」
 飛び掛る警備員たち。だが、ヨロイボーイの右腕が振り回され、全員が壁や床にたたきつけられて気絶する。
 ホイール・デス。その両腕でガラスケースごとつかみ、後部のキャビンに積み込む。
ヨロイボーイ「行くぞ。そろそろ神衣刑事と、ガラクタロボットがやってくる事だろう。たっぷり遊んでやろうじゃないか」
 ガラスケースの脇に立ち、ホイール・デスを発進させるヨロイボーイ。
 博物館から逃走した後、それを確認し、後を追い始めるライとマシーンジュピター。
ライ「遅かったか! だが、逃がさないぞ! マシーンジュピター、ゴー!」 』

「カット!」
 カットがかかったが、今度の皐月の顔はあまり良い表情ではない。
「らぴすはん、もうちょいとロボットらしさを考えてくれまへんか? 動きを固くすれば良いってもんとちゃいまっせ」
「す、すみませんです! ‥‥それで、あの‥‥ホントに喋ったりしなくていいですか?」
「いや、それはいらんですわ。カタカナ言葉で喋られても、正直ギャグくさくなりますしな。あ、エリアはんももうちょいと思い切りな運転をお願いしますわ。なんや勢いが足りへん感じや。多少はぶつけて壊したって構わんっ‥‥っちゅうくらいで頼んます!」
「わかりましたわ。車の運転も慣れてきましたし。次はうまくやります」
 お願いしますね、ホイール・デスさん。シートやハンドルを撫でながら、エリアは愛しげにつぶやいた。

『シーン15 テイク20。 アクション!

 廃墟にて、対峙する両者。
ライ「コレクター幹部、ヨロイボーイだな! 逮捕する!」
ヨロイボーイ「ほう、このボクを知ってるとは、さすがは特殊刑事・神衣ライ。けど、ホイール・デスの前にお前は無力さ!」
 ホイール・デスの後部キャビンから降り、向かわせるヨロイボーイ。
ライ「チェンジ! ジュピター9!」
 変形し、ジュピター9に。
ライ「クラッシュチェーン! レーザースライサー!」
 武器を放つが、全く堪えないホイール・デス。そのまま、ジュピター9に突撃する。
 デスファングを開き、両断しようと挟み込む! それをつかみ、必死にこらえるジュピター9.
 だが、パワーの差は歴然。土に跡を刻みつつ、ずるずると押されていく。
ヨロイボーイ「やるね。それじゃ、こんなのはどうだい?」
 ホイール・デス。腕を伸ばし、ジュピター9の頭を掴む。そのまま持ち上げて上半身を回転させ、その勢いで投げ飛ばす。
ライ「ジュピター9! くっ!」
ヨロイボーイ「さあ、お得意のロボット破壊砲を撃ってみろよ。いいねえ、その絶望たっぷりの顔。もっと絶望させてやるよ!」 
 にやにやするヨロイボーイ。 』

「‥‥大丈夫でっか? 河辺野はん」
「だ、大丈夫‥‥です‥‥」
 投げ飛ばされた先には、クッションがたっぷり敷かれていた。が、中々立ち上がらないジュピター9に、心配したスタッフは駆け寄った。
「ちょっと酸欠になっただけですから、もう、大丈夫です‥‥」
 しかし、荒い呼吸はすぐには収まりそうにはない。久々に着込んだ着ぐるみの重さと暑さ、河辺野は再びそれと相対し、なんとか気力と精神力を保ちつつ戦っていたのだ。
 着ぐるみは、皐月の手で各所をバージョンアップされていた。が、それは必ずしも軽量化にはつながらない。
 また、前回の撮影で若干破損していた部分を修理したりして手を加えた結果、僅かではあったが重みが増してしまったのだった。
「河辺野さん、本当に大丈夫?」
 ヴォルフェも心配し、声をかける。が、河辺野はそれに微笑むことで答えた。
「この程度でへこたれていたら、ジュピター9は演れませんよ。さ、次いきましょう!」

『シーン23 テイク10。 アクション!

ライ「ジュピター9、ロボット破壊砲!」
 ジュピター9、ロボット破壊砲を発射。ホイール・デスに直撃!
 しかし、爆炎が晴れた跡には、無傷のホイール・デスが。
ヨロイボーイ「ハッ! どうだ、ボクのホイール・デスは!」
ライ「くっ‥‥一時退却するしかないか!‥‥チェンジ・マシーンジュピター!」
 マシーンジュピターとともに、逃走するライ。
ヨロイボーイ「逃げられないよ、ホイール・デスには熱源探知装置が内蔵されているんだ。お前たちの熱源を狙って、どこまでも追跡するぞ! いけ!」
 ホイール・デスのキャビンに乗り込み、追跡開始するヨロイボーイ。
ライ「待てよ、熱源探知装置? ‥‥使えるか?」
 ライ、コマンドモバイルを操作し、ナビゲーションシステムを作動。
 近くの製鉄工場を検索。さらに、無線で連絡を入れる。
ライ「こちら、特殊刑事神衣ライ。ホイール・デスと交戦中、協力を願います!」
 ライ、ホイール・デスをちらりと見て、不敵に微笑む。 』

『シーン28 テイク7。 アクション!』

 製鉄工場。
 従業員達が、警察の誘導で次々に避難していく。
ナレーション「ライの連絡で、近くの製鉄工場に避難命令が出た。警察が工場の従業員達を避難させていく。ライとジュピター9は、どうやってホイール・デスを倒すのだろうか!?」
 ライとマシーンジュピター、工場内に。
ライ「チェンジ! ジュピター9!」
 再びジュピター9に変形。二手に別れ、それぞれ陰に隠れる。
 そこに入ってくるヨロイボーイとホイール・デス。すでに勝利を確信して、余裕の表情。
ライ「ヨロイボーイ! 俺はここだ!」
 脇にライの姿が。
ヨロイボーイ「ふん、二手に分かれての戦いか? お前を殺して、ジュピター9を無傷で手に入れるのも悪くないな。やれ!」
 ホイール・デスの上半身が、ライの方を向く。しかし、製鉄工場の天井から、クラッシュチェーンでぶら下がったジュピター9が。ホイール・デスがそれに気づいて振り向いた時には既に遅く、ジュピター9、手に握ったレーザースライサーを、ホイール・デスの頭部カメラアイに突き刺す。
ヨロイボーイ「なっ、なにっ!」
 着地し、身構えるジュピター9。ホイール・デス、両腕を振り回し工場内をめくらめっぽうに走り出す。
 鉄骨にあたり、その衝撃で武具のガラスケースとともに地面に落ちるヨロイボーイ。
 熱源感知の映像。周囲には熱が立ち込めて判然としない。
ヨロイボーイ「くそっ、味な真似を! ホイール・デス! 熱源感知装置、感度最大! なんでも良いから追って破壊しろ!」
 ホイール・デス。デスファングを開閉しつつ、ジュピター9とライに向かってくる。
 マシーンジュピターに変形させたライ、そのまま工場の奥へと逃げる。追うホイール・デス。
 ライとマシーンジュピター、逃げた先は溶鉱炉を望む場所。マシーンジュピター、それを迂回し、溶鉱炉を挟んだ向こう岸にて待ち受ける。
ヨロイボーイ「追え!そのまままっすぐに進め!」
 ホイール・デス。その熱源感知装置に従い、熱源へと進んでいく。
 ヨロイボーイ、溶鉱炉にようやく気づいた。
ヨロイボーイ「待て! 止まれ!」
 しかし、時既に遅し。溶鉱炉に飛び込み、そのまま溶けた鉄の中に姿を消すホイール・デス。
 信じられないといった表情のヨロイボーイ。周囲には、警察のパトカーのサイレンが。
ライ「ヨロイボーイ、もう逃げられないぞ。おとなしく降伏しろ!」
 戻ろうとしたヨロイボーイだが、落とした武具の周囲にはパトカーが。
 悔しげに顔を歪ませるヨロイボーイ。だが、突如煙幕が。
ライ「なんだっ!?」
 ヨロイボーイも驚き、周囲を見渡す。天井から伸びたムチに絡まれる。
ヨロイボーイ「?」
天井からは、ボンテージ状の戦闘モードになった、シスター・アイアンの姿が。
シスター・アイアン「邪華様のご命令で、お前を助けに来た。‥‥おっと、助けはいらないんだったっけ?」
 ますます悔しそうに歯噛みする、ヨロイボーイ。
 ライ、煙の隙間から、シスターがヨロイボーイを抱えて逃げるところを目にする。
 シスター、背中のウイングを展開して、空を逃げつつ振りかえる。
シスター・アイアン「神衣ライ、姉様を侮辱した罰、いつか受けさせる!」
 シスターとヨロイボーイが逃げるところを、ライ、見つめる。
ナレーション「かくして、ヨロイボーイの野望を阻止したライとジュピター9。しかし、コレクターとの戦いはまだ続く。行け、神衣ライ! 戦え、特捜ロボ・ジュピター9!」

「カット!」
 その声が響き、出演者一同は力が抜け、へたり込んだ。
「お、思った以上に、大変です。特撮ものって‥‥」
 へたりこんだらぴすだが、対照的に皐月はテンションを上げた。
「みんな、お疲れさん! うちの出番はこれからや! みんなの熱い特撮魂を、映像に叩き込んだる!」
 
 そして数日後。映像は完成した。それを見て、監督は確信した。
 このパイロットも成功し、TVシリーズ化するのは間違いないだろうと。